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泣く魔物も黙る警備隊の弱点
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「あ~……お湯の中に溶けてしまいそう……」
スライムの粘液を洗い流し、お湯に浸かるとそのまま溶けてしまいそうな程の気持ちが良さだ。このままお風呂の住人になってしまいたい。
「スライム一匹で大袈裟な……まあ倒せて良かったな。スライムによる死亡例第一号の歴史的目撃者にならなくて済んだわ」
隊長に頭に手を乗せられてお湯に沈む。
スライムじゃなくて隊長に殺されそうだ。
「ほら、早くステータス確認してみろ。どうなったよ?」
興味津々に隊長は俺の隣に入ってきた。
「あ!!レベル2だ!!レベル上がってますよ、隊長!!」
「良かったじゃねぇか!!で?魔力は?」
「……0のままです」
生命力や攻撃力は僅かに上がっていたが魔力の欄には虚しい0の文字。
「だろうな!!そんな気がしてたぜ!!」
ガハガハ笑う隊長の笑い声がムカつくほど風呂場に響いている。
「魔力上がんないなら、あんな思いしてレベルなんて上げなくて良い……俺はもう誰かに守られながら生きていきます……隊長、誰か凄腕の女性冒険者を紹介してくださいよ」
出来れば、強くても穏やかな人が良い。夫婦喧嘩になったら殺される。
「ルノがいるじゃねぇか。あいつはAランクの冒険者が束になっても敵わねぇぞ。そうだ、そうだ……あの後どうなったよ?付き合うのか?ルノはちゃんと求婚出来たか?」
何がどうなったよ?だよ……爆弾落として逃げやがって……。
「あんたのせいで気まずくなって最悪です……」
「さっきそうは見えなかったがな?」
見えた見えないじゃなくて、俺の頭の中は混乱したままなんだよ。
「隊長……わりと普通なんですか?」
「何がだ?」
「その……男同士で好きとか嫌いとか……そういうの……」
地球でも同性愛の人達への理解が広まってきているけれど……自分がとなると……尻込みしてしまう。
「普通って程じゃねぇけどな……明日生きているのかもわからねぇ世の中で子供が産まれてもまともに育ててやれるかもわからねぇ……不安だらけの世の中で支え合ってるうちにってのはあるな。まあ、女と出会う機会が無くて身近でってのもある」
女性が側に居ないからって理由なだけならもっと簡単に流せるけど……ルノさんの思いはかなり重い。
簡単に流してしまうのは……心配になるぐらい。
「良い子だ……」
珍しく隊長の声にからかいの色が無い。
「嫌なら嫌で突っぱねてやれば良いものを……こんだけ悩んで貰えりゃルノも幸せだ」
「良い子じゃないですよ……保身ですもん」
悪巫山戯が過ぎる事もあるけど、皆優しいし、楽しいし……魔物に襲われる心配も無い。ルノさんの気持ちを蔑ろにして、この詰所を追い出されるのが怖いだけで……それに……。
「誰かに守られて生きてくとか言ってたくせに、守られているだけでいるのは不安か?」
…………不安だろ?
何が気に入られてるのか、嫌われない為にどうしたら良いのか……。
「お前が役に立つ、立たねぇとかじゃねぇ。顔色伺って相手の望み通り生きんのが良い子って訳じゃねぇぞ……ルノだってそんな事をお前にさせたいわけじゃねぇと思うが……面倒くせぇ性格だな」
隊長が立ち上がり、起きた波に体が攫われる。
足で踏ん張っても流れに簡単に流されるのは……怖いだろう。
「俺はもう出る。お前も逆上せる前に出てこいよ」
「隊長……ルノさんの弟って……」
片足を湯船から出して出て行こうとする背中に問いかけた。
「俺がその質問に答えると思ったか?」
「……思ってません」
少し静止した後……隊長は短くそう背中で答えると風呂場を出て行った。
俺はルノさんの弟の情報を欲しがった。
最初……ルノさんが俺に優しかったのは弟の姿を俺に重ねたからで、今は俺を見てくれているとわかっても、もし……もしその弟像から大きく離れたら?もしその思い出を崩す様な事を俺がしたら?
