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災厄の幸福
災厄の食卓
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早急に街での暮らしを勉強しなくては……俺は目の前の課題から目を背けて天井を眺めていた。
魔王様の後について、辿り着いた先は大きなテーブルの上にきらびやかな料理が並べられた食堂だった。
魔王様はお食事だと仰られていたもんな!食事中は隙が生まれがち……俺の初めての仕事はお食事をする魔王様の警護だと、張り切って扉の外に立ったのに何故か俺も席に着かされた。
これではもしもの時に素早く動けないじゃ無いかと思うのだが、俺の目の前にも並べられたナイフとフォーク。
もしかして俺も一緒に食事をするのだろうか?
魔王様とご一緒に?
畏れ多い事だが、魔王軍に入るとこういう特典がついてくるものなのかも。
新入りの歓迎会というものか。
しかし……しかしだ。
一般的な食事というものをした事が無い俺はナイフもフォークも当然使ったことが無い。
師匠達も料理なんてせずに頭から丸かぶりの人達だったし、俺は触手で吸うだけだった。
「食べないのか?」
魔王様に不審そうな視線を向けられてしまった。
……これは俺が魔王軍としての品格を持ち合わせているかの試験だったか。
この体で食べられない事も無いけれど……料理された物は魔力がほぼ抜けているし、俺は血肉から栄養を取るという体の構造では無いので食事は無意味。
無意味だが食事を用意されて手をつけないのは失礼であるし、魔王様に勧められては食べない訳にはいかない。
だが目の前の料理の食べ方が分からない。
部屋の中には魔王様と俺と爺様しかおらず、危ない橋だと思いながらもそっと魔王様の後ろの壁際に立つ爺様に細い触手を伸ばし食事の仕方を盗み取ろうとして……触手を踏みつけられ、思い切り睨まれた。
魔王様と洞窟にやってきていた時から思っていたけれど、爺様やっぱり怖い。
細く透明な触手、今までバレた事ないのにやっぱり魔王軍の魔物は格が違うんだな。
アルラウネ様の言いつけ通り気をつけよう。
「不作法なもので申し訳ありません」
食事のマナーを知らない事を魔王様に謝罪しながら、勝手に知識を吸おうとした事を爺様へ向けても謝った。
魔王様の食事する姿を見ながら真似して何とか食事を進めていくが、味の違いはわかるけどそれが美味しいのかどうかはやっぱりわからない。
喉を通った食べ物は胃に入るなり体液に溶かされて消えていく。
魔力はほとんどないし、死んだただの肉に残る知識などなく、何も得る物がないので何の感想も思いつかない。
適当に美味しいと答えて実は美味しくなかったら困るので見てわかる料理の見た目を褒めてみようか。
お皿の上には小さく切り分け焼いた肉に色鮮やかな汁が絵を描く様にかけられている。
食べやすくカットされた色とりどりの木の実や草。
小さいコンロに火が灯されており、その上では器に入ったキラキラした丸い物が熱せられてる。
「とても美しいお料理ばかりですね」
魔物の死体を山の様に積んだオメガドラゴン様の食卓と比べるとなんて手の込んだ食卓だろう。
謎の丸い物は魔王様の前には無く、食べ方がわからないのでとりあえずフォークで持ち上げてみた……。
おおぅ……。
これは何かを暗示しているのだろうか……。
持ち上げた見覚えのあるそれは、スライムだった。
別に兄弟でも何でもないので食べる事に戸惑いはないけれど、わざわざ腹の足しにもならないスライムをこうして俺の目の前にだけ出してくる事に、何かしらの意味があるのではと勘ぐってしまう。
「おい、爺!!スライム料理なんて出すなといつも言っているだろう!!」
フォークで持ち上げたスライムをどうしたものかと悩んでいると、いきなり魔王様が大声を上げて立ち上がった。
「はい。いつも通り魔王様にはお出ししておりません」
「じゃあ、あれは何だ!!」
