あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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二人きり

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結局、お風呂の貸し切り時間を過ぎてもキースさんとギルは戻って来ず、休憩所のソファーで休んで待っているとご機嫌な顔のギルとキースさんは疲れた顔をして戻って来た。

「もう貸し切り時間過ぎちゃったよ?」

「おお……湯上がりですべすべだなぁ……」

……せっかくお風呂入って綺麗になったのにギルに頬擦りをされて……ベタベタする。

「ご苦労さん。疲れた顔してんなぁ……取り敢えず風呂行ってこいよ」

ユーリカはキースさんの肩を叩きながらタオルを渡している。

「はい……そうします……ユーリカさんも大変ですね」

「だろ?俺も愛され過ぎて辛いんだよ」

疲れた笑顔で受けとるキースさん……。

「ギルも行っておいでよ。ギル達がお風呂上がったらレストランでご飯だって」

ギルの顔を押して腕から抜け出そうと身を捩った。

「そうだな、すぐ戻る。ユーリカの側を離れるなよ」

ギルの腕から抜け出すとユーリカの腕にしがみついてキースさんとギルに手を振った。

「……嫉妬する必要ねぇぞ?」

「…………」

ギュッとユーリカの腕を掴む腕に力を込める。
そんな筈はないとわかっていても……ユーリカの綺麗な体を見てしまったら不安で仕方ない。

「……どうせあいつらの事だ。長湯はしねぇだろうし先に注文だけして待とう」

ユーリカは俺の頭を撫でて歩き出した。
……足の長さも違うな……。
合わない歩幅に初めて悲しみを覚えた。

ーーーーーー

「ちっ……だからもう飲むなって止めたのに……誰が運ぶんだよ」

酔いつぶれたギルの体をユーリカは遠慮なく蹴っている。
大声をあげて泣き出さなかっただけ今日は良い方だと思う。

「俺が運びますよ。飲ませたのは俺ですから……」

キースさんに俺の話を振られて上機嫌で飲んでいたギルはキースさんに勧められるまま、ユーリカが止めるのも聞かずにこの姿だ。

「響?ずっと黙ってるけど……眠くなっちゃった?」

下を向いていた顔をキースさんに覗き込まれる。

「……眠くはない」

それだけ答えるのがやっと……。

キースさんもユーリカみたいに綺麗な方が良いんじゃないかと嫉妬していたのも吹っ飛ぶぐらいに羞恥の刑を受けた。

ギルとキースさんに競いあうようにお褒めの言葉を連発されて頭の中は恥ずかしさと居たたまれなさでいっぱいだった。

誉められてるのに責められている気持ちになったのは何故だろう。

「自分の話をされて恥ずかしかった?」

「……ええ、はい」

「ごめんね。でも響が可愛いくて仕方ないのは本当……ギルバードさんに負けたくなくてムキになっちゃったのは認めるけど……」

耳にキースさんの吐息が……ギルに勧められてキースさんもけっこう飲んでいた。アルコールをはらんだ吐息に……酔ってしまったのか胸が、体が熱くなる。

「ほらよ……お前達の部屋の鍵。続きは部屋でやって貰って良いか?」

ユーリカに投げられた鍵を受け止める。

「俺達って……ユーリカ達も一緒の部屋じゃないの?」

「んな野暮な事するかよ……じゃあ俺も部屋に戻るわ」

「あ、じゃあギルバードさんを……」

立ち上がったキースさんをユーリカは手で制した。

「平気だ。こいつは俺に任せて二人の時間を楽しみな……」

ユーリカはギルの両足を両脇で挟むとその体を引きずった。

ゴンッ!!

「ちょっ!!ユーリカ!?」

椅子から落ちたギルの後頭部から心配になる音が……。

「これぐらいで起きやしねぇよ……じゃあまた明日の朝な……」

そのままズルズルとギルの体を引きずって行く……。

「ユーリカさん……強いな」

「……うん」

いつも二人より先に寝てしまうから知らなかったけど……ギルが最近抜け毛を気にしているのはユーリカのせいでは無いのだろうか。

「……俺達も部屋に行こうか」

「うん……」

呆気に取られてドキドキしていた熱は冷めていた。

……けど。
ユーリカ!!ベッドが一つしか無いよ!?