それでもルノさんは……俺を好きだと言ってくれるのだろうか?
ーーーーーー
夕飯はカロラブニャと野菜をショガランとミラペルで味付けして焼いただけの簡単な物だけど、皆は美味しいと笑って食べてくれていて……良かった。
「そういや隊長、見回りしててちょっと気になる事があったんすけどいいっすか?」
ハイケンさんが自分のお皿をキープしながら隊長の横へ移動していた。
「あ?どうした」
「南区の事なんてですが……最近、夜中に魔物の鳴き声が聞こえるって噂を耳にして、見回りも重点的にやったんすけど、特に瘴気溜まりが出来そうな箇所も見当たらなかったんすよ」
「あそこは冒険者達もたむろしてるし、魔物がいりゃすぐに動きそうなもんだが……」
「そうなんすよねぇ。魔物被害よりあそこは人間同士の殺しの方が深刻っすからね」
南区……月猫亭がある区域か。
そういうお店や有象無象の冒険者のたまり場冒険者ギルドがある区域だから欲望は常に渦巻いてそうだけど。
どうなんだろ?あの地図で瘴気溜まりは確認出来るけど魔物の姿も確認できたりするんだろうか?
メインが簡単な物だった分、何か食後に……とマルトリノさんの店で新たに入手した食材を使い『ノウモの蜜絡め』なるこの世界で初チャレンジのスイーツに挑戦中だ。
と言っても一口大に切ったノウモを揚げてパリィーピーの蜜を掛けるだけのこれまたお手軽な一品。
1つ味見と揚げたてのノウモを1つ口に放り込んだ。
熱いけど、ホクホクしたノウモだけでも仄かに甘みもあって美味い。
そこにパリィーピーの蜜を……この蜜甘い香りとねっとりととした感じから蜂蜜っぽいけど色が水色なあたりが異世界っぽい。
透明感のある水色、滑らかな表面、これこそ……。
「あはははは……お前は可愛いなぁ~」
「シーナ?大丈夫か?」
カウンター越しにルノさんが心配そうな顔で俺を見ていた。
「ははは……大丈夫で~す」
あのスライムの姿は暫く夢に出てきそうだけどね。
「そうだ、1つ味見してください。熱いから気をつけてくださいね」
串に刺して差し出したノウモの蜜絡めを見てルノさんの目が一瞬泳いだ。ノウモは苦手だったか、それとも蜜が嫌いなのか?
「ノウモか……」
決心した様に受け取ったノウモを口に入れると、その綺麗な青色の目が見開かれた。
「これがノウモ?シーナが料理するとこんなに変わるんだね」
その表情から美味しいと思って貰えたことが伝わってきて、嬉しくて胸がほかほかしてくる。
「おい、いちゃついてんな!!新作だろ?早く俺達にも食わせろ」
フォークでお皿を叩きそうな勢いの隊長に催促されて、お皿をみんなの前に運んだ。
「へぇ、ノウモか!!」
「「「……ノウモ」」」
テーブルの覗き込んだ隊員達は隊長を除いてルノさんと同じ様な反応を見せた。
「うん、旨い!!お前菓子も作れんのか!!これはカイとリーナ達にも食わせてやりてぇな!! 」
満足そうにフォークを伸ばしていく隊長を見て、どこか警戒した顔をしていた隊員達も一つ口に入れると次々にお腹の中へ収めていってくれた。
「ノウモは日持ちするし遠征の時に持って行ったことがあるんだ。焼くだけで良いからって言ってたから俺が焼いたんだけど固いしエグ味というか苦いというか……何とも言えない味だったよ」
その遠征に参加組だろう。年上組の顔色が少し曇った。
ルノさん基本的に料理は生焼け派だからな……。
「あれを『固えな!!』って笑いながら食べてた隊長はやっぱただモンじゃねぇって思ったよ」
その光景は簡単に想像できて、隊員達と笑い合った。
こんな賑やかな食卓が変わらずこのままでいて欲しいという細やかな願いが、どれだけ贅沢な願いかという事も、この世界の事もわかった気になっていただけだった。
