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幼き日

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「そうですか……」

勝手に話して……と、アマギを責めるかな?
そう予想していたけれどナディユさんは静かにそう微笑んだだけだった。

「勝手にナディユさんの過去を話題にしていた事を怒ったりしてないですか?」

「リートの事は進んで話したいとは思いませんが、宇宙船が話したと言うことは克真さんが私の事を知りたいと思ってくれたと言うことですよね?私に興味を持ってくれることは嬉しい事です」

畑を耕しながら随分と心を落ち着けて来た……いやきっと色々な感情を押し殺して来たんだろう。

「俺はナディユさんの事は何でも知りたいと思ってますよ?」

「……慰めでも嬉しいです」

何故そこで慰めと受け取るのか。本当にナディユさんの事をもっと知りたいと思っているし、少しでもその心に寄り添わせて欲しいと願っている。

「なんとしても慰めたいと思うぐらいに好きなんですよ」

人当たり良くて、状況は隠さず話してくれるけど……そこにナディユさんの本当の気持ちは語られてないように感じる。
ナディユさんは俺の【好き】を信じてくれないし、ナディユさんの【好き】は何処か余所余所しくて、お互いの【好き】という言葉が空中戦をしている。

「ありがとうございます。克真さん……今日の仕事はもう終わりにして、ゆっくり休みましょうか」

手を握られて誘導される目の前には、もうすでに優秀な宇宙船が入り口を開いて待っていた。

『夕飯はガチャではなく私が選んでご用意しておきますので、お二人はゆっくりとお湯に浸かっていらしてください』

うん……優秀な宇宙船はかなり気を遣ってくれた。
気になるあの子とひょんな事から嬉し恥ずかし混浴ドキドキ……まあ、そんなこんなでナディユさんと一緒にお風呂入りたいなぁと確かに思っていたけど……それは今では無いだろ。

ナディユさんも気にしてない風を装ってはいるが、元気無さそうだし……正直気まずい。

ナディユさんも当然断るだろうと思っていたけど……。

「なら夕飯は任せる。着替えを用意しておいてくれ」

そうアマギに指示を出して俺の手を握り風呂場へ歩き出した。

ーーーーーー

カポーン……と音が聞こえてきそうな湯煙の中で、二人でお互い真っ直ぐに外の景色を眺めていた。

太陽みたいに光を与える星が山の向こうに沈んでいく。

何故いまなんだ。

こんな気まずい空気でなければ、穴が開くほどナディユさんの美しい体を堪能していたのに、この空気のせいで頭を洗う時も身体を洗う時も視線を向けることは出来なかった……それは現在進行形。

どうしようかな……そろそろのぼせそうだし……。

「俺は先に「克真さん、私の母親は天才魔機技師として世界に知られていた元男性でした」

先に上がると言いかけたが……突然始まったナディユさんの告白に思わずナディユさんの方へ振り向いた。

夕日に照らされたナディユさんは横顔はとても綺麗だったけれど……こちらを見ていてくれていない事に少し寂しさを覚えながら続きの言葉を待った。

「父は王族の血さえ残せれば国は生き続けると、様々な才能を持つ者を集め、女体化の施術を行って自分の妻としました」

王族だけ残っても民がいなければ国としてはあり続けられないだろうに……ナディユさんのお父さんだけど愚かな王らしい王だったんだな。

「私は天才魔機技師として存在しなければならない……そうでなければ母が命を掛けた意味が無意味なものになると、そんな気持ちで魔機を造りはじめました。母を超える威力を持った魔機に父は大層喜んでくれました……が、私の造り出した魔機達はたくさんの人間の命を奪いました」

アマギの言っていた『戦争』の事か。

「シェーニエ国は大国で……普通に考えてタリント国が戦争を仕掛けるなんて無謀としか言えない……それなのに戦争を始めたのは、私の魔機の力に勝利を見出してしまったから……戦争が起こった事自体が私の責任がなのです」

「……戦争の中では仕方がないと思います。ナディユさんだけが悪いわけでは……魔機を造ったのはナディユさんでも、それを戦争に使おうと思ったのは王様とか別の人間で……」

なんて月並みで陳腐な言葉だろう。
こんな言葉で当然ナディユさんを救える訳もなく、その視線は真っ直ぐ外に向けられたまま。

「母を超える力を……そう思って頑張っていました。しかし恐らく母は天才魔機技師として知られていましたがその実力の半分も誰にも見せていなかったのかもしれません。母は私に魔機の作り方は教えてくれませんでした。母から教えられたのは『魔機を扱う時の注意』と『魔機との関わり方』だけでしたから……」

褒められたくて、認められたくて魔機作りに躍起になっていた幼い頃のナディユさん……褒められた事がないと言った時の寂しそうな顔が、その横顔に重なった。
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