58 / 87
今日は何の日
しおりを挟む
「シーナ!!これお土産っす!!この店のビスクッタはユノスで1番古くからあるっす!!俺達にとっちゃ故郷の味っす!!」
「ありがとうございます」
ディックさんがくれた焼き菓子からほんのりと甘い香りが漂ってくる。
今日は何の日なんだろう?
隊員達が、外回りから戻って来ると次々にお土産を渡された。
アシルさんからは小さなお財布を、ナタスンさんからはレシピの本。ゴルカーさんからは故郷のウハネスで愛用されているというソース。ハイケンさんは神竜の像、ベルンさんからは花束……。
「今日は何かいわれのある日なんですか?」
最後に戻ってきたベルムントさんから手の平に乗るほどの小さな剣を受け取りながら尋ねてみた。
ハロウィンとかバレンタインみたいなイベントでもあるのだろうか?俺なにも用意してない。
「いや?」
「皆さんいろいろ買ってきてくれて……そういう日なのかと……」
単純にお土産が重なっただけ?
「はははっ!!そりゃハンカチなんざ貰った日にゃお返しをせんわけにいかんじゃろ」
ベルムントさんの手でガシガシと頭を撫でられた。隊長程大きくはないけれど長年剣を握り続けていたベルムントさんの手は大きくて硬い。
「でもあれはレベル上げで迷惑を掛けたお礼で、お礼にお礼で返されたらまたお礼をしないと……」
「なんじゃ、皆でシーナは知らずにやっとるじゃろうと話しておったが、やっぱり知らんかったか」
楽しそうに豪快に笑うベルムントさんだが頭に手を乗っけられたままなので筋がつりそうな程首をグラグラ振り回された。
「昔、ハンカチは女性から男性へ唯一許された求婚じゃ。ハンカチを自分の代わりとして肌身はなさず側において下さいって意味合いを込めて贈るんじゃよ」
「え!?……俺そんな深い意味で贈ったわけじゃ……」
ルノさんも作ってる時ずっと隣に居たんだから教えてくれれば良いのに……。
「受け入れる者は自分の大切な物を贈る事で返事をするんじゃが……皆それぞれ大切な物を贈った様じゃな」
「ベ……ベルムントさん……どうしましょう……俺、俺……そんなの知らなくて……」
何も考えずに皆の大切な物、受け取っちゃったよ。ちゃんと説明して返して来ないと……怒ったりしないかな?
「ベルムントさん!!何も知らなくてただハンカチあれば皆便利かなと思っただけで、ごめんなさい!!これはお返しします!!」
小さな剣を返そうとしたけど手を剣ごと握り込まれた。
「良いから持っておいてくれ……シーナにそんな気は無いのはわかっておると言ったじゃろ?みんなネタバラシした時のシーナの慌てっぷりを楽しみに黙って渡したわけで……」
ベルムントさんが手を上げ、見上げた先を見ると2階の廊下の窓から皆がニヤニヤ笑いながら見ている。隠れて見てたのか!!ちゃっかり隊長まで一緒に笑ってるし。
「シーナちゃ~ん!!18歳になったら結婚してね~」
「シーナ!!幸せにするっす!!」
「…………!!」
「何時でも側にいるからな~!!」
くっそぉ!!心底楽しそうな顔しやがって!!
