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異世界で朝食を
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「さあ、克真さん。ここのハンドルを回してください」
ここと言われたのは炊飯器……いや、炊飯器・改と呼ぶべきか。
ナディユさんは形から入るタイプなんだろうなと理解していたが、早起きして何をしていたのかと思ったらわざわざこれを作っていたのか……炊飯器・改には『朝食ガチャ』と書かれていた。
目を輝かせるナディユさんの眼差しに急かされながらハンドルを回すと、炊飯器の蓋が開き中から虹色の光が溢れ出て、光が収まった後には輝くカードが浮いていた。
細かい演出……凝り性だなと感心しながらカードを受け取ると、どっかのお洒落なホテルのモーニングの様な絵が描かれていて『SSR シェーニエ国 王室の朝食セット』との文字が書いてある。
「シェーニエ国……王室の朝食セット?」
カードに書かれていた文字を読み上げると、目の前のテーブルの上に見事なモーニングセットが……。
「うわ……美味そう……」
魚の串焼きとか肉の串焼きばかりが続いていたので、目の前の文化的な食事に素直に口の中には唾液が溢れた。
「心拍数120超え……私、やりましたよ!!克真さん!!」
嬉しそうにはしゃぎながらナディユさんが抱き着いてきた。
恋をしたトキメキを心拍数で確認していたのに、いつの間にか心拍数を上げることに目的が変わってきていないか?
「良かったですね。それよりこれ食べていいんですよね?これでお預けとかされたら、恋どころか殺意湧きますけど……」
バスケットに入ったパンからは焼き立ての良い香りが鼻から入って脳を攻撃して来る。
「そんな怖い顔なさらないで……どうぞ召し上がってください。他国の要人を招いた時の為の朝食なので味は間違いないはずです」
普段の食事は栄養ゼリーと言ってたが、他国へ見栄は張るらしい……青い卵だったり、スープが紫だったり……微妙な部分もあれど匂いは一級品だ。
匂いに釣られるままにスクランブルエッグを一口……。
「ああ……幸せ……」
最近忙しくて、コンビニパンやおにぎりにカップ麺ばっかだったからなあ……あれはあれで美味しいんだけど、久々にまともな食事を取った気がする。朝から焼き立てのパンとか幸せ過ぎる。
紫のスープはオニオンスープかな?サラダのオレンジの野菜は人参かと思ったけどきゅうりだった。
「気に入っていただけた様で良かったです」
そう笑うナディユさんの手元には……ゼリーが一つ。
「ナディユさんはそれだけですか?」
「私はCのカードでしたので……」
レア度Cはあのゼリーなのか。俺が一発目でSSRとか、運営の確率操作を疑うレベル。
千切ったパンの上にスクランブルエッグを乗せてナディユさんへ差し出した。
「あの……克馬さん?それは克馬さんが当てた物なので克馬さんが食べてください」
「一緒に食事をしているなら、同じ物を食べた方が美味しいを共有出来るでしょう?美味しい物は一緒に食べれば、なお美味しい」
無理やりナディユさんの唇へ押し付けると、観念した様に手で受け取ってくれた。
一流朝食セット、かたや栄養ゼリーでは流石に気を遣うわ……。
トレーを二人の真ん中に移動させて、一緒に食べようとアピールするとナディユさんも栄養ゼリーを一口掬って俺に差し出してきた。仕返しか。
前に食べた時は無味無臭で、水ゼリーと言うか……あまり美味しい物では無かった記憶だが、同じ物を一緒に食べようと偉ぶった手前断れない。
不味くは無いので口を開いてゼリーを受け取った。
「……!?味がある!!」
無味を想像していただけに、味がある事に大袈裟に驚いてしまった。爽やかな……マスカットみたいなしっかりとした香りと甘み。
「昨日はどの様な味が好みなのか分からなかったので、味付け前の物で出させて貰ったんです。昨日の試食会で果物の好みの系統は少し分かりましたので……」
「へえ……このゼリーはどんな味付けにも出来るんですね」
「はい。不評ですがパンの味やステーキの味にも出来ますよ」
つまりカレー味のゼリーやラーメン味のゼリーも……あまり美味しそうでは無いな。
食事があのゼリーだけとは何とも味気ないと思ったけれど味覚だけの事で言えばちゃんと食事を楽しんでいたんだな。
他にどんな料理カードが入っているのか聞いても「お楽しみです」と言って教えてくれない。1枚のカードから二セット出るように改造しようと話したり和やかな雰囲気で朝食の時間は過ぎていった。
「克馬さん……克馬さんのおかげで共に食事を取ると言うことがこんなに楽しい時間を過ごせるものなのだと知りました。ありがとうございます」
心から……嬉しそうに笑ってくれた。
こんな改造を直ぐにやってのけたり、日本語も直ぐに覚えたりして頭良いのに、バカで……素直で可愛い人なのに……婚約者って人は何でこんな人を裏切るような事をしたんだろうな……もったいない。
「どういたしまして……俺も人と一緒に食事する事が久々に楽しいと感じました」
もったいないって何だ……?
