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「今日はツノラビックの討伐の練習よ。相手がFランクの魔物だからといって油断しない事!!」
「「はぁ~い!!」」
「はーい……」
常に取り巻いていた瘴気から多少解放され、食事も取れるようになってカイとリーナの元気なお返事の横で俺も絞り出すような返事を返した。
「では剣の使い方のおさらいの為にスライムから練習ね」
ナタリアさんは笑顔で俺の前に宿敵スライムを置いた。
俺は戦闘はせずにのんびり異世界ライフで生きていくと決めたはずなのに、何故こんな事に……。
ーーーーーー
レイニート様はよほど暇なのか次の日も夕飯時にやって来た。
食事を終えるとそそくさと皆、部屋へと引っ込んでしまった。レフさんは友人だし、レイニート様を呼んだ張本人なのだから何とかして欲しい。
食堂には俺と隊長とルノさん、そしてレイニート様の4人で固まって座っている。
俺も皆と一緒に部屋に戻りたかったよ。
「シーナ君、ありがとう。今日帰って寝るのが楽しみだ」
「お気に召していただけたようで何よりです。早く試してみてください」
「僕の睡眠不足を心配してくれてありがとう。だけど気を使ってくれなくとも、レフから贈られた枕だけでも十分上質な睡眠が取れているから絶好調だ」
言外に『早く帰れ』と乗せてみたけれど思いは届かなかった……いや、ちゃんと伝わっていて敢えて居座る気だ。
「うんうん。団……隊長は元々何を言っても笑い飛ばして終わるし、ルノルトスは僕が何と言おうと無反応……シーナ君は反応が良い。僕は君と出会えて嬉しいよ、ルノルトスの慌てる顔も見れるしね」
「おほめにあずかりこうえいです」
「ははは、心が籠もってないねぇ……それは良いとして、隊長はシーナ君の処遇をどうするお考えなのですか?」
向かいの席からツンツンとレイニート様から頬を突かれ、まるで針で突かれている様な精神攻撃を与えられる。
「あ?あ~……まあ、いろいろ考えちゃいるが……このまま詰所に置いとくのが1番楽なんだが……15歳になるとなぁ」
どうやら俺のこれからの事を考えてくれているらしいが……目の前のレイニート様の視線が居心地悪くて俺には何も思いつきません。
「この国で生きている以上、この国の決まりに添っていなければ、幾ら口を塞いでも何処かから話は漏れるでしょうね。15歳になれば教会の洗礼を受けなければならないし納税の義務もある。教会の洗礼を拒否してここに一生閉じ込めておくおつもりですか?隊長とルノルトスがもし命を落としたら?」
「それは…「俺は死なねぇなんて答えは求めていませんよ。不測の事態があっても彼が生きていけるように生活の基盤を整えて上げるのはあなた方の役目でしょう」
隊長とルノさんが死んだら……なんて考えたくは無いけれどあり得ない話ではない。少し息苦さを覚えてルノさんの左手に自分の手を重ねた。
ルノさんの左手が動いて離されたのかと思い少し不安を覚えたけど、その手は俺の手の上から重ねられてギュッと握り込まれた。
手の甲からゆっくりとルノさんの熱が伝わってくる。
その温もりに満足していると、そっとルノさんの顔が近づいてきて耳元で問い掛けられる。
「シーナ……あの夜の事は二人だけの秘密にしておきたかったけど……話しても?」
二人だけの秘密……だから隊長に伝わってなかったのか……信じて貰えてないだけかと思った。
「二人だけの秘密じゃなくなるの寂しいですけど、秘密ならまた作ればいいし……今は必要な事なんですよね」
ルノさんの額が頭にぶつかる。結構痛い。
「おい、真剣な話をしてる時にいちゃついてんな。お前の話だぞ」
「俺たちだって真剣な話ですよ。ねえ?ルノさん」
「うん……そうだね」
ぶつけてきたルノさんも痛かったのか頭を押さえている。
「話を進めて貰ってもいいかい?僕の時間も無限とはいかないからね。早く話を纏めないと奴が来る」
「奴?」
「わざわざ声を掛けずに飛び出して来たのに、追い掛けて来られてね……奴は煩いから……まあ今は気にせず話を進めてくれ、ルノルトスは?シーナ君をどうするつもりだ?隊長と同じ様にこの詰所に一生閉じ込めて過ごすのか?」
一生、詰所で過ごす……今はまだ良いけどやっぱり外の世界に出たい。ルノさんと街に出掛けただけで楽しくて仕方なかった。
ルノさんは……やっぱり俺に外には出て欲しく無いのだろうか?