スライムの粘液を洗い流し、お湯に浸かるとそのまま溶けてしまいそうな程の気持ちが良さだ。このままお風呂の住人になってしまいたい。
「スライム一匹で大袈裟な……まあ倒せて良かったな。スライムによる死亡例第一号の歴史的目撃者にならなくて済んだわ」
隊長に頭に手を乗せられてお湯に沈む。
スライムじゃなくて隊長に殺されそうだ。
「ほら、早くステータス確認してみろ。どうなったよ?」
興味津々に隊長は俺の隣に入ってきた。
「あ!!レベル2だ!!レベル上がってますよ、隊長!!」
「良かったじゃねぇか!!で?魔力は?」
「……0のままです」
生命力や攻撃力は僅かに上がっていたが魔力の欄には虚しい0の文字。
「だろうな!!そんな気がしてたぜ!!」
ガハガハ笑う隊長の笑い声がムカつくほど風呂場に響いている。
「魔力上がんないなら、あんな思いしてレベルなんて上げなくて良い……俺はもう誰かに守られながら生きていきます……隊長、誰か凄腕の女性冒険者を紹介してくださいよ」
出来れば、強くても穏やかな人が良い。夫婦喧嘩になったら殺される。
「ルノがいるじゃねぇか。あいつはAランクの冒険者が束になっても敵わねぇぞ。そうだ、そうだ……あの後どうなったよ?付き合うのか?ルノはちゃんと求婚出来たか?」
何がどうなったよ?だよ……爆弾落として逃げやがって……。
「あんたのせいで気まずくなって最悪です……」
「さっきそうは見えなかったがな?」
見えた見えないじゃなくて、俺の頭の中は混乱したままなんだよ。
「隊長……わりと普通なんですか?」
「何がだ?」
「その……男同士で好きとか嫌いとか……そういうの……」
地球でも同性愛の人達への理解が広まってきているけれど……自分がとなると……尻込みしてしまう。
「普通って程じゃねぇけどな……明日生きているのかもわからねぇ世の中で子供が産まれてもまともに育ててやれるかもわからねぇ……不安だらけの世の中で支え合ってるうちにってのはあるな。まあ、女と出会う機会が無くて身近でってのもある」
女性が側に居ないからって理由なだけならもっと簡単に流せるけど……ルノさんの思いはかなり重い。
簡単に流してしまうのは……心配になるぐらい。
「良い子だ……」
珍しく隊長の声にからかいの色が無い。
「嫌なら嫌で突っぱねてやれば良いものを……こんだけ悩んで貰えりゃルノも幸せだ」
「良い子じゃないですよ……保身ですもん」
悪巫山戯が過ぎる事もあるけど、皆優しいし、楽しいし……魔物に襲われる心配も無い。ルノさんの気持ちを蔑ろにして、この詰所を追い出されるのが怖いだけで……それに……。
「誰かに守られて生きてくとか言ってたくせに、守られているだけでいるのは不安か?」
…………不安だろ?
何が気に入られてるのか、嫌われない為にどうしたら良いのか……。
「お前が役に立つ、立たねぇとかじゃねぇ。顔色伺って相手の望み通り生きんのが良い子って訳じゃねぇぞ……ルノだってそんな事をお前にさせたいわけじゃねぇと思うが……面倒くせぇ性格だな」
隊長が立ち上がり、起きた波に体が攫われる。
足で踏ん張っても流れに簡単に流されるのは……怖いだろう。
「俺はもう出る。お前も逆上せる前に出てこいよ」
「隊長……ルノさんの弟って……」
片足を湯船から出して出て行こうとする背中に問いかけた。
「俺がその質問に答えると思ったか?」
「……思ってません」
少し静止した後……隊長は短くそう背中で答えると風呂場を出て行った。
俺はルノさんの弟の情報を欲しがった。
最初……ルノさんが俺に優しかったのは弟の姿を俺に重ねたからで、今は俺を見てくれているとわかっても、もし……もしその弟像から大きく離れたら?もしその思い出を崩す様な事を俺がしたら?
