幼馴染に聖女として異世界に呼び出し喰らいました

藤雪たすく

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第8話「初めてのキャンプ飯」

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「焚き火っていいね……これずっと眺めてられる」

先ほどモウブレーパスというデカい牛に似た魔物の首を一瞬で落とした男は、半開きの口で焚き火を眺め、穏やかな顔で炎のゆらめきに釘付けになっていた。

俺はというと、こんなに急いた話と思わず、何の心構えも準備もしていなかったので、初心者でも作れそうな物を探して急いでレシピ本を捲っているところだ。

まさかキャンプ用品を買い揃えたその足で旅に出るなんて思わないだろ?ランクアップの為のクエストが一瞬で終わるなんて思わないだろ?

今日は準備日として夜は宿屋なりで休むんだと思ってた。明日出発前にのんびり本に目を通してみようと思ってたのにさ。

「ゆうちゃんは相変わらず真面目だなぁ。別にそんな手の込んだものを作ってくれなくても、昨日食べた串焼きとか……あれだって十分立派な料理だったじゃん」

うんうん、唸っていた俺を気遣うように悠也が笑いかけてきた。
宿屋で出された夕食のスープでも朝食のスープでもなく、屋台で食べた串焼きを出すとは、悠也もあのスープは不満だったのだろう。

「ああ、あの串焼きは美味かったな」

別に同じような串焼きを作ってもいいんだろうけど……これから二人でやっていこうと決意と気合の初料理、少しだけ手の込んだものが作りたいなんて、小さなこだわりを持ってみたりしてる。

長時間煮込むようなものは流石に今は無理でも、多少料理しました感を出して悠也に『凄い』と言わせたい。何もできないままってのは悔しい。

ハンバーグ……このハンバーグならいけるかな?材料は揃ってる。

悠也の収納から取り出し、俺の収納に移し替えるラリーはかなり面倒なほどの食材を悠也は隠し持っていた。それなのに出したものが2食続けてパン丸齧りのみって、食に関心がないにしても酷すぎる。

聖女様のレシピ本にはミンサー、フードプロセッサーが欲しいと切実な願いが書き込まれていたが、包丁で合挽き肉にする方法も書いてくれている。

「よし、今日はハンバーグにしよう!!」

「ハンバーグ!!チーズイン?」

「どっちかというとインチーズ」

俺が管理する係となった調理用のテーブルに包丁やまな板などの調理器具を並べる。

「あ、手を洗いたい」

「はい、クリーン……」

「ありがと」

クリーン、魔法で綺麗にしてくれたみたいだけど、目に見えてはわからないな。調理器具全てにクリーンをかけてくれるけど、やっぱり水道が欲しい。
蛇口を捻ればいつでも清潔な水が飲めるって贅沢だったんだな。わかっていたけど、こうして初めて嘆きに実感がこもるってもんだ。

……まぁ?聖女様は魔法も一級品だったみたいですけど?
レシピの中には手で作る方法と共に、この魔法を使えば良いと注釈みたいに付け加えられている。

やっぱり使えるようになりたいな、魔法。
悠也ほどでなくても生活する上で便利な程度には使いたい。俺の中にも魔力はあるんだもんな。

「やっぱり自分でも多少魔法を使えた方が便利だよなぁ。なぁ悠也、俺も魔法使えるようになるかな?お前はどうやって覚えたんだ?」

「魔力量的にまだ初級から中級なら使えるとは思う。えっと……炎出ろって思えば出たよ」

くそ……天才職業君に聞いたのが間違いだった。炎出ろって思っただけで出せるならとっくに使えてるわ。

「街に帰ったらギルドのお姉さんにでも、魔法を教えてくれる先生を紹介してもら「ゆうちゃん……」

低い声に遮られ……これは、あれ?なんか怒ってる?

「悠也?どうした?」

「俺……大賢者なのに……」

大賢者なのはステータスを見せてもらったから知っているが……それが?

……押し黙って喋らない。
これは怒ってるんじゃなくて何か拗ねてるな。何を…………あ!!魔法を教えてくれる先生をって話か?大賢者の俺がいるのに何故他の人に頼もうとしてるんだって事かな?

う~ん……でも感覚で魔法を使ってる天才肌が人に教えるとか出来るのか?