「シーナ、この世界ではね。子供が産まれると教会で洗礼を受け名を授かった時に身分証明として体内に情報を書き込まれるんだけど……それが鑑定で見る事が出来るステータスだ。洗礼を受けると情報が国に登録される」
「おいおい……流石にシーナでもそれぐらい……」
隊長が呆れ顔で向けた視線に軽く頭を振った。
「……知らねぇのか?でもステータスが……」
俺の見えているステータスと隊長達に見えるステータスが別物だと言う事を思い出したのか隊長は唇をグッと結んだ。似ているようで別物。
「15歳になったら再び教会で洗礼を受け……これは国が個人を管理する為だけの洗礼なんだけど、職がある者は納税の義務を負い青い魔力の紋、職のない者は徴兵され赤い魔力の紋を18歳までつけられる。シーナには見えないかもしれないけど、ディックの首の後ろ……青い魔力の紋が……」
残念ながら俺には見えてないので首を横に降った。
「15歳を過ぎてその紋の無い人は?」
「拘束され教会に連れて行かれそこで洗礼を受ける事になる。そうなると……恐らくシーナの情報は国に登録されていないから……」
ですよね……。
しかも皆が不思議がるように『マサタカ』という街も貴族の名も無いんだ。スキルの事がバレなくても不審者扱いで投獄されるんだろうな。
「隊長、レイニート様……もうお気付きでしょうが、シーナはこの世界の人間ではありません。こことは違う世界から神の力によって送り込まれたそうです」
隊長とレイニート様の視線が一気に突き刺さる。
隊長は異世界という予備知識は無いが、何かが違うとは思っていただろう、なんとなく納得した顔。
レイニート様は……俺の目を探る様に見ている。
嘘は言っていないけど、知り合って日の浅いレイニート様がどういう判断をするのか……不安が残る。
「シーナ君……」
「……はい」
レイニート様に名前を呼ばれ、ルノさんの指を握り込んだ。
「……解剖して良いか?」
「良いわけないでしょう」
思ったか?多少でも俺が隅から隅までじっくり観察してくださいと言うとでも思ったのか?
レイニート様の本気度は読めない。
「俺がレイニート様を解剖して差し上げましょうか?」
「馬鹿かい?僕が解剖されてしまったら誰がシーナ君を解剖するんだ」
まず俺が解剖される所から離れて欲しい。
「仕方ない……諦めるよ。だがどうする?知られてしまえばシーナ君を解剖したがるのは僕だけでは無いだろう。その都度、君は人を殺すのか?シーナ君はそれを望んでいるのか?」
解剖はおいておいても、俺の事を知られたら今まで通りという事は無いだろう。
レイニート様の発言はそういう事態もあるよと教えてくれている優しさと捉えておこう。
「俺は……シーナが15歳になったら警備隊を辞めるつもりでした。シーナを守れる自信は有った。警備隊を辞めてシーナを連れて人の立ち入らない土地で二人で暮らそうと思っていました。ごめんね、シーナ。君の気持ちは全く考えず、俺は君を独占し俺だけのものにしようとしていた」
「いえ……」
ちょっと意外な答えだった……ルノさんは独占欲とは無縁かと思っていた。
ただ……全てを捨てて二人だけの世界で暮らすという選択に既視感を覚える……それはとても深く危険な愛情。
「でも、隊員達とすぐに打ち解け笑い合うシーナの姿。初めて街へ出掛けた時のシーナの楽しそうな姿を見て間違いだと気付いたよ。俺は結局シーナを守れてないしね。俺は……君まで俺の生き方に巻き込んでは駄目だという事しか答えしかみつけられなかった」
だから?だから俺が笑っていられれば……自分の手がどれだけ汚れても良いって?そんなの……俺は……。
唇を噛み締めた俺に隊長の手が伸びてきて頭を撫でられた。
「責めるな。そこまで気付けただけでも進歩なんだ。俺はただこいつと闇の中を歩いてやるしか出来なかった。お前だから光を差し込めたんだ。お前がいるせいでルノが魔物に堕ちるなんてねぇよ」
「隊長……」
隊長の言葉に少し気持ちが浮上した。
自分のせいでルノさんが心無い魔物の様に人を殺める禁忌を犯す事をさせたくない。
ルノさんが俺に笑顔で過ごして欲しいと願うように、俺だってルノさんには笑顔でいて欲しいんだから。
