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本物だった
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それなりの手間のかかった手作り塩があるだけで食事の質は格段に上がった。
調味料って偉大。
「塩の塩梅も焼き具合もいい感じで美味しいですよ」
親切な自動調理鍋は鱗と内臓だけではなく骨も取り除いてくれているので実に食べやすい。
遠火でじっくりゆっくりパリパリに焼かれた皮とふっくらとした白身の味、この魚には鯵と名付けた。大きさは1メートル近くあって俺の知っている鯵とは別物……しかしこの鯵で巨大アジフライとか、食べ切れないだろうけどロマンだな。
「……塩だけなのにこんなに美味しくなるんですね」
魚を丸齧りしているのに何処か優雅な食事風景に見えるナディユさんも大絶賛だ。
自分で釣って、自分で塩を作って……この無人島のような状況がさらに味付けをしてくれているんだろう。
「克真さんと一緒に取る食事は本当に美味しいです……今まで食事はお腹を満たして栄養を摂るだけの物だと思っていたので味よりも手軽さ、栄養補助ゼリーだけで十分だと思っていたのですが、克真さんと共に食事を取るこの時間も含めて食事を取るという喜びなんですよね」
「そうですね。誰と食べるかは結構重要ですよね」
苦手な上司と二人きりで昼飯を食べにいくことになった時は苦痛だった。
楽しそうに焼き魚を食べるナディユさんを見ているとこっちも楽しい気分で食事が取れる。
これが楽しそうでも、大声で大騒ぎしながらの食事であればまた違っただろう。大人しすぎず、騒がしすぎないナディユさんとの時間は存外居心地が良い。
「俺も最近、仕事が忙しくてまともな食事とってなかったので、こんなにのんびりした食事は久しぶりです」
パソコンに向かったまま、コンビニのパンを齧るだけの生活だった。
命の危険のある無人島風な異世界の方がのんびりまともな飯が食べられるなんて皮肉なもんだ。
「そうだったんですね…ここに来る前の克真さんの生活とか……お聞きしてもよろしいでしょうか」
「俺の生活……普通の会社員です。朝起きて……会社行って、終わったら帰って寝る?」
教えるのは全然構わない。しかしある1日を思い出して口に出してみたけれど……驚くほどピックアップすして話すことがない。悲しいな……俺。
「結婚はなさっていたのですか?お付き合いなさっていた人とか……」
「残念ながら……恋人でもいたら、意地でも帰るって騒いでたかもしれないんですけどねぇ。ははは……」
乾いた笑いを隠すために鯵に齧り付いた。
「ナディユさんは?育ちが良さそうですよね。こんな生活は辛くないですか?」
「辛くなんてありません、とても楽しいですよ。私はシェーニエ国の第七王子で生殖に関する研究所に籍を置いていました」
研究員っぽいとは思っていたけど、とんだ追加情報だ。
王子様っぽさもあるとは思ったがまさか本物の王子様だったとは……。
「なんで王子様が一人でこんな星に調査なんて……」
「王子と言っても第七ですから……それに国を守りたい一心で見つけ出したこの星は自分で調査したかったんです。シェーニエ国は星でも一番の魔機の技術もありますし、宇宙に出るのも日常的で、危険はないはずだったんです」
ちょっと飛行機で海外訪問みたいな感覚だったのか?それなのに婚約者の裏切りにあったせいでってことか。
「私は国の為にと必死だったのですが、国にとって私は邪魔だったみたいですね。私は自分の宇宙船の整備は彼にしか任せていませんでしたから……結婚をしている兄がわざわざ彼に近づいたのも私を消す為だったのでしょう」
前に聞いた時もそう感じたけれど……ナディユさんの話す、身の上話はまるで他人の事を語っているかのように聞こえる。悲しみも、憎しみも……なんの感情も感じられない。
嘘なのか?とも疑えるけれど……そこに感情がなさすぎて、逆に真実だった様にも感じる。
「婚約者を愛していなかったんですか?」
焚き火の中の木がパチッと音を立てて爆ぜて、続くパチパチと燃える小さな音が波の音の消されていく……その音を何巡か過ぎて、ナディユさんはようやく答えてくれた。
「愛していなかったわけではありません。ただ彼と私の婚約は精子を分析した数値上の相性だけで魔機が選出した婚約でした。彼は私が幼い頃から、学友として、もしもの時の影武者として共に育てってきたので、突然婚約者と言われても兄弟みたいな感覚が抜けませんでした」
「ナディユさんの国では同性婚……男性同士で結婚するんですか?それだと……」
少子化問題が深刻になるのでは?ナディユさんが王子というなら尚更血を残さなければならないのでは?
