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知らない魔物は要注意

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目が覚めて、身動きが取れないと思ったらルノさんに抱きしめられていた。
そうか……ベッドに運べなかったからここで一緒に寝たんだった。

「おはようシーナ」
いつもと変わりないルノさんだ。やっぱり昨夜の記憶はないみたいだな。

「まだおはようの時間じゃないですよ。ルノさんはもう少し休んでいてください」

あたりはまだ夜明け前の薄暗さ。俺は喉が乾いて目が覚めてしまっただけなので、水を飲もうと腕の中から抜け出すとキッチンへ向かった。

グラスを取り出し、テーブルの上のピッチャーに手を伸ばしかけたところでグラスの中に、水が満たされた。

「ありがとうございます。ルノさんも飲みますか?」

グラスを取り出そうとして、ルノさんなら自由に口の中に適量な水を直接出せるのかと、悩んでいると『飲む』と答えが返ってきたのでグラスを取り出した。

「頭痛とか平気なんですか?前回は二日酔いで寝込んでましたよね」

あの姿もなかなか見ることのできない姿だったな。

「今日は二日酔いになんてなっている場合じゃないからね」

「今日、何か用事ありましたっけ?」

ギルドへ討伐した魔物の買取はもうちょっとのんびりしてからという事にした、新しい依頼はしばらく受けない。レイニート様から呼び出しも受けていないから、久々詰所の台所でお昼ご飯と晩ご飯作り、その間に掃除もしてしまいたい……ルノさんは気にしないでと笑った。

目も覚めてしまったし、まだ早いけど朝ごはんでも作ろうかな。
いっぱい作って、みんなが起きてくる前に詰所に持ってけば一緒に食べられる。
ルノさんもいいねをくれたので、早速料理開始……と思ったけど、この家のキッチングッズ全部新品を用意してくれていたようで『お手製』に変えていく作業からだった。

ーーーーーー

「なんだよ、二人きりの生活がそんなに寂しかったかのか?」

朝ごはんを大量に用意して朝っぱらから詰所に着いた俺とルノさんを見て隊長はにやっと笑う。
……隊長の言葉通り寂しいという気持ちはある。お姉ちゃんが嫁に行って出て行った後のような、兄が一人暮らしすると家を出て行ったような……絶望はないが微妙な寂しさを感じた。俺は大家族ではなかったけど。

「ああ?もう里帰りか?」
「シーナは15すぎてもまだまだガキっぽいな!!」
賑やかに食堂に入ってきた隊員達も、早朝から詰所にやってきていた俺を見て笑った。

「そんな事いう人は食べてくれなくて良いです。1つ金貨1枚するガビラクトパーの高級卵を贅沢にと一人3つ使ったオムレツなのに……ルノさんお家に帰ってふたりで食べましょ?」

「「あのガビラクトパーの卵だと!?」」

海沿いの街で生まれただけありゴルカーさんとナタスンさんはこの卵の価値を知っている様だ。

「シーナ様!!是非そのオムレツを食べさせてください!!」

海に面した断崖絶壁に卵用の巣を作り自らの卵を餌に生き物を誘き寄せ捕食するガビラクトパー……この卵を手に入れる為にどれだけ苦労したことか……。

卵はルノさんが楽々と回収してくれたんだけど、海中から伸びてきた無数のガビラクトパーの触手……あんなに生命力が強いとは思わなかった。

「シーナが危険な目に合いながら入手した卵だからな。よく味わって食べろよ」

ルノさんの言葉にガビラクトパーを知っている者と知らない者とで反応が分かれた。

「ルノさん……余計な事を言わなくて良いです」

「いや、ちゃんとシーナの努力の結晶だと言う事を噛み締めて貰わないと駄目だろう」

ガビラクトパー……本当に嫌な魔物だった。
切り取られた触手があんなに動き回るとは……。

「大丈夫か……遠い目をして……」

オットーさんは農村部の出身だからガビラクトパーを知らないみたいだな……商人の子だからアシルさんは知っている様だ。真っ赤な顔で俯かないで欲しい……何を想像したか知らないがそこまでの事は起こってないからな。
すぐにルノさんに助けてもらったから。

あの触手も食用可らしいが、タコやイカに似た見た目だったら持って帰って来たけど食べる気になれず燃やしてきた。スライム依頼の衝撃的な魔物であった。

未開の地はドラゴン肉をはじめ、ガビラクトパーの卵など高級食材の宝庫で、考え様によっては美食パラダイス。
でも……でも出来ればもう2度と行きたくないと思う。

中に詰め込まれた素材と食材の総額がいくらになるのか想像も出来ない収納鞄をそっと撫でた。
マルトリノさんに卸したら一財産だよ。

ーーーーーー

価値は分からなくてもその味は分かるようで皆美味しそうに食べてくれる。ドラゴン肉に引き続き、皆の舌が肥えすぎないか心配だな。

「隊長、コバットリスの目撃情報はありませんか?」

ルノさんが隊長の前の食器を片付けながら隊長に聞いているのが洗い物をしながらなんとなく耳に入った。

コバットリス?目撃情報ってぐらいだから魔物っぽいけど……それがどうしたんだろう。

「コバットリスか。そうか……遂に……やったな」

「……はい。いろいろご心配をお掛けしました」

「お前からそんな言葉を聞けるとはな……」

「おめでとうございます!!副隊長!!」

少し照れた様なルノさんを隊員の皆も背中を叩いて激励していて、食堂の隅ではレフさんの肩をハイケンさんが励ますように叩いている……何事だろうか?

聞きたいけれど……聞いてはいけないと心の忠告に従って素知らぬふりをして洗い物を続けた。
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