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第18話 トーク・チャット

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いつも通り授業を受けている。俺はボッチなため授業中誰とも話すことはない。寂しいと自分でも少しは思う。ほんの少しだけだ
けど。

 でも、これはこれで利点はある。授業中に生徒同士でお喋りをして先生に怒られることとかはそれに該当する。

 このような然程、いやどうでもいいカテゴリーに当てはまることなどを授業に半分ほど集中力を割きつつ脳内で弄ぶように考える。ついでの話だが、今現在、行われている授業は数学Ⅱの授業である。う~ん、難しい。嫌いだ。

 そんなことを脳内で考えたりぼやいていると授業を受けていると、授業終了のチャイムが教室内に鳴り響く。数学の教員は切りが良い箇所で終わったらしく授業時間を少しも超えずに授業を終わらせる。授業が終わった際には、きまりとして生徒全員が起立し、お辞儀(じぎ)する必要があるため、45分間イスに座り続けて凝りかたまった重い身体を上に上げイスから立ち上がる。

 からだおもっ。

 昼休みになり、只今6限の授業が終了し、5限目のときほどではないが。昼食を摂ってからまだ2時間ぐらいしか経過していないためか眠気が多少なりとも襲ってきて反射的なあくびをしてしまう。

「赤森君」

 あくびをしてやや涙目になっている間に、朝本さんが俺の席の付近まで足を運んで声を掛けてくる。

「朝本さん・・どうしたの?」

 話しかけられた俺はというと、話し掛けられるとは思ってもいなかったので、涙袋にわずかに付いた少量の涙を急いで制服のブレザーで拭うとそのように問い掛ける。

「うん、あのね」

 朝本さんは一端そう言うと、数秒間の間を空ける。

「赤森君は"トーチ"やってないの?」

「え?」

 俺は唐突な予想外の質問に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 ”トーチ”とは、「トーク・チャット」の略でスマートフォンのコミュニケーションアプリである。このアプリはチャットのようにトークができるだけでなく、電話も掛けることが可能な代物であり、Lから始まる某アプリと類似した点が多数あるアプリで
ある。

 まぁ、この話はさておき、朝本さんの質問にしっかりと返答しないといけない。

「やってるけど」

 朝本さんの質問に率直に答える。

「そ、そうなんだ。・・ありがとう」

 朝本さんは俺にお礼を言うと早々と俺の席から離れて自分の席に帰ってしまった。

 朝本さんのその行動が原因なのか、何人もの生徒達から怪訝な目を視線を向けられる。

 俺が何かしたのかと疑われているのだろうか。確かに、俺みたいな生徒に人気者の朝本さんが話し掛けるということが言語道断なことで理解できないため、何かあると思って気になるのはわかるが。疑いの目で見ないでくれよ。別に、何もないんだから。

 それにしても、朝本さんはなんで俺にあんなことを聞いてきたんだろう?


           ・・・

 「ただいま」

  自宅のドアの取っ手を引いて開けると、帰ったことを報告するための挨拶を俺は自宅の中に入るなり行う。その際、ドアは閉まりかけの状態で徐々に閉まって行き、開けて数秒ほどで完全に閉まった。

 家に入った後、玄関で靴を右足、左足と順に脱ぐと、俺は玄関に自分の足を付けて靴を靴箱に仕舞う。

 そうして、2階にある俺の部屋に
行くため、俺の真正面に見える階段の方へ歩を進めようとしたとき。

「宏君おかえり!!」

 リビングへと繋がるドアを開けてやや急ぎ足で廊下に出てきたお母さんが俺に抱きついてきた。

 うぐっ。

 抱きつかれた際に、そんな声が口の中から洩れるように出る。

 「ただいま。おかあさん」

 俺は抱きつかれた状態の中、帰りの報告をする。

 俺がそう報告すると、返事はなかったが俺を抱きしめている手の力は先ほどよりもやや強まる。どうやら気分が高揚しているようだ。

 それと、やや力が強まったからと言って、決して息苦しくなることはない。

 
 それから、数秒、いや20秒ほど抱きしめられた後、お母さんは俺から体を放すと、俺の両肩に両手をぽんっと優しく置く。

「おかえり。宏君」

 また、先ほどと同じことを行った後、慈しむような微笑みを俺の目を直視しながらする。・・・どうやらご満悦のようだ。このようなことは学校から帰った後の日課のようなものだ。

 てか、なんでこんなにうれしそうなの。

「あの、お母さん。そろそろ2階に上がってもいいかな?」

 俺は願望を伝えるような感じでそう尋(たず)ねる。

「あら。ごめんなさい」

 お母さんは白々しく謝ってくる。

 それに対して、俺は何も突っ込まず、玄関を真っ直ぐ進んで再び階段の方に歩を進める。

 少しの足の筋肉を使って階段を1段ずつとばして上に上っていく。

 階段を上り終わり2階に到着すると、右側に曲がる。右側に曲がって少しするとドアが目の前に現れ、俺はそのドアを押して開けると自分の部屋の中に入る。

 部屋に入るなり、良くアニメに出てくる薄い板状みたいな学生カバンを床の定位置に置くとベッドに体を預ける形でダイブする。ダイブした後に、ベッドの上に敷かれた柔らかい布団の感触が顔や胸、手や足などに伝達されてくる形で伝わってくる。

