上 下
37 / 42
魔王の災厄

魔王の小さな恋

しおりを挟む
強さとは?弱さとは何だろう?
俺は今、初めて力とはなんだという事について悩んでいる。

「まさかお前が竜血石を受け取るとは思わなかった……しかもスライム……あはははははっ!!」

「笑うな、失礼だろう」

大笑いしながら床を転がるアルファドラゴンは無視し、ベッドに寝転びながら小さな竜血石を眺め続けた。

竜血石とは雄の竜特有の求愛の道具で、恋した相手への血を吐くほどの狂おしい想いが胸の中で固まった物。
それを相手へと贈り、受け取ってもらえれば晴れて番になれる。

『愛しています』を表現するだけの為の物なので強制力も拘束力もないが、雄が竜血石を作れるのは一生に一度だけ、それだけの想いで愛していると伝えるためだけの物。

今日俺はその竜血石を受け取ってしまった。
相手は生まれて間もないスライムだったから、恐らくこの竜血石は先日俺が殺した水竜が誰かに贈るために作っていた途中の物を拾ったのだろう。

真っ直ぐな好意、指で突いただけで弾けてしまいそうな脆弱な体で必死に俺を求めて触手を伸ばしてくる姿に、初めて胸が締め付けられるという体験をした。
ふよふよと俺の頬に触れる触手の感触を思い出して思わず頬が緩んだ。

スライムなんて今まで意識にも入れた事なかったけれど、あの愛らしい姿を思い出しただけで……胸が……熱く……。


「お……おいっ!!やめろ!!戻ってこい!!」
慌てた顔のアルファドラゴンが俺の体を揺さぶっていた。

「何だ……あ?鱗?」
自分の手を見ると腕は固い鱗に覆われて、鋭い爪が生えていた。

「俺、どうした?」
「竜化しかけてた。竜化は力を増幅させてくれるが慣れてないうちは力に飲み込まれるぞ。若い竜人族が我を忘れ暴れ回る姿を何度も見た。そういう奴は大概……」

アルファドラゴンは俺の胸に手を押し当て目を閉じ……さも可笑しそうににっこりと笑った。

「初恋おめでとう、竜血石が作られ始めてる」

「恋?俺が?」

自分の胸に手を当ててみるがよくわからない。
恋をしたのか、俺は。

「あんな偉そうにしてた奴が初恋!!しかもスライムに……ぶはっ!!魔王と古代竜の力を受け継いだ最強の魔物が最弱の魔物、スライムに……わははははははっ!!」

自分の気持ちと向き合おうと思ったが騒がしさに考えが纏まらず、黙らせようと頭を殴ったらアルファドラゴンの首の骨は折れた。

いつもと変わらない力加減だったのだが、竜化の影響だろうか。

恋なのか?
初めて他者からの物を嬉しいと思った。
初めて何かを可愛いと思った。
初めて一緒にいたいと思った。
初めて……守ってやりたいと思った。
恋なのか。

会いたい、会いたいなぁ。
もう一度会えば、この気持ちはもっと確かな物に変わるだろう。

「待て、どこに行く気だ」
出掛けようとした俺の足を、もう再生したらしいアルファドラゴンが掴んで止めた。力を封じられ弱い癖に生命力だけはしつこ過ぎる程だ。

「カカロン洞窟、やっぱりあいつを連れて来る。竜血石を渡されたんだ、あいつは俺の伴侶。守らないと……」

「今はやめとけって!!あの洞窟にいる魔物程度ならお前の結界は破られたりしないから!!今のお前が近づいたら力加減がわからずお前自身があのスライムを潰してしまうぞ」

邪魔する頭を潰してやろうかと、上げた足をゆっくり下ろした。

「それは困るな。わかった、もう少し我慢する」
風に飛ばされただけで消えてしまいそうだった姿を思い出して、大人しくもそもそとベッドに戻った。

早く会いたい、早く自分の力にも飲み込まれないぐらい成長しなければ……。

心が落ち着くまで今は竜血石を育てる事に専念しよう。
俺の竜血石が出来たら、今度は俺があいつに竜血石を渡すんだ。

喜んでくれるだろうか?嬉しそうに体を震わせる姿を想像したら自然に笑みが溢れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

騎士調教~淫獄に堕ちた無垢の成れ果て~

ビビアン
BL
騎士服を溶かされ、地下牢に繋がれ、淫らな調教を受け続ける―― 王の血を引きながらも王位継承権を放棄し、騎士として父や異母兄たちに忠誠を誓った誇り高い青年リオ。しかし革命によって王国は滅びてしまい、リオもまた囚われてしまう。 そんな彼の目の前に現れたのは、黒衣の魔術師アーネスト。 「革命の盟主から、お前についての一切合切を任されている。革命軍がお前に求める贖罪は……『妊娠』だ」 そして、長い雌化調教の日々が始まった。 ※1日2回更新 ※ほぼ全編エロ ※タグ欄に入りきらなかった特殊プレイ→拘束(分娩台、X字磔、宙吊りなど)、スパンキング(パドル、ハンド)、乳首開発、睡眠姦、ドスケベ衣装、近親相姦など

俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。 勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。 しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!? たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

チート魔王はつまらない。

碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王 ─────────── ~あらすじ~ 優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。 その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。 そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。 しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。 そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──? ─────────── 何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*) 最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`) ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※感想、質問大歓迎です!!

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

真夜中の秘め事

弥生
BL
夜の9時には眠くなってしまい、朝まで起きることがない少年。 眠った後に何が起きているかは、部屋の隅の姿見の鏡だけが知っていて……? 透明な何かに犯されるだけのどすけべなお話です。倫理観はありません。ご注意ください。 R18です。

処理中です...