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おにぎりとおむすび
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『シーナ・マサタカは米を手に入れた』
そんなナレーションを頭の中に流しながら米……もといククの実を手に握りしめる。
アシルさんがどういう交渉をしてくれたのか分からないけど、ククの実を袋にいっぱい頂いてしまった。
「アシルさん、ククの実の代金は?」
「シーナさんが料理してみて商品になりそうなら教えて下さい。シーナさんが気に入ってもらえたら彼と契約して定期的に仕入れさせて貰うので、是非うちで買ってくださいね」
投資してもらったみたいだけど……俺は米に興奮しているけれど……ルノさんの様子を見るに市場に受け入れられる気がしなくて、ちょっと申し訳ない。
「マルトリノさんには伝えておくのでさっそく試してみて下さい!!」
アシルさん、マルトリノさんの所で働くようになってえらくグイグイ来る様になったな……カカルさんもそうだし、やはり師匠の影響ってデカいな。
早く商品になるかどうか試して来いと背中を押されて、家路についた。
ーーーーーー
炊飯器なんて便利な物は無く、自信は無いけれどお店のおじさんに教えて貰った様に炊いてみた。
レシピで出てこないという事は、やはり一般的に食料とは認識されてないようだ。
ドキドキしながら蓋を開けると湯気の中と共に炊きたてのご飯の匂い……見た目は真っ黒だけど……。
ボソリとルノさんの引き攣った「ミュルムトみたい」という声が聞こえたが、無視だ。出来ればこの先、そのミュルムトとやらと出会わない事を祈りながら一口分お皿についだ。
何故かルノさんに見守られながら一口……おお、水が多かったのかちょっと柔らかいけど……ご飯だ!!
『レシピ登録しますか』
と文字が浮かんできたので『いいえ』を選んだ。もう少し硬めが好きだから、登録するのは最高の炊きあがりを成し得た時にしよう。
さっそくミラペルを手につけて握ってみた。
視覚に引っ張られそうになるけど目を閉じて味わうとおむすび。
懐かしい味わいに胸がジ~ンと熱くなる。
これはおむすびにして収納鞄に忍ばせておこう。
せっせと握っていると、ルノさんが1つ取って睨んでいる。
「ルノさん?無理しなくてもルノさんにはいつも通りパンを用意しますから大丈夫ですよ」
俺にとって大切な味だけど、違う食文化を押し付ける気はない。俺だって魔物の内臓食べろとか言われたら嫌だもん。
「……一緒に暮らしているんだ。食べ物も同じ物を食べたい」
何がルノさんを突き動かしているのか、無理しなくて良いと言ったのにルノさんはおむすびと、にらめっこを続けている。
ルノさんのこの様子を見たら、お店のおじさんがあれだけ慌てていたのもわかる。
おじさんのはこれを潰して団子みたいにしていたけれど、粒を残したままなのが更にハードルを上げたようだ。
吐き戻しても良い様に手桶と飲み物を用意していると、ルノさんは意を決して一口齧り付いた。しかめた顔で目を閉じて咀嚼していたけれど、徐々にその顔が緩んでくる。
「あ……美味しい……かも」
ルノさんは驚いた表情で自分が口にしたおむすびを凝視している。
「美味しいですか?良かった……でも無理しないように夕飯はパンを出しますね」
今日のおかずは取っておいたドラゴンステーキにしよう。食べたいもんドラゴンステーキ丼。
お皿にご飯を盛ってドラゴンステーキを乗せて……ナタスンさんに貰った魚を発酵させて作ったというソースを少し垂らした。
ああ……美味しそう……。
