上 下
22 / 24

第22話 ご教授

しおりを挟む
「次は、この問題が・・」

「ああ、その問題のやり方はね」

 そのようなやり取りが朝本さんと俺の間で交わされる。

 今現在、驚くべきことに、朝本さんが俺の真隣に座って、数学を教えてくれている。俺がわからないところ(ほとんど全部なのだが)、それらを丁寧に教えてくれている。どうやら、朝本さんは数学が得意なようだ。そのため、数学が大の不得意な俺でも、問題のやり方、どうしてこうなるのかといった過程などが少しは理解できている。

 それにしても、距離が近い。朝本さんは今、俺とゼロ距離の位置にいる。もし、朝本さんの体が少しでも、俺の方に少しでも傾いたら、朝本さんの腕や胸が当たる距離だ。

 その上、朝本さんの服に付着している香水の匂いか、それとも朝本さん本人の匂いなのかはわからないが、ピーチのような甘い非常にいい匂いが鼻の奥の鼻腔をくすぐる。

 こんな状況でも、朝本さんの説明はしっかり頭の中に入ってきている。・・多分。

「それにしても・・」

 朝本さんはそう言って言葉を切ると、意味深な表情をする。

「どうしたの?」

 率直な疑問を投げ掛ける。

「数学苦手なんだね?」

 朝本さん事実を告げるように問い掛けてくる。

「う、うん。非常に」

 正直に質問に答える。

「ふふっ」

 俺の言葉を聞いてすぐに朝本さんは破顔して笑顔を見せた。

 俺は理解できず、やや怪訝な顔をする。

「いや、赤森君には苦手なものがないイメージだったから」

 朝本さんは俺の表情から忖度をして理由を説明してくれる。

「・・・」

 予想外の見解から言葉が出てこない。そのように思われているなど思いもしていなかったからだ。

「それは勘違いだよ。苦手なことはたくさんあるよ」

 嬉しい気持ちというか意外というかよくわからない感情を顔に出さずに俺は返答する。

「たしかに、数学すごく苦手だもんね」

 朝本さんは満面の笑みを俺に向けながら微笑む。

「でも、大丈夫だから。赤森君がしっかり理解できるように私、頑張るから!」

 両手をぐっと握ってガッツポーズをするようなしぐさをする。やる気のある意思表示であろうか。

「う、うん。ありがとう」

 朝本さんの熱意に押されたのか、歯切れの悪い言葉を言う。

 そして、勉強を教えてもらって何時間かが経過した。最終下校時刻のアナウンスが教室に響き渡り、ご教授が終了する。

 俺は、帰りの支度をいち早く終わらせる。

「今日は、ありがとう」

 そう述べて、帰路に着くため、教室の後ろの戸から出ようとする。

「ちょっと、待って」

 朝本さんに呼び止められる。その呼び止める声にはやや必死さを感じた。

 俺は朝本さんのいる方向に視線を向ける。

「一緒に帰ろ・・?」

 笑顔でそんなお誘いをしてくる。その際、夕陽の光が朝本さんの顔やさらさらベージュの髪に当たっている。

「う、うん」

 誰でもできそうな返事をした後、俺達は同時に教室を出ると、鍵を閉めて職員室に鍵を仕舞いに行った。

 その後は、想像に容易いように一緒に朝本さんと下校した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...