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賑やかギルド

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ギルドへ向かう道中『隊長たちが大袈裟なんだ』と言っていたけれど……。

隊長ほどではないけれど、少し人相の悪そうな冒険者たちが入り口付近で屯ろしていたが、ルノさんの姿を見るなり十戒の様に人波が割れた。隊長たちの言う事は大袈裟ではなさそうだな。

当然そんなルノさんについて歩いているから、俺も目立ってしまうかもとフードを深く被っていたけれど、周囲の人間は逆にルノさんを意識的に見ない様にしている感じだった。

……今まで何をしてきたんだ、ルノさん。

冒険者ギルドの中は、これからクエストに向かうのか結構な人数が出入りしている。

女性もいるがやはり男性率が高く……冒険に出たらお風呂なんて贅沢は言っていられないんだろうけど、汗と血と土と……男臭が入り混じり目眩がしそうで、倒れない様にルノさんの腕にしがみついた。初めて詰所の隊員たちの部屋を開けた時ばりの衝撃だ。

「大丈夫か?」
「……何とか」

何でこんな匂いの中、爽やかな笑顔でいられるんだろう。慣れか?うう……慣れたくないはないが慣れるしかないのか。

受付のカウンターは子供に優しくない仕様で随分高く、背伸びしてやっと顔が出せる。身長制限でもあって、このカウンターの高さで判別しているのだろうか……だとしたら背が伸びるまで猶予があるな。

上を向いているとフードがずれそうで背伸びしながらフードを押さえながら挨拶した。

「……こんにちは」

せめて受付は綺麗なお姉さんであれと願ったが、順番が来て進んだ窓口に座っていたのは髪型がハイケンさん似のおっさんだった。何でルノさんこの列に並んだんだよぉ……隣はちょっとマッチョだけど綺麗なお姉さんなのに。

「旦那、久しぶりだな。今日は可愛らしいお連れ様も一緒かい?……噂の彼女か?」

知り合いだったからか。随分下世話で感じで……それが気心が知れていると言う証なんだろう。顔は厳ついけど……笑顔ではある。

「彼女ではないが、大切な人ではあるな。今日はこの子の登録をお願いしたい」

身長制限は無いのか……。
いよいよ冒険者登録……緊張するな。
詳しく聞いてなかったけどどうやるんだろう?よく見たのは血を使う方法か変な玉で潜在能力を覗かれるってやつだけど……どうしよう、俺も知らない俺の隠された力とかが開花しちゃったりしたら……。

「あいよ。じゃあこの冒険者カードにサインを書いてくれ」

ドキドキしていたのに受付のおっさんは引き出しから白いカードとペンを取り出した。
それだけ?身分証の提示とか、ステータスの開示とかすら無し!?

ガッカリしながら受け取ると、白いカードが銅色に変わった。びっくりしたけど冷静を装いながら名前を書こうとして、書けないことに気がつく。ルノさんの服を引っ張って耳打ちした。

「ルノさん、どうしましょう?俺、ペンが使えないです」

「ああ、そうだった。この子は文字が書けないんだが代筆でいいか?」
「いいぞ」

代筆OKって、ガバッガバのセキュリティだけど大丈夫なのか?

