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エピソード1.ヘルメット仕事しろ!

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うららかな雲の流れ。木々生い茂る山中。

空を見上げていると、銃声が響きわたった─

鳥たちがバサバサと木の葉を散らして、木々の隙間から飛び立ち、視界に一瞬まばらな影を落としていった。

─そんなことは、どうでもいい!

今置かれている状況と比べたら、そんな事は全くもって重要じゃあない!

銃声は、知り合いの猟師のおじさんが何か動物を仕留めた音だ。キジの捌き方を教えてくれたのも、そのおじさんだったと思う。

(おじさんのジビエ肉、下処理までしっかりしてくれるから臭みが少なくて旨いんだよな。またお裾分けしに来てくれるのかな。何を仕留めたんだろ。楽しみだな……)

いや、今はそんな近所付き合いのことは、どうでもいい!

いけない。こうなった経緯がさっぱり分からなさ過ぎて、つい現実逃避してしまった。

今の俺の状態は、両足を目の前の斜面に添って上げた状態で仰向けになっている。

多分、これに関しては山の傾斜を滑り落ちて来たのだろうと思う。服は捲りあがって、背中を擦りむいて痛い。だけど、それは大したことないみたいだ。

其よりも、頭上に当たっている木がいけなかった……かもしれない。

何故かフルフェイスのヘルメットを被っていたのにも関わらず、頭部に衝撃があったことは覚えている。

─ヘルメット仕事しろ!

山道をツーリングでもしていたのだろうか。其れにしては、バイクと一緒に落ちたという訳でも無さそうだけれど……

これはただの事故なのか、それとも─

知り合いの猟師のおじさんを覚えていたのにも関わらず、斜面から落ちた理由が分からない。何故、都合良くヘルメットを被っていたのかも思い出せない。

─思い出せない!

さっきから心配そうに、こちらを覗き込むように斜面の端に居る、あの若くて可愛らしい、けれども巫女さんの様な衣装を着ている変わった彼女のことも思い出せない。

割りと俺の中で、重要な人だった気がするけれど……

もしかして、いつの間にか恨みをかった俺は、サスペンスな劇場ばりに痴情のもつれ的なアレで彼女にあの場所から突飛ばされた……

まさかね。はははっ、ちょっとだけあの子が彼女だったら良かったなーとか思った時点で、あの子は俺の彼女じゃないことを理解した。

……色んな意味で、ため息が出た。

─そう、有り体に言えば記憶喪失になった。

辛うじて失っていない記憶を思い出してみる。俺はこの山んなかで暮らしていて……いつもの様にしていたら……えっと……

「だ、大丈夫ですかー!?怪我して無いですか!か、ら、だ、動かせます?」

そんな彼女から掛けられる言葉を、ただ呆然と、仰向けの状態で聞いていた。

そんな俺が、記憶を取り戻すまで……そして、この事件の真相を知るまでの、ほんの数時間の話─
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