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米との出会い
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こうしてギルドに保護された俺だったが、今はギルバードギルド長……ギルの家に居候をしている。
何日待っても俺の親が迎えに来ることはなかった。
子供心にわかっていた。
ここは俺が住んでいた地球じゃない。
だって竜がいるし、太陽が2つある。
俺は……どこか違う世界に迷い込んでしまったんだとわかった時、待っても誰も迎えにきてくれる事は無いと悟った。
いつまでも引き取り手のこない俺に優しいギルは同情してくれたのだろう。住む場所を与えてくれて、こうしてギルドで働かせて貰っている……いつまでたっても雑用だけど。
ギルドを訪れる冒険者は荒い男性が多いので……やんわり笑顔でかわせる術を身に付けた女の人か、冒険者に負けない力……ギルの様な男の人なら受付をやれた。
鑑定のスキルでもあれば買取カウンターで働けた。
技術と知識と腕力があれば解体場で働けた。
魔力があれば事務として働けたのに……。
各国にあるギルド間の通信や新しく登録する冒険者の記録を残したりするのには魔力を必要とする道具を使う。
魔力のない俺に出来る事と言えばクエストで集められた依頼品の数を数えたり、部署から部署へ物を運んだりするぐらい。
翼竜の餌入れを元の位置へ戻すと次の仕事を頼まれた。
「借りてた鑑定魔石を買取カウンターへ返しに行ってくれるか」
箱を渡され……結構重い……。
買取カウンターは別棟……渡り廊下を渡り……腕がプルプルしてきて、落とさないよう歯を食いしばりながら必死に買取カウンターを目指した。
「借りてた鑑定魔石の返却に来ました……」
肩で息をするのを必死に隠しながら魔石の入った箱を机に置いた。
「ああヒビキ!!ちょうど良かった!!トイレ行きたくて我慢してたんだ、他の奴は昼飯にいっちまってて……冒険者がきたら物を預かってこの番号札を渡しといてくれ!!」
鑑定士のロジーさんは俺が返事をする間もなく走り去って行った。
よっぽど我慢してたんだなぁ。
雑用でどこの部署にも所属してない俺は行く先々で仕事を貰う。
鑑定スキルを持ってないので勝手に買い取りは出来ないけれど、受付くらいなら出来るかな?
店番に窓口の椅子に座って帰りを待った。
冒険者の人たちもお昼を食べているのか、この時間に窓口に来る人はいなかった。
カウンターに置かれた鑑定魔石越しに自分の手を見る。
鑑定魔石はその名の通り、この魔石越しに見るとレベルの低い物なら誰でも詳細が見えるという代物。
しかし、微量だが魔力が必要らしく俺には扱えない。
魔石を持ち上げて部屋中を覗いてみるが何も表示されない。
前を向き直した瞬間、魔石越しに人の顔が見えた。
「わっ!!」
後ろに椅子ごと倒れそうになった腕を掴んでもらって助かった。
「すみません……助かりました」
「いえ、俺も驚かせてしまってすみません」
人の良さそうな笑顔の男の人。冒険者にしては腰が低くてゆったりした雰囲気だ。
そしてかなり軽装。
えっと……売りにきた物を預かって番号札を渡してって言ってたよな。
「買い取りですか?」
「はい……これなんですけど……」
そう言って男はカウンターの上に袋を乗せて中身を見せてくれた。
俺は鑑定士じゃないから見ても無駄なんだけど……ちょっとした好奇心で中を覗き込んだ。
「これは……」
……米?
中には白く艶やかな小さな粒がいっぱい。それは懐かしいお米に良く似ていた。
「これは『カオカオの実』と言って俺の村でよく食べられていた物なんです。お願いします。買い取って下さい」
すごく必死に詰め寄られるけど、鑑定士でもない俺にその権限はない。
取り敢えず番号札を渡して待っていてもらおうと番号札を取り出す。
「ヒビキ悪いな。助かったよ」
ちょうどロジーさんが帰って来てくれた。
「……ヒビキ」
ロジーさんの言葉を聞いて冒険者に名前を呼ばれ振り返ると冒険者さんもこちらを見ていた。
「お帰りなさい、この冒険者さんが買い取りお願いしますって……」
席を変わって、本棟へ戻るべきなんだけど……。
どう見ても『米』な『カオカオの実』が気になって仕方ない。
この世界、主食がパンっぽい物だった。
パンと呼んでいいかわからない。
まずふっくらしてない……身のつまり過ぎた……食パンを手でギュッギュッと握った様な物。
みんな食事に関心がないのか、肉は味付けなく焼いただけ。
どんな野菜も同じ様にドロドロに煮込んだスープになる。
お腹を膨らませるだけの食事。
「煮込めば柔らかくなりますが、実のままで保存も利きますし、保存食に……」
冒険者さんが必死に売り込むけれど、ロジーさんは難色を示す。
「買い取ったところでこの街では買い手がつきませんね……この袋全部で銅貨1枚がいいところですかね」
「これ全部で銅貨1枚……20食分はあるのに……」
ロジーさん!!何で買わないの!?買い取ってくれたら俺が買うのに!!
