愛犬はブルーアイズ

雨夜美月

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10.別に抱かれるわけじゃないんだからね

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「……早く帰るぞ。うちでそれ何とかしてやるから」

 言って、顔から火が出そうだった。
 俺は恥ずかしすぎて顔をそむけていたから、クリスがどんな顔で俺を見ていたのかは知らない。

 アパートの玄関をくぐりながら、また前のようにいきなり襲われるのではないかと緊張していた。

「あの、モリナガさん……」

 靴を脱ぎながら後ろから話しかけられ、俺は思わず身を固くする。

「シャ、シャワー浴びてからな! 悪いけど俺男なんて初めてだからせめて綺麗にしてからじゃないと無理!」

 張り上げた声が上ずる、これでは動揺しているのが丸わかりだ。

 男同士ってことはつまり男のあの部分をそうするってことで、触って、口でとか、自分にそんなことが出来るだろうか。

 上手くやる自信なんて全然ないが、クリスのそこを何とかしてやると言った手前今更出来ませんなんて格好悪すぎる。というかそれではクリスが可哀そうすぎる。

 それにもしかしたらクリスが俺の身体を触ったり……なんてこともあるかもしれないし、仕事帰りで汚れた身体を晒すなんて恥ずかしすぎる。

 照れを隠すようにドスドスと足音を立てて廊下を蹴っていた身体が突然バスルームに引っ張り込まれる。

「わっ、何するんだよっ」

「一緒に入ってくれないならシャワー浴びるまで待てません」

「一緒はちょっと……」

 正直言ってまだ心の準備が出来ていない。

 目の前でクリスがためらうことなく服を脱ぎ落していくのを眺めながら、バカみたいに高鳴る心臓は収まる気配がない。

 腕まくりをした制服のシャツからのぞく腕を見てある程度は予想していたが、上半身裸になったクリスの身体は想像以上に引き締まっていて、俺はその均整の取れた身体から目が離せなくなる。

 この身体に抱かれるのかと意識した瞬間、気恥ずかしさで焼けるほど顔が熱くなる。

 いや、別に抱かれるわけじゃ、ただクリスのそこをなんとかしてやるだけで……。

 考えながら視線がそこに向いてしまっていて、クリスがちょうど下半身を覆う最後の一枚に手をかけているところだった。

「……そんなに見られたら恥ずかしいです」

 恥ずかしいのはこっちの方だ、こんどこそ本当に顔から火が出そうだった。

 一瞬躊躇うような仕草を見せたクリスだったが、ぴったりと肌を覆うボクサーパンツを下げ、下着越しに見てもはっきり反応を見せていたそこが露わになる。

「…………ッ!」

 俺は思わず目をそらしていた。

 一瞬目に入ったクリスのその部分は体格に見合う立派なもので、これを今からどうにかしようとしているなんてと益々恥ずかしくなった。

「モリナガさんも早く脱いで……」

 少し擦れた声で急かされ、クリスの手に重ね着した上着をまとめてたくし上げられる。

「わ、あ、脱ぐからっ、自分で」

 結局はもたもたと服を脱ぐ俺を待ちきれない様子でクリスが俺のジーンズをパンツごと膝までずり下す。

「ちょっ……っ」

 素っ裸で俺の足元に膝をつくクリスが、俺の身体を見上げてごくんと喉を鳴らす。俺はいたたまれなくなって、急いで服を脱ぎ落して風呂場に駆け込んだ。

 シャワーの水が湯に変わるのを待ちながら、背後からクリスの腕に抱きしめられる。

「すごく綺麗です、それにすべすべしてさわり心地が良いです」

 クリスの手が胸元を上から下へ滑る感触に、くすぐったさとは違うぞくぞくとした感覚が走る。

「俺のどこが綺麗だっていうんだよ。お前の方がよっぽどいい身体してるじゃねえか」

「そう言ってもらえると鍛えた甲斐があります。でも、モリナガさんはやっぱり綺麗です。身体つきもセクシーだし肌も艶があって、離したくないです」

「ば、ばかっ。いいから洗ってやるからそこ座れ!」

 まだ温度を確かめていないシャワーをクリスに向かって放射する。

「わっ、冷たいです」

 俺の身体なんて平凡で大したものじゃない。クリスの立派な体格とくらべたら月とすっぽんだ。クリスを月に例える俺も、すっぽんを綺麗だなんて言うクリスもどうかしている。これはお互いに惚れた欲目ってやつだろうか。

