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殴られる覚悟も決めて、家の中へ入るなり頭を下げた。
「ギル、あの……勝手に人を家にあげてごめんなさい!!」
頭を下げた俺をギルが見下ろしてくる視線を感じる。
「今日はたまたまユーリカがいたから良かったが、あんなどこのどいつかもわからねぇヤツを家にあげて、何かあったらどうするんだ!!」
キースさんはそんな悪いことするような人には見えなかった。
けど……俺よりはギルの目の方が鋭いだろうし、ギルが駄目と言うなら駄目なんだ。
「ごめんなさい……もうしない……」
いつもギルには知らない人について行ってはいけないと注意されていたのに、目の前の米に我を忘れてしまっていた。
「ギル、落ち着け。ヒビキももう成人を迎えたんだ。そろそろ自分の身は自分で守れる様に教えるべきだろう?お前は過保護過ぎないか?」
「うるせぇ!!これはうちの問題だ!!部外者のてめぇは口出しするなっ!!」
俺を庇おうとしてくれたユーリカへギルが怒鳴り声をあげて、ユーリカは肩を竦めた。
キースさんもユーリカも何も悪く無いのに……俺がギルの言いつけを守らなかったから……俺が……俺のせいで。
「はいはい……じゃあ部外者は消えるよ……悪ぃ、またなヒビキ」
ユーリカも家を出ていって……ギルと二人残された。
沈黙が続く。
叱るなら早く叱って欲しい。
「あの……えっと、ギル……俺……」
ギルの太い腕に力強く抱き締められる。
「俺は、お前が心配なんだよ」
「わかってる……心配掛けてごめんなさい」
ユーリカのいる前ではけして見せない、情けなく眉を垂れさせたギルの顔。大きな体で俺にしがみついてくるギルの頭を撫でた。
ギルが過剰に怒る理由……まだギルに保護されたばかりの頃……ギルの留守中に、俺の父親を名乗る見ず知らずの男に引き渡されかけた事があったからだ。奴隷商人の人だったらしいと後から聞いた。
その事があって、ギルが未だに心配してくれているのは知ってる……でも、おにぎり……食べたかったな。
物が散らかった部屋の片付けは後回しにした。
昼休みで抜けてきただけなので、とりあえず二人で仕事に戻った。
仕事から帰って拾い集めたカオカオの実をなんとなくで煮込んで見たけれど味の無いお粥の様な仕上がりで終わった。
しかし確信した……これは上手く炊くことが出来ればやっぱり米だ。
しかし量も分からなかったから適当にやったら大量にお粥が出来て、カオカオの実もほとんど無くなってしまって……おにぎりの夢は遠くへ消えた。
ーーーーーーーーーー
仕分け係のイグルさんが分けた薬草類を種類毎に10本ずつ束ねていく。
束ねた物を木箱に入れて出荷口に積み上げているといきなり後ろから抱きつかれた。
「ヒッビキちゃ~ん、頑張って働いて、偉いねぇ~」
「ルイシーさん、危ないからやめてくださいよ」
大切な商品を運んでるのに……。
この街を中心に活動している冒険者のルイシーさんはよくこうやって抱きついてくる。
小さい頃から顔なじみで……そのせいか、いつまでも子供扱いをされる。
「ルイシー……お前ギルド長に見つかったらまた診療所送りにされるぞ」
イグルさんが呆れた様にルイシーさんの肩を叩いた。ルイシーさんがどこまで本気なのかは知らないけれど、こうして冒険の合間の休息日はよく会いに来て俺に愛を語っていく不毛な休日の過ごし方。
「え~ギルド長にはユーリカって美人な恋人がいるのにヒビキまで愛人として囲うとかズルくね~?ユーリカだってずっと献身的に支えてきたのにさ……裏切りだろう?」
「じゃあギルド長に勝って奪えよ、勝てもしないのにグダグダ言うなよな」
この世界は強さこそが全て……なところがある。
強い男の周りには女性が集まる。
ギルは男の人が好きだからアレだけど。
欲しい物は力で奪うという原始的な世界。
力の無い俺は完璧に搾取される側の人間だ。
「こんな小さな体があのギルド長に無茶させられてるのかと思うと……ヒビキちゃん、俺と一緒に違う国に逃げようよ?」
密着したままの腰に固いモノがあたって……グリグリと押し付けられる。
「やめとけって。あ、ギルド長!!」
「ひっ!!すんません……て、あれ?」
イグルさんの言葉に慌てて飛び退いて土下座をしたルイシーさんを見てイグルさんは大笑いしている。
「はははっ!!そんな小心者にヒビキの相手は無理だな。帰った、帰った」
イグルさんに軽くあしらわれ、ルイシーさんはバツが悪そうに去って行った。
「ヒビキ、ちゃんと断らないと駄目だぞ。お前に手出しされたら、俺たちがギルド長にしぼられちまうんだからな」
ルイシーさんが消えて、イグルさんは溜め息を吐いて仕事を再開させた。俺も手を動かす。
「はい……すみませんでした」
俺は『ギルの愛人』……それがこのギルド内で俺に対する共通認識。
小さい頃は意味がよく分かっていなかったけれど今は『愛人』の意味も『ギルの愛人』である意味も理解出来る。
みんなが何の取り柄もない俺に優しくしてくれるのは俺が『ギルの愛人』だから。
俺は……ギルがいなければ何も残らない。
曖昧に笑って、見上げた空は……それぞれ逆側から昇ってきた二つの光が真上で交差するところだった。
ーーーーーー
「響は相変わらず素直で良い子だったよ……君の願いは必ず叶えるからね……悟詩」
