ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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Lv.5になりました

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「Lv.5になりました!!」

夕飯を食べにやって来たレイニート様に誇らしげに鑑定をしてみてくれとせがんだ。

「そうか、Lv.4まで面倒を見てやった僕の功績だな」
「はい、レイニート様のおかげです。ありがとうございました!!」

あの時は心の底でちょっと恨んでたけど、LV.4まで上がったおかげで自力でスライムが倒せる様になっていた。

もう隊長にゴマを擦ったり、泣き付いたり、リーナの真似をしてみたり、土下座してみたりとありとあらゆる手を使って対戦相手はスライムだけで許してもらえた。

「スライムだけでレベル上げなんてもうそれは戦闘じゃない、作業だ。お前はもう何も考えずに剣だけ振ってろ」

そう言われて、座って剣を振り下ろす先に隊長がスライムをセットしてくれる餅つきスタイル。もしくはわんこスライム。
時間がもったいないからと両手と剣を布で固定され何も考えず振り続ける、弾けるスライムを避ける事もせずに全てのスライムの粘液を浴び続けた。

服の中までヌルヌルで気持ちが悪くて、あれはあれで地獄の特訓だったけど、スプラッターよりはマシだった……と思う。

「それでシーナ君。今回は何をやらかしたのかな?隊長があそこまで精も根も尽き果て灰になっているのは初めて見たな」

食堂のテーブルに突っ伏した隊長は口から魂が抜けそうな程疲弊している。

「俺もスライムの粘液塗れになるし、立ち上がれないほど疲れたけど、隊長には本当に無理をさせてしまって……スライムをあれだけ用意してもらって、本当に迷惑を掛けてしまいました」

あんなに数が必要とは思わなかったけど、1日で上げるとは予想してなかった。そんなに無理せずに少しづつで良かったんだけどな。

「ああ……大方想像は出来たよ。君は全力で労ってやると良い」

レイニート様に微笑まれた。
普段なら裏があるのではと疑ってしまうが今日の俺は全てが薔薇色。
だってもう魔物と戦わなくて良いんだもの。

「はい。なので今日は隊長の好きなメニューで揃えました。レイニート様の好きなメニューは……高すぎて詰所の予算では買えないらしいので、いつかお金貯めてご馳走します」

「無理はしてくれなくて良いさ。君に素直に礼を言われるのは怖いからな。僕や隊長だけではなく隊員達にはお礼はしたのかい?今は瘴気溜まりが落ち着いているとはいえ、隊長、副隊長が君につきっきりになっている間の仕事を支えていたのは彼らだろう」

……凄い。
レイニート様がまともな事を言ってる。

「……僕は常識人だよ」

「あはは……人の心読まないでくださいよ。ちゃんと隊員の皆さんにもお礼はしましたよ。皆には汗も汚れも……血も綺麗に拭き取ってくれる手作りのハンカチをプレゼントしたんですけど、レイニート様には特別品を用意してあるんです……」

ルノさんが前にハンカチを貸してくれたけど、血のシミだらけであれで汗を拭かれたのはちょっと困った。

「ハンカチを?……よくルノルトスが許したものだね。僕のは特別という事は僕が本命という意味かな?」

収納鞄の中に手を入れたままレイニート様の横に座り身を寄せ、皆が見ていない事を確認してそっとレイニート様の手に握らせた。

「……なんだい……これは」

「俺の新作。ミニミニルノさんです。早く、皆に見られないうちにしまってください」

震えるレイニート様の手の中にはお手玉サイズのぷっくらデフォルメされたミニミニルノさん人形。

レイニート様ってルノさんにライバル心燃やして、すぐ突っかかるけど、でも心配もしていて……ルノさんに対する『僕を見ろ』って気持ちが俺にも伝わってくるんだよね。
ルノさんがレイニート様を見ていると嬉しそうだし……。

レイニート様にはお世話になったし、俺は同担拒否というわけでもない。ルノさんのカッコ良さを共有出来る仲間でもあるんだ。好敵手と書いて『とも』と読もう!!

「君はどうやらかなりの被虐趣味がある様だね」

笑顔で拳を握りしめるレイニート様!!
ミニミニルノさんが大変な事に!!

放られたミニミニルノさんを慌てて両手で受け止める。

「君がルノルトスを好きなのはよくわかった。だが全ての人間が君と同じ様にルノルトスを好きになると思うんじゃない」

王子様、暗黒顔になってる……。
メデューサに睨まれ石化した様に体が硬直した。

「君は彼の為を思っているのかもしれないが……それは彼の為にも、君の為にもならない愚かな選択だという事はわかっているのか?」

本気で……喜んで貰おうと思ったんだ……。

「……君は馬鹿だが、裁縫の腕は本物だな。よく似ているし、質は素晴らしい」

気持ちは込めて作ったから……褒められて単純だけど気持ちが浮上する。

「そうだな。お礼をと考えてくれるならルノルトスではなく、君の人形を作ってくれないか?等身大でも構わない」

「俺?何で……」

自分の人形を自分で作るとか気持ち悪い。それをレイニート様に持たれるとか、針山代わりに使われたり、てるてる坊主代わりに使われそうでやだな。

「変な事には使わないよ。ただ持っているだけで……ああ、あいつの羨む顔が見物だ。土下座も見られるかもしれないなぁ……良いな、それ。うん、決定だ。楽しみにしているよ」

無理やり約束をさせられてしまった
え……俺、本当に自分の人形作らなきゃ駄目?

