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異星にも異世界にもアイドルはいるらしい
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大きく伸びをすると腰が痛気持ち良い。
中途半端な体勢で凝り固まっていた筋肉が伸びていく。
アマギが整地した広大な土地に畑として一区画の範囲を決めて、鍬で自分が解してきた土の跡を振り返ってみた。区画の4分の1程進んできただろうか。
アマギにそのまま耕して貰えば良いじゃんと思うのだが……ナディユさんからキラキラした目で鍬を渡されて、やる気満々な姿にお断りは出来なかった。
何やらの効果のあるチートな魔機鍬とかならともかく、どノーマルな鍬は土だけでなく俺の腰を砕いていく……が、区画の逆端から耕し始めたナディユさんはさすがと言うか……楽しそうな余裕な顔でもう半分まで侵食してきている。俺が8分の3に到達する前に合流しそうだ。
鍬に顎を乗せて眺めていると、鼻歌交じりに実に楽しそうである。
ナディユさんの国の歌か……綺麗なメロディーだな。
『シェーニエ国の隣国、タリント国の二人組アイドル【メルベルジュ】の【血の誓い】という曲です』
ナディユさんの鼻歌にゆっくり耳を傾けているとアマギが丁寧に教えてくれた。ゆっくりとした穏やかなメロディーのわりに物騒な曲名だった。
しかし……ナディユさんもアイドルの曲を聞くのか。俺も推し活まではしなかったがお気に入りのアイドルならいたな。
バーチャルアイドルとして動画配信していた莉夢人(リムト)ちゃん……歌の上手さよりトークの上手さで登録者を増やしていて、これからもっともっと有名になっていくんだろうなと見守っていたけれど……もう見守ることすら出来ないのが残念だ。
「疲れてしまいました?後は私が耕しておくので克真さんは休んでいてください」
軽くホームシックを覚えかけたところで、目の前にナディユさんの笑顔があった。
郷愁に浸っているうちにナディユさんは残りの土を耕し終えてしまったらしい。
「……殆どナディユさんにやらせてしまいましたね。すみません」
「私は楽しんでいるのでお気になさらないでください。むしろつきあわせてしまって申し訳ありません」
ナディユさんが空に浮かぶアマギの本体に視線を向けると、フヨフヨと近づいてきたアマギから光が降り注がれて……光が止むと自分はレジャーシートの上に立っている。
レジャーシートの上にはお茶菓子っぽい物とお茶のセットも置かれていて、ナディユさんに促されておやつタイムに突入した。
「急ぐ理由もありませんのでゆっくり開拓しましょう」
「そうですね」
食料事情も逼迫していないし急ぐ理由は確かにない。ただなんの役にも立てて無いのが心苦しいくらい……それで良いとは言って貰えてるけれど、少しぐらいは……ね、役に立ちたいじゃん。
隣でお茶を啜るナディユさんには全く非難の色は見えないけど、俺としては少しぐらいは頼られたいというわずかばかりの承認欲求を満たしたいところだ。
「この区画は麦ですかね。その隣には芋を植えて……今から収穫が楽しみですね」
まだ植えても無いのに、本当に楽しそうである。
「気が早いですね。でも……この畑が黄金色に染まるところを想像したら確かにわくわくしますね」
金色に輝く穂の中を歩くのは某有名アニメのワンシーンのごっこが出来るな。
「そういえば、ナディユさんもアイドルの曲とか聴くんですね。『血の誓い』でしたっけ?ちょっと親近感。王族は格式高いクラシックとかばかり聴いているのかと思いました……」
他愛無い会話のつもりだったのだが……見上げたナディユさんの表情を見て、言葉に詰まってしまった。
婚約者の話をした時よりも……ずっとずっと……悲しみと怒りを宿した目……。
「どうして……ああ……宇宙船の記録ですか……そうですね。好きな……大好きな曲だったんでつい……」
