あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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僅かばかりの妬みを胸に

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崖の縁に落ちないようにキースさんに手を繋がれて立つ俺の前には古代竜が崖に手を掛けて顔を覗かせている。
今は感動的なお別れの場面だけど……。

「ゴロゴロゴロ……」

古代竜が甘えたような声をあげているが……声量大きすぎてお腹に響く雷の様だ。

「えっと……ごめんね。さすがに大きすぎて一緒には行けないから……」

手を伸ばして古代竜の大きな手に触れると……。

「ギャオオオン」

大きな雄叫びを上げて飛びさって行った。
あれだけ甘えてきてたのにいきなり飛び立って……竜の考えは難しい。

風圧に飛ばされかけた俺を支えてくれたキースさんを見上げるとキースさんは困った様にため息を吐いた。

「もう来なくていいし……しつこそうだな……」

「また来るって?」

「また来るんだってさ」

そうか……また来るのか……騒ぎにならないようにしてくれると助かるなぁ……。


「ヒビキ、置いて行くぞ」

「待って!!」

そうして、先へ進むギルを追いかけてヤナガカの都へ向けて歩き出した。

ーーーーーー

「この辺で一度休憩するか」
急ぐ旅では無くなったので、ゆっくりと周りの景色も楽しみ、休憩を挟みながら進んでいく。

こまめに休憩をいれてくれているとはいえ、さすがに連日、歩き続ければ疲労はたまる、大きな石の上に腰を下ろして息を吐いた。

「響、大丈夫?」

「うん。ゆっくりだし全然平気……ってキースさん!?」

「回復系の魔法が使えれば良いんだけど……俺は攻撃系だけ特化しちゃったから……」

キースさんの手がそう言ってふくらはぎを揉んでいく。

マッサージ……これはマッサージだ。
そう思おうとしてもキースさんに触れられた場所から熱くなっていく。気持ちいいけど……変に意識をしてしまう。
何も言えずに俺の足を揉みほぐすキースさんの手を目で追っていた。

「響……あ~ん」

「あ~ん?」

言われるままに口を開けるとキースさんの手が俺の口に……。

「疲れが消えるおまじない」

口の中に……柔らかな甘さが広がった。

「リートルビーの飴……」

じわりじわりと飴がとけだしていく。

「あれ?知ってるのか?」

「キースさんにあう前に……旅の商人さんから貰った」

「商人……ああ。ドンバットの情報をくれた人か。一つあげたら、譲って欲しいって言われたよ。そうか……響達も会ったんだ。世界は広いようで案外狭いな」

「そうだね……」

クスッと笑ったキースさん……俺も微笑み返したけど……そろそろ手を離して欲しい……逆に歩けなくなりそうなんだけど……。

笑顔のキースさんを見下ろしていると落ち着かないのでギル達を探した。少し離れた場所に座って、目が合うと手を振ってくれたユーリカの笑顔とギルの背中に心臓が落ち着きを取り戻してきた。

「ギルはあともう少しって言ってたけど、ヤナガカまであとどれぐらいかな……」

「そうだな。このペースで行けたら明日の昼前には着けるんじゃないかな」

「そっか……」

気を紛らわせる会話を探しているうちにギルの出発の声が掛かった。

ーーーーーー

ヤナガカの都へはキースさんの言っていた予定より少し遅れて夕暮れ前に到着した。
住んでいた街とは雰囲気が全く違う、人が多く賑やかな街。

「時間が時間だし、俺はギルと泊まる場所を確保してくるわ。お前らは観光してな。ヒビキを頼むぞ~」

街に着くなりユーリカはギルを引きずって行ってしまった。

「ヤナガカは観光地で主要な街道が交わる場所だから、色んな国の人が集まってるんだ。人が多いから手を離すなよ……はぐれてもすぐに見つけられるけどね」

キースさんは俺の腕輪を指で軽く弾いた。
どんな人混みの中でも見つけてくれるって言われたみたいで嬉しい……俺には魔力が無くて探れないって言ってたから、竜達の気配のおかげだけど……それでも嬉しい。
ギュッと強く手を握りしめてキースさんの隣に並んで歩いた。

一人で歩いている冒険者風の人や観光しているのか仲睦まじい男女……子供連れの家族。
俺とキースさんは周りの人達からどんな風に見えてるのかなぁ。
キースさんを見上げるとキースさんも優しい眼差しでこちらを見ていて……驚いて目を逸らした。

