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甘いおまじない
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「冒険者さま!!危ないところをお助け頂き……ひいっ!!」
「積み荷は何だ?」
荷台を確認するギルを持ち主の男の人は青い顔で見ている。
「その動揺……怪しいな……密輸か?」
「お前の顔が凶悪で強盗だと思われてんじゃねぇの?」
ししし……と笑うユーリカの横から俺は勢いよくギルに飛び付いた。
「ギル、カッコ良かった!!本当に強かったんだね!!」
ユーリカにやられてばかりだから、ギルの方が本当に強いのかと疑ってた。ギルは軽く片手で俺を持ち上げると嬉しそうに顔を擦り寄せてくる。
「疑ってたのかよ……一応ギルド長だったんだぞ?」
「ギルバードギルド長!!危ないところを助けて頂きありがとうございました!!」
もう一人男の人がいてユーリカが支えている……ユーリカは手に回復薬の瓶を持っているから怪我をしてたみたいだ。
「あ……貴方があのギルバード様!!失礼致しました!!私は主に薬物を取り扱ってる商人でユイナスカの街までサキシュ草とマルワナドラゴンモドキの肝や肉を運んで行く途中でして……」
「マルワナドラゴンモドキの肝か……ゴブリン達の好物だな」
「はい……なので奮発してBランクの冒険者さんを護衛にお願いしたのですが……私を庇って怪我をなされてしまい……」
ギルは倒した魔物を見て考え込む。
「この数は異常だな……」
「この間の『吸血鬼』騒ぎで東側から押されて来てたんじゃねぇの?」
ギルとユーリカのやり取りを聞きながら、俺は初めて見るゴブリンの本体にギルにしがみついていた。
耳は見慣れていたけど本体の顔は醜悪すぎて恐ろしい。
「少数なら恐れる事は無い。ただ頭が悪くて食欲と性欲しかねぇから……ヒビキには近づけさせられねぇけどな……やられながら喰われたくねぇだろ?俺達から離れるなよ?」
「絶対離れません」
ギルの真面目な顔にいつもの冗談ではないとわかった。
「さてと……多少の金にはなるし、耳削ぐか」
「……俺、ユーリカと一緒にいる」
さすがに見たくないので降ろして貰いユーリカに腕を組んで貰った。
「いやいや……ガンダルアのギルド長、ギルバード様のお名前はお聞きしておりましたがあのように盗……勇猛なお姿とは存じ上げませんでした」
にこにこ笑うおじさん……商人さんかな?盗賊面と言いかけた?確かにギルは強面で、俺も最初は殺されると思ったけど……。
「ギルバードさんにこんな小さなお子様がいらっしゃったとは初耳ですな」
おじさんに頭を撫でられて……ぞくぞくした悪寒が走ってユーリカを掴む手に力が籠る。ギルと触れ合える様になったけどまだ他の人は無理みたい……。
「おっさん……これでもこいつは成人してる。バカ親父が溺愛するもんでいつまでも甘ちゃんだかな……そのバカ親父が睨んでるぞ?」
ユーリカの言葉に俺もギルを見ると、ナイフでゴブリンの耳を削ぎながらギルが凶悪な顔でこちらを睨んでいた。
「ほっ!!」
おじさんは慌てて俺の頭から手をどけてくれた。
ゴブリンの死体をどうするのかと聞くと、素材にも食材にもならないからこうだ……と言ってギルは草むらの中へポイポイ投げ込んだ。
そういう事をすると魔物が寄って来るのでは……と思ったけど、森の奥まで狩りにいく手間が省けていいじゃねぇか……と、そう言う事らしいので、きっと良いのだろう。
ーーーーーー
何かお礼を……と言うおじさんの言葉に甘えて俺達の目的の街ランドホールとおじさんの目的の街ユイナスカの分かれ道まで牛みたいな魔物が引く、荷車に乗せてもらえる事になった。
ゆっくりと進む荷車の横をギルとユーリカは護衛する様に歩いている。
