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俺の冒険はこれからだ!!

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街では神が復活したという噂で持ちきりらしい。

『青い竜人が、現れた魔物を次々になぎ倒して行った』

うん。
それは半魔物化していたルノさんだね。

実際に神様は復活したけどすぐにドロップアウトしたし、神竜の像の様な猛々しい姿ではなくひょろっとしていて全体的に黒く目の下に深い隈のある引きこもり廃ゲーマーみたいな風貌だった。

でもそれは街の人は知らなくて良い……隊員達はみんな気がついているけれど、何も言わない。でも街の人にルノさんが魔物化しかけていたなんて知られたら、次はルノさんが討伐対象にされてしまう。

隊員達にはいろいろ端折りはしたけど『神様が復活して助けてくれた』と、伝えたのでみんなは神の復活について知ってはいる、また消えてしまった事も。

神が悪魔との戦いで敗れて消失していた事も教えると「見捨てられた訳ではないのか」と隊長は何故か少し嬉しそうだった。

ハイケンさんなんかは『聖女様』と手を組んで天を仰気ながら泣いていたから、無宗教の俺にはわからないけど、信仰心というものが完全に捨てられていた訳ではなく、みんな心の片隅で神様の帰還を待ち望んでいたんだろうな……あんな神でも。

心の拠り所である神は偉大な方が良いに決まっている。
真実は墓場までなんとしても持っていかなければ……俺がルノさんの人形を勝手に作って、ルノさんの毛髪、制服、パンツを隠し持っていた真実は……。

『公認ストーカーと非公認ストーカーが戦った』より『街の危機を神の化身が救った』の方がかっこいい。

獣人の中でも上位に置かれることの多い竜人。
ヤバイ……ルノさんのかっこいいが止まることを知らない。どこまでイケメン要素をガン積みしていくつもりだ。

自称神よりルノさんの方が何倍も強いしルノさんが神だってほうがしっくり来てしまう。ルノさんが神だったらきっと魔物なんていない平和な世界になるよ。

『(エンドロール)』
『ルノさん、ついに魔物のいない世界を実現させる事が出来ましたね。でも、警備隊の仕事なくなっちゃいましたね』
『ああ……そうだな。でもこの平和な世界なら君を連れて何処までだって行ける』
『ルノさん?』
『シーナ、君のいた世界には敵わないかもしれないが、これが君に贈れる精一杯の世界だ。この世界の良さを君に伝えたい。俺と一緒に……旅してくれないか?』
『ルノさん……これから、ここから俺達の旅が始まるんですね……』

「お前は本当に土を見ながらニヤニヤするのが好きだな」

「失敬な。こうして愛情たっぷりに命を育みながら、いかにしてこの街に緑溢れる未来を残そうかと考えているところです」

「へぇ~でも、食うんだろ?その命」

まあ……その為に育ててますから……。
隊長は情緒と言うものが無い。

「このノウモ一つが大勢の人の命を救うかもしれないでしょう。若い命を繋ぐために俺はノウモを育てるんですよ」

エレーナの襲撃から難を逃れた植木鉢産ノウモはオットーさんの『灰になったドュリュス』のお陰でスクスクと育ち過ぎて緑の蔓は植木鉢からはみ出している。体に悪いものでは無いと信じたい。

「はい、立派立派。だがお前が憂いていなくても世界は常に動いてる。新しい領主も決まったしな」

「え!?もう領主決まったんですか?早くないですか?」

領主の家の跡取りはあの魔物騒ぎの中、街を見捨て、自警団を連れて誰よりも早く逃げ出したくせに、戻ってきた途端に必死で復興作業をしている人たちに対し、武力で自分の分の食料や倒壊した屋敷の代わりの住居を要求して来て、街の人と対立してるって先日まで隊長、鬼瓦みたいな顔してたのに……。

「ああ、3日程前に兵を連れたヤシルの領主に攻め込まれたからな。国は国王の土地を侵さなければ領地争いに口出しはしねぇし、ヤシルの領主は一流貴族、三流貴族の能無しは降伏するしかねぇわ」

貴族の位は流なのか。一流と三流にどれ程の力の差があるか知らないけど領地争いの戦争が普通にあるんだ。
しかし国が何も関与してこないとか……放任主義で大丈夫?力を持った貴族が反旗を翻すとかないのか?

「もともと王都の奴らに取ってユノスは流刑地みてぇな扱いだしヤシルの領主に口出ししてまで欲しがる貴族なんて物好きは居ねぇよ。こんな辺境の街を手に入れたところで旨味がねぇ」

その流刑地の警備隊の隊長ですよね。俺も魔物だらけのこの世界に流刑として飛ばされて来たんだけどさ。

「新領主様がえらくお前存在を気にしているんだが……」
「俺の事話したんですか!?いやですよ!?王様とか貴族様とか面倒な事になる匂いしかしない!!」

きっと身柄を拘束されて無茶な事をやらされるに決まってる。雑巾で国中の土地を磨けとか、全ての土地の地図をかけとか……。

「俺は何も言ってねぇよ。まあ、力の事はバレてねぇと思う……ただ、昨日面会した時に『君たちの詰所でとても可愛らしい子を隠しているそうじゃないか。そんなに可愛い子ならぜひ俺も会ってみたいものだな』と言われた。まぁ貴族さんは好きもんが多いらしいし……気を付けろ」

