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持つべきものは権力者
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レフさんから貰ったエプロンは残念ながらお蔵入りとなった。
このエプロンを着けているとハイケンさんが「聖女様」と言いながら拝んでくるから……俺は女では無いのはハイケンさんも知っているはずだが?
「ハイケンは敬虔なエルポープス教の信徒だからね。だからこそ教会の腐敗が許せなかったんだろう」
「信仰心はともかくなんで俺が聖女……」
ルノさんは見ていた地図を机に置くと山積みの本の中から1冊を抜き出した。毎度思うが、よくこの山の中からお目当ての物を探し出せるものだと感心する。
「聖女と言うのはエルポープス教に伝わる言い伝えで『世界が闇に包まれし時 竜に乗りて大地に降り立つ者 光の杖を掲げ 世界に光を与えるだろう』」
ルノさんが見せてくれたページにはお世辞にも上手とは言えない絵が描かれていた。
竜の背に乗る白いドレスの恐らく女性が杖の先から光を放っている。俺も友人から美術の授業中、画伯と呼ばれた腕前だが、この絵も中々の画伯っぷりだ。
祓われた闇の中には逃げ出すラクガキの様な生き物。光を与えられた大地はぐにゃぐにゃの……恐らく花が咲き乱れている。何より『聖女様』の顔はかなり前衛的な顔立ち……これと重ねられるとちょっと複雑な気持ち。
「聖女かどうかは置いておいても、シーナが俺の世界に光を与えてくれたのは本当だね。ハイケンもシーナに出会えてそう感じたんだろう」
他の人にそれを言ったり何かしてくるわけじゃないから良いんだけど……拝まれるのは少し恥ずかしい。ハイケンさんに貰った神竜像は3号として食器棚の上に飾ってあるのでそっちを拝んで欲しい。
「そういえば教会って一つしか無いんですか?」
「教会?街ごとにあるよ。開祖のいた王都の教会が本部だけど、このユノスにだってあるぐらいだからね。規模は小さくてもどんな小さな街にもあるよ」
「あ、そうじゃなくて……他の神様は居ないのかなって……」
地球にはいろんな宗教があって、神様の姿も様々だった。
「神は神しかいないだろう?」
あの頼りない神様が唯一無二の絶対神なのか……他にも神様がいるならそちらに、この世界の立て直しをお願いしたかったのに……実物は竜の姿で描かれるのはおこがましい程のひょろひょろっぷりだった。
しかもやれる事が困った時のちょっとしたアドバイスだけとは……幼女女神様は俺をこの世界に飛ばしたり、祝福を与えてくれたり、いろいろ神っぽい事をしていたのに、自分をボコボコにしている相手にさえ神罰を与えられないって弱すぎる。
戦いに負けて消滅したって言ってたから、幼女よりそうとう弱いんだろう。
自分の身は自分で守らなければいけないからこそ、この世界の人間は皆強いんだろうな。俺は戦う必要なんて無かったからなあ。
自分の弱さの理由に納得したところで集中を手元の本に戻した。
ナタスンさんから貰ったレシピの本。ナタスンさんとゴルカーさんが冒険者として旅立つ時に、戦闘では劣るナタスンさんがせめて料理ぐらいはと思い買った物らしい。
二人の故郷の周辺の料理が主で、まだ出会った事のない食材の名前がたくさん出てくる。
その食材さえ手に入れば、後はスキルが助けてくれるので気になった料理の食材をカカルさんに伝えておけば、マルトリノさんが入手した時に回してくれるかもしれない。
「ルノさん、カリーピアーって野菜ですか?肉ですか?」
ルノさんは仕事中ではあるが、わからない事は聞いてくれと言ってくれているし、こちらの様子をチラチラ伺っているので締め切りに追われているというわけでも無さそうなので堂々と邪魔をしている。
