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恋心、親心
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拙いながらに調理出来ると思っていた包丁だが……これは怖い……少し間違えれば指が切断されそうなビジュアルの包丁は時折ヴォォン……と音を奏でる。
光っているだけで形は包丁なのだが……恐る恐る刃の腹部分や背の部分で馬肉に触れてみたけれど、それだけでは焼かれたりする事も切れる事も無さそうなので、通常の包丁と使い方は変わらなそうか?
戸惑う俺を尻目に、ナディユさんは隣で馬肉を薄くスライスしていく。真似てやってみるが……薄く切ろうとすると途中で切れて、切れないように意識をすると厚切りになってしまう。スライスというよりも切り落とし……。
「ナディユさん上手ですね。料理やった事無いなんて自信無さそうに言うから油断してました」
俺が先導してやるつもりだったんどけど、俺の見せ場は無さそうだ。
「いろんな動物を解剖したりもしていたので刃物の扱いには慣れているだけですよ」
「解剖ですか……魔機を作るのに解剖も必要なんですか?」
理科の授業で蛙の解剖図の写真を見た事を思い出して、少し食欲が減退した。
「魔法はイメージを明確に持つ事が重要ですから。自動調理鍋で解体するのも1度自分でやるか、やっているのを見ておかないと魔導式が組めません」
「魔法?魔機なのに魔法?」
玉ねぎをくし切りに……くし切りって何だったっけ?
翻訳機能が優秀過ぎて専門用語がわからない。ピーマンにしよう。細切りだから細く切れば良いんだろう。
「『魔機を作る魔法』ですから」
「へえ……じゃあ他の魔法もあるんですか?手から炎出したり水を出したりとかも?」
……なるほど、くし切りとはあれがそうか。
ナディユさんが切っている玉ねぎを盗み見ながら、また一つ賢くなった。
玉ねぎを切りながら、これで涙をぽろりしてくれたらドキッとするんだが……その兆候は残念ながら無いな。
「やれない事は無いでしょうが、魔機があるのにわざわざやろうと思わないですからね。魔導式は分かっているので練習すれば……恐らく」
「ナディユさんが口にしていたあれですか?あれを覚えれば俺でも魔法が使えるんですかね?えっと……リルラレロ?うわっ!!」
なんとなくで真似てみようと思ったけど、ナディユさんが発していた様な音は出ない。その上ニンジンの皮と共に自分の皮まで剥きそうになってニンジンを奪われた。
「気を付けてください、これは私がやりますね。この星は魔素が潤沢なので、克馬さんも体内に魔素が蓄積されれば使えるかも知れないですね。その魔素をどう使えるのかは素質によりますけど」
この世界で暮らしていたら俺も魔法使いへの道が切り拓かれるかもって……なかなか夢のある話だよな。やっぱり魔改造されたスマホビームも良いが、やはり自分で魔法を使うってのは一味違う感動だよ。
ーーーーーー
「そこ焦げてますよ」
華麗な包丁裁きを見せてくれたナディユさんだったが何故か炒めるのは劇的に下手だった。全体的に混ぜれない。
フライパンの右側に集中し過ぎて左側が焦げている。
「炒めるのは俺が変わりますね」
「……すみません」
じっくりゆっくり炒められ、随分水っぽくなってしまった野菜炒めを味付けして皿に盛った。
「出来ましたけど主食を忘れてましたね」
野菜炒めならご飯と言いたいところだけど、ナディユさんお米を知らなそうだったからな……似たような物も無さそうだ。パンか……焼きそばパン感覚で挟んで食べるか?
「平パンの方が良さそうですね」
ナディユさんは炊飯器から平たいパンと飲み物を取り出し料理台の上に取り出した。初心者が何から何までやろうとして悲惨な目に合うよりは良いだろう。
パンと野菜炒めと飲み物を持って部屋を移動すると向かい合って食べ始める。
「猪肉も美味しかったですが馬肉もなかなか美味しいですね」
幾分弾力があり脂のあっさりした肉だが旨味はある。野菜は炒め過ぎてベチャッとしてしまったけれど、その分甘みが出ていてこれはこれで美味しい。
「平パンに包んで食べるとトルティーヤみたいで……ナディユさん?美味しくなかったですか?」
一口食べてから、ナディユさんはフォークを握りしめたまま動かなくなっていた。
無難に美味しく出来たと思うけど……王子様の口には合わなかっただろうか?
「いえ、とても美味しいです!!ただ……これを自分の手で作ったんだと思うと感動してしまって……」
初めて作った手料理に嬉しそうに口元を綻ばせている。
「これからも一緒にいろいろ作ってみましょうね」
「はい!!」
胃袋掴まれたアピールをするつもりだったけど……料理をした感動に包まれているところ申し訳無いので黙っておく事にしよう。
一口一口、感動を噛み締めながら味わう姿が微笑ましくて俺も満足したし……当分は恋愛イベント発生させて遊ぶよりも。他にももっと、いろんな事を体験させてあげたいなんて……親心の様な感情が芽生えてしまったじゃないか。
光っているだけで形は包丁なのだが……恐る恐る刃の腹部分や背の部分で馬肉に触れてみたけれど、それだけでは焼かれたりする事も切れる事も無さそうなので、通常の包丁と使い方は変わらなそうか?