部屋に着くと部屋の中央にドーンと鎮座する大きなベッド。
ソファーはあるけどベッドはそれ一つしか無い。

お風呂は入った。ご飯も食べた。
あとは寝るだけ……だけど……。

ベッドをジッと睨んだ。
野営中ずっと隣で寝かせて貰ったけどそれとは状況が違う。ユーリカもギルもいない……2人きり。

「寝ようか……」

悶々としていた俺の肩をキースさんは微笑みながら叩いた。

大人の余裕か……俺、こんなに緊張してるのに。

「おいで……響」

先にベッドに寝転んだキースさんが毛布を持ち上げて呼んでいる。

一歩一歩確かめる様にベッドへ近づいて……ギシッと軋むベッドの音にすらビクッと肩が跳ねる。
キースさんの側までいくとやんわりと毛布をかけられてそのまま腕の中へくるまれた。

「灯り……消すよ?」

「……はい」

遂に名実ともに大人へ……。
口を開けたら飛び出してしまいそうな心臓を押さえながら返事をかえした。
主の灯りは消されて仄かな小さな灯りがぼんやりと部屋を照らした。

…………。

キースさんの出方を伺っていたが、キースさんは俺を抱きしめて俺の頭に顔を埋めたまま動かない……。

「キース……さん?」

「ん?何?」

いや……何じゃなくて……。

モジモジしているとキースさんはクスッと笑った。

「そんなに怖がって……無理しなくていいんだよ……ゆっくり進んでいこう?」

額にチュッとキスされた。
怖がってないし、無理はしてないけど……。

「俺じゃダメ?」

見上げると先程キスされた場所に頭突きをされた。

「必死に我慢してるんだから……煽るのはやめろ」

「つ~!!何で我慢するの?俺は早くキースさんと愛し合いたい」

「響……」

溜め息と共に抱きしめられて、嬉しくて抱きしめ返す。

「嫌だったら……ちゃんというんだよ」

耳元でそう囁かれ……キースさんの体が俺に覆い被さる。

求め合う様に指を絡めて繋いだ手……カチャリと蝶が重なり合った。

・・・・・・・・・・・・・・

「くっそ重てぇ」

俺は掴んでいた足を落とした。

「あんな量じゃ酔ってねぇだろうが。起きろ」

俺は仰向けで転がるギルの腹の上に腰をおろした。

目を開けたギルはただ天井を睨んでいる。

「……ユーリカ……ヒビキは変わっちまうと思うか?」

デカい図体で随分と弱々しい事だ。

「俺はお前に抱かれて何か変わったか?変わってねぇだろ?ヒビキだって変わらねぇよ」

「……いや、綺麗になった」

「……あほか」

突然何を言い出すんだか……普段は面と向かって愛してるの一つもいわねぇクセにこうやって思わぬ一撃をしかけてくる。

「ヒビキは……バカで単純なクセにグダグダ悩んで……」

ヒビキに対する言葉にギルの腹筋に僅かに力が籠った。心の底から親バカ。

「……そして素直で優しい……お前にそっくりだ」

初めてあったヒビキはオドオドしていて誰にも心を許していなかった。

あの歳で心を隠す笑顔をしっている事がムカついて絶対笑顔にしてやると自分でも信じられねぇぐらいムキになって飯を作ってたっけ……ギルの愛を羨むぐらいに受けて育ったヒビキが屈託なく笑うとギルの笑顔と被る。

「お前とヒビキの10年はそんな簡単に変わっちまう様なもんじゃなかっただろ……」

「…………」

ギルの手が俺の頭を包んで……撫でる。

「な……何だよ」

「俺を振り回す時の目はお前に似やがった……」

……本当にこいつは……。

「何だそれ?俺がいつお前を振り回したよ?」

ギルの体の上に腹這いになると頬杖をついてギルの顔を見下ろした。

「出会ってこのかた振り回されっぱなしだろ」

後頭部をギルの手に押され……少し固い唇と唇を重ねられる。

ずっと何にも……自分の命にも興味が無くて淡々と生きてたのに……振り回されたのはこっちの方だ。

ベッドへ移動する間も惜しんで抱き合い、口付けを交わす……。

「今日は気分が良い……サービスしてやる。逝っちまうなよ?ギル」

俺が笑うとギルは肉食獣の様にニヤリと笑った。

……この笑顔だけはヒビキにも向けられない、俺だけの物……。
ゾクリと震える背筋、ゴクリと喉を鳴らして……ギルの上に腰を沈めた。

ギルはキースと結ばれたヒビキが変わってしまい、自分を置いて遠い場所へ去って行ってしまうんじゃないかと恐れている様だが……そんな薄情な奴じゃねぇだろ?……俺とお前の子は。
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