からかわれた悔しさに髪を掻き乱す俺の姿にまた笑いが起こる。
「シーナ……お前の反応を楽しみたいってのもあったが、知らずにくれた物だとしても嬉しかったのは事実、じゃからこそ大切な物をお前に託した……副隊長程頼りにはならんじゃろうが、儂らもお前を見守っておると伝えたかったからな……」
「ベルムントさん……そんなの……俺なんて皆に頼りっぱなしです」
みんなが温かく迎え入れてくれて、支えてくれるから、詰所だけの世界でも毎日を楽しく過ごせている。
「この剣は子供が産まれた時に災厄から身を守ってくれる様にと子供に贈る物。孫が無事産まれていればちょうどシーナ位の歳じゃった……お前はもう儂の孫みたいなもんじゃし……お前が貰ってくれるか?」
「そんな大切な物…………大事にします!!絶対!!」
初めは、正直なんて所だと思ったけど……皆で良かった。皆に会えて良かった。
皆の想いが詰まった収納鞄を抱きしめて、もう一度皆にお礼を伝えた。
ーーーーーー
「ただいま、シーナ」
胸のほかほかに踊らされながら上機嫌で食堂へ料理を運んでいると、ルノさんが帰ってきた。
遅くなるとは聞いていたけど……夕飯の時間に間に合って良かった。
「おかえりなさい。ちょうど今から夕飯ですよ。ルノさんも席に座っててください」
レベルが上がり、力が上がった事で今まで持てなかった大皿を運べる様になった事を見せ付けるように持っていたお皿を更に持ち上げた。
今日はレイニート様は忙しいらしく姿を見せなかったので皆ものびのびした雰囲気ですでに運んでいる料理に手を伸ばしている。
悪い人では無いのは重々承知しているが、いるといないでは緊張感が違う。
久しぶりに穏やかでいて賑やかな食事風景を満喫した。
ーーーーーー
「ルノさん……ハンカチは求婚の意味だってなんで教えてくれなかったんですか?ちょっと恥かいちゃいました」
ベッドの中から、灯りを消すルノさんに不満を漏らした。結果的に皆と絆を深められた気がするので良かったんだけど。
「求婚なんて昔の話だよ。今は家族に贈ったり、大切な友人に贈ったりもする。離れたくない相手に贈るっていう意味だけが残ってるよ。シーナは皆と離れたくないって思っているだろ?」
……2段構えで騙された。
暗くなった部屋でルノさんが横になるのを確認して俺も目を閉じた。
「じゃあ隊長とルノさんにも贈らないとですね。明日作るからちゃんと受け取ってくださいね……おやすみなさい」
「ありがとうございます」
ディックさんがくれた焼き菓子からほんのりと甘い香りが漂ってくる。
今日は何の日なんだろう?
隊員達が、外回りから戻って来ると次々にお土産を渡された。
アシルさんからは小さなお財布を、ナタスンさんからはレシピの本。ゴルカーさんからは故郷のウハネスで愛用されているというソース。ハイケンさんは神竜の像、ベルンさんからは花束……。
「今日は何かいわれのある日なんですか?」
最後に戻ってきたベルムントさんから手の平に乗るほどの小さな剣を受け取りながら尋ねてみた。
ハロウィンとかバレンタインみたいなイベントでもあるのだろうか?俺なにも用意してない。
「いや?」
「皆さんいろいろ買ってきてくれて……そういう日なのかと……」
単純にお土産が重なっただけ?
「はははっ!!そりゃハンカチなんざ貰った日にゃお返しをせんわけにいかんじゃろ」
ベルムントさんの手でガシガシと頭を撫でられた。隊長程大きくはないけれど長年剣を握り続けていたベルムントさんの手は大きくて硬い。
「でもあれはレベル上げで迷惑を掛けたお礼で、お礼にお礼で返されたらまたお礼をしないと……」
「なんじゃ、皆でシーナは知らずにやっとるじゃろうと話しておったが、やっぱり知らんかったか」
楽しそうに豪快に笑うベルムントさんだが頭に手を乗っけられたままなので筋がつりそうな程首をグラグラ振り回された。
「昔、ハンカチは女性から男性へ唯一許された求婚じゃ。ハンカチを自分の代わりとして肌身はなさず側において下さいって意味合いを込めて贈るんじゃよ」
「え!?……俺そんな深い意味で贈ったわけじゃ……」
ルノさんも作ってる時ずっと隣に居たんだから教えてくれれば良いのに……。
「受け入れる者は自分の大切な物を贈る事で返事をするんじゃが……皆それぞれ大切な物を贈った様じゃな」
「ベ……ベルムントさん……どうしましょう……俺、俺……そんなの知らなくて……」
何も考えずに皆の大切な物、受け取っちゃったよ。ちゃんと説明して返して来ないと……怒ったりしないかな?
