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災厄の幸福

災厄の杞憂

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で、俺の食事だが……どいつにしようかな。
正直、得られる魔力には期待していないので誰でもいい。
1番近くにいたアマナイタケを持ち上げるとアマナイタケの体は緊張に固くなる。

「痛くはしない。ちょっと吸うだけだから死にはしないよ」

安心させようと優しく撫でてやったのにアマナイタケの体はさらに固くなった。
俺も初めてオメガドラゴン様に殺しはしないから少し喰わせろと言われた時は恐怖で体が強張ったものだと懐かしい気持ちになった。

「ア……アルファルド様!!どうか、どうか私めの魔力を吸ってくださいまし!!」
顔を真っ赤に染めて意気込んでペルソリアさんが俺とアマナイタケの間に割り込んできた。

アマナイタケよりも悪魔族で名前持ちのペルソリアさんの魔力の方が魅力的で、うまくいけば爺様の狙いに関する知識も得られるかもしれないので願ってもない事だけれど……。

「ありがたい申し出ですが……何故服をお脱ぎになっていらっしゃるのですか?」

「え……アルファルド様の様に誘惑系の魔法を使う者の搾取法というと……アマナイタケをあの様な手付きで撫でていらっしゃったので……」

モゴモゴと口籠るペルソリアさんの性器は反り立ち、先端からは透明な精液が溢れている。
この状況には覚えがある。

……なるほど。
俺の捕食スタイルがアルラウネ様のように精液から摂取すると思われたのか。
しかし俺の魔力摂取は精液からではないし、アルラウネ様の様に精液を好んで食べたいとも思わない。

「お心遣いだけありがたくいただいておきます」

アマナイタケに視線を戻すがペルソリアさんはさらに土下座まで始めた。

「お願いします!!この際食事なんて関係なしにどうか私を食べてください!!」

食べてくださいと言われても……魔王様の配下を勝手に喰うのは爺様にさらに目をつけられる行為だろう。
何の意味を持たない食事をして自分の立場を追い込むとか馬鹿でしかない。

「あ……ペルソリア様は魔王様の任命式に参加なさらなくて良いのですか?早く城に戻られた方が良いと思いますけど」

「支度は部下に任せてきました!!パレードは魔物が活発になる陰星が昇ってからなので時間はあります!!」

やんわりとお引取り願いたいと伝えているのに通用しない。
手を握られて熱く詰め寄られ……魔物達が俺の危機だと思ってくれたのかグルルと喉を鳴らして威嚇し始めてしまった。

「わかりました。ペルソリア様の魔力は頂戴いたします。ですが私の摂取方法は精液からではありませんので服を着ていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい!!」

魔力を吸われるというのに何でそんなに嬉しそうなんだろうか?
服を身に着けると正座をし、期待に満ちたキラキラとした目で見上げてくる。

密かに溜め息を吐きながらペルソリアさんの頬に手を添わせ、指で耳の後ろを軽く押しながら細い触手で突き刺した。
「あ……ああ……」
ペルソリアさんが気持ち悪い声を上げるのは無視して、触手から魔力を吸い取る。

吸い上げる魔力と共に流れ込んでくる知識と記憶……闘技場での俺、魔王様のお父上と話をしている俺、魔王様にお目通りを許されている俺、ペルソリアさんに街を案内してもらっている俺、そして今朝の俺……俺の記憶なんて別にいらないんだけど……。

『暴食の美食家』と言っていた通り、食に関する知識が豊富で食べられる草花の知識を得たが、その中に俺の目当ての知識はなかった。

さすが悪魔族、少し魔力をもらっただけで先ほど魔物達に与えて萎んでいた触手がすぐに復活したのでこれ以上はもういいやと突き刺していた触手を抜き取った。

「上質な魔力をご馳走様でした」
「も……もう終わりですか?」

縋るように足にしがみ付かれたけどもう空腹は感じてないし、魔力も十分足りている。
これ以上吸っても俺の求める物は見つからなさそうだしな。

俺が求めてる知識はヒロンロン草とフェロリアの花に関する知識。
昨日一日森の中を探したけれど見つからなかった。

「困ったな……知らないって事はヒロンロン草とフェロリアの花はこの地域には生育してないのか」

アルラウネ様の言い付け通りずっと摂取し続けてきたのに、この地域では手に入れられていない。
無いのなら一度アルラウネ様の元に戻って種を分けて貰い栽培して増やすしか……しかし入隊したばかりで、任された魔物達もまともに育ててない今の状況で休みをくださいと願い出るのは無責任だろうか?

