【BL】元社長秘書ですが私を拾って下さい

雨夜美月

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4.ご奉仕させて下さい

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「おーい、宇佐美さん? タオル置いとくから、パジャマはある?」

シャワーを浴びている私に、脱衣所から龍平が声をかける。

「ありがとうございます、パジャマはありますのでご心配なく」
「うお、マジである。アンタ本当に住むとこ追い出されてきたんだな」

スーツケースから取り出して用意しておいた寝巻が龍平の目に入ったのだろう。
どうやら彼は、私がリストラで家賃が払えず借家を追い出されたと勘違いをしているようだ。

だがそんなことより裸でシャワーを浴びている自分の隣に、扉一枚を隔てて龍平がいるという現状の方に極度の緊張を強いられていた。

先に龍平がシャワーを浴びている間でさえ自分が変な気を起こしてしまわないようこらえるのに必死だった。

「ボディソープどれだかわかった?」
「は、い……っ?」
余計なことを考えていたせいで、返事が上ずってしまった。
「ねえ、聞こえてる?」
がらりと横の扉が開かれ、目の前に龍平の姿が現れる。
そして自分は両手で頭の泡を流している生まれたままの姿で――。
「うっわ、でか。つか何で勃ってんの?」
赤裸々な、かつ下半身だけ臨戦態勢に入った状態を晒して、私は愕然と泡だらけの頭を抱えて凍りつく。
「その青いシャンプーの入れ物に入ってるのボディソープだから。あ、あと終わったらちゃんと綺麗にして出ろよ」

何事もなかったかのようにドアを閉める龍平だったが、綺麗にしてというのはもちろん洗剤の泡のことではなく、つまり私が欲望の処理を済ませた後の浴室の清掃のことをいっているに違いなかった。

「…………っ」
言葉が出ない。

この下半身の状態は別に私に節操がないからとかそういうことではない。
一つ屋根の下で長年想い続けてきた相手とお泊りなんていう状況にこうなってしまっただけだ。

やりきれなさに思わず壁に頭をぶつけると、部屋に戻った龍平から家を壊すなと叱責が飛んでくる。
強く打ち付けたわけではない、軽く打ち付けただけだ。
こんな音が浴室から聞こえてしまうのなら、下半身に収まりをつけようと何かしたら聞こえてしまうではないか。



「早かったな、ちゃんと綺麗にしてきたか?」
「龍平さんの期待されているようなことはいたしておりません」
龍平は面白がるように口元をゆがめ、ソファー替わりにしたベッドに腰掛けたままこちらに視線を向けた。
「ふーん? 俺映画見るけどよかったら一緒に見る? あ、AVの方がいい?」
「結構です!」
挑発されているようでなんだか少し腹が立つ。
自制心を保とうと努力しているというのに当の本人は床に四つん這いになり、テレビ台の下で何やらDVDをあさっている。

私は龍平の引き締まった尻から大腿のラインに視線が釘付けになる。
そのような無防備な姿を見せられ私はどうしたらいいのか。
このまま背後からその身体を抱きしめたい。

だがまだ想いも伝えていない状態でそのような不埒なまねはできない。
それに下手なことをして家から追い出されては元も子もない。

「コレ俺のおすすめ」
そういって洋画のDVDを取り出した彼の視線が、私の股間あたりでぴたりと止まる。
「やっぱまだ勃ってんじゃん、すげぇ持久力。なんかエロいことでも考えてんの?」
いったん収まりかけたと思っていた下半身が、シルクのパジャマの裾を持ち上げてしまっている。

――あなたのことを考えているせいですよ。

とは言えない。
こんな状態で告白をするなんてまるで体が欲しいと言わんばかりではないか。

「すみません、すぐ収めますからどうかそっとしておいて下さい」
「そんなんで収まりつくの? ギンギンじゃん?」
「ぎん……とか、言わないでください!」
 龍平の整った顔立ちから卑猥な言葉が出てくるのはなんだか異常に羞恥心をあおられた。

「真面目な見た目してるくせに反応が初心すぎるだろ」
「な、からかわないで下さい」
 私は他に腰を下ろす場所がなく、力なくベッドを背に床に腰を下ろす。

「何なら掻きっこでもするか、はは」
口調からさすがにそれは冗談だろう。それに、私の知る限り龍平の相手は女性だけだ。

「いい加減にしないと、あなた襲われますよ? 私がゲイだったらどうするんです?」
これは放っておいて欲しいという彼に対する脅しだ。

同性の龍平が好きという点ではゲイだというのは嘘ではないが、学生のころは色恋とは縁遠く、就職してから想い人は龍平ただ一人だったことから、そういう経験は今まで一度もない。

それでも目の前でくつろぐ龍平の姿は魅力的で、恋愛の順序などかなぐり捨てて抱いてしまいたいという欲望でいっぱいだった。

「へえ、アンタそうなの?」
脅しに屈するどころか、龍平はどこか可笑しそうに口元を歪めて私を見下ろした。

実際には二人とも床に座っていたのだからほとんど目線は変わらないはずなのに、その威圧感はまるで頭上から見下ろされているようだった。

「じゃあさ、これ咥えてって言ったらしてくれたりする?」
脚の間を指さした龍平の指先から目が離せない。
膝を床についた龍平のスウェットを履いた足の間のわずかな膨らみ部分。

唾を飲み込むとごくりと大げさな音が部屋に響いてぎくりとした。

「するの、しないの?」

龍平は怠そうにベッドの上に腰かける。
ベッドに手をついて髪をかき上げる仕草が大人びていて、龍平は私の知らない顔をしていた。

「あの……」
「おいおいマジで考え込むなって」
私は龍平の足元に伏しそうになっていた身体を危うく静止する。
「って、おま、もしかして本当にやろうとしたのか?」
「させて下さい、なんでも致します!」
「おいおいおい、いらない、しなくていいから! 冗談! ごめん!」

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