俺の持ち上げているスライムを指差しながら爺様を睨み付ける。
「アルファルド様のお食事は予定に入っておりません。本来前魔王様へお出しする予定だった物をお出しさせていただきました。前魔王様がスライムディップをお好きだったのはご存知でしょう?」
スライムディップという料理なのか。
フォークで刺していたスライムの膜が破れて器の中に落ち、体液が広がる。
「アルファルド様、お好みの食材を温めたスライムの粘液に絡めてお召し上がりください」
「爺!!」
「何をお怒りになられているのですか?魔王様がスライムがお嫌いでもアルファルド様は好まれるかもわかりませんよ?」
魔王様と爺様の間に火花が散って見える。
俺は食べるべきなのかどうなのか……それよりも爺様が言った『魔王様がスライムがお嫌いでも』という言葉が胸につっかえた。
魔王様に食べてもらえず、皿の中でグツグツとたぎる姿が自分と重なってしまう。
俺がちゃんと食べてやるからな……側にあった木の実をフォークで刺して、スライムの中に漬けてから食べた。
「お前……気持ち悪ければ出して良いんだぞ?」
味は……まぁ自分の体液を舐めているのと変わらないから気持ち悪いという事は無い。
……気持ち悪いかぁ。
他の食材と比べてもそんなに大差はないと思うんだけどな……オメガドラゴン様は俺を蜜糖の様で美味しかったと言ってたし、スライムをそんなに嫌わないで欲しい。
他の魔物に喰われるのは嫌だけど、魔王様に食べてもらえるなら喜んで俺は体を差し出すのに……。
魔王様に食べてもらえない哀れなスライムを体に収めながらこれからの事を考える。
魔王様はスライムがお嫌いらしい。
触手は何故か気に入ってもらえたけれど、本来の姿がスライムだという事はばれない様にしないとな。
あとは食事のマナーと、身嗜みと、この街の常識と……いろいろ勉強しなければいけない事が多い。
それに魔王軍としての仕事も……あれ?
「魔王様、私の魔王軍での役目は……?」
魔王軍に入って魔王様を守るという漠然とした目標しか持ってなかったから、魔王軍が普段何をしているのか全く知らない。
自分に任せられた仕事が何なのか、何処に行けば良いのか、例の鎧は何時もらえるのか何も教えてもらってなかった。
「ああ、そうか。お前の仕事は俺の「アルファルド様にはまず第16隊の隊長をお任せしようと思っております」
魔王様の言葉を遮って爺様が間へ入ってきた。
「……爺」
「魔王様、軍の指揮は私にお任せ頂けると盟約を結んだでしょう。魔王様はこの後、城へ戻り即位の式の準備があるのですから早くお食事を済ませてください」
グッと言葉を飲み込んで魔王様は不機嫌に食事を再開させた。
なるほど、魔王様はもっと大きな世界に目を向けていなければならないから、軍のことは爺様に任される様だ。
「16隊……いきなり私が隊長ですか?私はそこで何を?」
隊長といえば部下を率いて戦う偉い魔物。
集団生活なんてした事ない俺にいきなり荷が重すぎないか?
「既存の隊は15隊まで、16隊はアルファルド様の為に新たに用意させた部隊です。その活動内容はまだ未定となっております」
「新たな部隊ですか……」
「はい。正直に申し上げますと、あなたの力は強すぎます。軍の中心に置くにも目の届かない場所へ置くにも……」
「まだ信用が足りませんか?」
爺様から向けられる視線は嫌疑を隠しもしない。
探り合いをするよりはよほど楽だけど……魔王様へ対する忠誠心は疑って欲しくないなぁ。
「そいつは俺の私兵団に入れるつもりだと言っただろう」
「魔王様は少しお黙りください」
魔王様の言葉をまたズバッと切り捨てると爺様は俺を見てにこりと笑った……多分笑っていたと思う。
「優秀な新兵候補を全て殺されてしまいましたので……名前すら持たない低能な魔物の集まりですが、アルファルド様ならきっと立派な兵に育てあげてくれると期待しているのです」
あ……もしかして闘技場で全ての魔物を炭にしたのを怒ってる?