冒険者ギルドの安全性が不安になったが、ルノさんが代筆したカードを受け取ったおっさんはカードを睨んだ。

「年齢とレベルはギリギリだが足りてるな……何!?男だと!?」

カードを見ながらいきなり大声を上げて、それに合わせた様に両脇の窓口の職員まで勢いよく立ち上がった。

なんだなんだ!?
エルポープスじゃないけど、そんな謎の行動に出られたら怖いじゃないか!!堂々といた態度でルノさんの背中に隠れた。

「俺が男な事がそんなに駄目なんですかね」

「シーナは年齢の割に小柄だし、こんなに可愛いくて男なのが珍しいんだろう。冒険者になろうとするやつは大概が隊長みたいな見た目だからね」

「俺が小さいんじゃなくて皆がデカすぎるんです!!」

ルノさんの多方面へのディスりに些か機嫌を損ねながらルノさんの背後でギルド職員の様子を伺うと……。

「彼女じゃない……ならまだ私にも好機が来るかも!!」

「ユノスギルド1番の稼ぎ頭の伴侶の座はまだ空いている!!」

お姉さん達の目がギラついた気がする……。
やっぱり俺が男なのがおかしいんじゃなくて、ルノさん狙いなだけじゃん。

本当にルノさん、自分に向けられる好意に疎いよね……大半が怖れや恨み、不信感の籠もった目だから、好意も含めて周りの目は全てシャットアウトしてるのかもしれないけど。

「わ……悪かったな。最近頻繁にクエストをこなして、幸せそうな顔で二人用のテントを買ったりして、旦那についに彼女が出来たって噂で持ちきりだったからな」

ルノさんってば何をしてんだ。なんか自分の事じゃないけど恥ずかしいぞ……。

「それはテント無しでなんて寝かせられないからね」

「ありがとうございます……」

確かに野宿するならテント欲しいけど……別に安いのでも良いのに……。

「はははっ!!真っ赤な顔して可愛いもんだな。旦那がそこまで入れ込むのもわかるわ。Lv.5にしちゃあちょっと数値が低いが、旦那がいりゃあ大丈夫だろう。登録完了だ、どうする?詳しい説明は必要か?」

返された銅色のカードには俺の名前が書かれていてその後ろに『G』の文字が書かれていた。

「いや、俺達から説明はするから良い。それより俺とチーム登録をしておいてくれ」

ルノさんが取り出したカードは虹色なんですが……聞くまでもなく俺と格が違う。
この世界虹石が最上級な事が多いから……ルノさんまさかの最高位ですか?
しょぼしょぼの俺のカードもおじさんに再度手渡す。

「そういえばルノさんのランクは?」

鑑定で冒険者ランクが出る人と出ない人の違いは何だろう?

「旦那はAランクだよ。とはいえ、Aランクまでしかないから上のランクがあれば、きっともっと上だろうな……それなのに本職にしねぇで片手間の小遣い稼ぎだもんな。恨みも買うさ、どうだ?これを気に冒険者一本に絞る気はねぇのか?」

片手間で最高ランクとか……冒険者稼業に命を掛けている人の敵だな。

「それも考えていたんだが、警備隊の制服が似合うと言われてしまったからな……」

「旦那……意外とチョロかったんだな……」

確かにルノさんは制服が誰よりも似合っているけど、誰に言われたんだろう?おかげで冒険三昧にならなくて済みそうで助かるから感謝しておく。

「まあ……幸せそうで何よりだ。うちの受付嬢達はさらなる追撃を受けたみたいだがな」

両脇の受付嬢は机に突っ伏してしまっていて、受付待ちの冒険者たちから怒号が飛んでいる。

「新しい冒険者の姿を隊長達にも早く見せてやりたい。クエストはまた午後にでも落ち着いた頃に受けに来る。ありがとうギルド長」

この人がギルド長なのか!!
もっと早く言って欲しかった、今更ながら深々と頭を下げておいた。

「ああ、この時間は掲示板に近付くと押し潰されるかもな」

俺か。
ギルド長が親指で指した方を見ると人集りが出来ていた。
朝イチは良いクエストをもぎ取る為の競争が起きているのか、あの中には入りたくないな。

あくまでマイペースにルノさんは騒がしいギルドの空気を全く気にせず、出口に向かう。実に堂々とした風格。
警備隊以外でのルノさんの姿も新鮮だな。

ルノさんの後ろをついていきながら、鑑定で自分のステータスを確認してみると『Gランク冒険者』の文字が追加されていた事に口元がにやけた。
冒険には行きたくないけど『冒険者』の響きはやっぱりいいもんだ。
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