ゴクリと喉を鳴らしてルノさんの分のドラゴンステーキを用意してパンを取り出すと、ルノさんに止められる。
「同じ料理にして貰っても良いかな?」
「無理に同じ献立にしなくても美味しく食べられるのが1番だと思いますけど……」
「シーナと同じ物を一緒に食べて、同じ様に美味しいと感じたいんだ……駄目……か?」
駄目か?なんて小首を傾げて聞かれたら駄目なんて言えるわけないじゃないか。
ルノさんの分のドラゴンステーキ丼を用意した。
黒い米もイカスミリゾットと思えばなくはない……イカスミを食べる習慣があるかは知らないけどさ。
『いただきます』をしてご飯と肉を一緒に頬張る……肉の旨味と米の甘味が溶け合って舌を喜ばせてくれる。ナタスンさんに貰ったソースもいい仕事をしている。
「はあ……幸せ」
俺の様子を見てルノさんも米と肉を一緒に口に運ぶ。
「美味しい……屋台で食べた物とは全然違う」
カロラブニャと一緒にされてはドラゴンが可哀想だけど……しっかり味がついているし当然だ。
「ククの実は、繁殖力もさる事ながら、黒い葉、黒い茎、黒い実……群生すると周囲は真っ黒になり……その見た目から『魔物の食べ物』と言われてすぐに焼き払われてしまうんだが……こんなに美味しかったとは……」
こっちの人達、真っ青なソースやドギツいピンクのスープも気にせず食べるから見た目の色で食欲減退を起こすとは思わなかったけど……魔物絡みか。
魔物とか魔力に敏感な人達だから、避ける理由が分かった。
「俺は好きなんだけどな……アシルさんには悪いけど、売れる商品になるかどうか……厳しそうですね」
「食べるきっかけがあれば味は良いから売れる様になると思うけどな。マルトリノさんに『おむすび』を試食して貰ったらどうだ?その先のことは、売れると思えばマルトリノさんが何とかするだろう」
「そうですね、商売の事なんかわからないし、お任せしちゃいましょう」
せっかくだからいろんなおむすびを作っておきたいな。小腹が空いた時の俺のおやつにもなるし、収納鞄の中にある作り置きのおかずをいろいろ試してみよう。おむすびのレシピは無限大だね。
そんなナレーションを頭の中に流しながら米……もといククの実を手に握りしめる。
アシルさんがどういう交渉をしてくれたのか分からないけど、ククの実を袋にいっぱい頂いてしまった。
「アシルさん、ククの実の代金は?」
「シーナさんが料理してみて商品になりそうなら教えて下さい。シーナさんが気に入ってもらえたら彼と契約して定期的に仕入れさせて貰うので、是非うちで買ってくださいね」
投資してもらったみたいだけど……俺は米に興奮しているけれど……ルノさんの様子を見るに市場に受け入れられる気がしなくて、ちょっと申し訳ない。
「マルトリノさんには伝えておくのでさっそく試してみて下さい!!」
アシルさん、マルトリノさんの所で働くようになってえらくグイグイ来る様になったな……カカルさんもそうだし、やはり師匠の影響ってデカいな。
早く商品になるかどうか試して来いと背中を押されて、家路についた。
ーーーーーー
炊飯器なんて便利な物は無く、自信は無いけれどお店のおじさんに教えて貰った様に炊いてみた。
レシピで出てこないという事は、やはり一般的に食料とは認識されてないようだ。
ドキドキしながら蓋を開けると湯気の中と共に炊きたてのご飯の匂い……見た目は真っ黒だけど……。
ボソリとルノさんの引き攣った「ミュルムトみたい」という声が聞こえたが、無視だ。出来ればこの先、そのミュルムトとやらと出会わない事を祈りながら一口分お皿についだ。
何故かルノさんに見守られながら一口……おお、水が多かったのかちょっと柔らかいけど……ご飯だ!!
