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未練の卵

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片付けは炊飯器に任せて、食後のコーヒーを優雅に楽しんでいる。ナディユさんにお願いすると、ミルクと砂糖も貰えた。

「午後はどうしますか?また探索?今でこの星のどれぐらいを進んだんでしょうね?」

探索が進んでいるのかも分からない。同じところをぐるぐるしてましたと言われても俺には判断出来ないぐらい同じ様な景色だ。

「マップの確認をしますか?」

ナディユさんが空中でピアノを弾くような指の動きをすると、目の前にゲーム画面のマップみたいな物が現れた。その殆どは真っ黒だけど……。

「深い緑は森林、薄い緑は草原、黄土色は砂地、濃い青は海で、水色は川です。通った場所はマッピング出来ていますので、今はこんな感じですね」

ほぼ森。
海に行った以外はほぼ森の中にいたからな。

「全体から言うと……爪の先位ですね……」

「この星の表面積が直径から単純に割り出したのが80億km²今日までで1200km²進みました」

全くピンと来ないが、途方も無い事は分かる。一生かけてもくまなくマッピングするのは無理かもしれない。

「人間を探すにしても歩いていては探しきれないんじゃ……人間を探すより、安全そうな場所で生活の基盤を整えた方が良いのでは?子孫を残すんですよね……」

まず無理だろうが、俺とナディユさんを親に子孫を残していくのなら、定住して家を作り、人数が増えても安定した食料の供給が出来るように農業も初めるのが文明の発展の流れだろう。

婚約者にこれだけやれたんだと見せつけるだけのや自己満なだけなら3代、4代先の事など考えなくても良いんだろうがな。

「きっと克馬さんの子供なら可愛い子が産まれてくるでしょうね」

ナディユさんに似た方が可愛い子になるだろうが……にこにこと微笑む笑顔からはナディユさんの本気度は読めない。

「子孫の事は置いておいても……今日は少し休みませんか?少し考えたい事もあるので……」

「……そうですよね。ずっと歩き続けていましたからね……時間はたくさんあるので午後は休みましょうか」

ーーーーーー

ナディユさんに借りた卵をベッドの上に置いて、寝転んで眺めている。

ハンドボールとソフトボールの間ぐらいの大きさの卵。

エロ漫画にありがちな卵産み付け。
これを体内に取り込んで産むのは、口からにしても下からにしてもなかなか辛いだろうと思ったけれど、体内に取り込む必要は無いらしい。
性行為すら必要無かった。

卵に二人の情報を登録して一日一回、卵にお互いの魔力を流し込むだけで良いらしい。その『だけ』がかなり難易度高いけど……魔力を流し込むって何だ?

動物実験では成功。
人間でのを実験は失敗。

この卵には、既にナディユさんと婚約者の情報が登録されているのでもう使えない……何で魔力を注ぎ込むだけなのに失敗したんだろうな。ナディユさんは『愛』が足りなかったというけれど……魔力を流し込むのに愛が必要なのか?

卵を眺めてみるけれど、魔機なんて扱えない俺に何が分かるでもなく、ただ眺めているだけで……少し悪い心が生まれたのを追い出しては眺める。

使えない卵を……大切に持っているのは…………。


「克馬さん?」

「はい……何でしょう?」

つい両手で握り潰してしまいそうになったのがバレたのか、ナディユさんに声を掛けられた。
卵に八つ当たりなんて馬鹿らしいと、起き上がってナディユさんの手に卵を戻した。

「見ていたら何か分かるかと思いましたが、やはり俺には何もわかりませんでした。大切な物を借してくれてありがとうございます」

「とても興味深そうに眺められてましたね。嬉しいです」

「嬉しい……ですか?」

喜びポイントあったかな?ただ卵を眺めながら姿の見えない相手にへの独占欲と戦っていただけだが。

「この魔機は皆に馬鹿にされていましたから、真剣に考えてくれていた姿……私と子孫を残す事を前向きに考えてくれているのですよね?その気持ちだけでもとても嬉しい」

気持ちだけで十分なのか?

「その卵の登録の書き換えや、新しい卵は無いのでしょうか?」

「未登録の卵は星に置いてきてしまいましたから……難しい材料ではないので、この星で材料を集めて作るつもりです」

登録の上書きは無理?

「へえ、イチからこの星で……凄いですね。その卵が急に作動しだす可能性とかまだあるんですか?その卵が急に……孵化したり……」

「自分で作った物とはいえ、まだ未知数な部分も多いので絶対は無いですね……」

もし……もしもその卵が孵ったら?
もしその産まれた子が婚約者にそっくりだったら?
この星のアダムとイヴになるのはナディユさんと俺では無く……。

座っていたナディユさんが急に立ち上がり……体が引かれて俺の体はナディユさんの腕の中にいた。

「ナディユさん……どうし「そんなに悩まないでください。本当に無理強いをさせる気はありません」

しっかりと密着した体だと、スマホなんて見なくてもナディユさんの心臓の動きがよくわかる。

「ナディユさん……凄いドキドキしてますね」

ギュッと俺からもしがみつくと、音はさらに大きくなる。

「……はい。とてもドキドキしています」

ナディユさんの温もりは本当に温かくて優しい。

心なんてここに無くても温かい。
本当に……数値なんて、なんてあてにならないものだろうか。
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