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俺の話

外堀を埋めてじわじわと

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「ん……ぅん……」

頬に触れる何かが擽ったくて目を覚ますと……隣で寝ている都居くんが俺の頬をつついている。

「おはよう……寝かせておいてあげたかったけど……隣で眠る山川の寝顔見てたら幸せ過ぎてつついちゃった」

蕩ける様な笑顔を朝から向けられて、昨夜の出来事がフラッシュバックして布団の中に隠れた。

「お……おはよ……」

「もぉ!!山川可愛すぎる!!こんな幸せな朝初めてだよ!!学校……行きたく無いなぁ……」

布団を剥ぎ取られギュ~ッと抱き締められた。困るぐらいキスの雨が降ってくる。
酔ってなくてもキス魔だ。

「駄目だよ。学校はちゃんと行かないと……卒業出来なくなったら、俺のせいみたいで困る……」

しばらくたって……お腹が訴えを上げ、ようやく都居くんから解放された。

ーーーーーー

「ごめん、時間無いからお昼と晩御飯用意出来なかったけど、ちゃんと食べてね」

「大丈夫だって……子供じゃ無いんだから」

「菓子パン一個とか駄目だからね!!」

「……気をつける」

「山川……」

「ちゃんと食べるから!!ほら!!いってらっしゃい!!」

都居くんを押し出して、溜め息ついた。

都居くんは俺を甘やかし過ぎる。
お母さんか?

『ピンポーン』
インターフォンが鳴って、都居くんが忘れ物をしたのかと思ったら小包だった。

差出人は母さん……でも何故に都居くん宛?
俺の母さんからだけど、俺が開けていいものか迷って電話した。

「母さん?なんか小包届いた」

『もう届いたん?都居くんは?』

「都居くんは学校。何で都居くん宛なん?」

『この前、野菜とかいろいろ送ったやろ?都居くんからお礼の電話もらったんよ。もぉ~都居くん凄い良い子でびっくりしたんちゃ。声も良い声しとるしお母さん、年甲斐もなくドキドキしたわ』

都居くん……いつの間に。
母親が陥落されてる。

『都居くんみたいな出来た息子が欲しいわ~』

「それ、実の息子に言う?」

『ははっ!!太一には太一の良さがあるっちゃ、バカな子ほど可愛いもんやし』

「……フォローになっとらんし……」

『あんたの栄養管理もしてくれとるみたいやし……安心してあんたを任せられるわ……』

弾んでいた声が一転して、真剣な母の声。
母さん……ごめん。

都居くんと……そういう関係になった事は言い出せなかった。

『都居くんの声は顔も良いと思うんよ……今度写真も送りよな』

「……母さん」

真面目な雰囲気は何処へやら、はしゃいだ母の声に呆れながら、また今度と電話を切った。

こうやって女の人を落としてったんだな……。
都居くんのタラシめ。

ーーーーーー

『都居 礼雅様』

「とい れい……が?」

そういえば都居くんの名前知らなかった。
都居くんは俺の名前を知ってたのに……都居くんは都居くんで……あえて名前を聞こうとしてなかった。
不動産屋行って契約の書き換えの時にも書いてあっただろうが見てなかった。

あ!!もうこんな時間!!

お昼ちゃんと食べないと都居くんに怒られる。

冷蔵庫を開けて見るけど……俺には扱えなそうな調味料がいっぱいだった。

食べに行っちゃおうか……無駄遣いかな?
でも自分で作るより安いかも……。

着替えて外へ出ると牛丼屋に向かった。

……前も特別美味しいと思って食べてた訳じゃ無いけど、都居くんの料理で舌が肥えてしまった。

牛丼を惰性でかきこむとスーパーへ向かう。

予定していたバイトの面接も辞退の電話を入れたし、時間はあるので夕食を用意して待ってみようと思う。

都居くんみたいな料理は出来ないけどカレーぐらいなら……ルーあるし。

こ……恋人になるなら頼りきってちゃダメだもんな。ちゃんと二人で支え合う関係にならないと……俺はタヌキとか、ペットになりたい訳じゃ無いもん。

カレーの材料を買って家に帰ると早速キッチンに立つ。

ピーラー……無いし……。
プロは使わないのか?

悪戦苦闘しながら何とかジャガイモの皮が剥けた。人参、玉ねぎ、牛肉……箱に書いてある材料を用意してフライパンで炒めた。

鍋で煮てルーを入れて……出来た。

特に感動も無い。
誰が作っても同じ味だろう。

都居くんは……どんな反応をするだろうか?
レトルトのカレーなんてきっと食べないよな。

ソファーに横になって……クッションを抱き締めた。茶色と黒のストライプの楕円形クッションからは、都居くんの……匂い。

都居くん……早く帰って来ないかな……早く……会いたい。

ーーーーーー

カシャカシャと音が聞こえて目を開ける……寝ちゃってたのか。

「……都居くん……何してんの?」

「そのクッション抱いて寝てる姿が、尻尾を抱いて寝てるみたいでつい……」

「……消去して」

涎とか出て無かっただろうか?
慌てて口許を確認した。

「ねぇ、カレーの匂いがするんだけど……」

「……夕飯に……どうかと思って……」

「山川が作ってくれたの!?山川の手料理!!今食べたい!!」

都居くんはバタバタとキッチンに向かい鍋を見ている。

「いや、ルー入れただけだし……都居くんに出すのは恥ずかしいけど……」

作ってみたけど……プロ級の人に出すのはやっぱり恥ずかしいな。

「ねぇ山川、俺の料理ってお店で出てくるものみたいでしょ」

「?うん……プロだよね」

「お母さんは?プロじゃ無いよね?でもお母さんのごはんって美味しいよね……そう言う事だよ」

???
よく分かんないけど……喜んでくれてるから良いかな……。

「あ……ごはん炊いてない……」

ーーーーーー

「そういえば、母さんから都居くん宛に荷物が届いてる」

都居くんが箱を開けると、不格好な野菜達が入っている。

「またいっぱい送って来たなぁ……」

電話のあの様子から、張り切って詰めたんだろう……。

「都居くん、母さんに電話してたんだね……知らなかった」

「美味しい野菜を頂いたからね」

「家で食べる分だけの素人だからそんなに良い野菜じゃないよ?スーパーで売ってるのより人参とか人参臭いし……」

「うん。野菜本来の味が濃いよね……良い野菜だと思うよ」

野菜本来の味……なるほど。
そう言う言い回しをすれば良いのか。

「お母さんも山川のお母さんって感じだよね。電話口で凄いテンパっててさ……親子だよね」

「…………テンパん無いよ」

都居くんは嬉しそうに野菜を確認してる。
その写真を送ったらきっと母さんは喜ぶだろうけど……当分写メは止めておこう。

炊飯器がご飯の炊き上がりを告げた。
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