あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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子はかすがい

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「てめぇは何者だ?……ただの人間です、なんて信憑性のねぇ答えは求めてねぇからな」

ルイシーさんが出ていって、四人だけになるとギルは正面に座るキースさんを睨んだ。

「……困りましたね……本当にただの人間なんですけど……」

困ったように頬を掻いて笑うキースさん。

冒険者さんが戦う場面なんて今まで見たこと無いから比較は出来ないけど……俺でもわかるぐらいキースさんは圧倒的な強さだった。

「今までてめぇみたいな奴が無名でいたのは何故だ……あの力なら王国一……世界一と言われてもおかしかねぇ筈だ」

「そう言われましても……俺がハンターでは無く、コレクターだから……ですかね?」

「コレクター……?」

ギルは怪訝そうに片眉を上げた。

「はい。主に食材となる木の実や野草を収集してます」

冒険者となる人間は大きく2つに分かれる。主に魔物を狩るハンターと薬草や宝石等の素材を集めるコレクター。

やはり派手に魔物を狩るハンターの方に注目が集まりがちで……目立たないコレクターの中でも食材とは……。

「いやぁ……皆さんあまり食に興味はないらしくて……よくバカにされてますよ」

照れたようにキースさんは笑っている。
あれだけの力があればハンターとして有名になれるのに……。

「それがなんだって、今回のこの件には首を突っ込んで来たんだ……困ってる人の為に……なんて思考の持ち主ではなさそうだが?」

「ヒビキのいる街を守りたかったからですよ」

キースさんににっこり微笑まれて……ドキッと高鳴る胸を隠すように下を向いて顔を背けた。

「…………」

そんなキースさんをギルは今にも飛び掛かろうというような物騒な顔で見てる。ハラハラと間に入ろうかどうしようか迷っているとユーリカが耳元に囁いてきた。

「きっと面白ぇもん見れるから……顔上げてよく見てな……」

面白いもの?

ギルは腕を組んで難しい顔をしたまま押し黙っていたが……いきなりガバッと床に土下座をした。

「ギル!?」

突然の行動に驚きで声を上げてしまったが、ユーリカは口を押さえて笑いを堪えている。

「頼む!!ヒビキを連れて行かねぇでくれっ!!あの子は俺の!俺の可愛い息子みてぇなもんなんだ!!この通りだっ!!」

「ギルバードさん!?顔を上げてください!!誰もあなたからヒビキを奪おうなんて考えていませんよ!」

キースさんもギルの突然の土下座に動揺してる。

「いいや!!あの金色の蝶の羽……あれは俺を助けてくれたあの蝶のもんだ!!ヒビキを天へ連れ戻しに来たんだろう!?何で今更!!こんなにあの子を愛しく思う前に迎えに来てくれていれば良かったのに!!この二人は俺の大切なもんなんだ!!頼む!!連れて行かねぇでくれ!!」

顔を上げたギルの顔は涙でグシャグシャに濡れている。
あのギルが泣いてる……それはそれでかなりの衝撃なんだけど……ギルの言葉の方が衝撃だった。

「「天……?」」

俺とキースさんの声が重なって……二人でポカンとギルを見下ろした。

「あははははっ!!!」

固まっていた時間を動き出させたのはユーリカの笑い声だった。

「こいつ……本気でヒビキの事を『神の子』だって思ってやがんだぜ?笑えるだろ?」

「煩せぇ!!笑うなユーリカ!!」

顔を真っ赤にして怒鳴るギルを楽しそうにユーリカは見下ろしている。

「キース、あんたの蝶の形の魔力とあの化け物を瞬殺したのを見てな……『あれはあの時俺を死の淵から助けた蝶に違いねぇ!!あれは神の国の住人だ。ヒビキは何らかの理由でこの地に送られた神の子だ!!ヒビキを連れ戻しに来たに決まってる!!』って言い張って聞かなくてよ……ぷっ、くくく……」

…………俺が神の子?

あまりに突拍子のないギルの思考にちょっとついていけないけれど……それだけギルに大切に思われているかと思うと……嬉しくて……でも照れ臭くて隠そうとして、顔がにやける。

「残念ながら神の国の住人でも何でもありません。普通にこの地で普通に人間の両親から産まれてきました。まあ……魔力は人より多いですけど普通に人間です。今回この調査を受けたのは、優しくしてくれたヒビキへの恩返しですよ」

キースさんはギルの奇行を優しく受け止めてギルに立ち上がるように手を差し出した。

ギルは誘われる様にその手を握りしめた。

「本当か!?じゃあヒビキはまだ俺の側に居てくれるんだな!?」

「それは……ヒビキの気持ち次第でしょうけど……」

キースさんの言葉にギルは俺に目を向けた。
いきなり話を振られても……。

「えっと……俺はギルの側にいるよ?」

「ヒビキ~ッ!!」

とりあえず笑って返すとギルに思い切りタックルをされて後ろに倒れる……がギルの腕が床との衝突は防いでくれた。
俺の胸にギルの大きな顔が擦り付けられ……甘えん坊な熊が雄叫びを上げて哭いている。

「ギルは考えすぎだよ……俺が神の子とかあり得ない……」

「いや、あの時の蝶の神々しさは今でも忘れねぇ……ヒビキが俺の命を救ってくれたお陰でユーリカとも仲直りして……ちゃんと思いを言葉にして伝える事も出来たんだ。何度喧嘩してもお前がいてくれるから何度でも仲直りできた……俺がユーリカとこうしていられるのは全てお前の力だ、お前は天から遣わされた愛の子に違いねぇ!!」

俺をどれだけ大切に思ってくれているのかを語っていると見せかけて……ユーリカへの愛を語られた。

「ばっ!!馬鹿野郎!!何こっ恥ずかしい事、真顔で言ってやがる!!」

ユーリカは照れ隠しにギルの背中を蹴っている。

「俺は二人の役に立っているみたいで……光栄です」

二人の時間を俺が邪魔してるんじゃ無いかって……あの噂のせいで少なからずユーリカは傷ついているんじゃないかって思ってたから……二人の仲を取り持つのに役立ってるなら良かった……のかな?
俺のせいで誰かの仲が壊れるなんて辛すぎるもんね。

「あの……俺はもう良いでしょうか?」

寸劇においてけぼりをくらっていたキースさんが声を掛けづらそうに困っていた。

「すみません……お恥ずかしいところをお見せしました」

「恥ずかしくなんてあるか!!俺にとっては吸血鬼騒動より一大事だったんだぞ!!」

「わかったからちょっとギルは黙って……んぐっ!!」

キースさんの側へ行きたいと体を捻らせてギルの腕から抜け出そうとしたけれど逆に強く抱き締められて顔をギルの胸に押し付けられる。

「二股なんて……と思いましたが、ヒビキともちゃんと愛しあっているんですね……それでは俺はこれで失礼します。ギルバードさん、ヒビキを幸せにするって約束……忘れないでくださいね」

キースさんの声と足音と……扉の開く音がする。

待って、待って!!俺が好きなのはキースさんなのに!!
もがけばもがくほどギルの腕の力は強くなる。そして無情にもパタンと扉の閉まる音がした。

ギルの……ギルのバカ~ッ!!
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