「数年前までは禁止されていました。しかしある条件の元で許可が下りるようになりました。その条件が……女体化です」
ナディユさんは空を見上げた。
その瞳の先に母国、母星があるのだろうか。
調味料って偉大。
「塩の塩梅も焼き具合もいい感じで美味しいですよ」
親切な自動調理鍋は鱗と内臓だけではなく骨も取り除いてくれているので実に食べやすい。
遠火でじっくりゆっくりパリパリに焼かれた皮とふっくらとした白身の味、この魚には鯵と名付けた。大きさは1メートル近くあって俺の知っている鯵とは別物……しかしこの鯵で巨大アジフライとか、食べ切れないだろうけどロマンだな。
「……塩だけなのにこんなに美味しくなるんですね」
魚を丸齧りしているのに何処か優雅な食事風景に見えるナディユさんも大絶賛だ。
自分で釣って、自分で塩を作って……この無人島のような状況がさらに味付けをしてくれているんだろう。
「克真さんと一緒に取る食事は本当に美味しいです……今まで食事はお腹を満たして栄養を摂るだけの物だと思っていたので味よりも手軽さ、栄養補助ゼリーだけで十分だと思っていたのですが、克真さんと共に食事を取るこの時間も含めて食事を取るという喜びなんですよね」
「そうですね。誰と食べるかは結構重要ですよね」
苦手な上司と二人きりで昼飯を食べにいくことになった時は苦痛だった。
楽しそうに焼き魚を食べるナディユさんを見ているとこっちも楽しい気分で食事が取れる。
これが楽しそうでも、大声で大騒ぎしながらの食事であればまた違っただろう。大人しすぎず、騒がしすぎないナディユさんとの時間は存外居心地が良い。
「俺も最近、仕事が忙しくてまともな食事とってなかったので、こんなにのんびりした食事は久しぶりです」
パソコンに向かったまま、コンビニのパンを齧るだけの生活だった。
命の危険のある無人島風な異世界の方がのんびりまともな飯が食べられるなんて皮肉なもんだ。
「そうだったんですね…ここに来る前の克真さんの生活とか……お聞きしてもよろしいでしょうか」
「俺の生活……普通の会社員です。朝起きて……会社行って、終わったら帰って寝る?」
教えるのは全然構わない。しかしある1日を思い出して口に出してみたけれど……驚くほどピックアップすして話すことがない。悲しいな……俺。
「結婚はなさっていたのですか?お付き合いなさっていた人とか……」
「残念ながら……恋人でもいたら、意地でも帰るって騒いでたかもしれないんですけどねぇ。ははは……」
乾いた笑いを隠すために鯵に齧り付いた。
「ナディユさんは?育ちが良さそうですよね。こんな生活は辛くないですか?」
「辛くなんてありません、とても楽しいですよ。私はシェーニエ国の第七王子で生殖に関する研究所に籍を置いていました」
研究員っぽいとは思っていたけど、とんだ追加情報だ。
王子様っぽさもあるとは思ったがまさか本物の王子様だったとは……。
「なんで王子様が一人でこんな星に調査なんて……」
「王子と言っても第七ですから……それに国を守りたい一心で見つけ出したこの星は自分で調査したかったんです。シェーニエ国は星でも一番の魔機の技術もありますし、宇宙に出るのも日常的で、危険はないはずだったんです」
ちょっと飛行機で海外訪問みたいな感覚だったのか?それなのに婚約者の裏切りにあったせいでってことか。
「私は国の為にと必死だったのですが、国にとって私は邪魔だったみたいですね。私は自分の宇宙船の整備は彼にしか任せていませんでしたから……結婚をしている兄がわざわざ彼に近づいたのも私を消す為だったのでしょう」
前に聞いた時もそう感じたけれど……ナディユさんの話す、身の上話はまるで他人の事を語っているかのように聞こえる。悲しみも、憎しみも……なんの感情も感じられない。
嘘なのか?とも疑えるけれど……そこに感情がなさすぎて、逆に真実だった様にも感じる。
「婚約者を愛していなかったんですか?」
焚き火の中の木がパチッと音を立てて爆ぜて、続くパチパチと燃える小さな音が波の音の消されていく……その音を何巡か過ぎて、ナディユさんはようやく答えてくれた。
「愛していなかったわけではありません。ただ彼と私の婚約は精子を分析した数値上の相性だけで魔機が選出した婚約でした。彼は私が幼い頃から、学友として、もしもの時の影武者として共に育てってきたので、突然婚約者と言われても兄弟みたいな感覚が抜けませんでした」
「ナディユさんの国では同性婚……男性同士で結婚するんですか?それだと……」
少子化問題が深刻になるのでは?ナディユさんが王子というなら尚更血を残さなければならないのでは?
「数年前までは禁止されていました。しかしある条件の元で許可が下りるようになりました。その条件が……女体化です」
ナディユさんは空を見上げた。
その瞳の先に母国、母星があるのだろうか。
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