残し逝く

もきち

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第1話 余命

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 さくらは今、ホスピスに向かうタクシーに乗車している。ホスピスは緑深い山の中腹にあり、市街地から車で30分程度の場所にある。

 さくらが膵臓がんだと発覚したのは4ヶ月前だ。

 膵臓がんは発見されにくいと言われているがんで、発見されたときには手遅れの場合が多い。さくらもそのひとりだ。もう手の施しようがないと医者に言われた。そして、病院からこれからお世話になるホスピスを紹介してもらった。さくらは終活を終え、いつでもお迎えがきても良い状態にしていた。



 佐伯さくら40歳、女。独身。

 4ヶ月前に余命1年だと言われた。なんの予兆もなかった。初めて友人とシャレで人間ドックを受けたのだ。再検査の通知を受けても肥満かなくらいしか考えてなかった。

 さくらはまさか自分が50歳まで生きられないとは考えていなかった。誰しもそうだが自分は100歳まで生きるだろうと、思っていたのだ。母は早くに亡くなったが父は存命だ。しかも健康だ。自分もそうなるだろうと思っていた。

 余命を聞いた後、セカンドオピニオンを受け、3件もの病院で診察を受けた。結果は同じだった。余命がちょっと早くなっただけだった。


 だって、どこもなんともないだもん。
 本当にそんな病気なのか??
 実感がわかない。


 しかし、実感が得られる事態が起こった。3度目の診察の帰り突然と身体に痛みが走った。立っていられなくなり倒れた。そのまま入院することになったのだ。倒れたのが病院内であったことが幸いし、すぐに対処してもらえた。家で倒れていれば、一人暮らしのさくらはそのまま死ぬことになっていただろう。

 まぁ余命を言われているのだから早めに死んだとして対した問題じゃないようにも思う。

 さくらは死ぬ覚悟が出来ている。

 さくらは、常々長生きをしたいなどと思ったことはなかった。さくらはひとりだ。長く生きていてもなんの楽しみもない。夫子どももなし、孫ももちろんなし。母は死んでいる。父兄姉がいるが連絡は取りあっていない。だから余命を聞いた時はショックだったが、すぐに切り替えた。

 準備をしなければ!

 一人暮らしのさくらだ。一人の時に家で死んいたら色々迷惑が掛かるだろう。すぐに取り掛かる。まず仕事を退職し、マンションを売る。さくらは25歳の時にマンションを購入していた。中古のマンションで高額ではないがまだ、ローンが残っている。父兄姉に連絡するつもりはない。財産も渡さない。そんなにないけど。断捨離を進め、売れるものは売った。

 ホスピスの費用はマンションを売却してからでもいいことになり準備を進めた。たびたび気を失うような身体の痛みに薬を大量に飲んではやり過ごした。やっとホスピスに移れた時は、安堵した。

 ホスピスにはさくらより年齢が下であろう人もいた。看護師さんも深入りしてこない。子どもはいるのか、親は、誰かお見舞いに来ないのか、など要らないことは聞いてこない。有り難かった。聞かれても言う気はないが。


 余命を聞いて半年が過ぎた。あと何日生きる事が出来るだろうか。これからは老後のお金の心配をする事もないのだ。これからはゆっくりと過ごせる。さくらは老後を考えていたがその心配がなくなることがうれしかった。

 ちょうどよかったのだ。さくらはそう思った。さくらには家族がいた。2匹の猫たちだ。キジ猫のコマ、黒猫のムギ。マンションを購入したのも猫を飼いたかったからだった。念願の猫を飼えてさくらは幸せだった。
 しかし、その猫たちも年を取りさくらが37歳の時、コマより若いムギが死んだ。その1年後、コマも死んだ。

 2匹とも10年以上も生きてくれた。しかしやはりつらい。さくらはこの1年、ずっと泣いていた。新しい子を迎えるかどうか迷っているところだったのだ。
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