あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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初めてのキャンプ

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日が沈み、あたりが段々薄闇に沈んでいく。

この頃になると周りの様子を楽しむ元気もなく、ただ黙々と二人について歩いているだけだった。

……二人は変わらず楽しそうに話しているけれど、それすら頭に入れる余裕もなくて……元とはいえ、やはり冒険者を選んだ人間は体のつくりがもう違うんだろうな……。

「よく頑張ったな。今日はもう日が落ちた、今日はここで野営だ」

「やったぁ……疲れたぁ~」

ユーリカの言葉に気力が抜けてその場に座り込んだ。

「偉かったぞヒビキ!!ユーリカが煩ぇからおぶってやることも出来ねぇ!!倒れるんじゃねぇかとハラハラした!!」

ギルは動けなくなった俺を抱き上げて街道から少し離れた木の下に移動させてくれた。

「ヒビキが自分から願い出る迄は手を出すなって約束だったろうが」

ユーリカはギルの背中を通り過ぎさまに蹴って食事の準備を始めた。よろよろと這いながらユーリカに近づく。

「……俺も手伝う」

「今は休んでろ。旅に慣れてきたら手伝って貰うよ」

言葉に甘えて木に凭れてユーリカの作業を見守る。
コンロがわりに積んだ、石の真ん中に置かれた火属性の魔法石にギルが火をつけてユーリカは鍋を乗せると、持ってきた野菜を煮込んでいる。


役目を終えたギルは俺の隣で地図を広げて考え事をしている。

「この調子で進めば三日後には街に着くな……」

俺も地図を覗き込んだ。
2つの街の間に広がる森。
その森を避けるように曲がった街道。

「この森を抜けて通るのは危険なの?」

「ヨンフィルの森……覚えてるか?お前がいた森だ」

ここがそうなんだ。
広い森……よくギルと出会えたな……蝶々が引き合わせてくれたってギルは言ってたっけ?

「旅をするなら教えておくか……この世界には『神の住む森』と呼ばれる森がいくつもある。実際に神がいるわけじゃねぇ、危険だから子供が近づかねぇ様にって事だ……ヨンフィルの森もその1つなんだが……こういう森は魔力が不安定でな、あの『吸血鬼』みてぇに新種の魔物や特殊個体が生まれる事があるんだ」

今さらながらにそんな森に俺はいたのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「まぁ通常は森の奥から出てこねぇが……餌を求めて森を出てくるやつもいる。人間の味を覚えたヤツだ……」

ニヤ……と笑ったギルの笑顔に、急に暗闇が怖くなる。木に凭れさせていた体をギルに移動させて腕にそっとしがみついた。

「……ニヤニヤしてんなクソ親父……ヒビキ、飯出来たぞ。食欲はあるか?」

ギルの頬に膝をめり込ませたままユーリカはスープを差し出してくれた。

「ありがとう……」

ユーリカの食事は力が湧いてくる気がする……けど、お腹が膨れて満足すると暖かな焚き火の熱と共に眠気を呼んだ。

ウトウトしているとギルに肩を抱き寄せられ、ユーリカが毛布を掛けてくれた。

「ゆっくり休めよ……」

返事もろくに出来ず、目蓋が重く下がってくる。

目を閉じると……昔の記憶が甦ってきた。

テレビでやっていたキャンプ特集……羨ましいと思いながら、どうせ無駄だと口にはしなかった。
だけどその夜、お兄ちゃんが段ボールを組み立てて、上からシーツを掛けて部屋の中にテントを作ってくれた。

懐中電灯を持ち込んで二人でお母さんが作っておいてくれていた夕飯を中で食べて……二人で並んで寝た。

普段と違う雰囲気にワクワクしてずっと喋ってた俺の胸をお兄ちゃんはずっとトントンしながら話を聞いてくれたっけ……。

俺の寝相が悪くて……夜中に二人で段ボールの下敷きになって……。


「笑ってる……」

「何の夢をみてんだろうな……」

ぼやけた意識の中、二人のゆったりとした会話が聞こえる。

ギルとユーリカの声を子守唄に今度こそ眠りに落ちていった。

ーーーーーー

朝日の眩しさに目を覚ました。
ここどこだっけ……?
ぼんやりした頭で起き上がると、もう起きて朝ごはんの準備をしていた二人がこっちを振り返る。

「「おはよう、ヒビキ」」

「おはよう……ごめん、寝坊した……」

「気にするな、今は次の街まで俺達についてくる体力を残すことを考えてな」

毛布を畳んで、せめてと食器を取り出して配膳を手伝った。

朝食を取って準備を整えると街へ向けて出発をした。
暫く歩くと背の高い草が両脇に生えた道に入る。

「視界悪くて、魔物とか急に出てきそう……」

昨日のギルの話を思い出し、隣を歩くユーリカの服を掴んだ。

「まあ……この場所は危険区域ではあるな……この草の繁殖力が強くて刈ってもすぐ伸びてきて注意して通るしかねぇんだ。お前のお守りもあるし、魔物が近づいてくりゃ俺もギルもすぐに気付くよ」

「怖いなら俺の胸に飛び込んで来て良いんだぞ!!」

後ろ向きに歩きながらギルが手を広げる。

「怖いけどお守りもギルもユーリカもいるから大丈夫」

ユーリカの服を掴んだ手は離せないけれど……。

「ユーリカより俺の方が頼りになるぞ?ほら来い」

「お前にヒビキがくっついてたらもしもの時、誰が戦うんだよ。俺は無駄な体力は使わねぇ主義だ」

そんな日常のやり取りを続けていたが……急にギルとユーリカが立ち止まった。

「おい……ギル」

「ああ……誰か襲われてるな……ユーリカ、ヒビキを見てろ……」

そう言うとギルは走り出した。

誰か襲われてる?

耳をすましてみても目をこらしても何もわからない。怖々と歩いていくと緩やかな下り坂の下で荷馬車の周りでギルが戦っている。

魔物の悲鳴が聞こえる距離まで近づいた。

そういえばギルが剣を抜いてるところ初めて見るかも……。
襲ってくる魔物を大きな剣で一太刀……軽々振るってるけど……あの剣を持たせて貰った事があるが、すごく重いんだよね。

スゴい……いつものギルと別人みたい。

「ん?意外にてこずってんな……暫くここで様子見るか?」

ギルが斬っても斬っても草むらの中から魔物が次々と飛びかかってくる。さすがにギルも疲れてしまうのでは……一歩近づいた途端、魔物達が一斉にこちらを見た。

……標的にされた!?

こちらに襲い掛かって来るかと思ったけど……。

「ギィィィィィッ!!」

魔物達は一斉に声を上げて草むらの中へと消えていった。

「……何?」

「お守りの効果が見れたな。竜の泪は竜が相手に屈服した証……8匹分の竜の泪の気配にゴブリンごとき何匹集まろうが敵うわけねぇわな」

「屈服!?俺が!?」

「お前のは……友好の証っぽいな……人間に友好の情を見せる竜なんて初めて聞いたけど」

改めて……左腕の腕輪の重みを感じた。
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