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アイドルと王子様の関係

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当然そんな素敵なスキルが都合良く発動するわけはなく……自力で頭の中に相関図を作り上げていく。

ナディユさんの魔機で戦争して、その戦争で両親を亡くした父親の盟友である将軍の息子と婚約していて、その戦争での敵国出身の戦争孤児アイドルと文通……複雑だ。

「婚約者に恋愛感情は無かったって言ってたのは本当で、本当に恋愛感情を抱いていたのはそのアイドル?う~ん……」

じゃあ俺が嫉妬する対象はそのアイドルか?
困ったな……俺は音楽の成績は良くなかったし、リズム感が無いからダンスも踊れない。

『表情から分析した結果が正しければ、マスターがカノー様に抱いていたのは恋ではなく『責任感』でしょう。リートに抱いていたのは『懺悔』でした』

俺の心を読み取った様にアマギがフォローを入れてくれた。そんな気遣いが出来るのか。

『リートという存在を知ったマスターはリートに謝罪の手紙を送り、リートは戦争で多くの命を失ったのはお互い様、魔機を造った人間よりも魔機を扱う人間に問題があったとマスターを責めることはありませんでした。それでもマスターは謝罪し続け……いつの間にか文通を交わす間柄になりました』

「へえ……それを聞くと嫌な思い出ばかりって感じでも無いのにな……」

ナディユさんが先程見せた表情には結びつかない。

『マスターがリートの事で心を乱しているのは……女体化の事を思い出したのでしょう』

「ん?リートも女体化?」

『はい。リートはハルスと恋仲でした……マスターも祝福していたのですが、タリント国は各方面で優秀な遺伝子を遺そうとしていましたからリートにも女体化の案が持ちかけられたのです。マスターはリスクを伝えて止めようとしたのですが……ハルスの子を遺したいとリートは強く望み……』

「女体化して命と引き換えに子供を産んだのか……」

だから女体化にあんなに反対してたんだな。
少しナディユさんの事がわかり始めた……女体化しても良いなんて簡単に言っちゃって悪い事したな……後悔をお茶で流し込んだ。

『……いえ。リートは結果、子供は産めませんでした。女体化の為の入院中、嫉妬したファンに誘拐され陵辱の果てに殺されてしまいました。ハルスもそれを悔やんで自殺しました』

思わず口に含んだお茶を全て吹き出した。
アマギよ……淡々と重い、重すぎる事件をぶっこまないでくれ。

『それからですね。マスターが取り憑かれた様に同性で子供を成すための魔機造りに没頭し始めたのは』

確かに俺はナディユさんが好きだったアイドルの情報を知りたいと望んだ、アマギはそれを読み取って情報を情報として隠さず教えてくれたのだろうが……そんな衝撃展開なんて想像してなかった。

ちょっと魔機は魔機か……と、思ってしまった。

ナディユさん……いや、重いよ。

「婚約者の事は時間が忘れさせてくれるその時まで側にくっついてて、そこを攻めようと思ってたのに無理じゃん……そんな衝撃的な存在が心を占めてんなら付け入る隙なんて初めから無かったんじゃん」

アマギから聞いたナディユさんの過去に、俺はお手上げだと寝転んで空を仰いだ。

側で傷を癒やしてやろうなんて……到底俺には癒やしきれる傷の大きさじゃ無かった。
絆創膏位の俺の力じゃ何とか出来るレベルじゃない。

『そうでしょうか?』

「そうだろ?無理、俺は凡人だもん。せめて俺が癒し系だったら良かったんだろうが、俺にそんなスキルは無い」

残念な事に包容力も心を温める様な笑顔も持ち合わせていない。

『……克真様はリートに似ています』

「そうなの?アイドルなのに顔で売ってたんじゃないのか」

『顔が……というよりも雰囲気が似ています。背格好や髪や目の色など……お話をしてみると全然違う雰囲気ですが』

そこはお世辞でも顔が似ていると言うところ。

『ですが……絶望の淵、宇宙を漂流しながら死を決意していたマスターに生きるという選択を与えてくれたのは紛れもない事実……私は克真様には大変感謝をしております。ただの魔機だった私は命令されなければ動くことは出来ず、マスターが弱っていく姿をただ記録するしか出来ませんでした』

典型的な日本人の特徴を持った俺で良いなら日本人だったら誰でもナディユさんを救えたな。
その割に俺の誘いに全く乗ってこないのは、リートの代わり一緒に子作りしようと言ったが、生活してみると全く違ってその気も無くなったというのが現状だろうな……納得。

「俺の功績じゃ無いような気もするけど、役に立ったならまあ良いか……」

『マスターは克真様の為に「克真様の望みを叶える為に自ら動く」という命令を与えてくれました……おかげで私は命令されなくてもマスターを守る事が出来る。克真様が……マスターの幸せを願ってくれているから……』

「うん?よくわかんないけど……嬉しそうな声も出せるんだな」

ずっと単調だったアマギの声に感情が籠もっていた様な気がした。優秀な魔機は学習が早いな……いや……。

「アマギは本当にナディユさんの事が好きなんだな」

アマギはずっと自らの意思でナディユさんの力になりたいと願っていたのだろう。思考する事を許されたのが本当に嬉しいんだな。

『私が……マスターを……ですか?』

「はははっ!!似た者同士!!ナディユさんと同じ様な反応!!……あ、ナディユさん戻ってきた。もう気持ちが落ち着いたのかな?」

ペットが飼い主に似るように、魔機も造り主に似るのだろうか?ナディユさんの魔力を元に作られているからか、声も似ている。

ちょっと呆けたアマギの声に重かった空気が少し軽くなったところで、ナディユさんがこちらへ歩いてくる姿をみつけた。

『好き……これが好き?感情……私に?私はただの魔機で……』

アマギはまだ何かを言っていたが、俺に語り掛けているようでは無いので、歩いてくるナディユさんへと駆け寄った。

リートの事は勝手に知られたく無さそうな反応だったので努めて笑顔だ。

3区画分の畑を一人で耕した後には見えないぐらい、泥にも汗にも塗れて顔に忘れていかれていたタオルを押し当てた。

「お疲れさまです。この畑に作物が実る光景……楽しみですね」

「……はい!!その作物で作った料理を克真さんが笑顔で食べてくれるところを想像すると疲れも全て吹き飛びます」

大分先まで飛躍した想像を嬉しそうに語ってくれるけれど、俺が気を遣わないように取り繕った様な笑顔に胸が締め付けられる……平常心……平常心。

せめて俺が……ちゃんとリートに似ていたら……余所行きの笑顔では無い笑顔が……。

「……克真さん?」

「はい。どうしました?」

無意識にナディユさんの頬を包み込んでいた手を何事も無かったかのように振る舞いながら離した……が、その手は強く握られて俺の元へは帰ってこなかった。

「どうしましたって……それはこちらの台詞です。一人にしたことを怒っていらっしゃるのですか?」

「怒ってなんてないです……」

「ではなんで……宇宙船に何か余計なことを……」

『リートの話を致しました』

ア・マ・ギめ~……そうだよな、結局魔機だもんな。主人であるナディユさんに聞かれたら嘘はつけないよな……。

過去のトラウマを勝手に知ってしまった事は隠しておこうとした努力は一瞬で砕かれた。
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