パソニフィ・コンフュージョン

沼蛙 ぽッチ & デブニ

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第50話 変わってしまった日常

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通年通り、無事体育祭を迎えた。学校とは別の場所にある陸上競技場を貸しきって行われた。

階段状になったスタンド席で、クラス別に座る。たった今、競技の合間の休憩時間。この場所に居る人達もまばらだ。

「ミトちゃんが、体育祭が好きだった理由知ってる……?」
「確か、公式のスポーツ大会に擬人化してる人は出れないのでしたっけ?」
「……動物だった時の能力引き継いでるからだって。体育祭なら活躍出来るから……」

望月さんは、競技場で楽しそうに輪になって話をしている、いつも一緒にいた友だちを眺めていた。

「混ざらなくていいのです?」
「何か、ミトちゃんが居たから、あの子達と仲良かったのかなあ。温度差っていうか、違和感。……私の立場が弱かっただけなんだけどねー。ヒエラルキーってやつ?」
そう言いつつも、苦笑する望月さんは、仲直りしたそうにも見えた。

「全てミトのせいにすればよいのです。あいつ……」

─何の相談もなく、フェードアウトしやがったのですから!

ミトは、以前から健康診断で世話になっていた担当医のいる動物病院へと搬送された。

「隕石の迎撃レーザーは当たった様ですが、砕けたものが燃え尽きず、学校近くの駐車場に落下した様です。」
「そんな事ってあるんだな……」

「ミトさん……私に言ったお願い、却下だよ?」
妖精さんは、彼女の目を真っ直ぐ見つめた。
「ごめんって。痛みでどうかしてたんだよ。だから、お前あんま直視すんなよなー。相変わらず焦点あってんのかわかんない感じが不気味なんだから。」

「じゃあ、今まで通り一緒に居てくれる?」
「ああ、当たり前だろ。……ただちょっとだけ眠らしてくれるか?……疲れちった。」
そう言って、真上の照明を眩しがる様に、手の甲を額に当てた。

「これ以上は迷惑になるから、一先ず、齋藤さんとサツキさんに任せて帰ろう。」
本当のミトの養子縁組先の齋藤さんも駆けつけていていた。

アキヨシさんは、今日は義娘と一緒に居てくれるかい?と、一人になりたく無かった私を気遣った。その日はそのまま妖精さんの部屋に泊まった。

前よりか彼女の部屋のサイケデリック感が減っている様な気がした……

その後日、サツキさんからアキヨシさんへそちらにミトが来ていないかと連絡が行った。
「何処に居るかわからないし、連絡がつかないんです!」

─ミトは書き置きを残して、家出したのだった。

《サツキへ。ちょっと、気晴らしに旅に出るわ。落ちついたら連絡するから心配すんな。》

「ノブ子、お帰りなさい。」
「イハル……来てたんだ。」
「大変だったって聞いて、飛んできたの。」
「嬉しい。……私、最近イハルが書いてくれた絵みたいになるの……だから、一人になるとお腹痛くなる……」
「大丈夫。僕はずっと一緒に居てあげるから……」
その日、知らない間に私の部屋のベッドに潜り込んでいたイハルくんと添い寝した─

隕石落下から、一週間程、学校は休校になった。文化祭は、取り止めにするか延期なのか分からない状態になった。

休校中、林さんは生徒会として、床に落ちた窓ガラスの掃き掃除を手伝った。廊下側が中心に割れていた。業者さんが綺麗に窓ガラスを元通りに戻していた。

(負傷者は出ましたが、命に別状のある子は居なくて良かったです。ですが─)

クラスメートから学校中にミトの正体が知られてしまった。人気者で有名人だった分、暫くミトの陰口が横行した。ミトが庇って押し倒した子の親から学校へクレームも入った。

─うちの子がショックを受けて寝込んでしまった。猛獣を学校に通わせていたなんてどうかしている、と。
「それは偏見です!擬人化した者は、人と変わらない姿になります。この生徒は猛獣ではありません。」
担任の先生は、意外にもミトが虎だという事を受け入れ、対応したのだった。

「ミトちゃんってさ、中等部の時よく暴力汰起こしてたらしいよ。」
(本当の事ですが、貴方には全然関係ないことですよね。)

「猫の擬人化だとか嘘ついてたのって、心機一転、高校デビューってやつ?」
(そうですね。貴方がたを怖がらせない様にね。)

「というか、仲良い振りして嘘ついてたのが許せない。」
(記憶が正しければ、付きまとっていたのは貴方の方でしたが。)

「そんな危険な奴に押し倒された奴不憫だよな。」
(この同情してる風の傍観者が……)

(皆さんお元気そうで何より。余裕が出て来たんですねえ。軽口が叩けるほどに……)
私が、もうそろそろブチキレそうだった時─

「だけど、ミトちゃんが庇ってくれたから、私無傷だったんだよ!押し倒されたっていうけど、倒れた時も痛くならない様に気遣ってくれてたし!」
望月さんも、ミトの正体を知って暫くは葛藤して学校を休んでいた。だけど、ミトの事を悪くは思えなかった。だから、勇気を振りしぼってクラスメートに伝えたのだった。

「そういうの……ストックホルム症候群っていうんだよ?」
だけど、その一言で一蹴されてしまった……

目の前で、部活動対抗リレーが始まった。
「……望月さん、私にひとつ協力して下さいませんか?」
私は鉢巻を締めて立ち上がった。

「私に、出来る事なんてあるのかなあ……」
望月さんは、すっかり自信を失っていた。

「実は私もミトにイラついてるんです。」
「えっ……?」
「ミトが居なくなって、私一人で文化祭の出し物サービス、しなきゃいけなくなったじゃないですか……」
「……文化祭は、多分取り止めだよ。」
「いいえ、私は生徒会権限でもなんでも使って、文化祭を再び実行させます!」
「どうしてそこまでして……?」

「このまま、ミトは転校するつもりなんです!」
「この状況じゃ、仕方ないんじゃないかな……」

「いいえ!しっかり落とし前をつけてから、出て行って貰いたいものです!」

こうして、演出担当の望月さんに、文化祭で協力をして貰うことにした─

波打ち際、潮の薫り。赤いイヤリングが風で揺れて光っていた。
《なあ、あんたイルカの占い師だよな?》
《ねえ……運命って信じる?……聞かせてくれるかしら。貴女がその後どうなったのか。》

その頃、ミトさんは修学旅行先で出会った擬人化の占い師に会っていた。
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