戸惑う俺を尻目に、ナディユさんは隣で馬肉を薄くスライスしていく。真似てやってみるが……薄く切ろうとすると途中で切れて、切れないように意識をすると厚切りになってしまう。スライスというよりも切り落とし……。
「ナディユさん上手ですね。料理やった事無いなんて自信無さそうに言うから油断してました」
俺が先導してやるつもりだったんどけど、俺の見せ場は無さそうだ。
「いろんな動物を解剖したりもしていたので刃物の扱いには慣れているだけですよ」
「解剖ですか……魔機を作るのに解剖も必要なんですか?」
理科の授業で蛙の解剖図の写真を見た事を思い出して、少し食欲が減退した。
「魔法はイメージを明確に持つ事が重要ですから。自動調理鍋で解体するのも1度自分でやるか、やっているのを見ておかないと魔導式が組めません」
「魔法?魔機なのに魔法?」
玉ねぎをくし切りに……くし切りって何だったっけ?
翻訳機能が優秀過ぎて専門用語がわからない。ピーマンにしよう。細切りだから細く切れば良いんだろう。
「『魔機を作る魔法』ですから」
「へえ……じゃあ他の魔法もあるんですか?手から炎出したり水を出したりとかも?」
……なるほど、くし切りとはあれがそうか。
ナディユさんが切っている玉ねぎを盗み見ながら、また一つ賢くなった。
玉ねぎを切りながら、これで涙をぽろりしてくれたらドキッとするんだが……その兆候は残念ながら無いな。
「やれない事は無いでしょうが、魔機があるのにわざわざやろうと思わないですからね。魔導式は分かっているので練習すれば……恐らく」
「ナディユさんが口にしていたあれですか?あれを覚えれば俺でも魔法が使えるんですかね?えっと……リルラレロ?うわっ!!」
なんとなくで真似てみようと思ったけど、ナディユさんが発していた様な音は出ない。その上ニンジンの皮と共に自分の皮まで剥きそうになってニンジンを奪われた。
「気を付けてください、これは私がやりますね。この星は魔素が潤沢なので、克馬さんも体内に魔素が蓄積されれば使えるかも知れないですね。その魔素をどう使えるのかは素質によりますけど」
この世界で暮らしていたら俺も魔法使いへの道が切り拓かれるかもって……なかなか夢のある話だよな。やっぱり魔改造されたスマホビームも良いが、やはり自分で魔法を使うってのは一味違う感動だよ。
ーーーーーー
「そこ焦げてますよ」
華麗な包丁裁きを見せてくれたナディユさんだったが何故か炒めるのは劇的に下手だった。全体的に混ぜれない。
フライパンの右側に集中し過ぎて左側が焦げている。
「炒めるのは俺が変わりますね」
「……すみません」
じっくりゆっくり炒められ、随分水っぽくなってしまった野菜炒めを味付けして皿に盛った。
「出来ましたけど主食を忘れてましたね」
野菜炒めならご飯と言いたいところだけど、ナディユさんお米を知らなそうだったからな……似たような物も無さそうだ。パンか……焼きそばパン感覚で挟んで食べるか?
「平パンの方が良さそうですね」
ナディユさんは炊飯器から平たいパンと飲み物を取り出し料理台の上に取り出した。初心者が何から何までやろうとして悲惨な目に合うよりは良いだろう。
パンと野菜炒めと飲み物を持って部屋を移動すると向かい合って食べ始める。
「猪肉も美味しかったですが馬肉もなかなか美味しいですね」
幾分弾力があり脂のあっさりした肉だが旨味はある。野菜は炒め過ぎてベチャッとしてしまったけれど、その分甘みが出ていてこれはこれで美味しい。
「平パンに包んで食べるとトルティーヤみたいで……ナディユさん?美味しくなかったですか?」
一口食べてから、ナディユさんはフォークを握りしめたまま動かなくなっていた。
無難に美味しく出来たと思うけど……王子様の口には合わなかっただろうか?
「いえ、とても美味しいです!!ただ……これを自分の手で作ったんだと思うと感動してしまって……」
初めて作った手料理に嬉しそうに口元を綻ばせている。
「これからも一緒にいろいろ作ってみましょうね」
「はい!!」
胃袋掴まれたアピールをするつもりだったけど……料理をした感動に包まれているところ申し訳無いので黙っておく事にしよう。
一口一口、感動を噛み締めながら味わう姿が微笑ましくて俺も満足したし……当分は恋愛イベント発生させて遊ぶよりも。他にももっと、いろんな事を体験させてあげたいなんて……親心の様な感情が芽生えてしまったじゃないか。
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