あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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息子さんを…

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寝起きで……髪はボサボサ、目は真っ赤に充血したギルの顔はいつもの数倍、凶悪さを増していた。

ムスッと顔をしかめたまま、あぐらをかいて座っている。

「キース……お前冒険者をしてるって事は……家を継いだりは……」

そう言ったギルの前ではキースさんが正座で頭を下げている。

「実家は兄弟がいますし、そもそも継ぐ程立派な家ではありませんから……」

恥ずかしいからそんな事はしなくていいと止めたけれど『けじめ』だと言って聞いてはもらえず……朝起きて一番、ギルに土下座して『息子さんを俺に下さい』と言った。

「……俺はな……大切なヒビキを俺から奪おうとするなら敵わねぇとわかっていても、刺し違える覚悟で反対するつもりだ」

「お前とキースの力の差だと『犬死に』の間違いだろ?」

「……お前は少し黙ってろ……ユーリカ」

岩の上に足を組んで腰を下ろしているユーリカはカラカラと笑った。
ギルとキースさんの様子を不安な気持ちで眺めていた俺と目が合うとニッと口の端を持ち上げた。

それは心配いらないと言われている様だった。

ギルは一つ大きく息を吸い込んだ。

「俺はヒビキを誰にも渡したくねぇ……だから……お前がヒビキのもんになって俺達について来い!!俺はものぐさ野郎の分まで戦うので手一杯だ……俺が言えるのはそれだけだ!!」

「っ!!ありがとうございます!!響の事は俺が全力で守ります!!」

頭を地面に押し付けたキースさんの横に並んで俺も、腕を組んで目を閉じたギルへ向けて頭を下げた。

「ギル……ありがとう」

恥ずかしいし、報告なんていいと思ったけど……こうして認めてもらえると嬉しい。
頭を下げたまま横を見るとキースさんと目が合って……微笑み合った。

「おいおい……ものぐさ野郎ってのは俺の事か?俺は無駄な殺生はしねぇ主義なだけだっつっただろ……お前らいつまでも頭下げてねぇで向こう行ってろ……無礼な奴にはお仕置きが必要だよなぁ」

ゆっくり立ち上がったユーリカがギルの頭を鷲掴みにして俺達を手で追い払う。

「ありがとうございます。行こうヒビキ。朝ごはんの準備をしよう」

「え……でも……」

キースさんに手を引かれて森の中へ進んだ……途中、少しだけ振り返るとギルはユーリカの胸にしがみついて顔を埋めていて……ユーリカはゆっくりとギルの頭を撫でていた。お仕置き?

「ギル……許してくれたね」

「親公認だね」

俺が話しかけてもキースさんは無言で森を進む。

「キースさん?」

呼びかけに足を止めて振り返ったキースさんに抱きしめられた。
その体からは力が抜けて俺に凭れた。

「き……緊張したぁ……」

初めから……キースさんを追いかけようと言った時からギルとユーリカが反対している訳じゃないのはわかっていたけど……キースさんはふにゃっと力が抜けた様に笑った。

「もし反対されて……力で奪い取るのは簡単だけど……それじゃあ響は本当の笑顔を見せてくれないでしょ?」

軽い音を立ててキースさんの唇が頬に触れて離れる。やった本人の顔の方が真っ赤で……なんて可愛い人……。

ぎゅうっとキースさんの腰にしがみついてキースさんの顔を見上げた。

「し……幸せにするから!!」

キースさんが俺のものになるって事は俺がキースさんを養って幸せにしてあげないと!!今のところ収入0だけど。

「ありがとう……いま既にすごい幸せだよ……響は俺を幸せにする天才だね」

頭を優しく撫でてくれながらキースさんはとても幸せそうに笑ってくれた。
その笑顔を向けられただけで温かい気持ちが込み上げる。

「じゃあキースさんは俺を幸せにする天才」

へらっと口元が弛む。

キースさんと手を繋いで森の中を歩いた。
……手を繋いだキースさんの左腕には俺の作った腕輪が……そうだ!!

「キースさん、ちょっと待って……」

立ち止まり手を離すと自分の左腕についていた腕輪を外して右腕につけ直した。

「どうした?」

「へへ……こうすればずっと一緒」

繋ぎ直した手を持ち上げて腕輪を見せると蝶が重なりあっている。
前は二人で左腕につけてたから手を繋いで歩いていても蝶は離ればなれだった。これでいつでも一緒だ。

満足して繋いだ手を大きく振って歩いた。

「……ユーリカさん仕込みかな?」

「何が?」

「いや……ギルバードさんはすごい人だったんだなって話……」

「うん?ギルはすごいよ?」

今の話の流れでどうしてその結論に至るのかはわからないけどギルがすごいのは事実なので頷いておいた。

ギルといえば、朝ごはんの準備だって森の中に来たんだった。

「朝ごはん何を作るの?」

「ああ……そうだね。手持ちの食材で……何か……」

手持ちの食材で作るなら何で森の中に来たんだろう?

「パンでも焼こうか?」

「パン……」

こちらのパンと言えばあの食パンをギュッと固めた様なアレ。

「苺みたいなキュンの実のジャムもあるよ?好きだっただろ?」

「フカフカなパン?」

「もちろん」

やったぁ!!

「早く帰ろう!!パン作るの俺もやりたい!!」

「そうだね……もう戻っても大丈夫かな?一緒に作ろうな」

こっちにはジャムもないからギルとユーリカはどんな感想かなぁ?ギルは甘いの苦手だから何もつけない方が好きかも。

別物のパンを食べた二人の反応を想像しながら野営場所へ戻った。
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