 そして、寝返りを何回か打ちながら数分間ごろごろしていると、ふと今日、朝本さんが俺に言っていた言葉が脳内にフィードバックされる。

『トーチ•••か』

 俺はベットに寝転がったままひとり言を言うように胸中でったそうつぶやく。

 そうすると、俺は自分の制服のズボンからスマートフォンを取り出す。そして、取り出すなり、パスワードを入力してロックを解除する。ロックを解除すると、スマートフォンにインストールされているアプリのアイコンが多数出てくる。

 "トーチ"のアイコンを見つめる。

 俺はほとんど、"トーチ"というコミュニケーションアプリを使わない。通知があるかどうかを確かめようと起動もしない上、通知もオフにしている。

 俺がこうしているのは理由がある。まず、俺はボッチであり、誰も俺にトーチをしてくる者がいないから。

 そのため、俺は1、2週間に1回ほどしか"トーチ"を起動しない。使う必要がないから、まぁ当然だろう。

 そんな俺だが、今日の朝本さんの言葉が脳裏に引っかかり、1度アプリを起動してみることにした。

 アプリを起動すると、アプリのアイコンが画面に大きく表示される。そのアイコンは数秒間、画面に表示されて、その後アプリが完全に開く。

 今、俺のスマートフォンには"トーチ"の友達についての欄が表示されている。友達の人数はもちろん0人だ。部活に入っているときには、何10人かいたが、部活の退部届を出したその日にトーチのデータを消したのだ。そのため、今では友達が0人なのだ。


 えっ。

 視線を少し動かすと、トーク欄のアイコンの斜め上に赤い丸で囲まれている数字があることを認識する。

 通知だ。しかも、2件。

 俺は驚愕して目を大きく見開く。目に力が入っている感覚が伝わってくる。

 いったい、誰なんだ?

 いや、・・落ち着け。

 驚きのあまり平常心を失っている心を落ち着かせるよう俺は自分を諭す。心臓の音がドクンっドクンっと耳の奥から聞こえてくる。どうやら、交感神経が刺激されて体が緊張状態になり、体温が上昇してしまったみたいだ。

 これに対処するため、心を落ち着かせて副交感神経を刺激する。

 対処を行って少したつと、まだ体は熱いが、さっきよりは幾分かはましになった。

 少しましになったところで、俺はトーク欄を示すアイコンを右手の親指でタップする。

 すると、トーク欄が表示され、アカウント名が俺の目に飛び込んできた。ちなみに、アカウント名は俺にトーチをした人の名前である。

 そして、飛び込んできたアカウント名に俺は先ほどよりもさらに驚愕してしまう。

 朝本 萌叶っと記されていたのだ。

 えっ。なんで朝本さんが。俺は再度、目を大きく開く。

 スマホを持っている右手が少し震える。

 まさか・・。

 俺は急いでトーク画面を開く。

 開くと、通知の通り朝本さんから2件の通知が送信されて来ていた。

 内容は。

「やっほー、赤森君!」と書かれたチャットに、かわいいアニメチックなカエルの頭の上に「やっほー」っと記されたスタンプがトーク画面に存在した。送信された時間は・・約1週間前。

 そういうことか。

 俺は頭を前に垂らして項垂れる。

 この体勢が5秒ほどした後に、俺は慌てて朝本さんに謝罪のトーチを返す。

 返信を返し終わった後、俺は肩の力を抜く。いや、抜けたという方が正しい
だろう。

 トーク画面を確認する。まだ、既読はつかない。

 それにしても・・。どうして俺のチャットを送ることができたんだろう。

 素朴な疑問が俺の脳内に浮かび上がってくる。

 俺にチャットを送るためには朝本さんが俺のアカウントを友達追加しなければならないはず。その方法は誰かに教えてもらうかグループから追加する、またはIDを聞くかの・・。うん・?待てよ。グループ。

 俺はあることを確認するために友達アイコンをタップする。

 友達の欄が数秒後、スマホの画面に表れる。

 そして、画面が表示されたことで疑問も解決された。

 今、俺の画面にはクラス名の記されたアカウントが画面の真ん中に見える。これが疑問の答えだ。

 このアカウントは俺の学校のクラスのライン。いわゆるグループラインというものである。

 朝本さんはここから俺のアカウントを友達追加したのだ。

 こうして、疑問が解決したことにより気持ちがスッキリする。

 しかし。安心したのも束の間。同じミスを起こさないため、トーチの通知をオンにする。

 これで、よし。もう、大丈夫だ。

 2、3回通知がオンになっているかを確認し終わった後、俺は口から安堵の息を吐く。

 そうして、再びベッドにうつ伏せで寝転がる。

 それにしても、朝本さんには申し訳ないことしたな。

 そんなことを胸中で思いながら朝本さんからトーチの返信が来るのを
待つ俺だった。
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