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22.Epilogue

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週が明けた月曜日。
社長の昼休憩の時間を見計らって龍平が社長室を訪ねてきた。

結婚報告、ということで気合いの入ったスーツ姿がとても映えて素敵だ。
もちろん養子として籍を入れるとかパートナーシップ登録か、具体的なことは決まっていない。
今回は引き合わせてくれた社長へのお礼と、報告のようなものだ。

「私は宇佐美くんのお義父さんになるのか。お義父さん、いい響きだ。宇佐美くん、ちょっと呼んでみてくれないか?」
と言われてセクハラのような響きを感じた私はつい冷たくあしらってしまったが、まあそれはいいだろう。


挨拶を終えて、龍平を見送りにエントランスまで来たところで私はあることを思いつく。
「こんにちは。今日もお二人ともお綺麗ですね」
私は龍平を連れて、受付カウンターの二人に愛想よく挨拶をする。
「宇佐美さんお疲れ様です、そちらの方は?」
「さて誰でしょう、彼に見覚えはありますか?」
龍平に見蕩れてほうっとなっていた二人が、時間差で何かに気づいたようにハッとなる。
「やはりそうでしたか」
彼女たちの言う私のストーカーとはやはり龍平で間違いなさそうだ。
「何の話?」
「たいしたことじゃありませんよ、龍平さんが私を訪ねて来てくださったことを覚えていらしたんでしょう」
彼女たちにニッコリ会釈をして去ろうとすると、背後から駆け寄る気配がする。
「宇佐美さんっ!」
この歯切れのいい元気な声はまさか。
「村上さん、お久しぶりです。ここでお会いするなんて珍しいですね」
「はいっ! 実は辞令が出て来週から本社勤務となりました! 今日は挨拶に来たんですけど、こんなにすぐ宇佐美さんに会えるなんて光栄です、運命感じちゃいます……!」
暑苦しいほどの熱量で話す村上に、私は苦笑を浮かべる。
「はじめまして、仙台支社営業1課から配属になりました村上と申します」
村上はスーツ姿の龍平をうちの社員だと思ったのか丁寧に自己紹介をしている。
一方、龍平は笑顔を浮かべてはいるもののヒリリとした敵対心のような気配を発している。
「ご丁寧にどうも、高鷲と申します」
高鷲、と社名にもなっている社長と同じ名字を聞いて疑問符を浮かべる村上。
様子をうかがっていた受付の二人はまたもやハッとしていて、龍平の正体に気がついたようだ。 

私は龍平の腕に手を伸ばし、彼の肩に自分の頭を乗せてぴたりと寄り添う。
「こういう事なので、失礼しますね村上さん」
私の行動に龍平は驚いていたが、すぐに私に向かって満面の笑みを浮かべる。
それから、村上に向かって挑むような目線を送った。いや、余裕を見せつける表情か?
「そんなぁぁぁ! せっかく追いかけて東京まで来たのに!」
村上はへなへなと崩れ落ちるように膝に手をつく。
「本社での活躍期待していますよ、頑張ってください」
私はにこやかに会釈をすると、龍平と腕を組んだままその場をあとにした。


