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ぬるキャン
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「知識で知っているのと実際にやるのとではこんなにも違うのですね」
宇宙人は真っ赤になった掌を見て、それでも満足そうに笑っている。
今は俺が順番を代わってやっているが……しんどい。宇宙人様たっての希望で木の枝と木の板を擦り合わせて、原始的な火起こしを実演中である。
ひたすら木の枝を挟んだ掌を擦り合わせている訳だが……見よう見まねだし、コツでも知ってれば違うんだろうけど……。
「克真さん!!煙、煙が出てきました!!」
はしゃぐナディユさんの声に最後の力を振り絞り出来た火種を枯れ草で包み込み、ナディユさんが息を吹きかける度に煙が大きくなっていく。
炎の着いた枯れ草を組んでいた木に移して大切に大切に息を吹きかけて続けていると……ようやく火は木に燃え移り……次第に安定していく火を見て俺は地面にへたり込んだ。
木の枝に刺して用意していた肉を火の周りに刺して並べて焼けるのを待っている間にも寝落ちしそう……。
「克真さん、これはもう良さそうです……克真さん?」
少し遠くに聞こえるナディユさんの声に顔を上げるとよく焼けた肉の串焼きが差し出されていた。
「すみません……ありがとうございます」
眠いけどお腹も空いている。
串を受け取り、ナディユさんも自分の分を確保したのを確認してお肉に齧りついた。
「肉を食べているって感じますね」
「そうですね……」
味付けも無く、ただ焼いただけの肉は肉以外の何者でもなかった。味覚すらぼんやりした頭で1本食べ終えたところで限界を迎える。
「……ナディユさん……ごめんなさい。少し眠らせてください」
謝りながら、体は既に横になっていた。
ーーーーーー
目を覚ますとベッドの中だった。
ナディユさんが宇宙船の中に運んでくれたのかと思ったけれど、あの白い部屋では無い。どちらかというと……。
「よく眠れましたか?」
木の扉が開いて、ナディユさんが姿を見せた。
「はい。お陰様で……ところでここは?」
「宇宙船の中ですよ。克真さんが寛げる様に慣れ親しんでいる部屋に内装を変えてみました」
俺が寝てる間に大改装が行われていたらしい。未来的な真っ白だった宇宙船の内部は異世界に出て来そうな宿屋の体だ。
これも漫画を参考にしたのだろう。慣れ親しんでは無いが、あの真っ白な部屋よりは落ち着く。
「それはお気遣いいただきありがとうございます。でもそうするとナディユさんが落ち着けないんじゃ……」
「旅行気分で楽しいです。データや魔機の表示も日本語に書き換えておいたので、魔機の使い方め少しずつお教えしますね」
仕事が早いなあ……。
「興奮してしまい……無理をさせてしまったようで、すみません」
テーブルに着いて頭を下げるナディユの対面に、ベッドを出て俺も移動する。
「徹夜明けだったので、眠気に負けてしまいました。楽しそうにしてる姿のお陰で俺も悲観的にならずに済んでるので気にしないでください」
泣いても喚いても状況が変わらない中、楽しんだもん勝ちだと思う。文句ばかり言われていたら一緒にいるのが億劫で仕方ないだろうからナディユさんが楽しそうにしてくれる姿は助かる。
「克真さんの優しさに感謝いたします」
ホッとした顔のナディユさん……夢中になり過ぎている間に婚約者を奪われた事と重ねているのだろう……そんな中、悪いのだが……トイレに行きたい。
せっかく出して貰った物を残すのは悪いと思って飲み物を何杯も飲んでしまったからな……。
やはりトイレは外で……だろうか?
野外はすぐに獣が寄ってくるから怖い。だからといって連れションも……探査用なら長期滞在も加味しているだろうから宇宙船にトイレが付いていてくれると信じたい。
「ナディユさん……お手洗いをお借りしたいのですが……」
「はい、ご用意しています。こちらへ……」
案内された扉の向こうには洋式のウォシュレット付き水洗トイレがあった。こんな異世界で和式だろうが汲取式だろうが文句を言うつもりは無かったが清潔なトイレに安心する。
ありがたく用を足させて貰ったのだが……。
「大丈夫でしたか?何か不便な点があったら仰ってくださいね」
「いえ、快適でした。用意したと言ってましたけど……ナディユさん達が普段使ってるトイレと違うんですか?」
「ホースを装着して吸い取ります。スマホのデータを参考にして作ったのですが……良かった」
ホースを装着してか……そういえば建国系ので水洗トイレを作って感動されるって漫画もあったな。異世界漫画様様だ。
「他の設備も順に整えていくので足りないものがあったら何でも仰ってください。克真さんに不便は感じさせられませんから」
熱意に燃えてくれているけど……そんなに頑張ってくれなくてもいいのに。森の様子を見てある程度の不便は覚悟してたし。戦いに自信はないけれど順応力は結構高いと自信がある。万年の目の下の隈のせいか、体格差のせいか虚弱だと思われているのかもしれないな。
「そんなに気遣ってくれなくても意外と丈夫ですよ」
「チート能力はヒロインを守るためにあるんですよね?出し惜しみはしません」
