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一瞬の出来事
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「へぇ~……」
「へぇ~て……お前なぁ……もっとこう、なんか感想はないのかよ」
ギルの昔話を聞き終わった俺の素直な感嘆の声に、ギルは肩を落とした。
「え……だって命の恩人って言われても身に覚えないし……」
どこか他人の話みたい……でも……。
「ギル……俺を養子にしてくれるつもりだったんだ」
家族に……してくれるつもりだったんだ。
嬉しくて胸がほんわりと温かくなる。
ギルとユーリカと……家族かぁ……良いなぁ。
思わずにやけて緩む口許を手で隠した。
「『お父さんとお母さんは絶対迎えに来てくれる』って涙を堪えて待ち続けるお前に……結局言えなかったけどな……俺の養子になるって事は、家族を諦めさせることになっちまう……それが今更……」
「今更って何が……「なんだこれはっ!!」
突然ギルは魔法石の板を掴んで立ち上がった。
慌てたギルの様子に俺も回り込んで魔法石を覗いてみた。
そこに映っていたのは……キースさんだ。ギルは調査団の映像を見ていたのか……あ、ルイシーさんもいる。ルイシーさんも調査団に入ってたんだ。
映像の視点が動いて……奇妙な物が映し出された。
「何これ……」
震える手でギルの腕を掴んだ。
目を反らしたいのに反らせない。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
吸血鬼の姿は俺の想像していた物とはまるで違った。
人型でも獣型でも虫型でもなく……植物。毒々しい形をしたデカい花。
まるで触手の様に根をくねらせて動いている……そのうちの一本の触手の先に人が捕まっていて……触手がどくどくと動く……赤い花弁だと思ったのは張り巡らされた血管で、あの赤は全て被害者の血液。
「お前らっ!!早く逃げろ!!」
音声通信に切り替えたのか現場の混乱した悲鳴が部屋に響く。
ギルの声が届いているのか届いていないのか冒険者達は対峙する者、逃げまどう者、腰を抜かし動けない者など……混乱に陥っている。
触手が冒険者達を襲い、各々の武器で応戦するが全てぶよぶよの体でぬるりとかわされて……歯を剥き出しにした様な触手の先が冒険者の体に蛭の様に食らい付いていく……。
『くそぉっ!!離せっ!!』
ルイシーさんが捕らえられた冒険者を助けようと触手に斬りかかるが、ダメージを与えることは出来ず別の触手がルイシーさんを狙って襲いかかっていく。
「ルイシーさん!!」
思わず叫んだ俺の目に映ったのは……ショートソード一本で全ての触手を切り裂き冒険者達を解放したキースさんの姿。
『……ヒビキ……貴方を悲しませるような事はしませんよ。みんな無事に帰還させます』
「キースさん……」
「ショートソード一本で……か……」
その姿にギルも口を閉じることを忘れてみいっている。
化け物と正面から向き合ったキースさんの背中には……金色の光が片方だけだけど蝶の羽の様に広がっていた。
他の冒険者達も騒ぐのを忘れ呆然とキースさんの姿を見つめている。
新たに生えた無数の触手が一斉にキースさんに向かったが……一瞬だった……キースさんがショートソードを横一閃に振ったそれだけで化け物は真っ二つに裂かれ動かなくなった。
俺とギルも唖然として動けなかったが現場の方もみんな固まっていた。
静寂の中でキースさんがこちらへ歩いて来る。
『ギルバードギルド長。新種の魔物は駆除完了です。今日は怪我人もいますので野営をして……明日の遅くか、2日後には魔物の死体を持って帰還しますので準備をお願いします』
あの化け物を退治した人物とは思えない柔和な笑顔でキースさんはギルへ報告する。
「あ……ああ……」
ギルもまだ混乱しているのかそれだけを返した。
『ヒビキ、怖い魔物は退治しましたので、もうそんな不安な顔をしないでください』
魔石の中でキースさんが微笑む。
そうか、こっちの映像も向こうにいっているのか。
「あの……キースさん。みんなを守ってくれてありがとうございます」
『ヒビキが見てると思ったら少し張り切り過ぎてしまいました……そうだ!!ここへ来る途中で面白い物を見つけたのでお土産に持って帰ります。楽しみにしていてください』
「はあ……」
この地域を騒がせていた化け物との戦いの後とは思えない緊張感の無い会話を最後に映像は途絶えた。
「昨日の今日で……こんな近くまで来てやがったのか……」
ここ数日の悩みの種が退治されて、ギルはズルズルと椅子に凭れた。
「キースさん……カッコ良かったねぇ……」
まだ胸がドキドキしてる。
「ヒビキ!?お前まさかっ!!」
ギルは勢い良く立ち上がって俺の肩を掴んだ。その顔は微妙な顔をしている。
「まさか、何?」
「いや……何でもない」
……?変なギル。
ギルは放って置いて、先程の映像を頭の中でよみがえらせた。
安いショートソードでもあんなに戦えるんだ……凄いなぁ。
あの片翼の蝶の様な光……強い魔力を持った人間は、その魔力が高まった時に体の外に溢れ出すんだって前に聞いた事がある。
ギルとユーリカの魔力も見せてもらったけどギルは赤い光がユーリカは黄色い光が体を覆う鎧の様に包み込んでいた。
それと似ている様で全然違う……魔力の高まりではないのだろうか?