何か意味深な視線で立ち去りぎわに腰を叩かれた。

「お、おれはかわいくないので、あんしんですね」

言いながらも背筋がゾクリと冷える……世の中には容姿関係なく、とにかく若ければ良いという人種もいなくはない。何をどう気をつけたら良いのかアドバイスをください!!
俺の救いを求める視線に気づいたのか、隊長は振り返りニッと笑って手をあげた。

「そんな事ねぇぞ?お前は十分可愛いさ。じゃ、見回り行ってくる。気をつけろよぉ~」

またそうやってあんたは、中途半端に言い捨てて……だから何をどう気をつければ良いか教えろよっ!!
相手領主だぞ!?貴族だろ!?
貴族といえば横暴で権力を振りかざし、平民の全てを毟り取っていくある意味『魔物』!!
魔物退治は十八番なんだから守ってくれよと心で泣いていたその時……。

「シーナ~!!お前に客だぞ!!」
「ひいっ!!」
ナタスンさんに呼ばれ、手が早いお貴族様は行動が早いっ!!と逃げ出そうと思ったが、ナタスンさんに連れられて中庭に入って来たのは、エレーナの魅了の驚異も消え、顔パスとなったカカルさんだった。

「大丈夫ですか?なんか顔色も悪いですね」
「変な声出してすみません。俺の大切な物が奪われそうだったもので……」
何としてでも守り抜かなければ……俺は権力には屈しない!!

「ルノルトスさん何処か悪いんですか!?まさかこの間の事件で大怪我を!?」
ルノさん?
「今はゆっくり休んでいるので大丈夫ですよ」
ただの二日酔いだし。ヒール薬は怪我は治しても二日酔いは治してくれないみたいだ。

「そうですか……良かった」

「そういうカカルさんは?もう得意先まわりしてるんですね。お店の方とか大丈夫だったんですか?」

食べ放題パーティーで在庫が心許なくなっていたから助かるけど、マルトリノさん達は大丈夫だったのだろうか?

「はは、マルトリノさんこういう時こそ商売だって言って燃えてますよ。たくさん持って来たし半額中なんで、いっぱい買ってください」
どこも食べ物に苦労してるだろうからって事か、さすがマルトリノさん。もし俺ブランドが立ち上がったらマルトリノさんと専売契約してもらおう。

シートの上に並べられていく食材達。
肉に関してはまだ余裕があるし、もしもの時はみんなにお願いすれば魔物を狩って来て解体してくれるから他の人達に回してもらおう……やっぱり欲しいのは野菜や調味料類だな。
必要な物を選んでいると、小さな袋がいくつか置いてある。
「これは?」
鑑定してみると『チェッドの種』と出た。

「種?」
カカルさんは、してやったりとドヤ顔で笑った。
「はい!!シーナさんノウモを育ててましたよね。うちで買ってくれる量が減るのは困るんですけどね……マルトリノさんにお願いしておきました」

俺が欲しがっていると思って用意してくれたのか……そんなんされたらもう買うしかないじゃん!!
こんなに気遣って貰ったら何かをお返ししたくなるけど……持ち物の中に何か良い物あったかな?

「シーナの声がすると思ったらカカルが来てたのか」

階段をルノさんが降りてきた。

「ルノさんもう起きて大丈夫なんですか?」

「ああ、シーナに呼ばれた気がしたから」

呼んでないけど、ナイスタイミングです!!
カカルさんには何よりのお礼になる。ルノさんファンサービスお願いします。

拝み始めた俺にルノさんは笑顔で首を傾げた。

「ルノルトスさん!!お怪我は大丈夫ですか!?まさかあんなに大勢の人が魔物化するなんて何かの前触れでなければいいんですが……」

「……そうだな」

あからさま過ぎるルノさんの塩対応だがカカルさんは喜んでいたのでお礼は出来た……のかな。

ーーーー

買った物を一旦収納鞄へしまい、地下室へ運び込んだ。

「種は植えないのか?」

「とりあえずノウモを収穫して植木鉢が空いたらですかね」
詳しいベルムントさんとオットーさんの意見も聞かないと、俺は家庭菜園すらした事ないからね。

「中庭に植えたら良いのに」

「流石にそれは……」

中庭は演習場として使っているのに、そんな事をしたら隊長から俺の顔に畝を作られちゃうよ。

「それよりルノさんお腹空いてませんか?何か軽くつまみます?」

「そうだな……ホットポムポムが飲みたいかな」

そんな話をしながら地下室の階段を昇っていると俺を呼ぶ声が聞こえる。カカルさんが何か忘れ物とかだろうか?

「何ですか?」

少し急いで階段を登りきるとナタスンさんが食堂から顔を覗かせた。

「ああシーナそこにいたのか。領主様からの令状だ。今すぐ屋敷に来いと馬車がお前を待ってる」

なんですと!?せっかく忘れてたのに……災いは忘れた頃にやって来るものなのか。
『行きたくない』とルノさん袖を握り締めた。
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