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俺でも……守れた

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Gランク冒険者の文字が嬉しくてにやけながら帰ってきた自分が馬鹿みたいだ。

「シーナ!!Gランク冒険者おめでとう!!」

詰所に帰って真っ直ぐ隊長に冒険者カードを見せに向かったのだが、俺の冒険者カードを見た瞬間に見せた顔がむかつき過ぎたので、無意味だとわかっているけど足を思い切り踏んづけた。さすが柱の角に小指の先をぶつけても柱の方が破壊される肉体の持ち主だ……うう足が痛い。

年齢は人によって体格差などがあるから受付をした職員によっては受理してくれる事もあるらしいが、レベルだけは誤魔化せないと聞いていたのに、試験も調査も無いから嘘つき放題と思っていたけれど、この冒険者カードは受け取った瞬間に俺の血を吸って、自動に情報が書き込まれる仕組みらしい。サインに重要な意味は無かった。

スタートのランクはこのカードが、ステータスから判断するらしい。

俺のカードを見た隊員達は皆一斉に大声を上げて笑い出したのだ。

この『G』と言うランクはなかなかレアらしく……初めて登録すると大概の人がDかE……不安の残る人でもFからスタートするらしい。皆にGランクは初めて見たと笑われた。

「Gランクの冒険者は結構細かい制約あるみたいだ。まず一人でクエストを受けるのは禁止、Bランク以上の冒険者の付き添い必須……これは俺とチームを組んでいるから大丈夫だね」

冒険者カードに書かれているらしい注意事項をルノさんが確認してくれている。
カードを鑑定すると見られるらしいので俺も鑑定で確認してみると、納税とかクエスト受注の期限とか、ギルド追放に関わる注意点とか……いろいろ細かく書いてある。

クエスト以外での殺人とか依頼主に関わる秘密の暴露とか、普通にしていたら追放される事は無さそう。

Gランク冒険者は一定期間クエストを受けないと勝手に死亡扱いにされるって……それだけ死にやすいって事!?
資格だけ取得してのんびり暮らすというのは駄目らしい……まあ、ルノさんと一緒ならなんとかなるだろう。

「クエストの報酬から、国とギルドへの上納金が引かれるからね。クエスト受けないと悪質だと罰金か奴隷落ちだ。でも冒険者カードにお金を預けていればそこから最低額を引いて貰えるから1つ一緒にAランクの依頼を受けて貯めておけば数年は大丈夫だろう」

「頼りにしてます」

ルノさんにお任せっと思ったが、そんな甘えはお父さんは許してくれないようで頭をぐりぐり攻撃される。

「街の住民の働く意欲をつけるのにもう少しシーナには頑張って貰いてぇし、長期の冒険はシーナのランクが上がってからの方が良いだろ?シーナはもう少しレベルを上げなきゃな。お前が全て狩るなんて事して甘やかすなよ、ルノ!!」

見透かされていた様に釘を刺された。最近隊長の包囲網は抜け目がない。俺の逃亡癖もすっかりバレてしまっているようだ。

ーーーーーー

昼過ぎにもう一度ギルドへやって来ると、朝に比べて人は大分少なくて、掲示板ものんびり見れる。

「魔物討伐だけじゃなくて、雑用までいろいろあるんですね。家の掃除とか俺でもやれそう」

「シーナなら完璧に仕上げられるだろうけど……やり過ぎて騒ぎになるから止めておこうね」

これなら楽にランクを上げられると思ったのに……他は、採取系の依頼も結構あるけど名前を聞いてもその植物の姿が想像出来ないな……ルノさんいるから大丈夫とは思うけど……1番ランクの低い依頼にしようとルノさんを見上げたけど、ルノさん視線が魔物討伐クエストしか見てないね。

やっぱり殺らなきゃレベルは上がりませんか……出来ればスライムでと願うばかり。

「あ……そうか。マンダイコンだったらシーナにはうってつけじゃないか」

「マンダイコン?」
魚と煮たら美味しそうな名前だ。

「植物型の魔物だよ。解毒薬の材料になるんだけど、これはシーナの為にある様な依頼だね」

そう言うとルノさんはその紙を掲示板から剥がしてしまった。どうやらその依頼を受ける事は決定らしい。

「生息域が近いのは……これとこれと……」

そう言って剥がしていく依頼書は全てAランクなんですけど……いきなりGランクの俺をAランクの依頼に同行させるとかやっぱりルノさんもどこか壊れているよね。

「ルノさん……いくら隊長にレベル上げろと言われたからって俺にAランクの魔物と戦うとか無理ですよ」

楽しそうなところに水を差して申し訳ないけど無理なものは無理。狙われたらひとたまりもないと思う。

「大丈夫、大丈夫。これはついでだから。本命はマンダイコンだよ」

ついででAランクの依頼を取っちゃうから周りの冒険者さん達の目が怖いんですけど?
そんな視線は一切気にする事なくルノさんは俺の手を引いて意気揚々とギルドを後にした。

