ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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ご機嫌の理由

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ベッドで目が覚めて……目の前にはルノさんの満面の朝日より眩しい笑顔。
今日は一段とご機嫌の様だ。

「おはようございます……」

「おはよう。そしておめでとう、シーナ」

何がおめでとうなんだろう?
そういえば今日はエルポープスの事件から3日目だなぁ……とぼんやりした頭を掻きながら体を起こすと、ルノさんに抱き着かれた。

「どうしたんですか?朝から甘えん坊ですか?」

からかう様にルノさんの頭を撫でてみたが……ルノさんは笑顔のままで収納箱から折り畳まれた布を取り出した。

「ちょっと立ってみて貰っても良いかい?」

なんだろうと疑問に思いながらもルノさんに従いベッドから抜け出して立ち上がると、その布で体を包み込まれた。

「ああ、ぴったりだね。良かった」

大きなモスグリーンの布と思ったら柔らかな革製品で、膝下丈のそれは……フード付きのマントだった。革だけど驚く程軽いが丈夫そう。

「……森に上手く溶け込めそうな色ですね……」

「綺麗な色だろ?誕生日に合わせてハミーニョンガの皮で仕立てて貰ったんだ。うん、どこからどうみても立派な冒険者だね」

「ありがとうございます」

ん?ルノさん今なんて言った?確か誕生日がどうとか……俺は慌てて自分のステータスを確認した。

「……15(20)歳になってる」

15歳になってしまったと言う事は……。

「やっと冒険者登録ができるね、隊長からも朝飯の準備は良いからすぐに登録に行って良しと許しを貰っている。朝ごはんにパンは買ってきてあるから食べたらすぐに冒険者ギルドへ向かおう」

テキパキと机に朝食を用意されて、食べている間にもいつ買っていたのか、丈夫そうな靴や服やら何やらを用意されて落ち着かないまま部屋を連れ出された。

そんな急がなくても冒険者ギルドは逃げないだろう……俺は逃げ出すかも知れないけど。

ルノさんに手を引かれながら登録を引き延ばす言い訳を考えていると、階段をおり切った中庭で、すでにみんなが集合していた。

「「「誕生日おめでとう!!」」」

「ありがとうございます……」

こんなにみんなに祝福されて嬉しいはずなのに、心から喜べないのは何故だろう。

「さすがは神だな、お告げ通りだ。これは俺達から新米冒険者へ贈り物だ。ルノはお前に戦わせる気がねぇから武器は用意されてねぇだろ?」

そう言って隊長は革のベルトに納められたルノさんの物より小さめの短剣をくれた。

「ルノの物ほどでは無いが同じ鍛治師が打った物だ。最後の作品と言われている伝説の品だぞ」

早速装備してみろと言わんばかりの視線に囲まれて、ベルトを腰に装着すると何となく冒険者っぽくなった気はする。隊員のみんなもルノさんも満足そうに頷いてくれた。

「うわあ、嬉しいな~……それで……同じ鍛治師と言う事は、この短剣も……」

「ああ、もちろん呪われてるぞ」

然もありなん。

「何、にこやかに行ってくれてるんですか!!冒険者の門出の贈り物が呪いの短剣とかあり得ないでしょう!?」

幸先悪すぎるだろう!?

「業物だぞ?どうせ呪いなんてお前にはわかんねぇんだし、俺も処理に困ってたしちょうど良いじゃねぇか」

どうやらあの呪いの品の詰まった封印された箱の中身っぽいな。

「俺は廃品回収屋じゃ無いっての……まあ、確かに今のところ何も変な感じはないですけど……」

短剣を抜いて振ってみたけれど、禍々しいデザインとか、喋ったりとか特におかしなところもなく割と普通な剣だった。

「だろ?本当は鞘から抜いた者の精神を乗っ取り、魔物にしちまうんだがな」

「なんて危ない物を子供に持たせるんだ!!あんたはっ!!」

あっけらかんと言われた呪いの内容に慌てて剣を投げ捨てた。
大丈夫だよな?魔物になってないよな?
自分の姿を確認してみるけど魔物に変化している兆しは無い。

「おいおい。一応名剣ではあるんだから大事に扱えよ」

そう言って隊長は剣を拾って渡してくれるけど、隊長だって特に変わりなく持っている……また騙されたかな?やれやれと短剣を受け取り鞘に戻した。

「何だ……嘘だったんですか。驚いて損した」

「だからルノの程じゃねぇって言っただろ?これぐらいなら俺も何とか扱えるさ。酒飲んでたらうっかり応えちまいそうで危ねぇけどな……聞こえねぇ見えねぇってのは気楽そうで良いな」

大声で笑いながらバンバン背中を叩かれた……隊長とルノさん以外ドン引きしてしているのだが?聞こえない見えないは不安だよ!!みんなにはこの短剣どう見えてたんだよ!!

「もしもの時は俺が折るから大丈夫。では隊長、シーナを冒険者ギルドへ送ってきます」

「ああ、大丈夫とは思うが……気をつけろよ」

ルノさんが気をつけなければいけない程、冒険者ギルドって危険な場所なのか!?確かに始めはゴロツキの集団だって言ってたけど最近はそんな事ないって……ナタリアさんも15歳で登録したって言ってたけど……。

「シーナ、ルノが暴れ出したらしっかり止めてくれよ!!」

ルノさんから離れない様に気を付けろと言われるのかと思ったら俺がルノさんを見張る側!?
え……ルノさん意外とやんちゃ?
ルノさんの顔を覗き込むと気まずそうに目を逸らされた。

「こいつなぁ、ギルドで依頼を掲示板に貼ったりする雑用係は職員としてまだ経験の浅い少年少女が多くてな……たちの悪い冒険者なんかに絡まれたりしてるのを見ると……やりすぎだってぐらいまで叩きのめすからなぁ」

あ、なんか想像つく。
ルノさん弟さんの姿が被るのか子供好きだし優しいもんね。カイとリーナを見てる目はとても優しげだ。

「副隊長、冒険者内では味方も多いけど敵も多いっすからねぇ」

隊長にキレてる時とか結構容赦ないもんね。

「もし何も知らねぇ奴がシーナに絡みでもしたら……想像するだけで恐ろしいな」

レイニート様に聞いたけど、昔から迷子の子供の探索や奴隷商から子供を保護しようと一生懸命なのに、溢れ出す魔力のせいで子供からは怖がられ泣かれ、逃げられてすごく落ち込んでいたとか、なんとか……。

「良いから早く行こうシーナ!!」

逃げる様に駆け出したルノさんに手を引かれ……逃げ出す暇さえなく、慌ただしく冒険者ギルドへ向かうことになった。
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