「「はぁ~い!!」」
「はーい……」
常に取り巻いていた瘴気から多少解放され、食事も取れるようになってカイとリーナの元気なお返事の横で俺も絞り出すような返事を返した。
「では剣の使い方のおさらいの為にスライムから練習ね」
ナタリアさんは笑顔で俺の前に宿敵スライムを置いた。
俺は戦闘はせずにのんびり異世界ライフで生きていくと決めたはずなのに、何故こんな事に……。
ーーーーーー
レイニート様はよほど暇なのか次の日も夕飯時にやって来た。
食事を終えるとそそくさと皆、部屋へと引っ込んでしまった。レフさんは友人だし、レイニート様を呼んだ張本人なのだから何とかして欲しい。
食堂には俺と隊長とルノさん、そしてレイニート様の4人で固まって座っている。
俺も皆と一緒に部屋に戻りたかったよ。
「シーナ君、ありがとう。今日帰って寝るのが楽しみだ」
「お気に召していただけたようで何よりです。早く試してみてください」
「僕の睡眠不足を心配してくれてありがとう。だけど気を使ってくれなくとも、レフから贈られた枕だけでも十分上質な睡眠が取れているから絶好調だ」
言外に『早く帰れ』と乗せてみたけれど思いは届かなかった……いや、ちゃんと伝わっていて敢えて居座る気だ。
「うんうん。団……隊長は元々何を言っても笑い飛ばして終わるし、ルノルトスは僕が何と言おうと無反応……シーナ君は反応が良い。僕は君と出会えて嬉しいよ、ルノルトスの慌てる顔も見れるしね」
「おほめにあずかりこうえいです」
「ははは、心が籠もってないねぇ……それは良いとして、隊長はシーナ君の処遇をどうするお考えなのですか?」
向かいの席からツンツンとレイニート様から頬を突かれ、まるで針で突かれている様な精神攻撃を与えられる。
「あ?あ~……まあ、いろいろ考えちゃいるが……このまま詰所に置いとくのが1番楽なんだが……15歳になるとなぁ」
どうやら俺のこれからの事を考えてくれているらしいが……目の前のレイニート様の視線が居心地悪くて俺には何も思いつきません。
「この国で生きている以上、この国の決まりに添っていなければ、幾ら口を塞いでも何処かから話は漏れるでしょうね。15歳になれば教会の洗礼を受けなければならないし納税の義務もある。教会の洗礼を拒否してここに一生閉じ込めておくおつもりですか?隊長とルノルトスがもし命を落としたら?」
「それは…「俺は死なねぇなんて答えは求めていませんよ。不測の事態があっても彼が生きていけるように生活の基盤を整えて上げるのはあなた方の役目でしょう」
隊長とルノさんが死んだら……なんて考えたくは無いけれどあり得ない話ではない。少し息苦さを覚えてルノさんの左手に自分の手を重ねた。
ルノさんの左手が動いて離されたのかと思い少し不安を覚えたけど、その手は俺の手の上から重ねられてギュッと握り込まれた。
手の甲からゆっくりとルノさんの熱が伝わってくる。
その温もりに満足していると、そっとルノさんの顔が近づいてきて耳元で問い掛けられる。
「シーナ……あの夜の事は二人だけの秘密にしておきたかったけど……話しても?」
二人だけの秘密……だから隊長に伝わってなかったのか……信じて貰えてないだけかと思った。
「二人だけの秘密じゃなくなるの寂しいですけど、秘密ならまた作ればいいし……今は必要な事なんですよね」
ルノさんの額が頭にぶつかる。結構痛い。
「おい、真剣な話をしてる時にいちゃついてんな。お前の話だぞ」
「俺たちだって真剣な話ですよ。ねえ?ルノさん」
「うん……そうだね」
ぶつけてきたルノさんも痛かったのか頭を押さえている。
「話を進めて貰ってもいいかい?僕の時間も無限とはいかないからね。早く話を纏めないと奴が来る」
「奴?」
「わざわざ声を掛けずに飛び出して来たのに、追い掛けて来られてね……奴は煩いから……まあ今は気にせず話を進めてくれ、ルノルトスは?シーナ君をどうするつもりだ?隊長と同じ様にこの詰所に一生閉じ込めて過ごすのか?」
一生、詰所で過ごす……今はまだ良いけどやっぱり外の世界に出たい。ルノさんと街に出掛けただけで楽しくて仕方なかった。
ルノさんは……やっぱり俺に外には出て欲しく無いのだろうか?