しかしこれで別の人を紹介してもらったりしたら、本格的に拗ねモードに入るな。そうなるとこいつは布団から出て来なくなる。

「魔法はおいおいで……とりあえず今日は悠也に手伝って貰いながらやろうかな。悠也手伝ってくれるか?」

「もちろんだよ。何でも言って」

ぱぁっと笑顔で顔を上げるお子様にホッと胸を撫で下ろす。

「まず肉をミンチに……か」

肉をみじん切りに……とにかく細かく、包丁で叩いたりしてとの事だが、魔法でのミンチ肉の作り方も書いてある。

『容器に肉を入れたイメージを作り、フードプロセッサーの刃をイメージした風の刃を中で回転させて回しましょう』

……聖女も天才肌か。

「悠也……これ解るか?」

「フードプロセッサーってどんなのだっけ?」

電動では無く、手で引いて使う物を母親に手伝わされていたので……何となくの物を地面に絵で描きながら説明すると、何となくのイメージは伝わったみたいで悠也は肉の塊へ手を翳した。

今回のお肉は、城の食料庫から頂いてきた牛(ギュモー)と豚(オーク)の肉を合い挽き肉に……オーク……オークは高級豚肉という認識は異世界の共通認識だと言い聞かせて、まだ見ぬオークの姿は想像しない事にした。

「やってみるね……こうかな?」

魔力を込めたのかな?
悠也が翳した手の中で肉が躍る。
ギュンギュンと回転する肉が、そこに存在するのであろう見えない刃に斬り刻まれてどんどん小さくなっていく。

「凄いじゃん、さすが悠也。あっという間……あ、それぐらいで良いかな?」

調子に乗って肉ジュースを作りそうな勢いだったので、程よいところで停止してもらうと、まな板の上には合い挽き肉が出来上がっていた。
挽き肉も出来て、悠也のご機嫌もとれた。

「他には?何でもする」

「待ってて、玉ねぎぐらいは自分でみじん切りするよ」

悠也にやってもらった方が早いだろうが、このままでは俺の出番は全く無くなってしまう。

玉ねぎ(ピアッパ)の半分は炒めて甘味を出して、もう半分は生のまま使い食感を残す。

パンをおろし金……は、無いので悠也の魔法で細かく削って貰ってからミルクに浸して置いた。

肉と玉ねぎとパン粉と卵を塩と胡椒を加えて捏ねて、捏ねて……悠也も手伝いたそうな顔をしていたので、一緒に形を作っていく。

「それ、大きすぎないか?」

「これぐらいの方が食べてるって感じがして良いじゃん」

二人共料理初心者なので大きさはこれぐらいか?真ん中の窪みはどれぐらいかな?と試行錯誤しながら10個の塊が出来た。
1人5つ……十分だろ。
余っても収納しておけば時間経過無いタイプらしいしな、便利。

コンロ台の上に買っておいた薪を組んで悠也に火をつけて貰い、フライパンを乗せた。熱くなってきたところに牛の脂を乗せると、それだけで溶けて行く脂からいい匂いが立ってくる。

「じゃあ焼いていくぞ」

「うん。気をつけてね」

肉を並べるとジュウッと美味しい音が響く。

「この音だけでご飯食べれそう……」

「確かに、でも米は無いからな。パンで我慢な」

白米の炊き方もレシピにあるので、米が無いわけでは無いのだろうが、城の備蓄の中にも屋台で買い出しした中にも名前はなく、まだ出会えて無かった。

「匂いもしてきた……これは腹にくるな」

焼き色のついた物からひっくり返し、両面焼き色をつけてから蓋をする。

薪を入れ替えて弱火に調整して……待ってる間にソースを作ろう。

チーズソースの煮込みバーグになる予定。たっぷりのチーズに溺れるハンバーグ……文字だけで美味そう。

フライパンの横でミルクを小鍋で温めて、チーズを溶かして簡単なソース作ると、良い感じに焼けたハンバーグの上から豪快にかけてやると悪魔的な見た目のハンバーグの出来上がりだ。

少し煮詰めて皿に盛りつけ、悠也がセットしていてくれたテーブルへと運ぶ。
お願いした通りにパンも焼き直してくれていた。

「凄いよ、ゆうちゃん!!お城でもこんな食欲をそそる物は出なかったよ!!早く食べたい!!」

興奮したように瞳をキラキラ輝かせる悠也・
2人で作ったんだもんな。ひとしおだよな。

「とりあえず一つずつな。後は冷めないうちに収納しておいて、おかわりは何個でも、だ」

1人分の皿に一つずつ取り分け、大皿は収納へ。

「「いただきます!!」」

手を合わせ、お互いにいただきますをしてから、ナイフを肉へ……。

「肉汁が溢れてくるね」

上出来だ。流れ出る肉汁、持ち上げると伸びながら絡むチーズソース……視覚で既に美味い。

「んんっ!!チーズ濃厚だな。それに負けないしっかりした肉の味と弾力……これ大成功だろ」

「うん!!美味しい!!ゆうちゃんがゆうちゃんの手で捏ねてくれたかと思うとさらに美味しい!!」

いや……そこは置いておけ。逆に食欲減退するだろ。

スライスしたパンで一口分切り分けたハンバーグとレタスと共に……んん、絶品.

「あ、良いな。俺も……」

俺を真似て、悠也も簡易サンドイッチを頬張りニコニコしていて、この世界での初めての料理。これからの俺の……異世界での俺の役割ってもんのスタートはなかなか好調だった。
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