会社の外に出たところで龍平が私の顔をのぞき込む。
「俺はうれしいけど、よかったの?」
「なにがですか?」
「会社で俺たちの関係ばらすようなことして」
「何も問題ありませんよ、自慢のカレを見せびらかしたかっただけです」
「それはうれしいけど、あの村上ってやつ何? 宇佐美さんにしつこくしてるの?」
「優秀な方ですよ、いろいろと熱心で強引なところもありますが。龍平さんのような素敵な恋人がいるとわかれば大丈夫でしょう」
「だといいけど、何かあったらすぐ言って」
「ふふ」
龍平さんが心配してくれている。
もしかしたら嫉妬もしているのだろうか。
嬉しくてつい口元が緩む。
「どうして笑うの?」
「だって、龍平さんが心配してくれるなんてうれしくて」
「心配だよ。あの村上って人以外にも宇佐美さんのことそういう目でみてる奴たくさんいたし、自覚がないなら尚更心配」
「ええ? まさか。龍平さんがかっこよくて視線を集めてたんじゃないですか?」
「いいや、そうじゃないね。俺にはわかる」
「龍平さん意外と心配性なんですね。私は浮気なんてしませんよ、何年も龍平さんに片思い一筋だったんですから」
「浮気は心配なくても、襲われたりとか!」
「ふふふ、龍平さんったらおかしい。私は男ですよ、そんな心配ありませんって」
「ある!」
私は笑いをこらえながら龍平をみつめる。
愛おしくて、可愛くて、かっこよくてたまらない。
できればこのままキスをしたいところだが、白昼堂々オフィス街でそういうわけにはいかない。
代わりに想いをたっぷり込めた笑顔をうかべた。
「……えと、なに、その顔。……キスしたい」
「さあ、お仕事頑張ってきてください!」
龍平は聞いているのかいないのか、私の顔をじっとみつめて喉元を上下させている。
「龍平さん、仕事遅れますよ? 時間にルーズなのは……」
「わ、わかった行くよ、行くから!」
「今日は私のほうが早く帰れそうなので、夕食を用意して待っていますね。龍平さんの家で」
「早く帰るね!」

名残惜しい気持ちを抑えて、それ以上に名残惜しそうな龍平に手を振って見送る。
さあ、私も早く仕事を終わらせよう。
夕食は何にしようか。
新婚風に裸エプロンで出迎えてみようか、男の裸体でそれはあんまりだろうか。
ごはんにする、おふろにする、それともわたし? と聞いてみようか。

その夜。
帰ってきた龍平を玄関で出迎える。
私が彼にたずねた言葉は
『私にする? ベッドにいく? それともここで?』
少しだけ言い間違えていました。


ー END ー






最後まで読んでいただきましてありがとうございました!
こちら初めてのウェブ小説作品でしたが少しは楽しんでいただけましたでしょうか?
感想や、よかったと思うシーンなど教えていただけると今後の励みになります。(ダメ出しはやんわりとお願いします)
仙人は霞を食べて暮らしているそうですが、私は感想を糧に小説を書いております♡

最終話まで読んでくださったあなたにご多幸を!
またお会いしましょう! 
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みんなの感想(2件)

ほんわりさん

すっっっっっっごくおもしろかったです!
にやにやきゅんきゅんしながら、一気に読み進めてしまいました!!
宇佐美さんと龍平さんのすれ違うところは胸がきゅうううっと締めつけられて苦しかったです!
私が探してたドンピシャの作品でうれしかったです!!
これからも応援してます(;;)♡

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ホオズキ
2020.06.24 ホオズキ

昨日初めて見つけて気になったので読んでみました。
こちらの作品初投稿との事、完結お疲れ様&おめでとうございます!

最後まで一気見しちゃいました♪
宇佐美さんのクソ真面目なのに彼の事になるとぶっとんでる感じがとても可愛くて好きです!
文章も読みやすくてサクサク読めたし、2人のすれ違っちゃう部分とかウルウルしてしまいました。

これからの執筆活動も頑張ってください、応援してます♪

雨夜美月
2020.06.24 雨夜美月

はじめまして。
昨日見つけていただいて一気見だなんてありがとうございます!
宇佐美のぶっとんだところを好きだと言っていただけてうれしいです♡すれ違いの部分もうるうるしていただけて光栄です。
初めてのweb小説で伝えたいことが伝えられるか心配でしたが、素敵な感想をいただけて大変光栄です!
只今次回作を書き溜めているところなのですが、やる気が爆上がりです。

この作品を書いてよかったです、報われました(人*´∀`)。*゚+
これからもよろしくお願いします♪

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