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第52話 運命の輪
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「林さん……泣いてるの?」
林さんの泣いた所を初めて見た事でノブ子は正気を取り戻した。
「そもそも妖精さんが、抵抗しないのが悪いのです!」
「水分が勿体ないよ?」
林さんの目元にある雫に口づけをした─
「そ、そんな事をするから、優しくするから、皆付けあがるんです!」
手で涙を拭いつつ、熱くなった顔を誤魔化した。強く言った言葉とは裏腹に、思わず口元がほころんでいた。それを見たイハルくんは、ギリッと爪を噛んで悔しがった。
「イハルくん……林さん泣かせた……」
「僕……あやまんないからね!」
イハルくんは、不安そうにノブ子の顔色を伺いつつもそっぽを向いた。
「仕返し……」
イハルくんの長い前髪を顔が見える様にかき上げた。
「く、屈辱……ノブ子じゃなかったら呪う……」
「フフッ……こうするとイハル面白い顔になる。」
嫌そうに顔をしわくちゃにして口を尖らせていた。
「だけどイハルは、髪上げてた方が可愛い。私は、好き。」
「だけど僕……闇属性だもん。眩しかったら死んじゃうもん……」
イハルくんは前髪を直しながら、満更でも無さそうな照れた顔を隠した。それを見た林さんは思った。
(もしかして、妖精さんって天然のタラシ!?)
ノブ子に、順応性の高さから来る恐ろしさを感じた。
地下闘技場での試合が始まった。
ミトの重いパンチングが相手の顎にヒットした。一人目勝利。
(隙だらけだ、楽勝。)
客たちの罵声が響いて、手に持たれていた紙が投げられ舞っていた。
背後を取って、スリーパーホールドを決めた。二人目勝利。
(まあ、こんなもんだろ……)
拳を目線に持っていき構え、防御しながら、隙をつく。三人目も…………あれ?
(あれ?……私、倒された?)
クソッ大穴のお前に賭けてやってたんだぞ!と、客から野次が飛んできた。
《もう一度だけ!!》
《もう止めとけって!身体動かなくなるぞ!》
肩を揺らして荒い息をしていた。いつの間にか、体力は奪われフラフラしていた。
それでも、後一回!もう一回だけ!と、試合を続行した。
(あれ……私意外と負けてるよな?)
《凄く盛り上げてくれたな!正直、男相手にここまでやれるお嬢ちゃんだとは思わなかった。》
《なあ……私何回負けた?》
《負けた数か?5回中、3回戦だが。普通勝った数聞くだろ。》
フッと息を漏らし、腕で顔を隠した。
《泣いてるのか?意外と可愛いところ─》
ククククッ………アハハハハハハ!!
と、堪えきれず、哄笑した。
《なんだ!?気持ちワリーぞ!打ちどころ悪くてイカれちまったのか!?》
《いーや、その逆だよ。目が覚めたよ支配人……》
そうか、そうか。と、ミトは満足そうに納得したという風に頷いた。すっかり客は居なくなっていた。身体は仰向けのまま、動けなくなっていた。
いつの間にか寝ていて、台車で運ばれていた。
《ガタガタしてて、イテーよ……》
《はいこれ、貴方の今日のギャラだって。支配人から、専属のファイターにならないかって聞かれたけど、どうする?》
《いや止めておく。もう満足したよ。私より全然強い奴がいっぱい居るって分かって、嬉しいんだ……》
《だから、言ったでしょ?自意識過剰だって。》
《ああ、ありがとな。現実見させてくれて。》
《……私があの時、海に居た理由分かる?》
《ショー会場は海辺に作られていたの。恋しくなって擬人化してから、海で泳いでたらね。息継ぎのタイミングが人間レベルになってて、溺れた……それを思い出してた。》
《結局……動物だった能力引き継いでるっていっても、超人では無いのよ……私たち。》
ああ……と返事をして、目を細めた。
《それはそうと、お前この金ちょっと抜いただろ。》
《世話してあげたんだから、別に良いでしょ?》
《まーな。あんな場所に顔が利く奴のする事にしては、可愛いいよ……》
アキヨシが帰ってきた。急いで帰って来たことを隠す為、背中に浮かんだ汗を上着で隠した。
「林さん、最近よく泣いてるよね。どうしたの?アンドロイドに感情が芽生えたみたいになってるけど。」
「うるさいです!」
林さんは、急いで涙の痕跡を消そうと袖口で拭った。