それでも俺は鑑定士ではないのでロジーさんの仕事に口出しは出来ない。
俺の心はお米に似たあの『カオカオの実』にすっかり囚われてしまっていたが、冒険者さんは悩んだ末に袋を持って帰ってしまった。
俺は走って本棟に戻ると真っ直ぐギルド長室ヘ向かった。
「ギル!!今日のお昼は外で食べてくるから俺の分のお弁当も食べてて!!お昼休み行ってきます!!」
「おい!!ヒビキ!!」
ギルの返事も聞かずに貯金箱を掴んで部屋を飛び出した。
何日待っても俺の親が迎えに来ることはなかった。
子供心にわかっていた。
ここは俺が住んでいた地球じゃない。
だって竜がいるし、太陽が2つある。
俺は……どこか違う世界に迷い込んでしまったんだとわかった時、待っても誰も迎えにきてくれる事は無いと悟った。
いつまでも引き取り手のこない俺に優しいギルは同情してくれたのだろう。住む場所を与えてくれて、こうしてギルドで働かせて貰っている……いつまでたっても雑用だけど。
ギルドを訪れる冒険者は荒い男性が多いので……やんわり笑顔でかわせる術を身に付けた女の人か、冒険者に負けない力……ギルの様な男の人なら受付をやれた。
鑑定のスキルでもあれば買取カウンターで働けた。
技術と知識と腕力があれば解体場で働けた。
魔力があれば事務として働けたのに……。
各国にあるギルド間の通信や新しく登録する冒険者の記録を残したりするのには魔力を必要とする道具を使う。
魔力のない俺に出来る事と言えばクエストで集められた依頼品の数を数えたり、部署から部署へ物を運んだりするぐらい。
翼竜の餌入れを元の位置へ戻すと次の仕事を頼まれた。
「借りてた鑑定魔石を買取カウンターへ返しに行ってくれるか」
箱を渡され……結構重い……。
買取カウンターは別棟……渡り廊下を渡り……腕がプルプルしてきて、落とさないよう歯を食いしばりながら必死に買取カウンターを目指した。
「借りてた鑑定魔石の返却に来ました……」
肩で息をするのを必死に隠しながら魔石の入った箱を机に置いた。
「ああヒビキ!!ちょうど良かった!!トイレ行きたくて我慢してたんだ、他の奴は昼飯にいっちまってて……冒険者がきたら物を預かってこの番号札を渡しといてくれ!!」
鑑定士のロジーさんは俺が返事をする間もなく走り去って行った。
よっぽど我慢してたんだなぁ。
雑用でどこの部署にも所属してない俺は行く先々で仕事を貰う。
鑑定スキルを持ってないので勝手に買い取りは出来ないけれど、受付くらいなら出来るかな?
店番に窓口の椅子に座って帰りを待った。
冒険者の人たちもお昼を食べているのか、この時間に窓口に来る人はいなかった。
カウンターに置かれた鑑定魔石越しに自分の手を見る。
鑑定魔石はその名の通り、この魔石越しに見るとレベルの低い物なら誰でも詳細が見えるという代物。
しかし、微量だが魔力が必要らしく俺には扱えない。
魔石を持ち上げて部屋中を覗いてみるが何も表示されない。
前を向き直した瞬間、魔石越しに人の顔が見えた。
「わっ!!」
後ろに椅子ごと倒れそうになった腕を掴んでもらって助かった。
「すみません……助かりました」
「いえ、俺も驚かせてしまってすみません」
人の良さそうな笑顔の男の人。冒険者にしては腰が低くてゆったりした雰囲気だ。
そしてかなり軽装。
えっと……売りにきた物を預かって番号札を渡してって言ってたよな。
「買い取りですか?」
「はい……これなんですけど……」
そう言って男はカウンターの上に袋を乗せて中身を見せてくれた。
俺は鑑定士じゃないから見ても無駄なんだけど……ちょっとした好奇心で中を覗き込んだ。
「これは……」
……米?
中には白く艶やかな小さな粒がいっぱい。それは懐かしいお米に良く似ていた。
「これは『カオカオの実』と言って俺の村でよく食べられていた物なんです。お願いします。買い取って下さい」
すごく必死に詰め寄られるけど、鑑定士でもない俺にその権限はない。
取り敢えず番号札を渡して待っていてもらおうと番号札を取り出す。
「ヒビキ悪いな。助かったよ」
ちょうどロジーさんが帰って来てくれた。
「……ヒビキ」
ロジーさんの言葉を聞いて冒険者に名前を呼ばれ振り返ると冒険者さんもこちらを見ていた。
「お帰りなさい、この冒険者さんが買い取りお願いしますって……」
席を変わって、本棟へ戻るべきなんだけど……。
どう見ても『米』な『カオカオの実』が気になって仕方ない。
この世界、主食がパンっぽい物だった。
パンと呼んでいいかわからない。
まずふっくらしてない……身のつまり過ぎた……食パンを手でギュッギュッと握った様な物。
みんな食事に関心がないのか、肉は味付けなく焼いただけ。
どんな野菜も同じ様にドロドロに煮込んだスープになる。
お腹を膨らませるだけの食事。
「煮込めば柔らかくなりますが、実のままで保存も利きますし、保存食に……」
冒険者さんが必死に売り込むけれど、ロジーさんは難色を示す。
「買い取ったところでこの街では買い手がつきませんね……この袋全部で銅貨1枚がいいところですかね」
「これ全部で銅貨1枚……20食分はあるのに……」
ロジーさん!!何で買わないの!?買い取ってくれたら俺が買うのに!!
それでも俺は鑑定士ではないのでロジーさんの仕事に口出しは出来ない。
俺の心はお米に似たあの『カオカオの実』にすっかり囚われてしまっていたが、冒険者さんは悩んだ末に袋を持って帰ってしまった。
俺は走って本棟に戻ると真っ直ぐギルド長室ヘ向かった。
「ギル!!今日のお昼は外で食べてくるから俺の分のお弁当も食べてて!!お昼休み行ってきます!!」
「おい!!ヒビキ!!」
ギルの返事も聞かずに貯金箱を掴んで部屋を飛び出した。
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