ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

文字の大きさ
上 下
54 / 87

愛と呪いは紙一重

しおりを挟む
ベッドの上で土下座する俺をルノさんは困りはてた顔で見下ろしてくる。
ルノさんだったら俺のお願いを断らずにいてくれるなんて甘い事を考えていたんだけど……。

「シーナの頼みなら何でも叶えてはあげたいんだけど……」

「すみません。ルノさんは街を守らなきゃいけないのに……身勝手でした」

スライムを倒す為に、倒せた時の事を本気出して何が違ったのか考えて見た結果……俺に足りなかった物、それはルノさんの武器だ。
昔の誰かが武器の性能の違いだけが戦力の差では無いと言っていた気がするけど、底辺の戦いではやはり武器が物を言うと思う。武器の性能が戦力を左右するのだ。

スライム倒したあの時も誰が言ったか覚えてないけど『ルノさんの剣がついてる』って言ってたもんな。大事なのは愛の力かな、とか馬鹿なことを考えてみたりもしたけれど……自分の事しか考えていなかった事に反省した。

「いや、剣は飾りみたいな物だから良いんだけど……」

良いのかよ!!
まあルノさん、剣使ってるけどメインは魔法だもんね。

「ちょっと機嫌が悪くてね。こいつは毎回魔力を寄越せば代わりに力を与えると言ってくるんだけど、前回シーナが力を求めるかって問いに答えたから力を貸したのに魔力が吸えなかったって嫌がってて……」

大事なのは呪いの力でした。
俺気付かないうちに呪いの剣と会話になっていたのか。
て、言うか……ルノさんそんな呪いと普通に会話して大丈夫なのかな?

「……は?あんまり調子に乗ってると叩き折るぞ……」

低い声でボソリと呟かれたルノさんの言葉に……なんとなく俺、剣にも馬鹿にされていると感じた。
剣のくせに生意気だ。お前もお手製にしてやろうか。

「何かシーナに扱えそうな武器は……」

ルノさんは積まれていた箱を漁りながら俺にあいそうな武器を探し始めてくれた。
武器もお手製に出来たら良いんだけど……試しに鑑定してもまだお手製に出来る物は……あ、あった。

「これはお手製に出来そうです」
手に取ったのは鞘に収まった小さなナイフだった。
このサイズなら楽に振れるし俺でも扱えそうだ。

「解体用のナイフか。それで殺るならかなり接近しないと駄目だし大型だと内臓まで届かないな……隊長に魔物の体を押さえて貰っていれば大丈夫かな……刺殺するには握りが浅くてシーナの指を傷つける事に……」

「スライムは動かないし柔らかいから平気ですよ。お手製っと……」

そんな大型の魔物と戦う気はありませんよ。
どんな性能になるかなぁ。殺す事を想像すると怖いけどやっぱりかっこいい武器は男の浪漫。少しわくわくしながら『鑑定化』に触れた。

「……『死んだ魔物の素材を余分なく剥ぎ取る事が出来る。刃こぼれも脂に汚れる事もなく、手先を切る心配まで取り去り、一切の煩わしさを感じない』」

完全に解体専用化した。

「生きている者には使えないみたいだね」

「なに躊躇無く自分を刺してるんですか!!」
面白そうに自分の手の平にナイフを突き立て、弾かれるのを楽しむルノさんに思わず引いた。スキルを信用し過ぎだろ。エレーナに包丁で襲われた時、その効果は体験済みでわかっているが、自らやりたくない。

「これ貰っても良いかい?解体は重労働だしナイフの手入れって結構面倒なんだ」

「どうぞ……解体はちょっとやれる気がしないので……」
少しだけ現場を見た事あるけど、血も内臓も見るの無理……充満する血の匂いに吐き戻してすぐには立ち直れなかった。
ご飯作るのに支障が出るからもうやりたく無い。

他にもお手製できる物もあったけれど、ほとんど解体用のナイフだった。ナイフの手入れするのが面倒ですぐに新しい物を買い続けていたな……。
ルノさんに他の隊員にも渡したいからと頼まれてお手製にしたけど、同じ解体用でも少しづつ形は違う……でもやっぱりどれも殺傷能力どころか手も傷付けない親切設計。

残念ながら俺が今求めているのは殺傷能力、他にないのか?

「フレイル……」
箱の中を覗き込むと棒の先に鎖がついていて、鎖の先には鉄球がついている道具に『お手製可』がついている。

「撲殺用の武器だ。この中の物は使う予定は今のところ無いから、どれでも好きにして良いよ」

撲殺ですか……鉄球、重そうだし俺に使えるかな?
お手製可になってるしやってみるか。

「『穀物を一粒残らず脱穀する』」

まさかの農具!!
小麦にはお世話になっているから……農家の人にあげたら喜ぶね。
俺がこの先、伝説のスーパーファーマーになった時には活躍させてあげよう。

くそ……お手製が駄目なら『合成』だ!!
『合成』と念じると槍が合成できるみたいだ。真っ二つに折れてるけど大丈夫かな?
でも槍だったら近づかなくて済むしスライムの最後の今際の粘液も回避できる!!
槍と合成出来る物は……雑巾?
とりあえず試してみない事には、と合成してみる。

「わあ!!ルノさん!!モップが出来ましたよ!!天井どころか二階の窓も外から拭けますね!!」

「良かったね、シーナ!!」

持ち上げてもとても軽く、肩に負担はかからないし、首の部分が曲がるのでストレスフリー。手元のグリップを回すと伸縮する機能付き。
ルノさんは無邪気にパチパチと拍手をしてくれた。

駄目だ……便利だけど戦闘には全く使えない。俺の命を預ける相棒を探している予定なのに、このままでは曲芸師になってしまう。

他には……箱の奥にもう一つ合成可の物がある。
手に取ってみると、それはルノさんの短剣より少し長めの剣だった。
「この剣は特に壊れて無いみたいですけど使わないんですか?」

「ああ、機能より装飾を目的に作られてるだろ?山の中で魔物に襲われてる貴族を助けた時にそれを置いて行ったんだ。俺は武器に装飾性は求めてないから」

剣は飾りってさっき言ってなかったっけ……まあ良いや、好き嫌い、合う合わないは誰にでもあるだろうからね。

なるほど、確かに他の武器と様相が違う。
鞘にも柄にも細かなレリーフが施されており、鞘から抜いてみると刀身にまで獅子の様な魔物の姿が彫り込まれている。これも殺傷能力は期待できそうに無いな……半分諦めモードで剣に表示された合成可に触れた。

「これ?……これは……」

目の前に現れた『持ち物リスト』の中で合成可の文字がついていた物は……。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...