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適当な伝説
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『世界が闇に包まれし時 竜に乗りて大地に降り立つ者 光の杖を掲げ 世界に光を与えるだろう』
聖女伝説には続きがあった。
それは昔の民衆が面白おかしく付け加えた恋物語だろうけれど……何百年も昔の物語は伝承として残された。
この世界を闇から救うために現れた聖女は後に英雄と呼ばれる事となる男と恋をした。
しかし、聖女としてこの世界を救う使命を課せられた聖女は男の元を去って行った。
諦めきれない男は、聖女の為にと魔物の王として君臨していた邪竜を討ち滅ぼし、その心臓を天へ掲げると神が降臨し、世界に平和が戻った事を明言した。
使命を終え、憂いのなくなった聖女は英雄の手を取り、二人で末長く暮らしましたとさ。
その伝説に従い、ドラゴン……はさすがに無理でも強い魔物を倒してその心臓を捧げるのがプロポーズとして大流行したのだとか。
その魔物の中でも『コバットリス』という魔物は、鳥なのだが尻尾が蛇で……番になると蛇が合体して二体で一体の魔物になることから、決して離れることのない絆の証としてプロポーズの為に狩られ数を減らしたらしい。
ずっと探していたのが、今日ようやく見つけたらしく……肉が新鮮なうちにって事で急遽、決行となったとの事。
サプライズが過ぎる。
神と魔王が同じドラゴンなんだとか、二体で一体の演技のいい魔物を殺してバラして離れ離れにしてしまっているじゃないか……とか、ツッコミどころは多々あったけれど、とりあえず変な儀式でないのはよくわかった。
隊長達は夕飯を食べたはずなのに、ルノさんが解体したコバットリスでバーベキューをしている。
狩った魔物の肉を立会人になってくれた人に振る舞うのもセットらしい。ちゃっかりエルポープスとレイニート様まで混ざっていた。
「今では誰もここまで形式ばった事はしないけれど、シーナに交際を申し込むならこれぐらいしないと……と思って、シーナに言われてから色々考えていたんだけど……ごめん、シーナには喜んで貰えなかったみたいだ」
「俺に言われて?」
俺なんか言ったっけ?……もしかして……。
「俺がシーナを求める事を許してくれて嬉しかった。俺がどれだけシーナを想っているか伝えたくて神様にまで立ち合いをお願いしたのに……悪かった」
「もしかして……あの夜の話覚えてたりします?」
夜の感傷に急かされて結構小っ恥ずかしい事を言ってしまって、覚えてなさそうでちょっとホッとしてたんだけど。
「酒に酔っていようが、魔力に酔っていようがシーナの言葉を忘れるわけがないだろう」
「普段と全く変わりないから覚えてないんだと思ってました」
変わらないから覚えていないんだと思ったけど、俺の告白を聞く前と後でも変わらない思いを常に向けていてくれていたから?
誓いの様に手を握られていた手を、もう片方の手でルノさんの手ごと包み込んだ。
「心臓を受け取るのは厳しいですけど……あの続きはどうしたら良いんですか?」
「求愛を受け入れる時は口づけを、拒否する時は……」
ルノさんが言い切らないうちに誓いのキスを押し付けた。
「こちらこそ……」
言い終わらないうちに強く抱きしめられて、続きの言葉は声にする事はできない。
不束者ですが、よろしくお願いします……ギュッとルノさんの体に抱きついた。
ギュッどころでは無い、殺意すら覚える締め付けを感じた。
「良かったな!!お前ら!!まあ今更だかなぁ」
ルノさんと俺をまとめて隊長は強く抱きしめてきた。
「神の見届けた誓いだ!!二人の絆は永遠に結ばれたも同然だな!!」
エルポープスも肉を頬張りながら嬉しそうに笑っていた。
隊長には今更と言われたけれど、いまさらながらルノさんとお付き合いさせていただく事になりましたと宣言すると、隊員のみんなから代わる代わるお祝いの言葉を貰い、祭壇に二人で並んで、楽しそうに焼肉を焼くみんなの姿を眺めていた。
立会人だけでなく二人を認める者は、その魔物の肉を食べて祝福するらしいのだが……多くないか?