手を振られて半強制的に席に戻らされた。

「レイニート様は喜んでくれた?何を作っていたのかは知らないけど、心を込めながら作っていたもんね」

席に戻りルノさんに笑顔を向けられたけど、その笑顔にミニミニルノさん人形を返されてしまったとは言えなかった。

ーーーーーー

「平和って良いなぁ~」

魔物退治に向かう必要の無い日って……なんていい日なんだ。連日のレベル上げから解放され、平和な日々の愛しさよ……。

中庭から見上げる狭い空だけど、広い西区と比べても晴れやかさが違うね。

今日は中庭で虫干しされながら、皆の革鎧を磨いている。

皆さん肉体が鎧みたいな精神の人達だから滅多に鎧を着ける事は無いらしいが流石にあの事件では鎧を着けていたらしい。
軽く血を延ばしただけで倉庫に投げ込まれているのを見て驚いた。

俺の雑巾は万能だから血の跡だってひと拭きだ……が、ぽかぽかの日差しが心地良くてのんびり、のんびりとやっている。

「いつ見ても不思議なもんだな。ついにあの倉庫の掃除に取り掛かったのか。ありがとよ」

見回りから戻ってきたオットーさんとレフさんに覗き込まれていた。

エレーナの事件の後、暫くは瘴気溜まりが出来やすくなっていたらしく、みんな出たり入ったりを繰り返していたけれど地図で的確に狙って向かえたみたいで効率良く処理出来ている。

街も落ち着いてきて瘴気溜まり自体の発生が少なくなってきているみたいだ……誰も口には出さないけれど、きっと理由は俺の想像通りだと思う……。

街に溢れる魔力が人の不安や悪い気に反応し瘴気となる……エレーナに操られて魔物化した人達は、心に闇を抱えていた人達で……図らずにもエレーナはこの街に少しの平穏を与えてくれた。

それでも時間が立つと、魔力が人の心に闇を生み出すらしく束の間の平和ではあるけれど。

「ルノさんからも倉庫の立入りの許可を貰えたんです」

物が溢れていて危ないからと入室禁止にされていたけれど、エレーナの開けた穴でいくつか物が吹き飛び、俺のレベルも5に上がったので大丈夫だろうと入室の許可が出た。
Lv.5でいよいよルノさんも俺を子供ではなく一人の男として認めざるを得ないというところだろう。

「よく許可が貰えたな。倉庫には呪われた物もいくつか保管されている筈だったがな」

収納鞄に入ったままだったそれを戻そうとしたらこの汚れた鎧が積まれていたんだよね。みんな隙間があったらすぐに埋めていくスタイルらしい。

「まあ、ちょうど良かった。これ受け取れ」

オットーさんから渡されたのは……。

「鍬……ですか?」

「ああ、昔使ってた相棒なんだが……なんとなく捨てられなくてな……お前にやるよ。ノウモを育てるのに夢中になってたろ?流石に中庭の土じゃ痩せ過ぎだが西区も開放されたんだ。レイニート様に頼みゃ一区画ぐらい融通してくれんじゃねぇか」

おお!!カカルさんが仕入れてくれた種もあるし植木鉢の家庭菜園からいきなり本格的な農業だ!!

「でも俺、農業の知識全く無いですけど……」

「俺も手伝ってやるって、見回りのついでに畑の様子も見てやるよ」

元農家のオットーさんのサポートがあれば、初心者でも何とかなりそうだな。うまく育てられたら食費も浮く。

「……やる」

レフさんが喋った。
それだけでも驚きなのに紙袋を手渡された。
中に入っていたのはエプロンだった。そういえば服のままでやってたな。服はお手製で汚れがつかないし、細かい事は気にしない人達だと思って忘れてた。

「ありがとうございます。大事に使わせて貰います」

お礼に軽く頷いてレフさんたちは部屋に戻って行った。

……貰った物に文句は言えないけど、あのレフさんがどんな顔をして買ったんだろう。もう一度広げて見る。真っ白なロングのエプロンだが、肩紐が大きなフリルだ。
メイドさん用だよね?この世界でエプロンと言えばこれしかないのか?

出来れば黒のギャルソンエプロンとかの方が……ルノさんとかレイニート様は似合うだろうな。
隊員の皆も気を引き締めている時はイケメンだし、食堂をカフェにしたら絶対流行る。ベルンさんとかノリノリでやってくれそうだよね。
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