「イハルくん……また人の気を引こうとして問題起こすー。お父さんに言い付けるよ?」
「……え?ど、どっちのパパに言い付けるつもり?」
「そーだなー。解剖の免許持ってる方かなあー。」
「其だけはやめて!スケッチに同行させて貰えなくなる!僕のライフワーク……」
イハルくんの唯でさえ白い顔が更に青ざめていた。
「それにね。自分の事、禁忌の子なんて設定作らないの。」
「だって、お金を積んで同性同士で出来た子供だなんて、不気味がられても仕方ないから……」
「誰に言われたの?高確率で短命とか子孫残せないとか。」
「使用人に言われなくたって、そんなの調べたら分かるもん!」
「ちゃんと二人のお父さんは君を愛してるでしょ?それが……全てだよ。他の意見に惑わされちゃ駄目だよ。」
「じゃあ私も子孫残せる?」
「そうだね……君は例外が多いからね。」
(人智を超えた処には、よく分からない事が多いし……)
「林さん、イハルくんにはお父さんの名前を出すのが効果的なんだ……次から宜しくねー。」
「……急いで来たのバレバレですよ?汗の匂いします。」
え、加齢臭する?と焦るアキヨシに、気づかれない様に"ありがとう"と、口パクをした。
「それに、服に女の人の香水の匂いが染みついてます!いったい、娘を置いてどこ行ってたんでしょーね?」
何故だか、更にダラダラと汗が止まらなくなったアキヨシだった。
《あーあ。どうすっかなー。》
《なに湿気た面してんの?早く食べましょー?もうすぐ帰るんでしょ?》
ミトさんの稼いだ闇ファイトマネーで、美味しいと噂の中華料理屋さんに来ていた。
《帰るっていってもなー……》
自分の実力がわかって、スッキリしたは良いものの、これから何をして生きていこう……
そんな時、携帯に電話が掛かってきた─
《それ、"運命の輪"よ。しかも正位置。早く出なさい!》
と、イルカの占い師に言われた。
「はい─そういう事で宜しくお願いします!!」
《ね、言った通りでしょ?》
耳元で光る赤いピアスは、偏光して緑色にも見える事に今気がついた─
《あんた、まさか本当に本物なんじゃ……?》
そんな訳ないじゃーん。と言って、占い師はフカヒレスープを飲んだ。
林さんの泣いた所を初めて見た事でノブ子は正気を取り戻した。
「そもそも妖精さんが、抵抗しないのが悪いのです!」
「水分が勿体ないよ?」
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「そ、そんな事をするから、優しくするから、皆付けあがるんです!」
手で涙を拭いつつ、熱くなった顔を誤魔化した。強く言った言葉とは裏腹に、思わず口元がほころんでいた。それを見たイハルくんは、ギリッと爪を噛んで悔しがった。
「イハルくん……林さん泣かせた……」
「僕……あやまんないからね!」
イハルくんは、不安そうにノブ子の顔色を伺いつつもそっぽを向いた。
「仕返し……」
イハルくんの長い前髪を顔が見える様にかき上げた。
「く、屈辱……ノブ子じゃなかったら呪う……」
「フフッ……こうするとイハル面白い顔になる。」
嫌そうに顔をしわくちゃにして口を尖らせていた。
「だけどイハルは、髪上げてた方が可愛い。私は、好き。」
「だけど僕……闇属性だもん。眩しかったら死んじゃうもん……」
イハルくんは前髪を直しながら、満更でも無さそうな照れた顔を隠した。それを見た林さんは思った。
(もしかして、妖精さんって天然のタラシ!?)
ノブ子に、順応性の高さから来る恐ろしさを感じた。
地下闘技場での試合が始まった。
ミトの重いパンチングが相手の顎にヒットした。一人目勝利。
(隙だらけだ、楽勝。)
客たちの罵声が響いて、手に持たれていた紙が投げられ舞っていた。
背後を取って、スリーパーホールドを決めた。二人目勝利。
(まあ、こんなもんだろ……)
拳を目線に持っていき構え、防御しながら、隙をつく。三人目も…………あれ?
(あれ?……私、倒された?)
クソッ大穴のお前に賭けてやってたんだぞ!と、客から野次が飛んできた。
《もう一度だけ!!》
《もう止めとけって!身体動かなくなるぞ!》
肩を揺らして荒い息をしていた。いつの間にか、体力は奪われフラフラしていた。
それでも、後一回!もう一回だけ!と、試合を続行した。
(あれ……私意外と負けてるよな?)