「シーナ、この世界ではね。子供が産まれると教会で洗礼を受け名を授かった時に身分証明として体内に情報を書き込まれるんだけど……それが鑑定で見る事が出来るステータスだ。洗礼を受けると情報が国に登録される」
「おいおい……流石にシーナでもそれぐらい……」
隊長が呆れ顔で向けた視線に軽く頭を振った。
「……知らねぇのか?でもステータスが……」
俺の見えているステータスと隊長達に見えるステータスが別物だと言う事を思い出したのか隊長は唇をグッと結んだ。似ているようで別物。
「15歳になったら再び教会で洗礼を受け……これは国が個人を管理する為だけの洗礼なんだけど、職がある者は納税の義務を負い青い魔力の紋、職のない者は徴兵され赤い魔力の紋を18歳までつけられる。シーナには見えないかもしれないけど、ディックの首の後ろ……青い魔力の紋が……」
残念ながら俺には見えてないので首を横に降った。
「15歳を過ぎてその紋の無い人は?」
「拘束され教会に連れて行かれそこで洗礼を受ける事になる。そうなると……恐らくシーナの情報は国に登録されていないから……」
ですよね……。
しかも皆が不思議がるように『マサタカ』という街も貴族の名も無いんだ。スキルの事がバレなくても不審者扱いで投獄されるんだろうな。
「隊長、レイニート様……もうお気付きでしょうが、シーナはこの世界の人間ではありません。こことは違う世界から神の力によって送り込まれたそうです」
隊長とレイニート様の視線が一気に突き刺さる。
隊長は異世界という予備知識は無いが、何かが違うとは思っていただろう、なんとなく納得した顔。
レイニート様は……俺の目を探る様に見ている。
嘘は言っていないけど、知り合って日の浅いレイニート様がどういう判断をするのか……不安が残る。
「シーナ君……」
「……はい」
レイニート様に名前を呼ばれ、ルノさんの指を握り込んだ。
「……解剖して良いか?」
「良いわけないでしょう」
思ったか?多少でも俺が隅から隅までじっくり観察してくださいと言うとでも思ったのか?
レイニート様の本気度は読めない。
「俺がレイニート様を解剖して差し上げましょうか?」
「馬鹿かい?僕が解剖されてしまったら誰がシーナ君を解剖するんだ」
まず俺が解剖される所から離れて欲しい。
「仕方ない……諦めるよ。だがどうする?知られてしまえばシーナ君を解剖したがるのは僕だけでは無いだろう。その都度、君は人を殺すのか?シーナ君はそれを望んでいるのか?」
解剖はおいておいても、俺の事を知られたら今まで通りという事は無いだろう。
レイニート様の発言はそういう事態もあるよと教えてくれている優しさと捉えておこう。
「俺は……シーナが15歳になったら警備隊を辞めるつもりでした。シーナを守れる自信は有った。警備隊を辞めてシーナを連れて人の立ち入らない土地で二人で暮らそうと思っていました。ごめんね、シーナ。君の気持ちは全く考えず、俺は君を独占し俺だけのものにしようとしていた」
「いえ……」
ちょっと意外な答えだった……ルノさんは独占欲とは無縁かと思っていた。
ただ……全てを捨てて二人だけの世界で暮らすという選択に既視感を覚える……それはとても深く危険な愛情。
「でも、隊員達とすぐに打ち解け笑い合うシーナの姿。初めて街へ出掛けた時のシーナの楽しそうな姿を見て間違いだと気付いたよ。俺は結局シーナを守れてないしね。俺は……君まで俺の生き方に巻き込んでは駄目だという事しか答えしかみつけられなかった」
だから?だから俺が笑っていられれば……自分の手がどれだけ汚れても良いって?そんなの……俺は……。
唇を噛み締めた俺に隊長の手が伸びてきて頭を撫でられた。
「責めるな。そこまで気付けただけでも進歩なんだ。俺はただこいつと闇の中を歩いてやるしか出来なかった。お前だから光を差し込めたんだ。お前がいるせいでルノが魔物に堕ちるなんてねぇよ」
「隊長……」
隊長の言葉に少し気持ちが浮上した。
自分のせいでルノさんが心無い魔物の様に人を殺める禁忌を犯す事をさせたくない。
ルノさんが俺に笑顔で過ごして欲しいと願うように、俺だってルノさんには笑顔でいて欲しいんだから。
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