マルトリノさんやカカルさん、ナタリアさんがカイとリーナを連れてきてくれている。
それだけじゃなくて、会釈友達になったおじちゃん、ククの実を売ってくれたおじちゃん……名前は知らないけど、石窯焼きのお店の店長さんまで……詰所の中庭に顔も知らない人たちが入れ替わり立ち替わり、コバットリスの肉を持って行っている。
「さすが長年警備隊をやってきただけはありますね」
あまり交流していなさそうで、しっかり街の人から信頼を寄せられていたんだな。
「違うだろ。この街でシーナは伝説の聖女様だからね」
「え、なんで?」
「神の国から帰ってきた時の姿は街の人間全てに見られていたからね。あの姿を見て聖女様だと騒ぎになったんだよ」
以前見せてもらった絵を思い出す。
ドラゴンは確かにエルポープスだったけど、俺は男だし、白いドレスは白いエプロンだし、聖なる杖は鍬でしたけど?割とアバウトな聖女伝説だな。
「他の街からも人が押し寄せてきて、一時期大変だったらしいよ。聖女は旅立ったって事で俺たちが帰ってきた時は落ち着いてたみたいだけど」
未開の地に旅立っていた時か……外に出てて良かった。
隊長達がもう帰ってきたのかと嫌な顔をしたのは、新居の事だけでなく騒ぎがもう少し落ち着いてからにって気持ちもあったのかも。
「シーナは嫌がるだろうから普通に接する様にって隊長とレイニート様が街の人にはしっかり言い聞かせてくれたみたいだね。でもこんなにたくさんの人がシーナの幸せを願ってくれているんだ……俺は責任重大だな」
いく先々で聖女なんて言われたら確実に引き籠り案件だな。
「そうですね……ルノさんの肩に掛かる責任は重いですよ。だから……ルノさんもずっと俺の側で笑っていてくださいね」
1番の心配事はまだ胸に引っかかっているものの、今はこの幸せな気分に酔っていたい。
「ルノさん、今度準備ができたら俺の世界での求愛をやっても良いですか?俺からも……俺の覚悟をルノさんにも知って欲しいです」
バーベキューの賑やかな灯りに照らされていた顔が、こんな暗さの中でもわかるぐらい赤くなって、握っていた手にじんわりと汗が滲んだ。
俺の可愛い人だ。
俺だって男なわけで、好きな人の笑顔を守らなきゃって思うわけで……。
「幸せにします。幸せになりましょう……」
大きな二体分のコバットリスの肉は早々に配り終えて、追加の魔物肉が振る舞われた。
それで良いのか?本当にアバウト……でも、みんな美味しそうに食べてくれているから良いのかな。
聖女伝説には続きがあった。
それは昔の民衆が面白おかしく付け加えた恋物語だろうけれど……何百年も昔の物語は伝承として残された。
この世界を闇から救うために現れた聖女は後に英雄と呼ばれる事となる男と恋をした。
しかし、聖女としてこの世界を救う使命を課せられた聖女は男の元を去って行った。
諦めきれない男は、聖女の為にと魔物の王として君臨していた邪竜を討ち滅ぼし、その心臓を天へ掲げると神が降臨し、世界に平和が戻った事を明言した。
使命を終え、憂いのなくなった聖女は英雄の手を取り、二人で末長く暮らしましたとさ。
その伝説に従い、ドラゴン……はさすがに無理でも強い魔物を倒してその心臓を捧げるのがプロポーズとして大流行したのだとか。
その魔物の中でも『コバットリス』という魔物は、鳥なのだが尻尾が蛇で……番になると蛇が合体して二体で一体の魔物になることから、決して離れることのない絆の証としてプロポーズの為に狩られ数を減らしたらしい。
ずっと探していたのが、今日ようやく見つけたらしく……肉が新鮮なうちにって事で急遽、決行となったとの事。
サプライズが過ぎる。
神と魔王が同じドラゴンなんだとか、二体で一体の演技のいい魔物を殺してバラして離れ離れにしてしまっているじゃないか……とか、ツッコミどころは多々あったけれど、とりあえず変な儀式でないのはよくわかった。
隊長達は夕飯を食べたはずなのに、ルノさんが解体したコバットリスでバーベキューをしている。
狩った魔物の肉を立会人になってくれた人に振る舞うのもセットらしい。ちゃっかりエルポープスとレイニート様まで混ざっていた。
「今では誰もここまで形式ばった事はしないけれど、シーナに交際を申し込むならこれぐらいしないと……と思って、シーナに言われてから色々考えていたんだけど……ごめん、シーナには喜んで貰えなかったみたいだ」
「俺に言われて?」
俺なんか言ったっけ?……もしかして……。
「俺がシーナを求める事を許してくれて嬉しかった。俺がどれだけシーナを想っているか伝えたくて神様にまで立ち合いをお願いしたのに……悪かった」
「もしかして……あの夜の話覚えてたりします?」
夜の感傷に急かされて結構小っ恥ずかしい事を言ってしまって、覚えてなさそうでちょっとホッとしてたんだけど。
「酒に酔っていようが、魔力に酔っていようがシーナの言葉を忘れるわけがないだろう」
「普段と全く変わりないから覚えてないんだと思ってました」
変わらないから覚えていないんだと思ったけど、俺の告白を聞く前と後でも変わらない思いを常に向けていてくれていたから?