若かりし頃とはいえ、魔王様に稽古をつけていた魔物だ。
発せられる気に重くなる体を無理やり持ち上げ立ち上がる。
出来ないなんて言葉は言わせては貰えない雰囲気。
こうして与えられた仕事も出来ないようでは魔王様をお守りするなんて大役を任せては貰えないだろうから……誰かの上に立つなんてやった事無いけどやるしかない。
「わかりました。16隊を……魔王様のお役に立てる部隊へと育て上げれば、私の忠誠と力を認めていただけるのですね」
「アルファルド様は何処ぞの誰かよりも理解が早くて助かります」
こうして俺は、いきなり魔王軍の一隊を任される事になった。
魔王様の後について、辿り着いた先は大きなテーブルの上にきらびやかな料理が並べられた食堂だった。
魔王様はお食事だと仰られていたもんな!食事中は隙が生まれがち……俺の初めての仕事はお食事をする魔王様の警護だと、張り切って扉の外に立ったのに何故か俺も席に着かされた。
これではもしもの時に素早く動けないじゃ無いかと思うのだが、俺の目の前にも並べられたナイフとフォーク。
もしかして俺も一緒に食事をするのだろうか?
魔王様とご一緒に?
畏れ多い事だが、魔王軍に入るとこういう特典がついてくるものなのかも。
新入りの歓迎会というものか。
しかし……しかしだ。
一般的な食事というものをした事が無い俺はナイフもフォークも当然使ったことが無い。
師匠達も料理なんてせずに頭から丸かぶりの人達だったし、俺は触手で吸うだけだった。
「食べないのか?」
魔王様に不審そうな視線を向けられてしまった。
……これは俺が魔王軍としての品格を持ち合わせているかの試験だったか。
この体で食べられない事も無いけれど……料理された物は魔力がほぼ抜けているし、俺は血肉から栄養を取るという体の構造では無いので食事は無意味。
無意味だが食事を用意されて手をつけないのは失礼であるし、魔王様に勧められては食べない訳にはいかない。
だが目の前の料理の食べ方が分からない。
部屋の中には魔王様と俺と爺様しかおらず、危ない橋だと思いながらもそっと魔王様の後ろの壁際に立つ爺様に細い触手を伸ばし食事の仕方を盗み取ろうとして……触手を踏みつけられ、思い切り睨まれた。
魔王様と洞窟にやってきていた時から思っていたけれど、爺様やっぱり怖い。
細く透明な触手、今までバレた事ないのにやっぱり魔王軍の魔物は格が違うんだな。
アルラウネ様の言いつけ通り気をつけよう。
「不作法なもので申し訳ありません」
食事のマナーを知らない事を魔王様に謝罪しながら、勝手に知識を吸おうとした事を爺様へ向けても謝った。
魔王様の食事する姿を見ながら真似して何とか食事を進めていくが、味の違いはわかるけどそれが美味しいのかどうかはやっぱりわからない。
喉を通った食べ物は胃に入るなり体液に溶かされて消えていく。
魔力はほとんどないし、死んだただの肉に残る知識などなく、何も得る物がないので何の感想も思いつかない。
適当に美味しいと答えて実は美味しくなかったら困るので見てわかる料理の見た目を褒めてみようか。
お皿の上には小さく切り分け焼いた肉に色鮮やかな汁が絵を描く様にかけられている。
食べやすくカットされた色とりどりの木の実や草。
小さいコンロに火が灯されており、その上では器に入ったキラキラした丸い物が熱せられてる。
「とても美しいお料理ばかりですね」
魔物の死体を山の様に積んだオメガドラゴン様の食卓と比べるとなんて手の込んだ食卓だろう。
謎の丸い物は魔王様の前には無く、食べ方がわからないのでとりあえずフォークで持ち上げてみた……。
おおぅ……。
これは何かを暗示しているのだろうか……。
持ち上げた見覚えのあるそれは、スライムだった。
別に兄弟でも何でもないので食べる事に戸惑いはないけれど、わざわざ腹の足しにもならないスライムをこうして俺の目の前にだけ出してくる事に、何かしらの意味があるのではと勘ぐってしまう。
「おい、爺!!スライム料理なんて出すなといつも言っているだろう!!」
フォークで持ち上げたスライムをどうしたものかと悩んでいると、いきなり魔王様が大声を上げて立ち上がった。
「はい。いつも通り魔王様にはお出ししておりません」
「じゃあ、あれは何だ!!」
俺の持ち上げているスライムを指差しながら爺様を睨み付ける。
「アルファルド様のお食事は予定に入っておりません。本来前魔王様へお出しする予定だった物をお出しさせていただきました。前魔王様がスライムディップをお好きだったのはご存知でしょう?」