『レシピ登録しますか』
と文字が浮かんできたので『いいえ』を選んだ。もう少し硬めが好きだから、登録するのは最高の炊きあがりを成し得た時にしよう。
さっそくミラペルを手につけて握ってみた。
視覚に引っ張られそうになるけど目を閉じて味わうとおむすび。
懐かしい味わいに胸がジ~ンと熱くなる。
これはおむすびにして収納鞄に忍ばせておこう。
せっせと握っていると、ルノさんが1つ取って睨んでいる。
「ルノさん?無理しなくてもルノさんにはいつも通りパンを用意しますから大丈夫ですよ」
俺にとって大切な味だけど、違う食文化を押し付ける気はない。俺だって魔物の内臓食べろとか言われたら嫌だもん。
「……一緒に暮らしているんだ。食べ物も同じ物を食べたい」
何がルノさんを突き動かしているのか、無理しなくて良いと言ったのにルノさんはおむすびと、にらめっこを続けている。
ルノさんのこの様子を見たら、お店のおじさんがあれだけ慌てていたのもわかる。
おじさんのはこれを潰して団子みたいにしていたけれど、粒を残したままなのが更にハードルを上げたようだ。
吐き戻しても良い様に手桶と飲み物を用意していると、ルノさんは意を決して一口齧り付いた。しかめた顔で目を閉じて咀嚼していたけれど、徐々にその顔が緩んでくる。
「あ……美味しい……かも」
ルノさんは驚いた表情で自分が口にしたおむすびを凝視している。
「美味しいですか?良かった……でも無理しないように夕飯はパンを出しますね」
今日のおかずは取っておいたドラゴンステーキにしよう。食べたいもんドラゴンステーキ丼。
お皿にご飯を盛ってドラゴンステーキを乗せて……ナタスンさんに貰った魚を発酵させて作ったというソースを少し垂らした。
ああ……美味しそう……。
ゴクリと喉を鳴らしてルノさんの分のドラゴンステーキを用意してパンを取り出すと、ルノさんに止められる。
「同じ料理にして貰っても良いかな?」
「無理に同じ献立にしなくても美味しく食べられるのが1番だと思いますけど……」
「シーナと同じ物を一緒に食べて、同じ様に美味しいと感じたいんだ……駄目……か?」
駄目か?なんて小首を傾げて聞かれたら駄目なんて言えるわけないじゃないか。
ルノさんの分のドラゴンステーキ丼を用意した。
黒い米もイカスミリゾットと思えばなくはない……イカスミを食べる習慣があるかは知らないけどさ。
『いただきます』をしてご飯と肉を一緒に頬張る……肉の旨味と米の甘味が溶け合って舌を喜ばせてくれる。ナタスンさんに貰ったソースもいい仕事をしている。
「はあ……幸せ」
俺の様子を見てルノさんも米と肉を一緒に口に運ぶ。
「美味しい……屋台で食べた物とは全然違う」
カロラブニャと一緒にされてはドラゴンが可哀想だけど……しっかり味がついているし当然だ。
「ククの実は、繁殖力もさる事ながら、黒い葉、黒い茎、黒い実……群生すると周囲は真っ黒になり……その見た目から『魔物の食べ物』と言われてすぐに焼き払われてしまうんだが……こんなに美味しかったとは……」
こっちの人達、真っ青なソースやドギツいピンクのスープも気にせず食べるから見た目の色で食欲減退を起こすとは思わなかったけど……魔物絡みか。
魔物とか魔力に敏感な人達だから、避ける理由が分かった。
「俺は好きなんだけどな……アシルさんには悪いけど、売れる商品になるかどうか……厳しそうですね」
「食べるきっかけがあれば味は良いから売れる様になると思うけどな。マルトリノさんに『おむすび』を試食して貰ったらどうだ?その先のことは、売れると思えばマルトリノさんが何とかするだろう」
「そうですね、商売の事なんかわからないし、お任せしちゃいましょう」
せっかくだからいろんなおむすびを作っておきたいな。小腹が空いた時の俺のおやつにもなるし、収納鞄の中にある作り置きのおかずをいろいろ試してみよう。おむすびのレシピは無限大だね。
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