楽だけど背中にある箱の中身がゴブリンの好物の魔物の胆だと思うとちょっと落ち着かない。
だけどお守りのおかげか、その後は何事も無く荷車は背の高い草の群生地を抜けた。
なだらかな道に操縦席に座るおじさんが進路を魔物に任せてこちらを振り返った。
「お疲れでしょう。この間知り合った冒険者の方から面白い食べ物を譲って頂きましてな……一つどうですかな?」
おじさんが広げた包みの中には琥珀色のガラス玉。
「何だこりゃ?」
「……飴?」
「ご子息様はご存知でしたか。このアメという物はリートルビーという蜂の魔物の蜜を固めた物らしいのですが、口の中でゆっくり溶かすとこれが何とも言えない甘味でして……」
ユーリカは興味津々で、一つ受け取ると口へ入れた。
「ん、これは……面白いな。どうやって固めてんだろ?」
「……俺には甘過ぎるな……」
ギルもつられて口に入れたがギルは苦手だった様だ。
「ほっほっ、ギルバードさんにはこちらの方が宜しかったですかな?」
「おおっ!!」
荷物の中からおじさんが取り出したお酒の瓶を受け取り、ギルの目が輝いて……ユーリカに睨まれてる。
「てめぇは酒癖悪ぃんだ……街まで我慢しろよ?」
俺も飴を一つ貰って、太陽にかざすとキラキラ光っている。
飴……きっとその知り合った冒険者ってキースさんの事だよね。
転んで泣いてる時に『涙が止まるおまじない』って飴玉を口に入れてもらった。
オバケが怖いと泣いた時もお兄ちゃんの学校について行くと我が儘を言った時も『おまじない』と言って飴玉をくれた。
口に飴を放り込むと懐かしい様な甘さと共に優しく足をさすってもらっている様な気持ちになる。
『がんばれ……疲れが消えるおまじないだよ』
筋肉痛だった足の痛みが消えていく気がした。想像の中のお兄ちゃんの手は……キースさんの手へと変わっていた。
分かれ道で商人のおじさん達と別れた。
「さあ、行こう!!」
ギルとユーリカの腕を取って進み出す。
「どうした?えらい張り切ってるな」
早くキースさんに会いたい。
ふわふわした気持ちで足取りも軽くその日の目標を歩き抜いた。
「積み荷は何だ?」
荷台を確認するギルを持ち主の男の人は青い顔で見ている。
「その動揺……怪しいな……密輸か?」
「お前の顔が凶悪で強盗だと思われてんじゃねぇの?」
ししし……と笑うユーリカの横から俺は勢いよくギルに飛び付いた。
「ギル、カッコ良かった!!本当に強かったんだね!!」
ユーリカにやられてばかりだから、ギルの方が本当に強いのかと疑ってた。ギルは軽く片手で俺を持ち上げると嬉しそうに顔を擦り寄せてくる。
「疑ってたのかよ……一応ギルド長だったんだぞ?」
「ギルバードギルド長!!危ないところを助けて頂きありがとうございました!!」
もう一人男の人がいてユーリカが支えている……ユーリカは手に回復薬の瓶を持っているから怪我をしてたみたいだ。
「あ……貴方があのギルバード様!!失礼致しました!!私は主に薬物を取り扱ってる商人でユイナスカの街までサキシュ草とマルワナドラゴンモドキの肝や肉を運んで行く途中でして……」
「マルワナドラゴンモドキの肝か……ゴブリン達の好物だな」
「はい……なので奮発してBランクの冒険者さんを護衛にお願いしたのですが……私を庇って怪我をなされてしまい……」
ギルは倒した魔物を見て考え込む。
「この数は異常だな……」
「この間の『吸血鬼』騒ぎで東側から押されて来てたんじゃねぇの?」
ギルとユーリカのやり取りを聞きながら、俺は初めて見るゴブリンの本体にギルにしがみついていた。
耳は見慣れていたけど本体の顔は醜悪すぎて恐ろしい。
「少数なら恐れる事は無い。ただ頭が悪くて食欲と性欲しかねぇから……ヒビキには近づけさせられねぇけどな……やられながら喰われたくねぇだろ?俺達から離れるなよ?」
「絶対離れません」