「カリーピアーは海に棲む魔物だね。体は槍の様に尖っていて足がたくさんある。大きさは人間と同じぐらいだけど、水の中を高速で突っ込んでくるから結構厄介かな」
「海!!海があるんですか!?」
「ウハネスは海に面した街だからね。ユノスとは全く違う雰囲気の街だよ」
海があるという事は魚!!魚が食べられる。
ユノスも近くに川はあるが魚は全く入ってこない。
川に棲むパンケーターをカカルさんにおすすめされた事もあるけれど、見た目が俺の顔ぐらいあるでっかい蜘蛛だったので丁重にお断りさせてもらった。素揚げにすると殻が香ばしくて美味しいと言われても料理する気にはなれなかった。
ルノさんは紙とペンを取り出すとサラッとゆるい逆三角形を描いた。
「中央に王都『エルポープス』があり、ここから真横に移動した……この辺りが『ウハネス』だね」
真ん中に『エルポープス』と書かれ、横に移動した逆三角形の際に『ウハネス』と書かれた。
これが大まかなアボブール国の形か。周りは魔物の生息する海に囲まれているらしく他国からの侵略にはあまり気を使っていないとの事。
海を行き来するのは命知らずな冒険者ぐらいらしいので貿易とかもやってないみたい。
「ユノスはどの辺りになるんですか?」
「ユノスは国の一番端……」
ユノスと書かれたのは逆三角形の一番下の角部分。本当に端の端なんだな。
「この先は魔物が強すぎて地図職人の能力でも視ることができない未開の土地になっている。陸つなぎに他の国と繋がっているのかどうかも確認できていない」
ユノスを取り囲む様に未開と書き込まれた。
なかなかの危険な街ですこと。治安が悪いと聞いていたのは人間だけの問題では無かったのか。
「シーナも15歳になったら冒険ギルドに登録して冒険者になるんだからね。知っていて損はないよ……ユノスから一番近いのがカジカニの街、そこから右に行くとボッシュで左に進むアドラがある。隊長の出身地のザシーワはここだよ」
みんなの出身地の大まかな場所が地図に書き込まれていく。
結構いろんな所から集まって来ているんだな……ヤシムってこんなに遠いんだ……レイニート様もレフさんもどうやってこの距離を移動してたんだろう。知識が増えた事で生まれる謎。あの二人の生態は本当に謎が多い。
「クリコフトはどこですか?」
「クリコフトはこの辺かな……でも生まれてすぐに王都へ引っ越したからあまり記憶にないんだよね」
そうか……ナタスンさんとゴルカーさんに故郷のソースを使った料理を出したら、すごく喜んでもらえたから、ルノさんのクリコフトの味を……と思ったけど、王都の味がルノさんの故郷の味という事か。王都では何でも揃うとカカルさんが言っていたから、これぞ『王都の味』という物は特にないらしい。
「ルノさんも何か気になる料理があったら言ってくださいね。ルノさんが言ってたと言えばカカルさんすごく張り切ってくれそうです」
「あそこまで純粋に好意を向けられると困るよね……しかもかなり脳内で美化されている様だし」
ルノさんは大きくため息を吐いた。カカルさんに塩対応していたのはその好意にどう対応していいか戸惑っていたのか……本当に可愛い人だ。
「この地図お手製にしても良いですか?」
前の街の地図もとても役に立つ物が出来上がったし、この地図もスゴイ地図になるのではと、期待しながら見ていたんだよね。
「え……?」
「え?」
まさか難色を示されるとは思わなかった。あの地図も問題は残ったままだけど、十分役に立ててたと思ったのに……。
「いや!!駄目と言うわけじゃないんだよ!!ただシーナの作る物は規格外過ぎて次は何を作るつもりなのか少し怖いなって思っただけだよ!!」
「そんなルノさんが怖がる様な物は作ってませんけど……」
俺の作った物で危険物なんて、封印したあの戦闘服ぐらいだ。