「ギル、あの……勝手に人を家にあげてごめんなさい!!」
頭を下げた俺をギルが見下ろしてくる視線を感じる。
「今日はたまたまユーリカがいたから良かったが、あんなどこのどいつかもわからねぇヤツを家にあげて、何かあったらどうするんだ!!」
キースさんはそんな悪いことするような人には見えなかった。
けど……俺よりはギルの目の方が鋭いだろうし、ギルが駄目と言うなら駄目なんだ。
「ごめんなさい……もうしない……」
いつもギルには知らない人について行ってはいけないと注意されていたのに、目の前の米に我を忘れてしまっていた。
「ギル、落ち着け。ヒビキももう成人を迎えたんだ。そろそろ自分の身は自分で守れる様に教えるべきだろう?お前は過保護過ぎないか?」
「うるせぇ!!これはうちの問題だ!!部外者のてめぇは口出しするなっ!!」
俺を庇おうとしてくれたユーリカへギルが怒鳴り声をあげて、ユーリカは肩を竦めた。
キースさんもユーリカも何も悪く無いのに……俺がギルの言いつけを守らなかったから……俺が……俺のせいで。
「はいはい……じゃあ部外者は消えるよ……悪ぃ、またなヒビキ」
ユーリカも家を出ていって……ギルと二人残された。
沈黙が続く。
叱るなら早く叱って欲しい。
「あの……えっと、ギル……俺……」
ギルの太い腕に力強く抱き締められる。
「俺は、お前が心配なんだよ」
「わかってる……心配掛けてごめんなさい」
ユーリカのいる前ではけして見せない、情けなく眉を垂れさせたギルの顔。大きな体で俺にしがみついてくるギルの頭を撫でた。
ギルが過剰に怒る理由……まだギルに保護されたばかりの頃……ギルの留守中に、俺の父親を名乗る見ず知らずの男に引き渡されかけた事があったからだ。奴隷商人の人だったらしいと後から聞いた。
その事があって、ギルが未だに心配してくれているのは知ってる……でも、おにぎり……食べたかったな。
物が散らかった部屋の片付けは後回しにした。
昼休みで抜けてきただけなので、とりあえず二人で仕事に戻った。
仕事から帰って拾い集めたカオカオの実をなんとなくで煮込んで見たけれど味の無いお粥の様な仕上がりで終わった。
しかし確信した……これは上手く炊くことが出来ればやっぱり米だ。
しかし量も分からなかったから適当にやったら大量にお粥が出来て、カオカオの実もほとんど無くなってしまって……おにぎりの夢は遠くへ消えた。
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仕分け係のイグルさんが分けた薬草類を種類毎に10本ずつ束ねていく。
束ねた物を木箱に入れて出荷口に積み上げているといきなり後ろから抱きつかれた。
「ヒッビキちゃ~ん、頑張って働いて、偉いねぇ~」
「ルイシーさん、危ないからやめてくださいよ」
大切な商品を運んでるのに……。
この街を中心に活動している冒険者のルイシーさんはよくこうやって抱きついてくる。
小さい頃から顔なじみで……そのせいか、いつまでも子供扱いをされる。
「ルイシー……お前ギルド長に見つかったらまた診療所送りにされるぞ」
イグルさんが呆れた様にルイシーさんの肩を叩いた。ルイシーさんがどこまで本気なのかは知らないけれど、こうして冒険の合間の休息日はよく会いに来て俺に愛を語っていく不毛な休日の過ごし方。
「え~ギルド長にはユーリカって美人な恋人がいるのにヒビキまで愛人として囲うとかズルくね~?ユーリカだってずっと献身的に支えてきたのにさ……裏切りだろう?」
「じゃあギルド長に勝って奪えよ、勝てもしないのにグダグダ言うなよな」
この世界は強さこそが全て……なところがある。
強い男の周りには女性が集まる。
ギルは男の人が好きだからアレだけど。
欲しい物は力で奪うという原始的な世界。
力の無い俺は完璧に搾取される側の人間だ。
「こんな小さな体があのギルド長に無茶させられてるのかと思うと……ヒビキちゃん、俺と一緒に違う国に逃げようよ?」
密着したままの腰に固いモノがあたって……グリグリと押し付けられる。
「やめとけって。あ、ギルド長!!」
「ひっ!!すんません……て、あれ?」
イグルさんの言葉に慌てて飛び退いて土下座をしたルイシーさんを見てイグルさんは大笑いしている。
「はははっ!!そんな小心者にヒビキの相手は無理だな。帰った、帰った」
イグルさんに軽くあしらわれ、ルイシーさんはバツが悪そうに去って行った。
「ヒビキ、ちゃんと断らないと駄目だぞ。お前に手出しされたら、俺たちがギルド長にしぼられちまうんだからな」
ルイシーさんが消えて、イグルさんは溜め息を吐いて仕事を再開させた。俺も手を動かす。
「はい……すみませんでした」
俺は『ギルの愛人』……それがこのギルド内で俺に対する共通認識。
小さい頃は意味がよく分かっていなかったけれど今は『愛人』の意味も『ギルの愛人』である意味も理解出来る。
みんなが何の取り柄もない俺に優しくしてくれるのは俺が『ギルの愛人』だから。
俺は……ギルがいなければ何も残らない。
曖昧に笑って、見上げた空は……それぞれ逆側から昇ってきた二つの光が真上で交差するところだった。
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