 俺はクリスをバスチェアに座らせると、照れと恥ずかしさをごまかすようにゴシゴシと乱暴に髪を洗ってやる。

「あの、モリナガさんもう少し優しくして下さい」

「うるさい、黙って洗われてろ」

 ザッとシャワーでシャンプーの泡を流してやりながら、クリスが苦しそうな声を上げた。水が口にでもはいったのだろう。

「でも、うれしいです。森永さんに洗ってもらえるなんて思ってなかった」

「なんだよそれ、別に身体洗うくらいで大げさだな」

 濡れて襟足に張り付く金髪にコンディショナーを行き渡らせながら、俺の心臓もなんとか落ち着きを取り戻そうとしていた。

「しっかし、細い髪だな。丁寧にしないと絡まりそうだ」

 するすると指の間を滑る髪の感触を楽しみながら、水に濡れても綺麗な色なのだなと感心してしまう。

「僕もモリナガさんの身体を洗っても良いですか?」

「俺はいいっ、自分でする」

 クリスの一言で自分の置かれた状況を思い出し、また恥ずかしさがこみ上げてくる。
俺はクリスの髪を洗い流し、ごしごしとタオルでクリスの背中を洗う。

「背中気持ちいいです」

 そう言ったきりクリスは無口になり、こちらの緊張もおのずと高まる。
 いい加減背中を擦るのにもきりをつけ、両腕を洗い、覚悟を決めて胸に手を伸ばした。
 背後から正面に手を伸ばそうとすると、クリスの背中と自分の身体が触れてしまう。なんてことのない接触だが、お互い裸同士だと変な方向に意識してしまう。
 俺は泡まみれになりながらクリスの胸を丹念に洗い、タオルを持った手をそろりと下腹部に伸ばす。

「…………ッ」

 そんなつもりはなかったのに、反り返った男のものに手が触れてしまって俺は思わず手を引っ込める。

「あの、あとは自分でします」

 申し訳なさそうな声を出したクリスの肩を俺は慌てて掴む。

「違う、嫌とかじゃなくて、驚いただけだ。お前こっち向け」

「え、えっ?」

 掴んだ肩をぐいぐいと回転させ、困惑した様子のクリスをこちらに向かせる。
 バスチェアに座るクリスの長い脚は狭い洗い場では邪魔で、俺はその脚の間でクリスと向かい合うように正座をする。

 俺の方は膝にタオルをかけて前を隠しているが、そこを隠しようもないクリスは困った顔で俺を見ている。もしかしたらクリスも恥ずかしいのかもしれない、目元が少し赤くなっている。

「良くなかったら言えよ」

「え?」

 ボディソープを泡立てた手でまずはその足の付け根に触れる。髪の毛と同じ色の下生えを擦るとよく泡が立った。
 思ったより嫌悪感がなくてほっとする。丹念に毛の部分を洗ってやりながら陰嚢に手が触れても嫌な気はしない。
 それどころか人のはこんな感じなのかと手のひらでふにふにと袋の感触を楽しんでいると、先ほどから顕著な反応を見せている屹立がひくりと揺れて存在を主張する。

「はは、お前のここすげえな」

 泡まみれの両手でぎゅっとそこを掴むと、クリスは息を漏らして肩を震わせる。

「モリナガさん……っ」

 名前を呼ぶ少し擦れた声が色っぽくて、手の中に触れた熱にドキドキと胸が高鳴る。

 ゆっくりと上下に手のひらを滑らせながら、流しっぱなしのシャワーのせいか俺までのぼせそうに身体が火照っていた。

 俺の手の動きに素直な反応を見せるクリスが可愛い。根元から先端まで撫で上げられるのが弱いみたいで、そうしてやるたびに小さく息を漏らした。

「イケそうか?」

「まだ、ですけど。すごく……良いです」

「あ、そう」

 わざとつれない返事をしてしまったが、クリスが自分の手で感じてくれているのはなんだかうれしい。
 調子に乗ってクリスのものを弄んでいると、タオルの下に隠した自身にじわじわと熱が集まってくるのを感じる。

