ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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沙汰があるまで…待ってたよ

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んんん……背骨が痛い。
体勢を変えようと寝返りをうつと頬にチクチク何かが刺さり、とても不愉快な気持ちの中で目覚めた。

固い床の上に転がされていた様で体中が痛くて伸びをしながら周りの状況を確認するが……全く見覚えの無い部屋。

俺はデカい魔物に攫われたと思ったんだけど……夢では無い事は畑仕事をしていたエプロンと鍬を持っている姿でわかるが……不思議な場所だった。

柱はギリシャとかの神殿っぽい柱なのに、壁にはエスニックな模様が描かれ、窓は格子窓の様になっているが模様がラーメン鉢に描かれている様な模様。
家具も籐の家具だったり猫脚の乙女チックな家具だったりでチグハグ。
床は……玉砂利の上にムシロが敷かれていてその上に寝かせられていた。枯山水は庭でやるものだろう。

和洋折衷というか……節操が無い。

壁には絵が大量に貼られていて、全てが惑星?の絵だった。

なんだここは……と思っていると障子戸がカラリと開いた。

「あ!!おはよう!!ちょうどお茶の準備が出来たんだ!!地球のお茶をイメージしたものだからきっと気に入ってくれるよ!!早くソファーに座って」

顔を見せたのは……見忘れる訳もない……。
エルポープスだ。

「何であんたがここに……死んだんじゃ無かったのか?って、言うかここどこ?」

相変わらず不健康そうな怪しい見た目、嬉しそうにニコニコしているのが逆に不穏な空気を醸している。

「え~あんたが復活させてくれたんじゃん。あんたに神託使うのに全部の力を使っちゃったけど、あんたが星の生命力を回復させてくれただろ?だから再び動ける様になったから俺の家にお招きしたんだ。見て?今まで無いぐらい力が溢れているだろう?」

「見ても昔のあんたを知らないからわからない」

ソファーに座るように差し出し続けられている手が鬱陶しいので渋々ソファーに座る。
正面に置かれている『お茶』と呼ばれた物はお湯の中に葉っぱが大量に沈んでいる物で……増えるワカメを戻した後みたいで飲む気が失せる。

「……視線が鬱陶しいんだけど……」

凄いキラキラした目を向けられるのが本当に鬱陶しい……が、この目には覚えがある。ルノさんを見るカカルさんと同じものだ。

「だってだって憧れの地球さんの世界の人間がゲストとして俺の星にいるんだぞ?興奮しないわけ無い!!触っていい!?」

「良くない」

触るなと言っているのにそろそろと伸ばしてくる指をはたき落とした。

「地球さんとこの人間に触れられてしまった!!もうこの手洗わねぇ!!」

うわぁ……この人……神だったか、なんでもいいけど、とにかく気持ち悪い。

「なあなあ、あの時はヤバいのがいたからゆっくり話が出来なかったけど、何で地球さんの世界の人間が俺なんかの星にいんの?もしかして地球さん俺の事知ってる?何で俺なんかの世界を救おうとしてくれてるんだ?」

地球さんと言われてもなあ。俺は地球人だけど地球さんとやらは知らないし何でと聞かれても困る。

「幼女な女神に人違いで飛ばされた」

「幼女な女神?地球さんの世界に出入り出来て、これだけの祝福を与えられる女神……もしかしてキュンキュンさん!?地球さんの世界の出身でキュンキュンさんの祝福を与えられるなんて……神か?」

神はお前だろう。
しかし……幼女女神、キュンキュンと言う名前なのか。ちょっと威厳の無い名前だな。

「威厳の無い名で悪かったな……」

俺の声でもエルポープスの声でも無い声が突然聞こえた。

「この声は……!!」

「うむ。久しぶりじゃな。椎名雅貴よ」

スパーンと障子戸が開き、そこにはあの幼女女神が仁王立ちしていた。

「何が久しぶりだよ!!あんたのせいで俺がどんだけ苦労をっ!!」

苦労を……苦労を?最初の熊野郎とエレーナの事以外、あまり苦労してないな。のんびりまったり好きな様に過ごさせて貰っている。

「その事は謝ったであろう。ちゃんと儂の祝福も機能しているようじゃし、こんなに健康ツヤツヤで何が苦労じゃ」

俺の横にドカリと座ってきたキュンキュン様に頬をつつかれる。幼女幼女と言ってきたが、今は並ぶと同じ位だった。

「苦労してなくても、地球での人生を奪われたのには変わりないじゃん」

「そう責めてくれるな……だが、お主が元気そうで……良かった」

うっ……。
キュンキュン様の上目遣いの『デレ』に思わずキュンキュンしちゃったよ。

そういえばエルポープスはどうした?やけに静かだと不審に思い正面を見ると、涙を流しながら固まっていた。その幸福そうな表情は今にも昇天しそうなものだった。

「キュンキュン様……結局こいつって本当に神なんですか?」

「ああ。まあ、神格10の儂と同列にされてはかなわんが、一応神じゃ」

確かエルポープスは自分で神格1だと自慢気に語ってたな……どれぐらいの差があるかは……何となく雲泥の差だろうということだけは分かる。

「あ~……キュンキュン様?あの時は時間無いって言われてバタバタでしたが、いろいろ説明してもらっても良いですか?」

「ああ、お前が其奴を復活させてくれたおかげで道が出来た。その為にわざわざ来てやったのだ。何でも聞くが良いぞ」

わざわざを強調するが来てくれた事に違いは無い。しかし何から聞いたら良いのやら……聞きたいことがあり過ぎて纏まらない。

「えっと……あ、キュンキュン様の世界に渡った勇者はお元気ですか?」

俺は何を聞いているんだろう……1番優先度の低い質問では無かろうか……。

「何から聞いてくるかと思ったらあやつの心配か?面白い奴じゃな……勿論元気にしておる。さすがは素質を持つ勇者、毎日儂の変わりに可愛い我が子達の治療をしてくれておるよ」

「キュンキュン様の世界は凄いんだ!!世界の発展の早道と言われる人間は全く居なくて全住民が動物なんだ!!獣人ではなく純粋な動物達!!神格10に到達した神七柱の中で文明を持たずに神格10を達成させたのは世界多しといえどキュンキュン様のみ!!これを見てくれ!!綺麗な世界だろ!!」

何故か復活してしまったエルポープスが壁に貼られた1枚の絵をドーンと効果音付きで指さした。
その姿はアレだ……推しの知識をひけらかすオタク。

「うむ。よく知っておるではないか、しかしソレは儂の世界の姿絵では無いぞ」

バッサリとキュンキュン様に斬り捨てられて、膝から崩れ落ちたエルポープスはまた再起不能になった。

動物……治療……もしかしてキュンキュン様の言っていた『勇者の素質』とは獣医師免許か?
さすがは国家資格……俺も何か資格の1つでも目指して置くんだった。

「しかし……お主が本当に聞きたい事はそんな事では無いだろう?」

キュンキュン様は見透かした様な目で俺を覗き込んでくる……さすがは神、お見通しか。

「……キュンキュン様の世界に行った勇者は……役目を果たしたらどうするんですか?」

「そうさなあ……奴が望めば地球の奴に掛け合い地球に戻してやるが……今のところ奴に帰る意志は無さそうじゃな。毎日が充実していると楽しんでおる」

帰りたいと望めば帰らせてくれるのか。
そうして、わざわざここまで来てくれた意味は……。

「お主は地球へ帰る事を望むか?」

ズバリと聞かれて……俺は即答出来ずにエプロンを握りしめた。
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