歯切れの悪い自問自答と伏せられた視線。
どういう逆鱗に触れてしまったのだろうか……ナディユさんは黙り込んでしまった。取り繕った笑顔さえ、その顔には無かった。
「あの……ナディユさん……「私はもう少し耕してきます。克真さんはゆっくり休んでいてくださいね」
言外に一人にさせてくれと告げられて、止める事も出来ず鍬を持って離れていくナディユさんの背中を見送った。
「……アマギ」
『はい。どんなご用でしょうか?』
アマギの声に悪びれた様子は当然ない。俺がナディユさんの鼻歌に聞き惚れていたから、その曲の情報をくれただけなのだから。
「さっき教えてくれた二人組のアイドルってナディユさんにとってあんまり良い思い出じゃない?」
楽しそうに鼻歌を歌っていたから、良い思い出のある方だと勝手に思い込んでいた。
『そうですね……良いか悪いかは私には判断が難しいです』
そうか。こうして会話を交わせているけど、アマギは魔機だ。しかも造られたばかりの……AIだって学習する前は赤ん坊の様なものだろう。
魔機として、記録として残していただけの事を心情を加えて説明しろっていうのはまだ難しいか。
『【メルベルジュ】のリートは元々シェーニエ国とタリント国の間で起きた戦争での孤児でした。そこからハルスと出会ってトップアイドルまで上り詰めたのです。その戦争の主戦力となったのがマスターの造った魔機でした』
「え……と……」
先日ナディユさんは自分の造った魔機が何人の人の命を奪ってきたのかと口にしていた事を思い出した。あの時……あの苦しそうな表情はそのアイドルの人を思い浮かべていた?
「そのアイドルの何とかさんがナディユさんの婚約者だったり?」
『いいえ。リートは文通相手、婚約者のカノー様は同じ戦争でご両親を亡くされてはいますが、シェーニエ国の将軍のご子息です。国王様の盟友だったお方で、将軍亡き後は国王様がカノー様を保護なされて、マスターの嫁にとお決めになられました』
なかなか小難しい……そろそろ相関図が欲しくなってきた。
チートスキル【相関図】とか発動しないかな。
中途半端な体勢で凝り固まっていた筋肉が伸びていく。
アマギが整地した広大な土地に畑として一区画の範囲を決めて、鍬で自分が解してきた土の跡を振り返ってみた。区画の4分の1程進んできただろうか。
アマギにそのまま耕して貰えば良いじゃんと思うのだが……ナディユさんからキラキラした目で鍬を渡されて、やる気満々な姿にお断りは出来なかった。
何やらの効果のあるチートな魔機鍬とかならともかく、どノーマルな鍬は土だけでなく俺の腰を砕いていく……が、区画の逆端から耕し始めたナディユさんはさすがと言うか……楽しそうな余裕な顔でもう半分まで侵食してきている。俺が8分の3に到達する前に合流しそうだ。
鍬に顎を乗せて眺めていると、鼻歌交じりに実に楽しそうである。
ナディユさんの国の歌か……綺麗なメロディーだな。
『シェーニエ国の隣国、タリント国の二人組アイドル【メルベルジュ】の【血の誓い】という曲です』
ナディユさんの鼻歌にゆっくり耳を傾けているとアマギが丁寧に教えてくれた。ゆっくりとした穏やかなメロディーのわりに物騒な曲名だった。
しかし……ナディユさんもアイドルの曲を聞くのか。俺も推し活まではしなかったがお気に入りのアイドルならいたな。
バーチャルアイドルとして動画配信していた莉夢人(リムト)ちゃん……歌の上手さよりトークの上手さで登録者を増やしていて、これからもっともっと有名になっていくんだろうなと見守っていたけれど……もう見守ることすら出来ないのが残念だ。
「疲れてしまいました?後は私が耕しておくので克真さんは休んでいてください」
軽くホームシックを覚えかけたところで、目の前にナディユさんの笑顔があった。
郷愁に浸っているうちにナディユさんは残りの土を耕し終えてしまったらしい。
「……殆どナディユさんにやらせてしまいましたね。すみません」