「モリナガさんも……」

 クリスの視線が足の間に注がれているのを感じて、思わずぎゅっと膝に力が入る。タオル一枚のこの体勢では隠しようもなく、俺はいたたまれなくて目をそらす。

「僕もモリナガさんにしたいです」

 クリスの手が俺の膝を覆うタオルに伸びてきて、俺は慌ててクリス自身を握る手にぎゅっと力を込める。

「……っ、痛いです」

「俺はいいって言ってんだろ、変なことしたらお前のここに噛みつくぞ」

 握り締めたクリスのものがびくんと震えてさらに硬度を増したことに驚いて思わず手を放す。

「モリナガさんになら――」

「いいっ! それ以上言うな!」

 クリスが何を言おうとしたのか察して言葉を遮る。
 これ以上は無理だ、強がっていたが恥ずかしすぎる。クリスには悪いがやっぱり今日は帰ってもらって……。

「どうしたんですか、そんなに可愛い顔をして。耳まで真っ赤ですよ」

 クリスの顔が近づいてきたかと思うとぺろりと耳を舐められ、思わずびくりと肩が跳ねてしまった。もう無理だ、恥ずかしすぎて平気なふりなんて続けられない。

「恥ずかしいですか? 僕もです。でも、そうやって恥ずかしそうな目で僕を見るあなたが愛らしくて我慢できません」

「え、な、なにっ?」

 クリスは俺の身体を持ち上げると、浴槽の縁に手を付かせるような体勢を取らせる。

 背後から抱きしめるようなかたちで体中をまさぐられ、俺の身体はあっという間に泡まみれになっていた。

 クリスはそうしながら耳元で俺の名前を呼び、フランス語だろうか、甘ったるい声でぼそぼそと何か囁いてくる。意味はわからないが、それが愛の言葉であることはクリスの熱に浮かされた声から推測できる。

「……クリス」

 腰にははっきりと反応していることがわかるクリス自身がずっと押し当てられている。
 クリスの手が俺の大腿の内側を撫で、足の間のものがじんと痺れる。早くそこに触って欲しいと思うほど、俺の身体は存分に高められていた。

「何ですか、早くここに触れて欲しい?」

「……あ、……っ」

 クリスの手を待っていたそこがやっと触れられ、俺は思わず漏れてしまったみっともない声を堪える。

「ここをこうして触って欲しい?」

「……ち、違っ!」

 泡まみれの手に包み込まれ、全体を洗うような手つきで撫でたクリスの手はすぐに離れていってしまう。

「え、なんで……?」

「違うんでしょ? それにこれは身体を洗っているだけですからこっちも綺麗にしないと」

「う、わっ」

 尻を撫でられたかと思うと、割れ目に指が滑り込んでとんでもない場所を擦られる。

「モリナガさんの身体は本当にどこもさわり心地が良いですね」

 泡の力を借りて、クリスの指が後ろの穴のなかに侵入してくる。

「そんなとこ、やめ……、うあっ」

 ぐり、と遠慮を知らないクリスの指が奥まで突き入れられる。泡のぬめりで痛みはないが、そんなところをいじられるなんてぞわぞわと鳥肌が立つ。

「洗っているだけですよ」

 前は軽く洗うだけだったのに、そこを洗う手つきはやけにしつこい。入り口付近に指を出し入れして擦ったり、奥の方で指を曲げて押し広げられる。

「も、やめろ。変になる……っ」

 そこを触られるのは違和感があって嫌なのに、腰の奥がじんじんと疼いて苦しい。浴槽に手をつく体勢がつらくて、その場にしゃがみ込んでしまいそうだった。

「……フトンに行きましょうか?」

 耳に唇が触れるような距離で囁かれ、俺はわけもわからずうなずいていた。
 のぼせそうになった身体をクリスにもたれかけさせると、クリスはタオルで全身を拭いてくれた。

「え、おい……?」

 バスタオルに包まれたまま、俺の身体はクリスの腕に抱きかかえられる。
 いわゆるお姫様だっこされているのが恥ずかしくて抵抗しようとするが、落ちるのが怖くてクリスの首にしがみつく。

「あなたをこんな風に抱き締められるなんて夢のようです」

 脱衣所から数歩の距離の寝室兼居間に運ばれると、敷きっぱなしにしていた布団の上にそっと身体を下ろされる。クリスの腕はお姫様だっこ体勢のまま俺を抱きしめて離さない。

「お前、犬の癖にかっこよくてなんか腹立つ」

 俺の額にキスしようとしていたクリスが驚いたように目を見開いて笑う。

「今は犬じゃなくてオオカミかもしれません」
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