誓いの様に手を握られていた手を、もう片方の手でルノさんの手ごと包み込んだ。
「心臓を受け取るのは厳しいですけど……あの続きはどうしたら良いんですか?」
「求愛を受け入れる時は口づけを、拒否する時は……」
ルノさんが言い切らないうちに誓いのキスを押し付けた。
「こちらこそ……」
言い終わらないうちに強く抱きしめられて、続きの言葉は声にする事はできない。
不束者ですが、よろしくお願いします……ギュッとルノさんの体に抱きついた。
ギュッどころでは無い、殺意すら覚える締め付けを感じた。
「良かったな!!お前ら!!まあ今更だかなぁ」
ルノさんと俺をまとめて隊長は強く抱きしめてきた。
「神の見届けた誓いだ!!二人の絆は永遠に結ばれたも同然だな!!」
エルポープスも肉を頬張りながら嬉しそうに笑っていた。
隊長には今更と言われたけれど、いまさらながらルノさんとお付き合いさせていただく事になりましたと宣言すると、隊員のみんなから代わる代わるお祝いの言葉を貰い、祭壇に二人で並んで、楽しそうに焼肉を焼くみんなの姿を眺めていた。
立会人だけでなく二人を認める者は、その魔物の肉を食べて祝福するらしいのだが……多くないか?
マルトリノさんやカカルさん、ナタリアさんがカイとリーナを連れてきてくれている。
それだけじゃなくて、会釈友達になったおじちゃん、ククの実を売ってくれたおじちゃん……名前は知らないけど、石窯焼きのお店の店長さんまで……詰所の中庭に顔も知らない人たちが入れ替わり立ち替わり、コバットリスの肉を持って行っている。
「さすが長年警備隊をやってきただけはありますね」
あまり交流していなさそうで、しっかり街の人から信頼を寄せられていたんだな。
「違うだろ。この街でシーナは伝説の聖女様だからね」
「え、なんで?」
「神の国から帰ってきた時の姿は街の人間全てに見られていたからね。あの姿を見て聖女様だと騒ぎになったんだよ」
以前見せてもらった絵を思い出す。
ドラゴンは確かにエルポープスだったけど、俺は男だし、白いドレスは白いエプロンだし、聖なる杖は鍬でしたけど?割とアバウトな聖女伝説だな。
「他の街からも人が押し寄せてきて、一時期大変だったらしいよ。聖女は旅立ったって事で俺たちが帰ってきた時は落ち着いてたみたいだけど」
未開の地に旅立っていた時か……外に出てて良かった。
隊長達がもう帰ってきたのかと嫌な顔をしたのは、新居の事だけでなく騒ぎがもう少し落ち着いてからにって気持ちもあったのかも。
「シーナは嫌がるだろうから普通に接する様にって隊長とレイニート様が街の人にはしっかり言い聞かせてくれたみたいだね。でもこんなにたくさんの人がシーナの幸せを願ってくれているんだ……俺は責任重大だな」
いく先々で聖女なんて言われたら確実に引き籠り案件だな。
「そうですね……ルノさんの肩に掛かる責任は重いですよ。だから……ルノさんもずっと俺の側で笑っていてくださいね」
1番の心配事はまだ胸に引っかかっているものの、今はこの幸せな気分に酔っていたい。
「ルノさん、今度準備ができたら俺の世界での求愛をやっても良いですか?俺からも……俺の覚悟をルノさんにも知って欲しいです」
バーベキューの賑やかな灯りに照らされていた顔が、こんな暗さの中でもわかるぐらい赤くなって、握っていた手にじんわりと汗が滲んだ。
俺の可愛い人だ。
俺だって男なわけで、好きな人の笑顔を守らなきゃって思うわけで……。
「幸せにします。幸せになりましょう……」
大きな二体分のコバットリスの肉は早々に配り終えて、追加の魔物肉が振る舞われた。
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