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藤雪たすく

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第二章〜フルージア学園〜

第十二話「親友は親友のまに」

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俺の腕には封魔の腕輪が禍々しい紫のオーラを発している。
そうだ、魔法を封じられた俺は赤子同然のステータス……パリスからすればホーンラビットを殺るより容易いことだろう。

「そう警戒するなよ。まあ体から先にってのもアリではあるが、抵抗しても無抵抗みたいなお前を犯っても楽しくはないだろう……弱いくせにすぐに突っかかってくるところがお前の魅力でもあるからな。まあ実際は弱くなかったんだけどな」

少しづつ距離を取ろうとした腰を抱き寄せられて、瞼に口づけを……は??こんなやつだったか!?こんな遊び慣れした男のような男だったか?

「お前の魔法は厄介だけど、同時にお前の魔力は触れるだけで心地いいんだ」

その笑顔に殺意やら嫌な雰囲気のものは感じない。
闇属性だから?魔族とはやはり相性がいいのか?

「この腕輪の呪い、魔……パリスなら解けるか?俺の魔力が好きならこんな物ない方がパリスだって嬉しいよな?」

「無理だな。呪いをかけるのは得意だが解呪なんてした事ない」

……使えない魔王だな。

「お前いま失礼な事を考えたろ」

「別に……魔王のくせにそんなもんかと思っただけだよ」

「ずっと死んだようなツラしてたけど……やっぱりお前はお前だな」

むにぃっと頬を引っ張られて……懐かしさが胸を満たした。

頬をつねる手を払いぎゅっとその体にしがみつくと、パリスの匂い……別れたあの頃よりもさらに背が伸びて逞しくなった気がするが、変わらない。パリスだ。
魔王がパリスに化けていたんじゃない、パリスが魔王だったんだ。
それは絶望であったが、今はそれに懐かしさと安心感を感じている。

「……お前に裏切られたって、俺は本当に辛かったし苦しかったし悲しかったんだ」

「俺は全然俺の気持ちに気づかないお前にずっとイライラしてたけどな……そんで今も……さっきまであんなに警戒してたくせにいきなり気を許しすぎだろ」

頭をこずかれるけれど、怒っている風ではない。いいのだろうか?今までみたいに甘えても……。
昔のままのやりとりに冷めきっていた心が体温を取り戻したような感覚が広がっていく。

「なぁ……本当に守ってくれるのか?魔法が使えない俺は……多分ホーンラビットにも殺されるぞ?」

「だろうな。魔法禁止で実技特訓させたらスライム相手に死にそうになってたもんな。スライムに力負けしてる奴は初めて見た」

嫌な思い出を……スライムに口の中に侵入されて、あの時は本当に死ぬかと思った。
あれから多少成長はしたが、魔法以外はゴミステータスなことに変わりないのだ。

「いつの話だよ。その後魔法なしでもスライムに勝てるぐらいには剣も使えるようになっただろ」

「一年かけてな……」

疲れたような呆れたような……とても残念そうに吐き出された。
……余程手のかかる生徒だったのだろうな。

「そういえば、パリスの部屋ってどの辺?何かあった時のために知っときたいんだけど。同じ一年だよな?なら同じ棟だよな?」

「いや、ここの学生だと認識するように意識操作の魔法をかけてるだけで実際入学の手続きやらはしてないから部屋は無いな。別に外でも困らないが……この部屋に住むというのもいいな」

「ブラックボックス」

取り出したブラックボックスは俺が個室として作った物。
パリスに信頼は寄せているが、俺を狙う魔王様を信用はしていない。

人一人分ぐらいの大きさの黒い箱だが中に入ると、風呂、トイレを完備した1LDK広々空間、俺のくつろぎスペースだ。ブリ☆スクの世界にはお風呂もトイレもちゃんとあるんだが、何せ辺境の村の田舎暮らし、便利な世界の記憶のある俺が耐えられるわけもなく……ブラックボックスの力に気がついてから、少しづつ快適な個室を作り続けてきた完成形である。
ブラックボックスなので床も壁も天井も真っ黒で心が沈むのが難点ではあるが。

「これは……?」

「この部屋はパリスが使っていいよ。俺はこれがあるから」

パリスには、同じ冒険者になれたら俺の能力は明かすつもりではいたので、もう見せてもいいだろう。
どうせ相手が誰でも抵抗なんてできない。俺を殺すにしても犯すにしても、パリスならまだ手加減してくれる気が……する。好感度ハート10を信じて明かした手の内。

「だから、これと言われてもだな……これはさっきと同じ箱か?一体どういういものなんだ?」

「俺の魔法以外の特殊能力『ブラックボックス』だよ。俺が想像した通りの機能を持った箱が作れるんだ」

わかりやすいようにブラックボックスを二つテーブルの上に作り出し、パリスに箱を開けてもらう。一つの箱の中にはシュガーポットとミルク、カップとポット。もう一つの箱の中身はケーキが二つ。

「これは……」

「とりあえずお茶にしよう」

椅子に座るように促しながら、中身を取り出しポットの中身をカップへ注ぐと湯気と共にほろ苦く香ばしい香りが立ち昇る。

「コーヒーだよ。砂糖とミルクは好きなように入れてくれ」

余裕のそぶりで優雅に香りを楽しみ格好をつけて見せるが、このブラックボックスの機能を使いこなすのにはかなり苦労したものだと思い出す。
全ては俺の想像力に依存した能力だし、出来ることと出来ないことの境も分からず試行錯誤したものだ。
布団や食べ物を出そうとしても『ブラックボックス』というカタチからは外れられないらしく、布団は寝てみるとふかふかしているのだがやはり黒い四角で、りんごもパンも齧ってみると食感や味は違えど見た目は全て黒い塊だった。
ブラックボックスLv.MAXになりついにこの能力は最終形態を迎えた。
完璧な力、ブラックボックス段ボール。
ネットショッピングで購入した商品が届くイメージで欲しい物を自由に作り出すことができるようになったのだ……神への冒涜、悪魔の力だ騒がれそうで、悪目立ちしたく無いから他人には見せたことはないけれど。

中身の減らないポットを不思議そうに眺めるパリスを見ながら、頑張った自分への自画自賛に浸りながらコーヒーを楽しんだ。
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