「既に国で管理されてもおかしくない物ばかりなんだけどね。雑巾や箒は魔力を消し去ってしまうし、あの地図は書き換えなくても勝手に書き直されている。この前シーナが作ってアシルにあげた物……なんと言ったかな……」
「『はたき』ですか?」
端布がいっぱい余ったから『はたき』にしてみたけど、俺の雑巾が優秀過ぎて埃を払う場面が無かった事に気がついて、どうしようかなと思っていたら興味を持ったらしいアシルさんにあげた。
「瘴気溜まりってね。結構な魔力を剣に込めて蹴散らすんだけど、育った物にはそれ相応の魔力を込めないといけない。アシルは目が良いから見つけるのは得意だけど、レベルが低くて払うのは苦手だったんだが……あの『はたき』を2、3回振るだけで払ってしまったんだよね……」
……それは困りましたね。
アシルさんだから俺に気を遣って見せびらかしたりはしないだろうけど、これからは気軽にあげられないね。ディックさんだったら……危なかったかも。
「真っ青な顔をして大変な物を貰ってしまったと俺に相談に来てくれた。これがディックだったら今頃シーナの事が冒険者にまで知れ渡っていたかもな……」
ルノさんも同意見だった。
「……マルトリノさんから買ったと言うのはもう利かないですかね?」
「無理だろう。う~ん……レイニート様ならもうシーナの力も知っているし、謎の多い人だから疑う人は少ないだろうし、うまく誤魔化してくれるかもね」
「じゃあこれからは困った時のレイニート様でいきます」
確かにレイニート様から貰ったと言えば、皆も何も突っ込んでこなさそうだ。堂々とお手製して不思議がられても、全てレイニート様に押し付けちゃおう。
「ん、じゃあこの地図もお手製にしちゃって大丈夫って事で良いですか?」
「そうだね。とんでもない物が出来てもレイニート様の秘蔵の地図って事で片付けよう」
どうぞと差し出され、ルノさん手書きの地図vol.2を貰い受けた。
さて、どんな仕上がりになりますか……『お手製』っと。
光輝いた後に出来上がったのは、ルノさんが書き込んでいない街まで記された詳細な地図だった。
川や山まで細かく書かれている……が、それだけだった。
「意外と普通の地図でした」
「そう……かな?未開の土地まで詳細に書かれているいるのは俺の気の所為か」
陸続きで隣の国へ行けるみたいだけど……行く気は無いから興味がない。興味がなければ意味が無いのと一緒だ。誰かに見せる予定も無いし良いだろう……あ。
「続けて『合成』も出来ます……」
合成可と光っているのはルノさんの山積みになっている本の数冊。スキルめ……ルノさんの物を俺の物と認識しているなんて、まるで俺がどこぞのガキ大将みたいじゃないか……。
俺の視線が本の山に向いているのに気付いたルノさんは仕方ないという風に俺の背中を押してくれた。
光っていた本を取り出すと『世界の魔物辞典』と『楽しい植物の世界』そして『戦う鉱石』それと『美食への誘い』だった……ルノさん一応、食に関心があったかの。
まあ良い……とりあえず『合成』と。
「これは冒険者にとって喉から手が出るほど欲しい物だね。神様もシーナの冒険者としての道を後押ししてくれているんだよ」
出来上がった地図は冒険者にとっては国宝級の宝だが、俺にとっては嬉しくないものだった。
地図に触れるとその地域に生息する魔物、自生する植物、鉱石が表示されて、魔物や植物を使った料理まで網羅していた。
俺と冒険に出るのが楽しみだと地図を見ながら、どの魔物を狩ろうかと喜ぶルノさん。まさかの『弾丸魔物狩りツアー』が現実のものになろうとしている。
スキルよ……ルノさんじゃなくて俺を喜ばせてくれ。
「シーナ、早く大きくなってね」
「……はい」
……誕生日、いつかわかんないけど、あと1年待ってくれないかなぁ。
このエプロンを着けているとハイケンさんが「聖女様」と言いながら拝んでくるから……俺は女では無いのはハイケンさんも知っているはずだが?