食べた後の食器は炊飯器に戻せば良いだけらしいので、自分の考えに少し動揺しながら炊飯器の蓋を開けると、皿は中へ吸い込まれて行った。
ここと言われたのは炊飯器……いや、炊飯器・改と呼ぶべきか。
ナディユさんは形から入るタイプなんだろうなと理解していたが、早起きして何をしていたのかと思ったらわざわざこれを作っていたのか……炊飯器・改には『朝食ガチャ』と書かれていた。
目を輝かせるナディユさんの眼差しに急かされながらハンドルを回すと、炊飯器の蓋が開き中から虹色の光が溢れ出て、光が収まった後には輝くカードが浮いていた。
細かい演出……凝り性だなと感心しながらカードを受け取ると、どっかのお洒落なホテルのモーニングの様な絵が描かれていて『SSR シェーニエ国 王室の朝食セット』との文字が書いてある。
「シェーニエ国……王室の朝食セット?」
カードに書かれていた文字を読み上げると、目の前のテーブルの上に見事なモーニングセットが……。
「うわ……美味そう……」
魚の串焼きとか肉の串焼きばかりが続いていたので、目の前の文化的な食事に素直に口の中には唾液が溢れた。
「心拍数120超え……私、やりましたよ!!克真さん!!」
嬉しそうにはしゃぎながらナディユさんが抱き着いてきた。
恋をしたトキメキを心拍数で確認していたのに、いつの間にか心拍数を上げることに目的が変わってきていないか?
「良かったですね。それよりこれ食べていいんですよね?これでお預けとかされたら、恋どころか殺意湧きますけど……」
バスケットに入ったパンからは焼き立ての良い香りが鼻から入って脳を攻撃して来る。
「そんな怖い顔なさらないで……どうぞ召し上がってください。他国の要人を招いた時の為の朝食なので味は間違いないはずです」
普段の食事は栄養ゼリーと言ってたが、他国へ見栄は張るらしい……青い卵だったり、スープが紫だったり……微妙な部分もあれど匂いは一級品だ。
匂いに釣られるままにスクランブルエッグを一口……。
「ああ……幸せ……」
最近忙しくて、コンビニパンやおにぎりにカップ麺ばっかだったからなあ……あれはあれで美味しいんだけど、久々にまともな食事を取った気がする。朝から焼き立てのパンとか幸せ過ぎる。
紫のスープはオニオンスープかな?サラダのオレンジの野菜は人参かと思ったけどきゅうりだった。
「気に入っていただけた様で良かったです」
そう笑うナディユさんの手元には……ゼリーが一つ。
「ナディユさんはそれだけですか?」
「私はCのカードでしたので……」
レア度Cはあのゼリーなのか。俺が一発目でSSRとか、運営の確率操作を疑うレベル。
千切ったパンの上にスクランブルエッグを乗せてナディユさんへ差し出した。
「あの……克馬さん?それは克馬さんが当てた物なので克馬さんが食べてください」
「一緒に食事をしているなら、同じ物を食べた方が美味しいを共有出来るでしょう?美味しい物は一緒に食べれば、なお美味しい」
無理やりナディユさんの唇へ押し付けると、観念した様に手で受け取ってくれた。
一流朝食セット、かたや栄養ゼリーでは流石に気を遣うわ……。
トレーを二人の真ん中に移動させて、一緒に食べようとアピールするとナディユさんも栄養ゼリーを一口掬って俺に差し出してきた。仕返しか。
前に食べた時は無味無臭で、水ゼリーと言うか……あまり美味しい物では無かった記憶だが、同じ物を一緒に食べようと偉ぶった手前断れない。
不味くは無いので口を開いてゼリーを受け取った。
「……!?味がある!!」
無味を想像していただけに、味がある事に大袈裟に驚いてしまった。爽やかな……マスカットみたいなしっかりとした香りと甘み。
「昨日はどの様な味が好みなのか分からなかったので、味付け前の物で出させて貰ったんです。昨日の試食会で果物の好みの系統は少し分かりましたので……」
「へえ……このゼリーはどんな味付けにも出来るんですね」
「はい。不評ですがパンの味やステーキの味にも出来ますよ」
つまりカレー味のゼリーやラーメン味のゼリーも……あまり美味しそうでは無いな。
食事があのゼリーだけとは何とも味気ないと思ったけれど味覚だけの事で言えばちゃんと食事を楽しんでいたんだな。
他にどんな料理カードが入っているのか聞いても「お楽しみです」と言って教えてくれない。1枚のカードから二セット出るように改造しようと話したり和やかな雰囲気で朝食の時間は過ぎていった。
「克馬さん……克馬さんのおかげで共に食事を取ると言うことがこんなに楽しい時間を過ごせるものなのだと知りました。ありがとうございます」
心から……嬉しそうに笑ってくれた。
こんな改造を直ぐにやってのけたり、日本語も直ぐに覚えたりして頭良いのに、バカで……素直で可愛い人なのに……婚約者って人は何でこんな人を裏切るような事をしたんだろうな……もったいない。
「どういたしまして……俺も人と一緒に食事する事が久々に楽しいと感じました」
もったいないって何だ……?
食べた後の食器は炊飯器に戻せば良いだけらしいので、自分の考えに少し動揺しながら炊飯器の蓋を開けると、皿は中へ吸い込まれて行った。
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