スライムディップという料理なのか。
フォークで刺していたスライムの膜が破れて器の中に落ち、体液が広がる。
「アルファルド様、お好みの食材を温めたスライムの粘液に絡めてお召し上がりください」
「爺!!」
「何をお怒りになられているのですか?魔王様がスライムがお嫌いでもアルファルド様は好まれるかもわかりませんよ?」
魔王様と爺様の間に火花が散って見える。
俺は食べるべきなのかどうなのか……それよりも爺様が言った『魔王様がスライムがお嫌いでも』という言葉が胸につっかえた。
魔王様に食べてもらえず、皿の中でグツグツとたぎる姿が自分と重なってしまう。
俺がちゃんと食べてやるからな……側にあった木の実をフォークで刺して、スライムの中に漬けてから食べた。
「お前……気持ち悪ければ出して良いんだぞ?」
味は……まぁ自分の体液を舐めているのと変わらないから気持ち悪いという事は無い。
……気持ち悪いかぁ。
他の食材と比べてもそんなに大差はないと思うんだけどな……オメガドラゴン様は俺を蜜糖の様で美味しかったと言ってたし、スライムをそんなに嫌わないで欲しい。
他の魔物に喰われるのは嫌だけど、魔王様に食べてもらえるなら喜んで俺は体を差し出すのに……。
魔王様に食べてもらえない哀れなスライムを体に収めながらこれからの事を考える。
魔王様はスライムがお嫌いらしい。
触手は何故か気に入ってもらえたけれど、本来の姿がスライムだという事はばれない様にしないとな。
あとは食事のマナーと、身嗜みと、この街の常識と……いろいろ勉強しなければいけない事が多い。
それに魔王軍としての仕事も……あれ?
「魔王様、私の魔王軍での役目は……?」
魔王軍に入って魔王様を守るという漠然とした目標しか持ってなかったから、魔王軍が普段何をしているのか全く知らない。
自分に任せられた仕事が何なのか、何処に行けば良いのか、例の鎧は何時もらえるのか何も教えてもらってなかった。
「ああ、そうか。お前の仕事は俺の「アルファルド様にはまず第16隊の隊長をお任せしようと思っております」
魔王様の言葉を遮って爺様が間へ入ってきた。
「……爺」
「魔王様、軍の指揮は私にお任せ頂けると盟約を結んだでしょう。魔王様はこの後、城へ戻り即位の式の準備があるのですから早くお食事を済ませてください」
グッと言葉を飲み込んで魔王様は不機嫌に食事を再開させた。
なるほど、魔王様はもっと大きな世界に目を向けていなければならないから、軍のことは爺様に任される様だ。
「16隊……いきなり私が隊長ですか?私はそこで何を?」
隊長といえば部下を率いて戦う偉い魔物。
集団生活なんてした事ない俺にいきなり荷が重すぎないか?
「既存の隊は15隊まで、16隊はアルファルド様の為に新たに用意させた部隊です。その活動内容はまだ未定となっております」
「新たな部隊ですか……」
「はい。正直に申し上げますと、あなたの力は強すぎます。軍の中心に置くにも目の届かない場所へ置くにも……」
「まだ信用が足りませんか?」
爺様から向けられる視線は嫌疑を隠しもしない。
探り合いをするよりはよほど楽だけど……魔王様へ対する忠誠心は疑って欲しくないなぁ。
「そいつは俺の私兵団に入れるつもりだと言っただろう」
「魔王様は少しお黙りください」
魔王様の言葉をまたズバッと切り捨てると爺様は俺を見てにこりと笑った……多分笑っていたと思う。
「優秀な新兵候補を全て殺されてしまいましたので……名前すら持たない低能な魔物の集まりですが、アルファルド様ならきっと立派な兵に育てあげてくれると期待しているのです」
あ……もしかして闘技場で全ての魔物を炭にしたのを怒ってる?
若かりし頃とはいえ、魔王様に稽古をつけていた魔物だ。
発せられる気に重くなる体を無理やり持ち上げ立ち上がる。
出来ないなんて言葉は言わせては貰えない雰囲気。
こうして与えられた仕事も出来ないようでは魔王様をお守りするなんて大役を任せては貰えないだろうから……誰かの上に立つなんてやった事無いけどやるしかない。
「わかりました。16隊を……魔王様のお役に立てる部隊へと育て上げれば、私の忠誠と力を認めていただけるのですね」
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こうして俺は、いきなり魔王軍の一隊を任される事になった。
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