ーーーーーー

エルポープスの背中から航空写真みたいな風景は見たけれど、初めての街の外にドキドキしながら門を潜るとレイニート様のゴーレムに挨拶をされた。

壁の周りの見廻りもやってくれているのか。主人の魔物使いが荒いとゴーレム達は多忙だ。

それではピクニック気分で平原に伸びる街道をのんびりと……と期待したけれど。

「わりとすぐ目の前に鬱蒼とした森があるんですね」

「昔はもっと見晴らしも良かったんだけど森の侵食力が強くてね。これも他の街との交流が減った要因だよ。街道にも魔物が溢れてるから冒険者あがりの商人か高額の護衛を連れた商人しか行き来しなくなった」

ユノスは正直、高額の護衛を付けてまで取り引きする程の街では無いだろうから、自分で戦えるマルトリノさんみたいな人しか儲けられないらしいが、あれだけ戦えれば冒険者として働く方がよほど割が良い。
ユノスの台所事情は確実にマルトリノさんが握っているな。

「じゃあ行こうか。側を離れないように注意して」

言われなくても離れる気はありませんよ。
しっかりとルノさんの手を握りしめた。

魔力なんて見えないけど、目の前の森は明らかにヤバそうな空気を漂わせている。

バンジーさせられたり、肝試しをやらされたり……異世界は娯楽が少ないくせに絶叫系アトラクションは豊富だ。

ルノさんになるべく体を密着させながら……いよいよ森の中へ足を踏み入れる。木々のせいで光が届かず昼間なのに薄暗い。

「……ルノさん。マンダイコンってどんな魔物なんですか?俺にうってつけって言ってましたけど……」

何か話して気を紛らわせないと足が震えて前に出ない。

「俺にとって1番苦手な魔物だから忘れてたけど、シーナなら楽勝だと思うよ」

ほほう……ルノさんが苦手で俺が得意な魔物。そんな者が存在するとは思わなかった。

「地中に埋まって葉だけ出しているんだけど、必要なのは本体。葉を掴んで引き抜くと地中で溜め込んでいた瘴気を吐き出して来るんだよ。大量の瘴気は体に毒だからね……最悪魔物化する奴もいる」

それはルノさんとって天敵だ。
俺は……全く感じないから確かに俺にうってつけ。

「でも反撃されたら勝てないかも」

「瘴気を吐き出す事自体が強力な反撃なんだよ。抜いたら眉間を剣で刺せばすぐに死ぬ。スライムとは比較にならない高ランクの魔物だからレベルも上げやすいはずだ」

そんな素晴らしい魔物がいるなら初めからそれを……引っこ抜いた時点で瘴気を吐き出すからルノさんや隊長では持って帰って来るのが大変なのか。

マンダイコンに思いを馳せていたおかげで結構森の中を進んで来れた。

「これがマンダイコンだ」

教えて貰った葉は……想像通り大根。土から白い太く育った根も頭を出している。

「えっと……これを引き抜いて剣で刺せば良いんですよね」

「ちょっと待ってくれ。シーナとマンダイコンの周りに結界を張るから俺は少し離れてて良いかな?万が一があると困るから……」

「しっかりと強力なやつをお願いします」

万が一があったら、隊長もレイニート様もいない今、俺だけでルノさんを止められるか分からない。

結界を張って貰って、大根の葉と対峙する。魔物って事で少し怖いけれど、ルノさんが苦手な物を俺が退治するなんて初めてのシチュエーションに興奮していた。
俺でもルノさんを守れているみたいで……なんか嬉しいよね。

緊張しながら大根の葉を握り締めて、足と腕に力を込めて一気に抜く!!
……あ、ヤバい。

「んっ!!んぎぎ……っ!!」

瘴気云々以前に抜けないっ!!
そういえば芋掘りでカイとリーナに負けたんだという事実を思い出した。

ルノさんが見てるのにこれ以上情けない姿は見せたくないと渾身の力を込めて足を踏ん張らせる。

抜けろ、抜けろ、抜けろ、抜けろ…………抜けたっ!!

勢い余って後ろに倒れ込んだけど、俺の手にはしっかりとマンダイコンが握られている。
『ボボボボボボッ!!』
大根鳴くのか!!
引き抜いたそれは見るからに二股の大根だが顔がある。随分と腹立たしい顔をしている眉間に剣を突き立てると漸く大人しくなった。

大根というかマンドレイク?地球からの伝言ゲームの末にいろいろ交ざったのだろう。

「ルノさん、これで良いんですか?」

ルノさんに戦利品を向けると驚いた表情で俺を見ていた。大根も抜けないひ弱っぷりに呆れられたか?

「……本当に何とも無いのか?」
「何がですか?」

ルノさん視点では俺が大量に瘴気を吸い込んだ後、吐く息は浄化されているそうで、人間空気清浄機の称号を得た。
驚かれたけど、花粉も反応する人としない人がいるからね。似たようなもんだろう。

「それよりルノさん!!一匹?収穫しただけでレベルが2も上がりましたよ!!」
しかも引き抜くのに力を使ったからか攻撃力も上がってる。

「うん。それだけ俺たちにとっては厄介な魔物だからね」

素直に調子に乗った俺は、マンダイコンの群生地に連れて行って貰い、大きめな結界を張って貰うとマンダイコンの収穫に精を出した。
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