「ハイケンは敬虔なエルポープス教の信徒だからね。だからこそ教会の腐敗が許せなかったんだろう」
「信仰心はともかくなんで俺が聖女……」
ルノさんは見ていた地図を机に置くと山積みの本の中から1冊を抜き出した。毎度思うが、よくこの山の中からお目当ての物を探し出せるものだと感心する。
「聖女と言うのはエルポープス教に伝わる言い伝えで『世界が闇に包まれし時 竜に乗りて大地に降り立つ者 光の杖を掲げ 世界に光を与えるだろう』」
ルノさんが見せてくれたページにはお世辞にも上手とは言えない絵が描かれていた。
竜の背に乗る白いドレスの恐らく女性が杖の先から光を放っている。俺も友人から美術の授業中、画伯と呼ばれた腕前だが、この絵も中々の画伯っぷりだ。
祓われた闇の中には逃げ出すラクガキの様な生き物。光を与えられた大地はぐにゃぐにゃの……恐らく花が咲き乱れている。何より『聖女様』の顔はかなり前衛的な顔立ち……これと重ねられるとちょっと複雑な気持ち。
「聖女かどうかは置いておいても、シーナが俺の世界に光を与えてくれたのは本当だね。ハイケンもシーナに出会えてそう感じたんだろう」
他の人にそれを言ったり何かしてくるわけじゃないから良いんだけど……拝まれるのは少し恥ずかしい。ハイケンさんに貰った神竜像は3号として食器棚の上に飾ってあるのでそっちを拝んで欲しい。
「そういえば教会って一つしか無いんですか?」
「教会?街ごとにあるよ。開祖のいた王都の教会が本部だけど、このユノスにだってあるぐらいだからね。規模は小さくてもどんな小さな街にもあるよ」
「あ、そうじゃなくて……他の神様は居ないのかなって……」
地球にはいろんな宗教があって、神様の姿も様々だった。
「神は神しかいないだろう?」
あの頼りない神様が唯一無二の絶対神なのか……他にも神様がいるならそちらに、この世界の立て直しをお願いしたかったのに……実物は竜の姿で描かれるのはおこがましい程のひょろひょろっぷりだった。
しかもやれる事が困った時のちょっとしたアドバイスだけとは……幼女女神様は俺をこの世界に飛ばしたり、祝福を与えてくれたり、いろいろ神っぽい事をしていたのに、自分をボコボコにしている相手にさえ神罰を与えられないって弱すぎる。
戦いに負けて消滅したって言ってたから、幼女よりそうとう弱いんだろう。
自分の身は自分で守らなければいけないからこそ、この世界の人間は皆強いんだろうな。俺は戦う必要なんて無かったからなあ。
自分の弱さの理由に納得したところで集中を手元の本に戻した。
ナタスンさんから貰ったレシピの本。ナタスンさんとゴルカーさんが冒険者として旅立つ時に、戦闘では劣るナタスンさんがせめて料理ぐらいはと思い買った物らしい。
二人の故郷の周辺の料理が主で、まだ出会った事のない食材の名前がたくさん出てくる。
その食材さえ手に入れば、後はスキルが助けてくれるので気になった料理の食材をカカルさんに伝えておけば、マルトリノさんが入手した時に回してくれるかもしれない。
「ルノさん、カリーピアーって野菜ですか?肉ですか?」
ルノさんは仕事中ではあるが、わからない事は聞いてくれと言ってくれているし、こちらの様子をチラチラ伺っているので締め切りに追われているというわけでも無さそうなので堂々と邪魔をしている。
「カリーピアーは海に棲む魔物だね。体は槍の様に尖っていて足がたくさんある。大きさは人間と同じぐらいだけど、水の中を高速で突っ込んでくるから結構厄介かな」
「海!!海があるんですか!?」
「ウハネスは海に面した街だからね。ユノスとは全く違う雰囲気の街だよ」
海があるという事は魚!!魚が食べられる。