「ベルムントさん!!何も知らなくてただハンカチあれば皆便利かなと思っただけで、ごめんなさい!!これはお返しします!!」
小さな剣を返そうとしたけど手を剣ごと握り込まれた。
「良いから持っておいてくれ……シーナにそんな気は無いのはわかっておると言ったじゃろ?みんなネタバラシした時のシーナの慌てっぷりを楽しみに黙って渡したわけで……」
ベルムントさんが手を上げ、見上げた先を見ると2階の廊下の窓から皆がニヤニヤ笑いながら見ている。隠れて見てたのか!!ちゃっかり隊長まで一緒に笑ってるし。
「シーナちゃ~ん!!18歳になったら結婚してね~」
「シーナ!!幸せにするっす!!」
「…………!!」
「何時でも側にいるからな~!!」
くっそぉ!!心底楽しそうな顔しやがって!!
からかわれた悔しさに髪を掻き乱す俺の姿にまた笑いが起こる。
「シーナ……お前の反応を楽しみたいってのもあったが、知らずにくれた物だとしても嬉しかったのは事実、じゃからこそ大切な物をお前に託した……副隊長程頼りにはならんじゃろうが、儂らもお前を見守っておると伝えたかったからな……」
「ベルムントさん……そんなの……俺なんて皆に頼りっぱなしです」
みんなが温かく迎え入れてくれて、支えてくれるから、詰所だけの世界でも毎日を楽しく過ごせている。
「この剣は子供が産まれた時に災厄から身を守ってくれる様にと子供に贈る物。孫が無事産まれていればちょうどシーナ位の歳じゃった……お前はもう儂の孫みたいなもんじゃし……お前が貰ってくれるか?」
「そんな大切な物…………大事にします!!絶対!!」
初めは、正直なんて所だと思ったけど……皆で良かった。皆に会えて良かった。
皆の想いが詰まった収納鞄を抱きしめて、もう一度皆にお礼を伝えた。
ーーーーーー
「ただいま、シーナ」
胸のほかほかに踊らされながら上機嫌で食堂へ料理を運んでいると、ルノさんが帰ってきた。
遅くなるとは聞いていたけど……夕飯の時間に間に合って良かった。
「おかえりなさい。ちょうど今から夕飯ですよ。ルノさんも席に座っててください」
レベルが上がり、力が上がった事で今まで持てなかった大皿を運べる様になった事を見せ付けるように持っていたお皿を更に持ち上げた。
今日はレイニート様は忙しいらしく姿を見せなかったので皆ものびのびした雰囲気ですでに運んでいる料理に手を伸ばしている。
悪い人では無いのは重々承知しているが、いるといないでは緊張感が違う。
久しぶりに穏やかでいて賑やかな食事風景を満喫した。
ーーーーーー
「ルノさん……ハンカチは求婚の意味だってなんで教えてくれなかったんですか?ちょっと恥かいちゃいました」
ベッドの中から、灯りを消すルノさんに不満を漏らした。結果的に皆と絆を深められた気がするので良かったんだけど。
「求婚なんて昔の話だよ。今は家族に贈ったり、大切な友人に贈ったりもする。離れたくない相手に贈るっていう意味だけが残ってるよ。シーナは皆と離れたくないって思っているだろ?」
……2段構えで騙された。
暗くなった部屋でルノさんが横になるのを確認して俺も目を閉じた。
「じゃあ隊長とルノさんにも贈らないとですね。明日作るからちゃんと受け取ってくださいね……おやすみなさい」
232
お気に入りに追加
2,827
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる