69 / 87
ご機嫌の理由
しおりを挟むベッドで目が覚めて……目の前にはルノさんの満面の朝日より眩しい笑顔。
今日は一段とご機嫌の様だ。
「おはようございます……」
「おはよう。そしておめでとう、シーナ」
何がおめでとうなんだろう?
そういえば今日はエルポープスの事件から3日目だなぁ……とぼんやりした頭を掻きながら体を起こすと、ルノさんに抱き着かれた。
「どうしたんですか?朝から甘えん坊ですか?」
からかう様にルノさんの頭を撫でてみたが……ルノさんは笑顔のままで収納箱から折り畳まれた布を取り出した。
「ちょっと立ってみて貰っても良いかい?」
なんだろうと疑問に思いながらもルノさんに従いベッドから抜け出して立ち上がると、その布で体を包み込まれた。
「ああ、ぴったりだね。良かった」
大きなモスグリーンの布と思ったら柔らかな革製品で、膝下丈のそれは……フード付きのマントだった。革だけど驚く程軽いが丈夫そう。
「……森に上手く溶け込めそうな色ですね……」
「綺麗な色だろ?誕生日に合わせてハミーニョンガの皮で仕立てて貰ったんだ。うん、どこからどうみても立派な冒険者だね」
「ありがとうございます」
ん?ルノさん今なんて言った?確か誕生日がどうとか……俺は慌てて自分のステータスを確認した。
「……15(20)歳になってる」
15歳になってしまったと言う事は……。
「やっと冒険者登録ができるね、隊長からも朝飯の準備は良いからすぐに登録に行って良しと許しを貰っている。朝ごはんにパンは買ってきてあるから食べたらすぐに冒険者ギルドへ向かおう」
テキパキと机に朝食を用意されて、食べている間にもいつ買っていたのか、丈夫そうな靴や服やら何やらを用意されて落ち着かないまま部屋を連れ出された。
そんな急がなくても冒険者ギルドは逃げないだろう……俺は逃げ出すかも知れないけど。
ルノさんに手を引かれながら登録を引き延ばす言い訳を考えていると、階段をおり切った中庭で、すでにみんなが集合していた。
「「「誕生日おめでとう!!」」」
「ありがとうございます……」
こんなにみんなに祝福されて嬉しいはずなのに、心から喜べないのは何故だろう。
「さすがは神だな、お告げ通りだ。これは俺達から新米冒険者へ贈り物だ。ルノはお前に戦わせる気がねぇから武器は用意されてねぇだろ?」
そう言って隊長は革のベルトに納められたルノさんの物より小さめの短剣をくれた。
「ルノの物ほどでは無いが同じ鍛治師が打った物だ。最後の作品と言われている伝説の品だぞ」
早速装備してみろと言わんばかりの視線に囲まれて、ベルトを腰に装着すると何となく冒険者っぽくなった気はする。隊員のみんなもルノさんも満足そうに頷いてくれた。
「うわあ、嬉しいな~……それで……同じ鍛治師と言う事は、この短剣も……」
「ああ、もちろん呪われてるぞ」
然もありなん。
「何、にこやかに行ってくれてるんですか!!冒険者の門出の贈り物が呪いの短剣とかあり得ないでしょう!?」
幸先悪すぎるだろう!?
「業物だぞ?どうせ呪いなんてお前にはわかんねぇんだし、俺も処理に困ってたしちょうど良いじゃねぇか」
どうやらあの呪いの品の詰まった封印された箱の中身っぽいな。
「俺は廃品回収屋じゃ無いっての……まあ、確かに今のところ何も変な感じはないですけど……」
短剣を抜いて振ってみたけれど、禍々しいデザインとか、喋ったりとか特におかしなところもなく割と普通な剣だった。
「だろ?本当は鞘から抜いた者の精神を乗っ取り、魔物にしちまうんだがな」
「なんて危ない物を子供に持たせるんだ!!あんたはっ!!」
あっけらかんと言われた呪いの内容に慌てて剣を投げ捨てた。
大丈夫だよな?魔物になってないよな?
自分の姿を確認してみるけど魔物に変化している兆しは無い。
「おいおい。一応名剣ではあるんだから大事に扱えよ」
そう言って隊長は剣を拾って渡してくれるけど、隊長だって特に変わりなく持っている……また騙されたかな?やれやれと短剣を受け取り鞘に戻した。
「何だ……嘘だったんですか。驚いて損した」
「だからルノの程じゃねぇって言っただろ?これぐらいなら俺も何とか扱えるさ。酒飲んでたらうっかり応えちまいそうで危ねぇけどな……聞こえねぇ見えねぇってのは気楽そうで良いな」
大声で笑いながらバンバン背中を叩かれた……隊長とルノさん以外ドン引きしてしているのだが?聞こえない見えないは不安だよ!!みんなにはこの短剣どう見えてたんだよ!!
「もしもの時は俺が折るから大丈夫。では隊長、シーナを冒険者ギルドへ送ってきます」
「ああ、大丈夫とは思うが……気をつけろよ」
ルノさんが気をつけなければいけない程、冒険者ギルドって危険な場所なのか!?確かに始めはゴロツキの集団だって言ってたけど最近はそんな事ないって……ナタリアさんも15歳で登録したって言ってたけど……。
「シーナ、ルノが暴れ出したらしっかり止めてくれよ!!」
ルノさんから離れない様に気を付けろと言われるのかと思ったら俺がルノさんを見張る側!?
え……ルノさん意外とやんちゃ?
ルノさんの顔を覗き込むと気まずそうに目を逸らされた。
「こいつなぁ、ギルドで依頼を掲示板に貼ったりする雑用係は職員としてまだ経験の浅い少年少女が多くてな……たちの悪い冒険者なんかに絡まれたりしてるのを見ると……やりすぎだってぐらいまで叩きのめすからなぁ」
あ、なんか想像つく。
ルノさん弟さんの姿が被るのか子供好きだし優しいもんね。カイとリーナを見てる目はとても優しげだ。
「副隊長、冒険者内では味方も多いけど敵も多いっすからねぇ」
隊長にキレてる時とか結構容赦ないもんね。
「もし何も知らねぇ奴がシーナに絡みでもしたら……想像するだけで恐ろしいな」
レイニート様に聞いたけど、昔から迷子の子供の探索や奴隷商から子供を保護しようと一生懸命なのに、溢れ出す魔力のせいで子供からは怖がられ泣かれ、逃げられてすごく落ち込んでいたとか、なんとか……。
「良いから早く行こうシーナ!!」
逃げる様に駆け出したルノさんに手を引かれ……逃げ出す暇さえなく、慌ただしく冒険者ギルドへ向かうことになった。
今日は一段とご機嫌の様だ。
「おはようございます……」
「おはよう。そしておめでとう、シーナ」
何がおめでとうなんだろう?
そういえば今日はエルポープスの事件から3日目だなぁ……とぼんやりした頭を掻きながら体を起こすと、ルノさんに抱き着かれた。
「どうしたんですか?朝から甘えん坊ですか?」
からかう様にルノさんの頭を撫でてみたが……ルノさんは笑顔のままで収納箱から折り畳まれた布を取り出した。
「ちょっと立ってみて貰っても良いかい?」
なんだろうと疑問に思いながらもルノさんに従いベッドから抜け出して立ち上がると、その布で体を包み込まれた。
「ああ、ぴったりだね。良かった」
大きなモスグリーンの布と思ったら柔らかな革製品で、膝下丈のそれは……フード付きのマントだった。革だけど驚く程軽いが丈夫そう。
「……森に上手く溶け込めそうな色ですね……」
「綺麗な色だろ?誕生日に合わせてハミーニョンガの皮で仕立てて貰ったんだ。うん、どこからどうみても立派な冒険者だね」
「ありがとうございます」
ん?ルノさん今なんて言った?確か誕生日がどうとか……俺は慌てて自分のステータスを確認した。
「……15(20)歳になってる」
15歳になってしまったと言う事は……。
「やっと冒険者登録ができるね、隊長からも朝飯の準備は良いからすぐに登録に行って良しと許しを貰っている。朝ごはんにパンは買ってきてあるから食べたらすぐに冒険者ギルドへ向かおう」
テキパキと机に朝食を用意されて、食べている間にもいつ買っていたのか、丈夫そうな靴や服やら何やらを用意されて落ち着かないまま部屋を連れ出された。
そんな急がなくても冒険者ギルドは逃げないだろう……俺は逃げ出すかも知れないけど。
ルノさんに手を引かれながら登録を引き延ばす言い訳を考えていると、階段をおり切った中庭で、すでにみんなが集合していた。
「「「誕生日おめでとう!!」」」
「ありがとうございます……」
こんなにみんなに祝福されて嬉しいはずなのに、心から喜べないのは何故だろう。
「さすがは神だな、お告げ通りだ。これは俺達から新米冒険者へ贈り物だ。ルノはお前に戦わせる気がねぇから武器は用意されてねぇだろ?」
そう言って隊長は革のベルトに納められたルノさんの物より小さめの短剣をくれた。
「ルノの物ほどでは無いが同じ鍛治師が打った物だ。最後の作品と言われている伝説の品だぞ」
早速装備してみろと言わんばかりの視線に囲まれて、ベルトを腰に装着すると何となく冒険者っぽくなった気はする。隊員のみんなもルノさんも満足そうに頷いてくれた。
「うわあ、嬉しいな~……それで……同じ鍛治師と言う事は、この短剣も……」
「ああ、もちろん呪われてるぞ」
然もありなん。
「何、にこやかに行ってくれてるんですか!!冒険者の門出の贈り物が呪いの短剣とかあり得ないでしょう!?」
幸先悪すぎるだろう!?
「業物だぞ?どうせ呪いなんてお前にはわかんねぇんだし、俺も処理に困ってたしちょうど良いじゃねぇか」
どうやらあの呪いの品の詰まった封印された箱の中身っぽいな。
「俺は廃品回収屋じゃ無いっての……まあ、確かに今のところ何も変な感じはないですけど……」
短剣を抜いて振ってみたけれど、禍々しいデザインとか、喋ったりとか特におかしなところもなく割と普通な剣だった。
「だろ?本当は鞘から抜いた者の精神を乗っ取り、魔物にしちまうんだがな」
「なんて危ない物を子供に持たせるんだ!!あんたはっ!!」
あっけらかんと言われた呪いの内容に慌てて剣を投げ捨てた。
大丈夫だよな?魔物になってないよな?
自分の姿を確認してみるけど魔物に変化している兆しは無い。
「おいおい。一応名剣ではあるんだから大事に扱えよ」
そう言って隊長は剣を拾って渡してくれるけど、隊長だって特に変わりなく持っている……また騙されたかな?やれやれと短剣を受け取り鞘に戻した。
「何だ……嘘だったんですか。驚いて損した」
「だからルノの程じゃねぇって言っただろ?これぐらいなら俺も何とか扱えるさ。酒飲んでたらうっかり応えちまいそうで危ねぇけどな……聞こえねぇ見えねぇってのは気楽そうで良いな」
大声で笑いながらバンバン背中を叩かれた……隊長とルノさん以外ドン引きしてしているのだが?聞こえない見えないは不安だよ!!みんなにはこの短剣どう見えてたんだよ!!
「もしもの時は俺が折るから大丈夫。では隊長、シーナを冒険者ギルドへ送ってきます」
「ああ、大丈夫とは思うが……気をつけろよ」
ルノさんが気をつけなければいけない程、冒険者ギルドって危険な場所なのか!?確かに始めはゴロツキの集団だって言ってたけど最近はそんな事ないって……ナタリアさんも15歳で登録したって言ってたけど……。
「シーナ、ルノが暴れ出したらしっかり止めてくれよ!!」
ルノさんから離れない様に気を付けろと言われるのかと思ったら俺がルノさんを見張る側!?
え……ルノさん意外とやんちゃ?
ルノさんの顔を覗き込むと気まずそうに目を逸らされた。
「こいつなぁ、ギルドで依頼を掲示板に貼ったりする雑用係は職員としてまだ経験の浅い少年少女が多くてな……たちの悪い冒険者なんかに絡まれたりしてるのを見ると……やりすぎだってぐらいまで叩きのめすからなぁ」
あ、なんか想像つく。
ルノさん弟さんの姿が被るのか子供好きだし優しいもんね。カイとリーナを見てる目はとても優しげだ。
「副隊長、冒険者内では味方も多いけど敵も多いっすからねぇ」
隊長にキレてる時とか結構容赦ないもんね。
「もし何も知らねぇ奴がシーナに絡みでもしたら……想像するだけで恐ろしいな」
レイニート様に聞いたけど、昔から迷子の子供の探索や奴隷商から子供を保護しようと一生懸命なのに、溢れ出す魔力のせいで子供からは怖がられ泣かれ、逃げられてすごく落ち込んでいたとか、なんとか……。
「良いから早く行こうシーナ!!」
逃げる様に駆け出したルノさんに手を引かれ……逃げ出す暇さえなく、慌ただしく冒険者ギルドへ向かうことになった。
233
お気に入りに追加
2,827
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる