ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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農家デビュー

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西区で起こったルノさんの炎とレイニート様の魔法のぶつかりあいが思わぬ副産物を産み出していた。

魔物に壊滅され荒れ地となっていた土地が、炎で焼き畑効果をもたらし、レイニート様の土魔法でふかふかに耕されていた。

オットーさんの勧めで領主であるレイニート様に畑を貸してくださいと直談判したのだが、簡単に貸してもらえてしまった。
元々ここで農業を営んでいた人達は魔物に殺されてしまい、冒険者の多いこの街では冒険者を相手にした商人が多く、わざわざ農家に転身しようという人が居なくて農地をどうするかレイニート様も困っていたらしい。

と、言うわけで……都会の貸し農園位の規模を想定していたのにいきなり畑一反が目の前に広がっている。レイニート様には一区画と言われただけで正直一反がどれぐらいかわからないけど言ってみただけで……とにかく結構な広さの土地って事だ。

オットーさんにどれ位の畝を作れば良いのか教えを授かってきたので、鍬で畝を作っていく。

本当はオットーさんに側で指導してもらいたかったんだけど……オットーさんに貰った鍬を『お手製』にしたら虹色になっちゃったんだよね。お手製で綺麗になるぐらいに思っていたのに見た目が変化しすぎた……思い出の鍬を勝手に虹色に変えたのが申し訳無くて監督をお願いは出来なかったのだ。

「お陰でサクサク出来てほぼ力もいらなくて助かるけど……」

『お手製の鍬……この世界で1番の硬度を誇る虹石製の鍬。贅沢過ぎるその性能は岩をも砕く』

もう鍬の域を超えている。

虹石ってあれだよね、金貨の上の虹貨に使われてるやつ。小さなメダルが金貨100枚分の価値を持っていて取り引きに使われるてるんだよな。
この鍬売ったら金貨何枚になるんだろう……。

「シーナの鍬キレイ」
「シーナまたズルしてる?」

虹石の価値のわからない双子は無邪気に覗き込んでいるけれど、遠くでナタリアさんは唇を震わせていた。
これは俺のじゃないですよ、レイニート様からお借りしたんですよ。
心の中で言い訳をしながら、その贅沢な鍬で畝を作っていく。

「ズルじゃないよ。これが大人の力ってやつだ」

君たちみたいに俺は『力』が無いからね……道具に頼るしかないのさ。
カイとリーナの攻撃力は二桁……俺は……9。

おかしいだろう?レベル3つも上がったのに2しか増えてないって!!
ルノさんに愚痴を聞いてもらったが、レベル上げでステータスの上昇値はその間にどう戦ってきたかが関係するらしい。
だからレベルが下でもルノさんより隊長の方が攻撃力と防御力が高かったりする。

うん……服に踊らされて、俺は力も魔法も何も使って無い、スライムという柔らかな相手に餅つきしていただけ……とても納得出来る答えだった。
魔法が使えない俺はどれだけレベルを上げても魔力は0のまま、見せ掛けのLv.5です。

それでもLv.5はLv.5だから冒険者登録出来るし目的は達成出来たから良いんだもんね。俺は冒険者になっても冒険しない冒険者を目指すんだから!!

やりたいと言うカイとリーナに順番で仲良くなと鍬を渡し、休憩のために腰を下ろした。

はしゃぐ二人の姿に声を掛けて良かったなとしみじみ思う。
初めあった時は隊長と少し遊んだだけで寝てしまうぐらい体力が無かったのに元気になったもんだと親のような気持ちで二人を眺めていた。

「シーナちゃんありがとね。声を掛けて貰って二人共楽しみで昨日なんてなかなか寝付かなくて、私が家に帰った時も起きてたんだよ」

「俺も隊長とルノさんの仕事の邪魔をせずに出歩けるのナタリアさんのおかげですから」

俺と双子が畑仕事に精を出している間、ナタリアさんに周囲を警戒して貰っている。城塞都市になったし、もうそこまで危険は無いだろうと思うけど、一人歩きは過保護なお兄ちゃんどころか過保護なお父さんも許してくれなかった。

ナタリアさんはこれぐらいでは恩は返しきれないと笑った。

心配していた月猫亭の被害は……建物こそ倒壊してしまったが従業員達は皆、隊員に助けられて無事だった様だ。その時アシルさんは従業員を庇ってエレーナの攻撃を受けてしまい……エレーナに寄生されてしまったようだ。

気付かれずに瞬時に偽物と入れ替わる狡猾さ……本当に怖い相手だった。

俺からするとちょっと違法そうな大人なお店も命を掛けて戦う冒険者達の大切な心の拠り所らしく大切な役割を担っているので未成年に奉仕させなければ許可されている。

エレーナ個人に問題があったものの、月猫亭自体は法の範囲内で営業していた事もあり、レイニート様が建物を修復させてた事で元気に営業を再開している。

ナタリアさんもそうだけど……守るものの為とはいえ、その強さには頭が下がる。

「シーナ!!終わったよぉ!!」
「次は何するの~!!」

早いね、君達。

「えっと……次は種蒔きなんだけど……どれだったっけ……」

オットーさんに今の時期に種蒔きに適した種を聞いてきたんだけど……『チェッド』と『ソピヨ』と『ニオニマギ』だったかな。

「じゃあカイここからここまでの列、リーナはここからここまでで……まず棒で溝を作ってこれぐらいの間隔で種を蒔いて、土を被せてお終い……出来るかな?」

「出来る!!」
「出来る、出来る!!」
張り切る二人にそれぞれ種の入った袋を渡すと、俺は棒を持って走った。

「じゃあ競争!!1位の人はおやつが2個!!」
「「あ~!!シーナズルい!!」」

何とでも言うが良い。これはズルではなくハンデというものなのだよ。

全速で溝を引いていく俺の後から追い掛けてきた二人はあっという間に俺を抜いて置いて行ってしまった。

ーーーーーー

次は何をするのかと見上げてくる二人の視線。
水撒きの道具を忘れていたとは言い辛い視線だ。

かわいいブーイングを覚悟して正直に忘れていた事を白状しようかと思ったその時……ポツリポツリと地面に模様が描かれた。
雨だ……まさに恵みの雨。
しかもかなり局部的に……。

畑から離れ……畝にだけ優しい雨が降るのを眺めながら、こんな事が出来るのは一人しか知らないと笑いがこみ上げた。

農道に目を向けると想像通りルノさんがこちらに手を振っていた。

本当に……どこまで甘いんだ。

すぐ側まで来るかと待っていたけれど、ルノさんは雨量を遠くから確認するだけで近くには来ない。

俺の足にしがみついた双子の様子に理由を悟った。二人は魔力の影響を受けやすいって言ってたから二人に気を使って少し離れた場所から見守ってくれているのか。

ナタリアさんに双子を託して農道へ走った。

「ルノさん!!ありがとうございます!!」

「水撒きはこれぐらいで大丈夫かな?」

オットーさんに種蒔き方法を聞いていた時に一緒にいたから……いつまでも水撒きせず立ち尽くしていたから気付いてくれたのか。

「水撒きする道具の事全く考えてなくて……ルノさんが通り掛かってくれて助かりました」

「シーナが困っている様な気がして走ってきたんだ。役に立てて良かったよ」

虫の知らせ……とかいうやつだろうか?そこまでの危機でも無いんだけどな。

「どうした?何か付いてる?」

「いえ……なんかそういうのを察知する道具でもあるのかと思って……」

ルノさんの体を見回しけれどそれっぽい虫は居なかった。

「そんな道具があったら是非欲しいね。先日位からシーナが困ってるとかそういうのを何となく感じる気がするんだよね……まるでずっと側に居るような……」

「へえ……不思議な感じですね」

水撒きも終わったし、ルノさんは見回りに戻って行った。とは言え俺ももうやる事は無いのだけれど……。

「ナタリアさん、今日は仕事ですか?良かったら付き合ってくれたお礼に夕食食べていきませんか?」

「魅力的なお誘いだけど……今日も夜は仕事なの」

そう断るナタリアさんにカイとリーナが頬を膨らませる。

「「シーナのご飯食べたい」」

「ごめんね。また今度お願いするから今日は我慢」

いっぱい働いてくれた双子は子供ながらにナタリアさんの苦労もわかっている様で不満を残しながらも頷いてみせた。

「ナタリアさん、じゃあ二人だけでも詰所で預かって貰いましょう?夕飯が終わったら隊長に送って貰う様にするんで……」

お泊りでも良い様な気はするけど流石にそこまでの権限は無いし……双子がいないとナタリアさんが落ち着かないだろう。

「良い……のかな?」

「大丈夫じゃないですか?優しいおじいちゃんもいるし……」

領主様はタダ飯食べに来てるし。

乗り気になった双子を止める事は流石のナタリアさんでも、もう無理だった。
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