にっこりと微笑まれて俺もにっこりと微笑み返した。
漫画が青少年に与える影響についてじっくり考えてみようか。
宇宙人は真っ赤になった掌を見て、それでも満足そうに笑っている。
今は俺が順番を代わってやっているが……しんどい。宇宙人様たっての希望で木の枝と木の板を擦り合わせて、原始的な火起こしを実演中である。
ひたすら木の枝を挟んだ掌を擦り合わせている訳だが……見よう見まねだし、コツでも知ってれば違うんだろうけど……。
「克真さん!!煙、煙が出てきました!!」
はしゃぐナディユさんの声に最後の力を振り絞り出来た火種を枯れ草で包み込み、ナディユさんが息を吹きかける度に煙が大きくなっていく。
炎の着いた枯れ草を組んでいた木に移して大切に大切に息を吹きかけて続けていると……ようやく火は木に燃え移り……次第に安定していく火を見て俺は地面にへたり込んだ。
木の枝に刺して用意していた肉を火の周りに刺して並べて焼けるのを待っている間にも寝落ちしそう……。
「克真さん、これはもう良さそうです……克真さん?」
少し遠くに聞こえるナディユさんの声に顔を上げるとよく焼けた肉の串焼きが差し出されていた。
「すみません……ありがとうございます」
眠いけどお腹も空いている。
串を受け取り、ナディユさんも自分の分を確保したのを確認してお肉に齧りついた。
「肉を食べているって感じますね」
「そうですね……」
味付けも無く、ただ焼いただけの肉は肉以外の何者でもなかった。味覚すらぼんやりした頭で1本食べ終えたところで限界を迎える。
「……ナディユさん……ごめんなさい。少し眠らせてください」
謝りながら、体は既に横になっていた。
ーーーーーー
目を覚ますとベッドの中だった。
ナディユさんが宇宙船の中に運んでくれたのかと思ったけれど、あの白い部屋では無い。どちらかというと……。
「よく眠れましたか?」
木の扉が開いて、ナディユさんが姿を見せた。
「はい。お陰様で……ところでここは?」
「宇宙船の中ですよ。克真さんが寛げる様に慣れ親しんでいる部屋に内装を変えてみました」
俺が寝てる間に大改装が行われていたらしい。未来的な真っ白だった宇宙船の内部は異世界に出て来そうな宿屋の体だ。
これも漫画を参考にしたのだろう。慣れ親しんでは無いが、あの真っ白な部屋よりは落ち着く。
「それはお気遣いいただきありがとうございます。でもそうするとナディユさんが落ち着けないんじゃ……」
「旅行気分で楽しいです。データや魔機の表示も日本語に書き換えておいたので、魔機の使い方め少しずつお教えしますね」
仕事が早いなあ……。
「興奮してしまい……無理をさせてしまったようで、すみません」
テーブルに着いて頭を下げるナディユの対面に、ベッドを出て俺も移動する。
「徹夜明けだったので、眠気に負けてしまいました。楽しそうにしてる姿のお陰で俺も悲観的にならずに済んでるので気にしないでください」
泣いても喚いても状況が変わらない中、楽しんだもん勝ちだと思う。文句ばかり言われていたら一緒にいるのが億劫で仕方ないだろうからナディユさんが楽しそうにしてくれる姿は助かる。
「克真さんの優しさに感謝いたします」
ホッとした顔のナディユさん……夢中になり過ぎている間に婚約者を奪われた事と重ねているのだろう……そんな中、悪いのだが……トイレに行きたい。
せっかく出して貰った物を残すのは悪いと思って飲み物を何杯も飲んでしまったからな……。
やはりトイレは外で……だろうか?
野外はすぐに獣が寄ってくるから怖い。だからといって連れションも……探査用なら長期滞在も加味しているだろうから宇宙船にトイレが付いていてくれると信じたい。
「ナディユさん……お手洗いをお借りしたいのですが……」
「はい、ご用意しています。こちらへ……」
案内された扉の向こうには洋式のウォシュレット付き水洗トイレがあった。こんな異世界で和式だろうが汲取式だろうが文句を言うつもりは無かったが清潔なトイレに安心する。
ありがたく用を足させて貰ったのだが……。
「大丈夫でしたか?何か不便な点があったら仰ってくださいね」
「いえ、快適でした。用意したと言ってましたけど……ナディユさん達が普段使ってるトイレと違うんですか?」
「ホースを装着して吸い取ります。スマホのデータを参考にして作ったのですが……良かった」
ホースを装着してか……そういえば建国系ので水洗トイレを作って感動されるって漫画もあったな。異世界漫画様様だ。
「他の設備も順に整えていくので足りないものがあったら何でも仰ってください。克真さんに不便は感じさせられませんから」
熱意に燃えてくれているけど……そんなに頑張ってくれなくてもいいのに。森の様子を見てある程度の不便は覚悟してたし。戦いに自信はないけれど順応力は結構高いと自信がある。万年の目の下の隈のせいか、体格差のせいか虚弱だと思われているのかもしれないな。
「そんなに気遣ってくれなくても意外と丈夫ですよ」
「チート能力はヒロインを守るためにあるんですよね?出し惜しみはしません」
にっこりと微笑まれて俺もにっこりと微笑み返した。
漫画が青少年に与える影響についてじっくり考えてみようか。
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