それでもルノさんは……俺を好きだと言ってくれるのだろうか?
ーーーーーー
夕飯はカロラブニャと野菜をショガランとミラペルで味付けして焼いただけの簡単な物だけど、皆は美味しいと笑って食べてくれていて……良かった。
「そういや隊長、見回りしててちょっと気になる事があったんすけどいいっすか?」
ハイケンさんが自分のお皿をキープしながら隊長の横へ移動していた。
「あ?どうした」
「南区の事なんてですが……最近、夜中に魔物の鳴き声が聞こえるって噂を耳にして、見回りも重点的にやったんすけど、特に瘴気溜まりが出来そうな箇所も見当たらなかったんすよ」
「あそこは冒険者達もたむろしてるし、魔物がいりゃすぐに動きそうなもんだが……」
「そうなんすよねぇ。魔物被害よりあそこは人間同士の殺しの方が深刻っすからね」
南区……月猫亭がある区域か。
そういうお店や有象無象の冒険者のたまり場冒険者ギルドがある区域だから欲望は常に渦巻いてそうだけど。
どうなんだろ?あの地図で瘴気溜まりは確認出来るけど魔物の姿も確認できたりするんだろうか?
メインが簡単な物だった分、何か食後に……とマルトリノさんの店で新たに入手した食材を使い『ノウモの蜜絡め』なるこの世界で初チャレンジのスイーツに挑戦中だ。
と言っても一口大に切ったノウモを揚げてパリィーピーの蜜を掛けるだけのこれまたお手軽な一品。
1つ味見と揚げたてのノウモを1つ口に放り込んだ。
熱いけど、ホクホクしたノウモだけでも仄かに甘みもあって美味い。
そこにパリィーピーの蜜を……この蜜甘い香りとねっとりととした感じから蜂蜜っぽいけど色が水色なあたりが異世界っぽい。
透明感のある水色、滑らかな表面、これこそ……。
「あはははは……お前は可愛いなぁ~」
「シーナ?大丈夫か?」
カウンター越しにルノさんが心配そうな顔で俺を見ていた。
「ははは……大丈夫で~す」
あのスライムの姿は暫く夢に出てきそうだけどね。
「そうだ、1つ味見してください。熱いから気をつけてくださいね」
串に刺して差し出したノウモの蜜絡めを見てルノさんの目が一瞬泳いだ。ノウモは苦手だったか、それとも蜜が嫌いなのか?
「ノウモか……」
決心した様に受け取ったノウモを口に入れると、その綺麗な青色の目が見開かれた。
「これがノウモ?シーナが料理するとこんなに変わるんだね」
その表情から美味しいと思って貰えたことが伝わってきて、嬉しくて胸がほかほかしてくる。
「おい、いちゃついてんな!!新作だろ?早く俺達にも食わせろ」
フォークでお皿を叩きそうな勢いの隊長に催促されて、お皿をみんなの前に運んだ。
「へぇ、ノウモか!!」
「「「……ノウモ」」」
テーブルの覗き込んだ隊員達は隊長を除いてルノさんと同じ様な反応を見せた。
「うん、旨い!!お前菓子も作れんのか!!これはカイとリーナ達にも食わせてやりてぇな!! 」
満足そうにフォークを伸ばしていく隊長を見て、どこか警戒した顔をしていた隊員達も一つ口に入れると次々にお腹の中へ収めていってくれた。
「ノウモは日持ちするし遠征の時に持って行ったことがあるんだ。焼くだけで良いからって言ってたから俺が焼いたんだけど固いしエグ味というか苦いというか……何とも言えない味だったよ」
その遠征に参加組だろう。年上組の顔色が少し曇った。
ルノさん基本的に料理は生焼け派だからな……。
「あれを『固えな!!』って笑いながら食べてた隊長はやっぱただモンじゃねぇって思ったよ」
その光景は簡単に想像できて、隊員達と笑い合った。
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