上 下
61 / 139

ふたりの王子 ー家族

しおりを挟む
 コルクスは平民の名でコルと、ベルナルは平民の名でベルとしてヴァイを作っていた。平民の名で貴族がこっそりとヴァイを作っている事はよくある事だ。公にしなければ対した問題ではない。
 平民がヴァナとヴァイを作るのはもってのほかだが。

 二人はユグンにいる序でにコバック茶葉園を見に行こうと話をした。もしかしたらアリアナ嬢はひっそりと家族と合流して一緒に暮らしているのかもしれない。もしそうであっても話を聞くだけで無理やり連れ帰る事はしないつもりであった。

 茶葉園は山の頂きにあり、なかなか訪ねるのは難しかった。しかしコバックの茶葉が店舗として街中にあった。そこにはコバック茶葉園の他にも輸入された茶葉などが売られている。二人は茶葉屋に足を踏み入れた。

「こんにちは、ご来店は初めてですか?」
 ベルとコルが店内をキョロキョロしている姿を見て、キレイな若い女性が奥からやってきた。
「ああ、前に知人から紅茶を進められてね。それが美味しかったから寄ってみたんだ」
「まあ、ありがとうございます」
「たくさんの茶葉があるけど、どう違うの?」
「えっと、すいません。私入ったばかりで勉強中なんです。でもどういった物がお好みなのか分かれば、お勧めしますよ」
「おすすめ、いいね。どういったのがいいの」
 コルクスはいつもの軽い感じで話出す。

「こちらの茶葉はおすすめですよ。香ばしい香りが男性にも好まれています。女性へのプレゼントとかでしたら、フルーティーな香りの茶葉が人気です」
「へぇ、いいね。じゃあこれ貰おうか」
「ありがとうございます」
 お土産として数点選びヴァイで会計をした。
「最近入ったの?」
 コルクスが先ほどの店の女性に聞いた。ベルナルはコミュニケーションではからっきしなのでコルクスに任せている。

「そうです。家族でこのユグンに移住してきたんですよ」
「なんだ、結婚しているのか残念。キレイな売り子さんだと思ったのになぁ」
「あら、ありがとうございます。ここは親族が営んでいるお店なので働かせて貰っています。慣れない事が多いですけど楽しくさせて頂いています」
「そうなんだ、頑張って」
「はい、ありがとうございます。またのお越しを」
 お店を出ると近くの食堂に入る。茶葉屋が見える食堂だ。

「最近移住してきて親族経営なら彼女はアリアナ嬢のお姉さんかな?優しそうで美人だ」
「そうだろうな。雰囲気が似ている」
 ベルがアリアナの顔を思い出して確信する。
「店の上の部分で暮らしている感じはなかったな」
「店の上は老夫婦が住んでいるようだ。ただの貸店舗なのだろう。店の閉店を待って、彼女の後を付けよう」

 夕方になり、店から先ほどの女性が出てきた。店の戸締りをを終えると歩き出した。ふたりの王子は食堂に数時間待たせて貰っていた。そして店から出て来た事を確認すると多めの支払いして女性の後を付けた。

 女性は八百屋に行き野菜を買い、パン屋に行き値引きの交渉をしてパンを購入した。街の繁華街を抜けて少し寂れた住宅街に進んでいく。たくさんの食材を買い込んで30分ほど歩いた小さな1軒の家に入る。
「ただいま、パンと野菜買ってきたよ」と、声が聞こえて扉が閉められた。

 ここら辺の家は農家の人が冬にだけ訪れる家になる。冬は何mもの雪で覆われている門の外では暮らして行くのは難しいため、冬の間だけの家なのだ。今は冬の真っ最中という事もあり、周りの家からも美味しそうな夕餉の香りがする。

 二人は一目がある事から暗くなってから家の中の様子を探る事にした。

 家の中では数人の話し声がする。中には子供の声も聞こえた。姉二人は婿を取っている。子供がいても不思議ではない。

 辺りは暗くなり小さな家からは明るく照らす窓とスープの香りが漂ってくる。ふたりの王子は家の敷地に忍び込み息をひそめた。耳に小さな魔石で出来たイヤホンのようなものをして家族の会話を聞いている。先ほど店で支払いの時に女性の袖のボタンに魔法陣を取り付けた。それは遠くにいる人たちの会話が拾える魔法陣だった。家族との会話を聞こうとしているのだ。

 部屋の中では薪の音や料理をしている音、子供の足音様々な音が拾えた。
「姉様、外は寒かったでしょう?」
「ええ、雪はそうでもなかったけど、パン屋が遠いのはつらいわ。マルクスは魔法円は売れたの?」
 二人の女性の声がする。

「ああ、俺こういう作業の方が向いているみたい。銀貨3枚だったよ」
 アリアナの姉シルビアの婿だろう。
「すごいじゃない!」
「お義兄様は器用だから、その点ジョージはダメね。業務ギルドで何かを教える方が向いていると思うんだけど」
 もう一人のアリアナの姉エルトワの婿の事だ。
「ジョージ叔父様は計算が得意だよね。僕に教えてくれた」
 幼い男の子も聞こえる。
「そういう講師はいっぱいいるって言われちゃったんだよ」
「マルクスもジョージも申し訳ない」
 そこで年配の男が聞こえた。アリアナの父リベアールだろう。
「おじい様、また言ってる」
「そうですよ。お義父さん、春になったら茶葉園で頑張りましょう!」
「お父様、お母様の具合は?」
「ああ、今日は調子がいいみたいだった」
「そう…こっちに来ればいいのに」
「まだ、立ち直ってない。まだ絵姿を見て時々泣いている」
「なんで泣いてるのー。おばあ様、可哀そう」
「きっと春になったら元気になるわ」
「あら、リズが泣いているわよ」
 遠くから赤ん坊の泣き声が聞こえて来た。
「わあ、大変、姉様あとお願い」
 バタバタと移動する音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」 その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。 その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。 その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。 「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」 「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」 いったい全体どういうことでしょう? 殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。 ♢♢♢ この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。 そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって? それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。 いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。 でもです。 お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません! 絶対に許容できません! 聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。 でも。 事態はもっと深刻で。 え? 禁忌の魔法陣? 世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!? ※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。 ※楽しんでいただけると嬉しいです。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...