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第20話 告白現場
しおりを挟む4時間目の授業が終了し、昼休みの時間に入る。
俺は弁当を早々に食べ終わると、家から持ってきたライトノベルを読み始める。
読み始めて、30分ほどで全部読み終わると、本を読むのに集中していたためか、喉が渇いてしまった。そのため、俺は教室の後ろのドアを開け、教室を出る。
廊下に出ると、俺は階段を降り1階のフロアに足を着ける。
足を着けるなり、俺は自動販売機が設置されている軒下の場所に足を運ぶ。軒下の近くには柔道部やダンス部が使用するであろう体育館が2つほどある。
俺は自動販売機に110円を投入する。すると、押しボタンが緑色のLEDを照らすように光る。それを視認した後、ダミーとして設置されているのジャスミンティーと書かれたパックの下に存在するボタンを軽く押す。
ボタンを押すなり、ピッと音を通知音を出し、ガタンゴトンッと取り出し口内に
ジャスミンティーの入ったパックを落下させる。
俺は取り出し口を開放して、そのパックを右手にとる。その際、良く冷えたパックの冷たい温度が右手にヒヤッと伝わってくる。冷たい!
すぐにストローをパックに挿入して、吸い込むようにジャスミンティーを飲む。口内に苦味のある爽やかなお茶の味が広がっていく。
うん。冷たくて、おいしい。
今現在、俺がいる軒下の辺りには人気はない。俺しかいない状態だ。
俺はこのような状況が好きだ。教室は生徒が多く集まる上、騒がしいためなおさらこのような静かな空気が良いと感じるのかもしれない。
この状況を自分なりに楽しみながら、パックのジャスミンティーを飲んでいると、パック内からズズーッズズーッという音が聞こえてくる。
もう無いか。そう心中で呟くと、ストローを口から解放する。その後、付近に置かれているゴミ箱のボックスに飲み終わったパックを中に落とし込む。教室に戻ろうと歩を進みかけたとき。
男子生徒の後を付いていくように歩いている香恋が目に飛び込んでくる。香恋はそのまま人気のない場所に向かっているように見えた。
「どうしたんだろう」
反射的に疑問を口にする。香恋が男と一緒?珍しい。いや、もしかしたら1度も見たことがないかもしれない。
このようなことを考えていると、そのことが気になってしまった。しかし、隠れて見ることは悪いことだし、それでも気になるし。
そのようなジレンマが脳内に生まれる。
ほんの少しの間、熟考した後、見に行くことに決定した。最終的に、欲に負けたのだ。
香恋が通ったであろう道を進むと、誰も寄りそうもない人気のない場所が見えた。香恋と男子生徒はその場所の中央に立っている。運がいいことに、大きい建物があるおかげで、それが影になることでバレずに隠れながら香恋達の動向を目で見ることができる。
「急に呼び出してごめんね」
男子生徒は一旦断りをいれる。
「で、用件って何?」
堂々とした声がここからでも聞こえてくる。これは香恋の声だ。"別にいいよ"とか”ううん、気にしないで”って言わないのが香恋っぽい。
「あのさ、俺と付き合ってくれない?」
男子生徒は単刀直入に香恋に告白する。あの香恋に"積極的だな"っと思った。だが、顔はパッと見た感じ普通ではあるが、イケメンオーラがある男子生徒に見えるので、自分に自信があるのだろう即時に俺は理解した。確実にクラスの中でもスクールカーストトップレベルの生徒だろう。
「初めて見たときからずっと好きだったんだ」
イケメンオーラのある男子生徒が告白した理由を香恋に述べる。いわゆる一目惚れという奴だろう。
「ごめん。無理」
その告白をばっさりと断る香恋。うわー。一刀両断だよ。
「えっ。な、なんで?」
自信があったのか、男子生徒は素っ頓狂な声を出した後、慌てた様子で理由を聞く。
「あんたのことが好きじゃないから」
ど直球の理由を香恋は口にする。それにはオブラートに包む気なんか多少なりとも感じられない。
ド直球に告げられたことで傷ついたのか、男性生徒は落ち込んだ表情を顔に出した。
「それと・・」
香恋は1度言葉を切る。
「それと?」
わずかな希望を信じているのか、男子生徒は上擦った声でオウム返しをする。
「あんた、誰?」
「え?」
男子生徒は思わず声を出してしまう。香恋を見ながら呆然としている。
「聞こえなかったの?」
香恋は確認を取るために疑問を投げ掛ける。
「だ、だって、俺達、同じクラスじゃ・・」
香恋の言葉が衝撃的だったのか。男子生徒は歯切れのよくない口調で言う。