ユノスも近くに川はあるが魚は全く入ってこない。
川に棲むパンケーターをカカルさんにおすすめされた事もあるけれど、見た目が俺の顔ぐらいあるでっかい蜘蛛だったので丁重にお断りさせてもらった。素揚げにすると殻が香ばしくて美味しいと言われても料理する気にはなれなかった。
ルノさんは紙とペンを取り出すとサラッとゆるい逆三角形を描いた。
「中央に王都『エルポープス』があり、ここから真横に移動した……この辺りが『ウハネス』だね」
真ん中に『エルポープス』と書かれ、横に移動した逆三角形の際に『ウハネス』と書かれた。
これが大まかなアボブール国の形か。周りは魔物の生息する海に囲まれているらしく他国からの侵略にはあまり気を使っていないとの事。
海を行き来するのは命知らずな冒険者ぐらいらしいので貿易とかもやってないみたい。
「ユノスはどの辺りになるんですか?」
「ユノスは国の一番端……」
ユノスと書かれたのは逆三角形の一番下の角部分。本当に端の端なんだな。
「この先は魔物が強すぎて地図職人の能力でも視ることができない未開の土地になっている。陸つなぎに他の国と繋がっているのかどうかも確認できていない」
ユノスを取り囲む様に未開と書き込まれた。
なかなかの危険な街ですこと。治安が悪いと聞いていたのは人間だけの問題では無かったのか。
「シーナも15歳になったら冒険ギルドに登録して冒険者になるんだからね。知っていて損はないよ……ユノスから一番近いのがカジカニの街、そこから右に行くとボッシュで左に進むアドラがある。隊長の出身地のザシーワはここだよ」
みんなの出身地の大まかな場所が地図に書き込まれていく。
結構いろんな所から集まって来ているんだな……ヤシムってこんなに遠いんだ……レイニート様もレフさんもどうやってこの距離を移動してたんだろう。知識が増えた事で生まれる謎。あの二人の生態は本当に謎が多い。
「クリコフトはどこですか?」
「クリコフトはこの辺かな……でも生まれてすぐに王都へ引っ越したからあまり記憶にないんだよね」
そうか……ナタスンさんとゴルカーさんに故郷のソースを使った料理を出したら、すごく喜んでもらえたから、ルノさんのクリコフトの味を……と思ったけど、王都の味がルノさんの故郷の味という事か。王都では何でも揃うとカカルさんが言っていたから、これぞ『王都の味』という物は特にないらしい。
「ルノさんも何か気になる料理があったら言ってくださいね。ルノさんが言ってたと言えばカカルさんすごく張り切ってくれそうです」
「あそこまで純粋に好意を向けられると困るよね……しかもかなり脳内で美化されている様だし」
ルノさんは大きくため息を吐いた。カカルさんに塩対応していたのはその好意にどう対応していいか戸惑っていたのか……本当に可愛い人だ。
「この地図お手製にしても良いですか?」
前の街の地図もとても役に立つ物が出来上がったし、この地図もスゴイ地図になるのではと、期待しながら見ていたんだよね。
「え……?」
「え?」
まさか難色を示されるとは思わなかった。あの地図も問題は残ったままだけど、十分役に立ててたと思ったのに……。
「いや!!駄目と言うわけじゃないんだよ!!ただシーナの作る物は規格外過ぎて次は何を作るつもりなのか少し怖いなって思っただけだよ!!」
「そんなルノさんが怖がる様な物は作ってませんけど……」
俺の作った物で危険物なんて、封印したあの戦闘服ぐらいだ。
「既に国で管理されてもおかしくない物ばかりなんだけどね。雑巾や箒は魔力を消し去ってしまうし、あの地図は書き換えなくても勝手に書き直されている。この前シーナが作ってアシルにあげた物……なんと言ったかな……」
