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災厄の幸福

災厄の後悔

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立派な椅子のある部屋に通されると頭を下げて待つ様にと指示されて、言われた通り跪き頭を下げて待った。

少し視線を上げると椅子の足だけが僅かに見える……あの椅子に魔王様が……あの椅子に魔王様が……!!

興奮して鼻から体液が漏れそうになるのを抑えながら待っているとカツ……カツ……とゆったりとした足音が聞こえてきた。

き……来たっ!!魔王様だ!!

俺の隣に立っている老魔が俺の紹介を始めた。
「魔王様、この者が此度の優勝者アルファルドにございます」
「うむ……アルファルドよ。顔を上げよ」

顔、顔……顔を上げて良いのか?真っ直ぐにそのご尊顔を拝見しても良いのか!?

3年で魔王様のお声は大分成長成されている……きっとそのお姿もさらに美しくなられているに違いない。

「魔王様のお言葉が聞こえんのか。早く顔をあげるのだ」

老魔に小声で促され、身体中が核になってしまった様な激しい動悸に襲われながら顔を上げた俺の目に、麗しの魔王様のお姿が飛び込んで……来ない。

誰?
誰この魔物!?

携えた口髭を弄りながらねっとりとした視線を投げてくるのがちょっと気持ち悪い、魔王様と同じ悪魔族の様だが魔王様の様な気品は無い魔物。

だが周りはこの魔物を魔王と呼んでいる……本当に?こいつが正真正銘魔王なの!?

王座にふんぞりかえる、厳ついその魔物には輝く銀の髪も赤い瞳もない。
どういう事!?俺の魔王様は!?魔王っていっぱいいるのか!?一体どういう事なんだ!!

あまりのショックに放心していた体を老魔に肘で突かれて、俺はようやく現実に戻ってきた。

「こら!早く返事をせぬか!!」
どうやら勝手に話は進んでいたらしく、返事を求められているらしい。
魔王様じゃないなら、もうどうでもいいし、とりあえず返事をしておこう。
「え……あ、はい」

「うむ、それでは今宵……楽しみにしておる」
そういうと魔王様は部屋を出て行った。
何を楽しみにしているのだろうか?


「美し過ぎて逆に怪しいもんじゃが……魔王様の色好きには困ったものよ」

あまりの衝撃に魂の抜けてしまった俺を老魔は別の部屋へ案内し、呼びに来るまで待っていろ、それまでに身を清めておけと言い残し去っていった。

老魔の言う事には……生返事をしてしまったが、どうやら俺は魔王と性交の約束を交わしてしまった様だ。

魔王は俺をメスだと勘違いしているのか……アルラウネ様に似せられた見た目だからそれも有り得る事だが、流石に服を脱がされたら分かるだろう。
勝手な勘違いとは言え面倒な事になりそうだな。

適当な返事をした事を後悔する。

予想外の展開にうっかり承諾をしてしまったが、魔王が俺の魔王様でないのであれば生真面目に約束を守る必要も俺がここに留まる理由も全くない。

約束を破られ怒り狂った魔王に殺される可能性もあるが……その時はせっかくの体だけど、捨ててスライムの姿に戻ってしまえば誰も俺とは気付かないだろう。

魔王様の為なら何でも差し出すが、俺の期待を踏みにじってくれたやつに礼を尽くすつもりは全くない。

扉の向こうには見張りの魔物の気配があるので、窓を開けて外へ出ようと窓枠に足をかけた時、建物が激しく揺れた。

「何だ?……地震?」

地震のせいで辺りが急に騒がしくなり、窓から見える下の通路を魔王軍の魔物達が慌ただしく一方向へ向かって走って行った。

扉の先の魔物達の会話が聞こえてきた。
何が起こったのか聞き耳を立てた。

「魔王様の代替りらしい」

「何故こんなに急に?今まで全く世代交代の儀式に関心を抱いておられなかったのに……」

「力はとっくの昔に越されていたからな……いつこの日が来てもおかしくは無かったさ」

「違いない。これで労働条件が良くなればいいがな……魔王軍という名声をいただけりゃトップは誰でも俺らには関係ないし……」

「魔王になる前から人間共の国を1つ滅ぼしたお方だぞ……楽になる未来なんて見えねぇよ……」

あの魔王……全然慕われて無いな。

ここに残る理由は無いと思ったが、急に興味が湧いてきて……ちょっと覗くだけと自分に言い訳してから、窓から飛び降り魔物達の後をこっそりと追った。
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