「そうなの?知らなかったわ」
香恋は現実を突き付けるような厳しい言葉を言い放つ。男子生徒はその言葉を聞いて、
唖然としている。口は半分開いた状態だ。開いた口が塞がらないとはこのようなことを言うのかな。
「もういい?」
香恋はそう聞くと、相手の返答を待たずに踵を返す。
やばっ。こっちに来る。
香恋がこちらの方面に向かって来ていることを視認したことで、俺は動揺する。どうしよう。見ていたことがバレる。
こんなことを考えている間、香恋はたんたんとこちらに近付いてくる。
どうしよう・・。
すると、すぐ近くに建物と建物の間に細い路地裏のような通路があった。通路は建物の陰で薄暗くなっている。
あそこに隠れられればバレないだろう。よしっ。
俺はできるだけ足音を立てないでその通路に逃げるように入り込む。通路は先ほどいた場所に比べて気温が低く、少しだけ涼しい。
もしかしたらバレるかもしれないという緊張感から心臓がバクバクッと脈打つ。また、背中や胸には数滴ほど冷や汗が流れている。
1、2分が経過しただろうか。誰のいる気配上、ここにいてもしょうがないため俺はこのまま教室に戻ることにする。入ったところの逆から出るため、薄暗い通路を真っ直ぐ進む。
歩いて数秒で出口が見えたので俺はそのまま歩を真っ直ぐ進める。そして、出口に差し掛かったところで薄暗い通路をぬける。ぬけた際に、日の光が身体全体に触れるように当たる。
自分の教室に戻ろうと、そのまま歩を進めようとしたとき。
「なにしてんのよ?」
急にどこからか声を掛けられる。どこからか声を掛けられたかわからない。
「え?」
驚いて思わず大きな声が出る。
声の音源を瞬時に突き止め、その方向に視線を素早く合わせる。視線を向けた先には、呆れた表情をした香恋が見て取れた。
「びっくりしたー」
反射的に俺はそう口にしていた。
「驚きすぎ・・ぷっ」
香恋は噴き出した。
「・・なんで笑うんだよ」
俺は香恋に視線を向けながらそう問いかける。
「そんなに・・驚くと思わなかったから」
香恋は笑いながら俺の問いに答える。それにしても、香恋の笑っている顔なんて久しぶりに見たな。いつも大体、笑顔がない仏頂面だからな。そうだ。小学校5年生のとき以来だな。・・そんなにも前だったのか。
俺は過去のことを脳内で回顧する。小学生時代のことを。
「それで、なんで隠れてたの?」
ひとしきり笑い終わった後、香恋は先ほどと似たような疑問を投げ掛けてくる。
また、その質問するか。笑ったと同時に忘れてくれればよかった。しかし、どうしよう。隠れて告白現場を見ていたとは言えないし。
相手が認める理由を脳内で考える。脳を回転させながら。
「・・暑かったから、陰のあるところに居ようと思って」
ウソである。口から出任せである。脳を回転させて意味がない。
「わかりやすすぎ、顔に出てるわよ」
「へ?」
予想外の指摘に口から間抜けな声が漏れ
出る。
「もっと良いウソあるでしょ」
香恋は半ば呆れた表情をしている。
「そ、そうかな?」
聞くと、香恋は首肯する。
やっぱり俺はウソが苦手だな。
ここまで来たら本当のことを話すしかないと思い、それを実行するために俺は意志を固めた。
「実は、・・香恋が告白されている現場を気になって見てたんだ」
正直に真実を吐露する。
「ごめんね」
隠れながら見ていたことに罪悪感があったのだろう。だから、香恋に謝罪の気持ちを伝える。
「ふ~ん」
不機嫌な様子は香恋にない。だが、気に掛かるような意味深な表情をしている。なんなんだ香恋、その表情は。
「いいわよ」
香恋はそう告げると言葉を続ける。
「別に、知らない奴に告白されてるところを見られても私は全然構わないし」
香恋は真剣な表情で俺に訴えかけるようにそう告げる。ああ~。それにしても、名前やっぱり覚えてなかったんだ。信じられないけど、香恋なら有り得る話なんだよな。昔から
興味の無いことは全く覚えられなかったから。多分、現在もそうなのだろう。気の毒だな、あの男子。
「それに・・」
「それに?」
香恋がまだ言葉を発しようとしたので、その内容を確認しようとつい聞き返してしまった。
「とにかく・・もういいから。そろそろ授業始まるから行くわよ!」
うやむやに返答した後、香恋は教室の戻るため前方に歩を進める。
「ま、待ってよ」
前方に進んだ香恋を早歩きで追いかけ、
追いつく。
そして、俺と香恋はそのまま昇降口から2年の教室がある校舎の中に入っていた。
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