だがヒロンロン草はともかくフェロリアの花がないといずれ匂いでスライムとバレる日が来る。
フェロリアの花の代替えを探すにしても俺にはその知識はない。
ペルソリアさんから奪った知識は『味』に関する知識だけだからな……。

「ヒロンロン草とフェロリアの花……それを見つけ出してくればアルファルド様の配下に加えていただけますか?」
「え?」
ペルソリアさんまだいたのか。
俺の配下って、あんたはすでに爺様の部下だろうに。

「必ずやその草と花を探し出して参りますので……その……私めにもご命令を与えていだたいてもよろしいでしょうか?」

頬を赤らめ見上げてくる瞳にゾクゾクと悪寒が走った。
力で敵わない相手ではないのにこの恐怖感は何だろう?

「先ほど魔物達に命令を下した時のように!!ささっ、思い切り踏みつけてください!!」

頭を地につけて乞われるが……なんか嫌だ。

嫌だけどやらなければ動かなそうなので、渋々ペルソリアさんの頭を踏みつけた。
これが魔王様の配下でさえなければ踏み潰してやるのにと思いながら力加減にだけ気をつけながら踏みつける。

「ああ!!アルファルド様!!ありがたき幸せ!!必ずやご期待の物を探し出して参ります!!」
陶酔した目で叫びながら、やっとペルソリアさんは街へと戻って行った。

【暴食の美食家 ペルソリア:悪魔族……食の賢者。博識であるが、こと食に関する執着は異常で、その探究心は狂気】

うん……異常で狂気だった。
ペルソリアさん、俺を食物として見ているのか……気をつけよう。

「……街に住む魔物の常識は難しいな」

何だか疲れてしまい、側にいたジャイアントベアーの体に倒れ込んだ。
柔らかくない毛に頭を埋めて、ふっと違和感が頭を掠めたので体を起こしてマジマジとジャイアントベアーの体を確認する。
ジャイアントベアーだけではなく全ての魔物がおかしかった。

「お前達そんな色してたっけ?」

ジャイアントベアーの赤黒い体毛は薄い青味がかった灰色。
グレートグレーウルフの毛も青味がかり、デスホーンホースもバードードーもアーマーキラーボールもアマナイタケもみな一様に青い体へと変化していた。
「俺の魔力を食べさせた影響か?ちょっと貰うぞ?」

ジャイアントベアーの体に細い触手を突き刺した。

【???……ジャイアントベアーの特異進化型。その力は未知数】

なんか進化してる。
しかも特異進化って……俺のせいだよな?
こいつらはもうこうなってしまったから仕方ないとして、これから魔力を与えるのは控えておこう。

個体名どころか種族名すら無くなってしまい、他の魔物と区別がつきやすくなったが何と呼ぼうか?
名付けなんてした事がないな。

「ちゃんとした名前は後日に爺様か魔王様にいただくとして、とりあえずお前の呼び名は1番な」

側にいたジャイアントベアーもどきに1番と呼び名をつけると、その頭上に『1番』と文字が浮かび上がった。
側にいた順に2番、3番……とつけていくとそれぞれの頭上に文字が現れる。
これは間違いにくくていいな。

進化したおかげかみんな傷が癒えていたので、早速修行だと山へ向けて移動することにした。

一足先に山へ着いた俺は迫り出した岩の上から、森の中を移動する番号を眺めていた。
みんな問題なくこちらに向かってきているようなので視線を街の中心に建つ魔王城へ移した。

街が一望できるけど、ここからじゃ流石にパレードする魔王様のお姿までは見えないな。

街まで行って街の魔物達に紛れて見物しようかという考えもよぎったが、あいつらを連れてじゃ目立つし、かと言って留守番させて何かあっても困る。

魔王様の命令を忠実に守る従順な僕だと認めてもらうためにも今は我慢の時だと自分に言い聞かせた。

あ……もしペルソリアさんの肌も青くなっていたらどうしよう。
勝手に触手を傷つけてしまった事がバレてしまう。
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