「ここがメイン通りだよ」

キースさんの言葉に顔をあげると様々な屋台が道沿いに立ち並び色んな服装の人が行き交っていた。屋台の灯りが街道を照らして何処までと触れるとも続いている。

「お兄ちゃん!!見て、見て!!いっぱい屋台が出てる!!……あ……ごめんなさい」

キースさんの手を引っ張り走り出しそうになって慌てて口を押さえた。ついお兄ちゃんって言ってしまった。

「はは……懐かしい雰囲気だな。近くの神社のお祭りで……響はチョコバナナ落として泣いてたね」

「……そういう事は覚えててくれなくていいよ」


沢山の屋台の前を通りすぎながら歩いていく……。

「響が食べられそうな物があるかな……」

匂いは美味しそうでさっき買った串焼きはゴムを噛むみたいな弾力で顎が疲れ、一口で断念した。

「響、マツトロの串焼きだ。アレなら響でも大丈夫だよ」

「マツトロ?」

キースさんに引かれて一つの屋台の前に立った。
網の上で四角く切られ串にささった肉が焼かれている。
芳ばしい匂い……と独特の……。

「……魚?」

「そう、正解。ガンダルアでは魚を食べないからこっちでは初めてだろ?」

キースさんはお店の人から串を受け取ると俺の手を引いて木の陰に移動した。

「流石にお店の人の前では失礼だから……」

こっそり塩をかけてくれた。
一口食べるとお肉とは違う旨味を持った脂が溶け出して……。

「熱っ!!」

「大丈夫か!?」

柔らかく溶ける様な身を飲みこんで……べっと舌を出した。

「舌、焼いた……」

「ああ……後でユーリカさんに薬を貰おうか、取り敢えず応急処置しよう。口を閉じて……」

口を閉じるとキースさんの指が唇に触れて……急に口の中に冷たい何かが現れた……氷だ。

「……ちょっと大きい」

「……そのまま舐めて……て……」

目の前からキースさんが消えた。

「キース!!てめぇ、こんな暗がりで何舐めさせる気だ!!」

ギルがキースさんの顔を思い切り殴り飛ばしていた。

「口の中をやけどしたから氷を舐めさせてただけですよ」

キースさんは頭をかきながら困った様に笑っている。

「ギル、いきなり乱暴過ぎだよ!!」

木に凭れるキースさんに慌てて駆け寄った。

「大丈夫?痛い?」

「けっ……虫が止まった程度にも感じてねぇだろうが」

「いえいえ……さすがはギルバードさんです。避けきれなかったです」

「てめぇは避ける気もなかっただろ!!」

ギルのいきなりの暴力にもにこにこと笑顔で応対する大人なキースさん。

「ギル、大人げない……」

「いや、ヒビキ!!どう考えてもこいつはお前以外にはかなり性格悪いだろっ!?」

背後から急に肩をポンっと抱かれた。

「こいつら、お互いの不満を解消させて楽しんでるだけだからほっときな……部屋取れたし先に行ってようぜ」

「え……でも……」

ユーリカに肩を押されるけど……振り返るとギルに胸元を掴まれたキースさんが手を振っている。

「すぐ行くね、響」

「うん……また後で……」

……もう少しキースさんと一緒にお店を見て回りたかったな。
後ろ髪を引かれながらユーリカについて歩きだす。

「屋台は明日も見れるさ……ガキ臭い2人は放っておいて一足先に風呂に入りにいかねぇか?貸し切りに出来たから呼びに行ったんだけどな……あいつら待ってたら時間がなくなっちまう」

「貸し切り?……それは早く行かないと駄目だね。急ごうユーリカ!!」

ホテルに向かう足を速めた。

うん、ギルもキースさんも大人だから心配ないよね。
せっかくホテルが貸し切りにしてくれたんだし早く行かないと駄目だしね。

ーーーーーー

「あ~……ギルもキースさんも早くくればいいのにぃ……」

銭湯の様に大きなお風呂。湯加減もちょうど良い。
それが貸し切りでこんなにのびのびと出来るなんて贅沢だなぁ。

「ねぇ、ユーリカ……」

…………う。
ユーリカを振り返り……固まってしまった。

「あ?どうした?」

動かなくなった俺を不審に思ったのかユーリカが側に近づいてくる。

「何でもない……」

ユーリカから逃げる様に背中を向けた。

「……なに恥ずかしがってんだよ?」

今まで一緒にいたけど、お風呂とかなかったし、家に帰ってきたらすぐに服を脱ぎ捨てるギルと違ってユーリカはいつも服をきっちり着込んでいたから……細いと思ってたけど俺のひょろっとした貧相な体と違ってしっかり筋肉ついてるし手足長い。

肌が白いからお湯に浸かってほんのり色づく赤さが……いやらしい。

あれが大人の色気か。俺もあんなだったら……自信を持ってキースさんを襲えるのに……。

気持ちが通じて……ヤナガカの都に着くこの間、キースさんとはキス以上進んでない。

俺だって子供じゃないし……とは思うものの自分の体に自信はないし『そんな子だと思わなかった』と思われるのが恐くて手を出せていない……何となくムードを作ってみようと思ってユーリカの真似をした事もあったけど……これは無理だ。真似出来ない。子供扱いされてスルーされてた訳も納得。

ユーリカの裸にドキドキしていたが、考えているうちにどよんと心は沈んだ。

「……ユーリカ綺麗だなって思って……」

「なんだ?いきなり……ははん……成る程ね」

ユーリカはニヤニヤと俺の体に上から下、下から上へと視線を流すと、肩を抱いてきた。

「大丈夫、ヒビキの体も……十分かわいいぞ」

良い笑顔。

「どこ見て言ってるの……」

膝を抱いて……股間を隠した。

皆と一緒にお風呂入れると喜んでいたけど、キースさんいなくて良かった。ユーリカと比べられたらたまったもんじゃないや。

昔よりは肉もついてきたけれど、まだまだ逞しさとは程遠い自分の腕をお湯の中で撫でた。
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