ギルの真面目な顔にいつもの冗談ではないとわかった。
「さてと……多少の金にはなるし、耳削ぐか」
「……俺、ユーリカと一緒にいる」
さすがに見たくないので降ろして貰いユーリカに腕を組んで貰った。
「いやいや……ガンダルアのギルド長、ギルバード様のお名前はお聞きしておりましたがあのように盗……勇猛なお姿とは存じ上げませんでした」
にこにこ笑うおじさん……商人さんかな?盗賊面と言いかけた?確かにギルは強面で、俺も最初は殺されると思ったけど……。
「ギルバードさんにこんな小さなお子様がいらっしゃったとは初耳ですな」
おじさんに頭を撫でられて……ぞくぞくした悪寒が走ってユーリカを掴む手に力が籠る。ギルと触れ合える様になったけどまだ他の人は無理みたい……。
「おっさん……これでもこいつは成人してる。バカ親父が溺愛するもんでいつまでも甘ちゃんだかな……そのバカ親父が睨んでるぞ?」
ユーリカの言葉に俺もギルを見ると、ナイフでゴブリンの耳を削ぎながらギルが凶悪な顔でこちらを睨んでいた。
「ほっ!!」
おじさんは慌てて俺の頭から手をどけてくれた。
ゴブリンの死体をどうするのかと聞くと、素材にも食材にもならないからこうだ……と言ってギルは草むらの中へポイポイ投げ込んだ。
そういう事をすると魔物が寄って来るのでは……と思ったけど、森の奥まで狩りにいく手間が省けていいじゃねぇか……と、そう言う事らしいので、きっと良いのだろう。
ーーーーーー
何かお礼を……と言うおじさんの言葉に甘えて俺達の目的の街ランドホールとおじさんの目的の街ユイナスカの分かれ道まで牛みたいな魔物が引く、荷車に乗せてもらえる事になった。
ゆっくりと進む荷車の横をギルとユーリカは護衛する様に歩いている。
楽だけど背中にある箱の中身がゴブリンの好物の魔物の胆だと思うとちょっと落ち着かない。
だけどお守りのおかげか、その後は何事も無く荷車は背の高い草の群生地を抜けた。
なだらかな道に操縦席に座るおじさんが進路を魔物に任せてこちらを振り返った。
「お疲れでしょう。この間知り合った冒険者の方から面白い食べ物を譲って頂きましてな……一つどうですかな?」
おじさんが広げた包みの中には琥珀色のガラス玉。
「何だこりゃ?」
「……飴?」
「ご子息様はご存知でしたか。このアメという物はリートルビーという蜂の魔物の蜜を固めた物らしいのですが、口の中でゆっくり溶かすとこれが何とも言えない甘味でして……」
ユーリカは興味津々で、一つ受け取ると口へ入れた。
「ん、これは……面白いな。どうやって固めてんだろ?」
「……俺には甘過ぎるな……」
ギルもつられて口に入れたがギルは苦手だった様だ。
「ほっほっ、ギルバードさんにはこちらの方が宜しかったですかな?」
「おおっ!!」
荷物の中からおじさんが取り出したお酒の瓶を受け取り、ギルの目が輝いて……ユーリカに睨まれてる。
「てめぇは酒癖悪ぃんだ……街まで我慢しろよ?」
俺も飴を一つ貰って、太陽にかざすとキラキラ光っている。
飴……きっとその知り合った冒険者ってキースさんの事だよね。
転んで泣いてる時に『涙が止まるおまじない』って飴玉を口に入れてもらった。
オバケが怖いと泣いた時もお兄ちゃんの学校について行くと我が儘を言った時も『おまじない』と言って飴玉をくれた。
口に飴を放り込むと懐かしい様な甘さと共に優しく足をさすってもらっている様な気持ちになる。
『がんばれ……疲れが消えるおまじないだよ』
筋肉痛だった足の痛みが消えていく気がした。想像の中のお兄ちゃんの手は……キースさんの手へと変わっていた。
分かれ道で商人のおじさん達と別れた。
「さあ、行こう!!」
ギルとユーリカの腕を取って進み出す。
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