《凄く盛り上げてくれたな!正直、男相手にここまでやれるお嬢ちゃんだとは思わなかった。》
《なあ……私何回負けた?》
《負けた数か?5回中、3回戦だが。普通勝った数聞くだろ。》
フッと息を漏らし、腕で顔を隠した。
《泣いてるのか?意外と可愛いところ─》
ククククッ………アハハハハハハ!!
と、堪えきれず、哄笑した。
《なんだ!?気持ちワリーぞ!打ちどころ悪くてイカれちまったのか!?》
《いーや、その逆だよ。目が覚めたよ支配人……》
そうか、そうか。と、ミトは満足そうに納得したという風に頷いた。すっかり客は居なくなっていた。身体は仰向けのまま、動けなくなっていた。
いつの間にか寝ていて、台車で運ばれていた。
《ガタガタしてて、イテーよ……》
《はいこれ、貴方の今日のギャラだって。支配人から、専属のファイターにならないかって聞かれたけど、どうする?》
《いや止めておく。もう満足したよ。私より全然強い奴がいっぱい居るって分かって、嬉しいんだ……》
《だから、言ったでしょ?自意識過剰だって。》
《ああ、ありがとな。現実見させてくれて。》
《……私があの時、海に居た理由分かる?》
《ショー会場は海辺に作られていたの。恋しくなって擬人化してから、海で泳いでたらね。息継ぎのタイミングが人間レベルになってて、溺れた……それを思い出してた。》
《結局……動物だった能力引き継いでるっていっても、超人では無いのよ……私たち。》
ああ……と返事をして、目を細めた。
《それはそうと、お前この金ちょっと抜いただろ。》
《世話してあげたんだから、別に良いでしょ?》
《まーな。あんな場所に顔が利く奴のする事にしては、可愛いいよ……》
アキヨシが帰ってきた。急いで帰って来たことを隠す為、背中に浮かんだ汗を上着で隠した。
「林さん、最近よく泣いてるよね。どうしたの?アンドロイドに感情が芽生えたみたいになってるけど。」
「うるさいです!」
林さんは、急いで涙の痕跡を消そうと袖口で拭った。
「イハルくん……また人の気を引こうとして問題起こすー。お父さんに言い付けるよ?」
「……え?ど、どっちのパパに言い付けるつもり?」
「そーだなー。解剖の免許持ってる方かなあー。」
「其だけはやめて!スケッチに同行させて貰えなくなる!僕のライフワーク……」
イハルくんの唯でさえ白い顔が更に青ざめていた。
「それにね。自分の事、禁忌の子なんて設定作らないの。」
「だって、お金を積んで同性同士で出来た子供だなんて、不気味がられても仕方ないから……」
「誰に言われたの?高確率で短命とか子孫残せないとか。」
「使用人に言われなくたって、そんなの調べたら分かるもん!」
「ちゃんと二人のお父さんは君を愛してるでしょ?それが……全てだよ。他の意見に惑わされちゃ駄目だよ。」
「じゃあ私も子孫残せる?」
「そうだね……君は例外が多いからね。」
(人智を超えた処には、よく分からない事が多いし……)
「林さん、イハルくんにはお父さんの名前を出すのが効果的なんだ……次から宜しくねー。」
「……急いで来たのバレバレですよ?汗の匂いします。」
え、加齢臭する?と焦るアキヨシに、気づかれない様に"ありがとう"と、口パクをした。
「それに、服に女の人の香水の匂いが染みついてます!いったい、娘を置いてどこ行ってたんでしょーね?」
何故だか、更にダラダラと汗が止まらなくなったアキヨシだった。
《あーあ。どうすっかなー。》
《なに湿気た面してんの?早く食べましょー?もうすぐ帰るんでしょ?》
ミトさんの稼いだ闇ファイトマネーで、美味しいと噂の中華料理屋さんに来ていた。
《帰るっていってもなー……》
自分の実力がわかって、スッキリしたは良いものの、これから何をして生きていこう……
そんな時、携帯に電話が掛かってきた─
《それ、"運命の輪"よ。しかも正位置。早く出なさい!》
と、イルカの占い師に言われた。
「はい─そういう事で宜しくお願いします!!」
《ね、言った通りでしょ?》
耳元で光る赤いピアスは、偏光して緑色にも見える事に今気がついた─
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