「『はたき』ですか?」
端布がいっぱい余ったから『はたき』にしてみたけど、俺の雑巾が優秀過ぎて埃を払う場面が無かった事に気がついて、どうしようかなと思っていたら興味を持ったらしいアシルさんにあげた。
「瘴気溜まりってね。結構な魔力を剣に込めて蹴散らすんだけど、育った物にはそれ相応の魔力を込めないといけない。アシルは目が良いから見つけるのは得意だけど、レベルが低くて払うのは苦手だったんだが……あの『はたき』を2、3回振るだけで払ってしまったんだよね……」
……それは困りましたね。
アシルさんだから俺に気を遣って見せびらかしたりはしないだろうけど、これからは気軽にあげられないね。ディックさんだったら……危なかったかも。
「真っ青な顔をして大変な物を貰ってしまったと俺に相談に来てくれた。これがディックだったら今頃シーナの事が冒険者にまで知れ渡っていたかもな……」
ルノさんも同意見だった。
「……マルトリノさんから買ったと言うのはもう利かないですかね?」
「無理だろう。う~ん……レイニート様ならもうシーナの力も知っているし、謎の多い人だから疑う人は少ないだろうし、うまく誤魔化してくれるかもね」
「じゃあこれからは困った時のレイニート様でいきます」
確かにレイニート様から貰ったと言えば、皆も何も突っ込んでこなさそうだ。堂々とお手製して不思議がられても、全てレイニート様に押し付けちゃおう。
「ん、じゃあこの地図もお手製にしちゃって大丈夫って事で良いですか?」
「そうだね。とんでもない物が出来てもレイニート様の秘蔵の地図って事で片付けよう」
どうぞと差し出され、ルノさん手書きの地図vol.2を貰い受けた。
さて、どんな仕上がりになりますか……『お手製』っと。
光輝いた後に出来上がったのは、ルノさんが書き込んでいない街まで記された詳細な地図だった。
川や山まで細かく書かれている……が、それだけだった。
「意外と普通の地図でした」
「そう……かな?未開の土地まで詳細に書かれているいるのは俺の気の所為か」
陸続きで隣の国へ行けるみたいだけど……行く気は無いから興味がない。興味がなければ意味が無いのと一緒だ。誰かに見せる予定も無いし良いだろう……あ。
「続けて『合成』も出来ます……」
合成可と光っているのはルノさんの山積みになっている本の数冊。スキルめ……ルノさんの物を俺の物と認識しているなんて、まるで俺がどこぞのガキ大将みたいじゃないか……。
俺の視線が本の山に向いているのに気付いたルノさんは仕方ないという風に俺の背中を押してくれた。
光っていた本を取り出すと『世界の魔物辞典』と『楽しい植物の世界』そして『戦う鉱石』それと『美食への誘い』だった……ルノさん一応、食に関心があったかの。
まあ良い……とりあえず『合成』と。
「これは冒険者にとって喉から手が出るほど欲しい物だね。神様もシーナの冒険者としての道を後押ししてくれているんだよ」
出来上がった地図は冒険者にとっては国宝級の宝だが、俺にとっては嬉しくないものだった。
地図に触れるとその地域に生息する魔物、自生する植物、鉱石が表示されて、魔物や植物を使った料理まで網羅していた。
俺と冒険に出るのが楽しみだと地図を見ながら、どの魔物を狩ろうかと喜ぶルノさん。まさかの『弾丸魔物狩りツアー』が現実のものになろうとしている。
スキルよ……ルノさんじゃなくて俺を喜ばせてくれ。
「シーナ、早く大きくなってね」
「……はい」
……誕生日、いつかわかんないけど、あと1年待ってくれないかなぁ。
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