俺は圧倒的な力で化け物を退治したキースさんに、単純に尊敬の念を抱いたけれど……。
「……何であんな奴が今まで無名で……それにあの魔力の形……やっぱりあいつは……あの時の……」
ギルは逆にキースさんへ疑惑を強くしたみたいで何かを呟きながら考え込んでいる。
……手首が熱を持っている。その熱がいとおしく思えて、頬を擦り付けて唇を寄せた。
「へぇ~て……お前なぁ……もっとこう、なんか感想はないのかよ」
ギルの昔話を聞き終わった俺の素直な感嘆の声に、ギルは肩を落とした。
「え……だって命の恩人って言われても身に覚えないし……」
どこか他人の話みたい……でも……。
「ギル……俺を養子にしてくれるつもりだったんだ」
家族に……してくれるつもりだったんだ。
嬉しくて胸がほんわりと温かくなる。
ギルとユーリカと……家族かぁ……良いなぁ。
思わずにやけて緩む口許を手で隠した。
「『お父さんとお母さんは絶対迎えに来てくれる』って涙を堪えて待ち続けるお前に……結局言えなかったけどな……俺の養子になるって事は、家族を諦めさせることになっちまう……それが今更……」
「今更って何が……「なんだこれはっ!!」
突然ギルは魔法石の板を掴んで立ち上がった。
慌てたギルの様子に俺も回り込んで魔法石を覗いてみた。
そこに映っていたのは……キースさんだ。ギルは調査団の映像を見ていたのか……あ、ルイシーさんもいる。ルイシーさんも調査団に入ってたんだ。
映像の視点が動いて……奇妙な物が映し出された。
「何これ……」
震える手でギルの腕を掴んだ。
目を反らしたいのに反らせない。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
吸血鬼の姿は俺の想像していた物とはまるで違った。
人型でも獣型でも虫型でもなく……植物。毒々しい形をしたデカい花。
まるで触手の様に根をくねらせて動いている……そのうちの一本の触手の先に人が捕まっていて……触手がどくどくと動く……赤い花弁だと思ったのは張り巡らされた血管で、あの赤は全て被害者の血液。
「お前らっ!!早く逃げろ!!」
音声通信に切り替えたのか現場の混乱した悲鳴が部屋に響く。
ギルの声が届いているのか届いていないのか冒険者達は対峙する者、逃げまどう者、腰を抜かし動けない者など……混乱に陥っている。
触手が冒険者達を襲い、各々の武器で応戦するが全てぶよぶよの体でぬるりとかわされて……歯を剥き出しにした様な触手の先が冒険者の体に蛭の様に食らい付いていく……。
『くそぉっ!!離せっ!!』
ルイシーさんが捕らえられた冒険者を助けようと触手に斬りかかるが、ダメージを与えることは出来ず別の触手がルイシーさんを狙って襲いかかっていく。
「ルイシーさん!!」
思わず叫んだ俺の目に映ったのは……ショートソード一本で全ての触手を切り裂き冒険者達を解放したキースさんの姿。
『……ヒビキ……貴方を悲しませるような事はしませんよ。みんな無事に帰還させます』
「キースさん……」
「ショートソード一本で……か……」
その姿にギルも口を閉じることを忘れてみいっている。
化け物と正面から向き合ったキースさんの背中には……金色の光が片方だけだけど蝶の羽の様に広がっていた。
他の冒険者達も騒ぐのを忘れ呆然とキースさんの姿を見つめている。
新たに生えた無数の触手が一斉にキースさんに向かったが……一瞬だった……キースさんがショートソードを横一閃に振ったそれだけで化け物は真っ二つに裂かれ動かなくなった。
俺とギルも唖然として動けなかったが現場の方もみんな固まっていた。
静寂の中でキースさんがこちらへ歩いて来る。
『ギルバードギルド長。新種の魔物は駆除完了です。今日は怪我人もいますので野営をして……明日の遅くか、2日後には魔物の死体を持って帰還しますので準備をお願いします』
あの化け物を退治した人物とは思えない柔和な笑顔でキースさんはギルへ報告する。
「あ……ああ……」
ギルもまだ混乱しているのかそれだけを返した。
『ヒビキ、怖い魔物は退治しましたので、もうそんな不安な顔をしないでください』
魔石の中でキースさんが微笑む。
そうか、こっちの映像も向こうにいっているのか。
「あの……キースさん。みんなを守ってくれてありがとうございます」
『ヒビキが見てると思ったら少し張り切り過ぎてしまいました……そうだ!!ここへ来る途中で面白い物を見つけたのでお土産に持って帰ります。楽しみにしていてください』
「はあ……」
この地域を騒がせていた化け物との戦いの後とは思えない緊張感の無い会話を最後に映像は途絶えた。
「昨日の今日で……こんな近くまで来てやがったのか……」
ここ数日の悩みの種が退治されて、ギルはズルズルと椅子に凭れた。
「キースさん……カッコ良かったねぇ……」
まだ胸がドキドキしてる。
「ヒビキ!?お前まさかっ!!」
ギルは勢い良く立ち上がって俺の肩を掴んだ。その顔は微妙な顔をしている。
「まさか、何?」
「いや……何でもない」
……?変なギル。
ギルは放って置いて、先程の映像を頭の中でよみがえらせた。
安いショートソードでもあんなに戦えるんだ……凄いなぁ。
あの片翼の蝶の様な光……強い魔力を持った人間は、その魔力が高まった時に体の外に溢れ出すんだって前に聞いた事がある。
ギルとユーリカの魔力も見せてもらったけどギルは赤い光がユーリカは黄色い光が体を覆う鎧の様に包み込んでいた。
それと似ている様で全然違う……魔力の高まりではないのだろうか?
俺は圧倒的な力で化け物を退治したキースさんに、単純に尊敬の念を抱いたけれど……。
「……何であんな奴が今まで無名で……それにあの魔力の形……やっぱりあいつは……あの時の……」
ギルは逆にキースさんへ疑惑を強くしたみたいで何かを呟きながら考え込んでいる。
……手首が熱を持っている。その熱がいとおしく思えて、頬を擦り付けて唇を寄せた。
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