「私は楽しんでいるのでお気になさらないでください。むしろつきあわせてしまって申し訳ありません」
ナディユさんが空に浮かぶアマギの本体に視線を向けると、フヨフヨと近づいてきたアマギから光が降り注がれて……光が止むと自分はレジャーシートの上に立っている。
レジャーシートの上にはお茶菓子っぽい物とお茶のセットも置かれていて、ナディユさんに促されておやつタイムに突入した。
「急ぐ理由もありませんのでゆっくり開拓しましょう」
「そうですね」
食料事情も逼迫していないし急ぐ理由は確かにない。ただなんの役にも立てて無いのが心苦しいくらい……それで良いとは言って貰えてるけれど、少しぐらいは……ね、役に立ちたいじゃん。
隣でお茶を啜るナディユさんには全く非難の色は見えないけど、俺としては少しぐらいは頼られたいというわずかばかりの承認欲求を満たしたいところだ。
「この区画は麦ですかね。その隣には芋を植えて……今から収穫が楽しみですね」
まだ植えても無いのに、本当に楽しそうである。
「気が早いですね。でも……この畑が黄金色に染まるところを想像したら確かにわくわくしますね」
金色に輝く穂の中を歩くのは某有名アニメのワンシーンのごっこが出来るな。
「そういえば、ナディユさんもアイドルの曲とか聴くんですね。『血の誓い』でしたっけ?ちょっと親近感。王族は格式高いクラシックとかばかり聴いているのかと思いました……」
他愛無い会話のつもりだったのだが……見上げたナディユさんの表情を見て、言葉に詰まってしまった。
婚約者の話をした時よりも……ずっとずっと……悲しみと怒りを宿した目……。
「どうして……ああ……宇宙船の記録ですか……そうですね。好きな……大好きな曲だったんでつい……」
歯切れの悪い自問自答と伏せられた視線。
どういう逆鱗に触れてしまったのだろうか……ナディユさんは黙り込んでしまった。取り繕った笑顔さえ、その顔には無かった。
「あの……ナディユさん……「私はもう少し耕してきます。克真さんはゆっくり休んでいてくださいね」
言外に一人にさせてくれと告げられて、止める事も出来ず鍬を持って離れていくナディユさんの背中を見送った。
「……アマギ」
『はい。どんなご用でしょうか?』
アマギの声に悪びれた様子は当然ない。俺がナディユさんの鼻歌に聞き惚れていたから、その曲の情報をくれただけなのだから。
「さっき教えてくれた二人組のアイドルってナディユさんにとってあんまり良い思い出じゃない?」
楽しそうに鼻歌を歌っていたから、良い思い出のある方だと勝手に思い込んでいた。
『そうですね……良いか悪いかは私には判断が難しいです』
そうか。こうして会話を交わせているけど、アマギは魔機だ。しかも造られたばかりの……AIだって学習する前は赤ん坊の様なものだろう。
魔機として、記録として残していただけの事を心情を加えて説明しろっていうのはまだ難しいか。
『【メルベルジュ】のリートは元々シェーニエ国とタリント国の間で起きた戦争での孤児でした。そこからハルスと出会ってトップアイドルまで上り詰めたのです。その戦争の主戦力となったのがマスターの造った魔機でした』
「え……と……」
先日ナディユさんは自分の造った魔機が何人の人の命を奪ってきたのかと口にしていた事を思い出した。あの時……あの苦しそうな表情はそのアイドルの人を思い浮かべていた?
「そのアイドルの何とかさんがナディユさんの婚約者だったり?」
『いいえ。リートは文通相手、婚約者のカノー様は同じ戦争でご両親を亡くされてはいますが、シェーニエ国の将軍のご子息です。国王様の盟友だったお方で、将軍亡き後は国王様がカノー様を保護なされて、マスターの嫁にとお決めになられました』
なかなか小難しい……そろそろ相関図が欲しくなってきた。
チートスキル【相関図】とか発動しないかな。
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